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見たくはないもの 見せてほしいもの

 真冬ちゃんのお父さんは、こちらに気づくこともなく、女性と楽しげに会話しながら、角を曲がっていった。

 その様子を見ているだけで、胸が不自然なくらい高鳴った。

 まさか、こんな場面に出くわすとは思わなかったからか、この感じを何と表現すればいいか、今の俺には言葉が見つからなかった。

 そこで、真冬ちゃんの存在を思いだし、そっと隣を窺うと、彼女は冷めた視線を、自分の父親が消えた曲がり角に向けていた。


「……真冬ちゃん」


 おそるおそる声をかける。無論、こんな時にかける気のきいた言葉なんて知らない。

 彼女は少し時間が経ってから、こっちを見た。


「どうかしましたか、お兄さん?」


 その表情は「何でもない」と告げるような笑顔だった。

 まるでさっきまでの楽しい空気を取り戻そうとしているようなその笑顔は、胸の奥を締めつけた。

 それからは自然と身体が動いていた。

 俺は彼女の頭を優しく撫でていた。

 昔千秋にこうしてやっていたのを心の片隅で思い出したが、その時とはどこか違うことも気づいていた。


「お、お兄さん?どうしたんですか、いきなり……なんか恥ずかしいですよ……」

「あ、ごめん。つい……」


 そう言いながら、優しく頭を撫でると、真冬ちゃんはくすぐったそうに目を細めた。

 黒い髪のさらさらした感触や微かな体温。控えめな笑顔がやけに胸に沁みる。

 どのくらいそうしていただろうか。長かったか、短かったかわからないまま手を離すと、彼女は力強く頷いた。


「私は大丈夫ですよ。前から知ってた事ですし。ただ、こうして目の当たりにすると驚きますね。ごめんなさい、お兄さん。リアクションに困るものをお見せして」

「いや、別に真冬ちゃんは悪くないし……あー、それより、次はどこ行くんだっけ?まだ用事あるんだろ?」

「ふふっ、優しいんですね、お兄さん。でも、今日はもう帰ります。いつの間にか結構暗くなってますので」

「……そっか。じゃあ、家まで送るよ」

「送り狼ですか。傷心の私につけこもうとしてますね。ですがそうは問屋が卸しません」

「今のであまり傷心じゃないのはわかった。あと前から思ってたんだけど、そういうのはどこから取り入れてるの?」

「母からです」

「そこが諸悪の根元だったか!なんか納得だわ!」


 なるべく明るく、それでいて押しつけがましくないテンションを心がける。

 今、自分がこの子にできるのはそれだけだろう。ただの自己満足にすぎないけど。


「……よし。それじゃあ、行こっか」

「……はい」


 帰り道、彼女はいつもより口数が多く、やたらとニコニコしていた。

 それが演技なのかどうか、俺には見抜ける自信はない。


 *******


 ようやく家に帰り、ベッドに寝転がると、自然と大きな溜め息を吐いてしまう。

 先日から、変わった出来事に遭遇してばかりなので、割と疲れたのだろうか。まあ、俺みたいな繊細な人間はあんなのが立て続けに起こったら、メンタルをやられるだろう。


「兄貴ってそんな繊細だったっけ?ズボラでおおざっぱだと思ってたけど」

「うおっ!びっくりしたぁ……!!」


 なんと、毛布にくるまった我が妹が、同じように隣で仰向けになっていた。本気で驚くからやめてほしい。


「お、お前、いつからいたんだよ。あと心を読むな」

「いや~、兄貴を驚かそうと30分前からスタンバイしてたら、全然気づかないんだもん。あと超能力とかじゃなく、兄貴が独り言聞いてただけだよ」

「……えっ、マジで?」

「マジで。ちょっと……いや、かなりひいたもん」


 妹に独り言聞かれるとか恥ずかしすぎる。

 だが兄の威厳を保つため、なんとか顔に出さないよう注意した。


「お前なあ……てか、人の布団に勝手に忍び込んでるなよ」

「まあまあ、お姉ちゃんなんて、そこのクローゼットに入ってるし」

「千秋ちゃん!?言っちゃだめでしょう!!今からおどかそうと思ってたのに~!」

「…………」


 姉さんの声がクローゼットの中から聞こえてきた。なんかすげえシュールだ。つーか、ばれてるんだから出てくればいいのに。


「姉さんまでどうしたんだよ。いきなり」

「あはは、たまには千秋ちゃんに便乗して、こういうのもいいかなって……」


 クローゼットから出てきた姉さんは照れ笑いを浮かべながら、俺の右隣で仰向けになった。

 子供の頃は、よくこうして寝てたけど、今の体格でこれは少し窮屈だ。何より少し恥ずかしい。


「てかどうしたの、マジで……なんのイベント?」

「兄を敬うイベント」

「弟を可愛がるイベント」

「……そ、そうですか。あんまり敬われてる気も可愛がられてる気もしないんだけど」

「「あはははっ!」」

「笑って誤魔化しやがった……!」


 だが、自然と心が和らいでいくのがわかる。

 二人が何を思ってこんなタイミングで、おかしな悪ふざけをしたかはわからないが、今はそんなやりとりが心地いい。

 当たり前だが、ちっともドキドキしない、それでいて落ち着く甘い香りに包まれ、俺はさっきまでの出来事を頭の中で整理した。


「直君。今日は洗い物お願いね」

「私の宿題も」

「台無しだわ!あと宿題は自分でやれ」

 

 

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