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妹の友達の姉の憂鬱

「ごめんね、いきなり呼び止めちゃって」


 先生は俺に席をすすめ、温かいコーヒーの入ったカップを手渡してきた。


「あ、ありがとうございます……」


 カップに口をつけると、ほのかな苦味が口の中に広がる。なんだか、お前はまだ子供だと言われてるみたいだ。 


「あら、ごめんなさい。それ、さっき私が口つけたカップだったわ」

「っ!?」


 マジか!?

 何とか吹き出すのをこらえ、カップをまじまじ見つめると、如月先生は楽しそうに笑っていた。


「あははっ、冗談よ。顔赤くしちゃって、可愛いわね」

「…………」


 姉妹揃って、変なとこだけ似てやがる……。

 とにかく、さっさと用事だけすませよう。間違っても、この姉妹のペースに乗せられてはならない。


「それで……用事って、一体なんなんですか?」

「あら、放課後の保健室に美人なお姉さんと二人きりなのにテンションが上がらないなんて……枯れてるの?」

「十代で枯れてたまりますか。てか、先生もいきなりキャラ変しないでくださいよ。他の生徒が見たら驚きますよ」

「私はまだそんなに登場してないから大丈夫よ」

「またメタい話を……」

「あはは、ごめんなさいね。ついからかいたくなっちゃって。じゃあ、話に入らせてもらうわ。最近、真冬と仲が良いようね」

「ああ~……仲良いといいますか……まあ、その……」

「隠さなくてもいいわ。校門前での事件は私も知ってるし、一応二人の交流も知ってるから」

「え、そうなんですか?」

「ふふっ、真冬ったら一々報告してくるのよ。しかもあの子ったら、あなたを食事に招待したなんて言うから」

「あはは……」


 色々思い出して、ついつい苦笑が漏れてしまう。

 それを見た如月先生も、同じような笑みを溢した。


「……どうだった?思ったこと正直に言っていいわ」

「だいぶきつかったです」

「でしょうね。私もお母さんの料理は食べたいんだけどね。あの空気は無理よ」

「あの……俺が口出しすることじゃないのはわかってますけど、真冬ちゃんを……」

「もちろん連れ出そうとしたわよ。でも、あの子ったら全然聞く耳もたなくて……しかもあの子、家を出た私を責めようともしないのよ。可愛いでしょ?」


 如月先生は、自分カップに目を落とし、緩やかに湯気を立てているコーヒーを眺めた。まるで冷めるのを待っているかのように。

 とりあえずほっとしたのは、姉妹仲が良好なことだ。これで、実は姉妹仲が悪いとか言われたら目も当てられない。

 どんよりした空気が保健室内に立ち込めるのが、はっきりとわかった。予想はしていたけど、やっぱりしんどい。何か話題を変えなくては。


「あ、そういえば二人とも母親似なんですね。見た目すごく若くて驚きましたよ」

「まあ、よく言われるわね。ちなみにうちの母は大概黒い下着を着けているわ」

「アンタら姉妹は俺をどうしたいんだ!?俺に父親になって欲しいのかっ!?」

「あはははっ、ジョークよ、ジョーク。だって真冬が言ってたんだもの。獣のような目でうちの母の身体を見てたって」

「な、何言ってんですか。そんなわけ……」

「動揺を隠せてないわよ」


 真冬ちゃん、今度会った時覚えてろよ……。


「ちなみに私の下着の色はピンクよ」

「いや、いきなりなんですか、そのカミングアウト!?」

「妹と仲良くしてもらってるお礼よ。実際に見せてはあげられないけど」

「…………」


 どっちにしても、変な妄想してムラムラしてしまうだけなので、言わないでいて欲しかった……いや、一応覚えておくけどね?まあ、忘れるのは、せっかく教えてくれた相手への礼儀に反するというか……。


「それで、お願いなんだけど、真冬に何か変化があったら私に教えてくれないかしら。あの子、私には絶対に悩みとか言わないから」

「実の姉が気づけない事を俺が気づけますかね?」

「君になら多分自分から話すわ。気に入ってるみたいだし」

「そ、そうですか?」

「恋愛絡みの事は誰も傷つかないのは無理だから、君が後悔しないように、しっかり悩みなさい」

「は、はい…………え、いきなりなんですか」

「少しくらいは先生らしい事も言っておこうと思って付け加えただけよ。思い当たる節がないなら忘れていいわ」


 そうして優しく微笑んだ如月先生は、文句のつけようのないくらい優しい『先生』だった。

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