たまにはいい話に見せかけパニック
日付も変わろうかという頃、もうこれ以上、先延ばしにはできないので、とりあえず俺から切り出すことにした。
「あの……そろそろ寝る時間ですけど、電気は点けたままでいいですかね」
そう、これはお互いの為なのだ。
普段は真っ暗にして寝ているが、この状況だと何がどうなるかわかったもんじゃない。いや、二人が俺の貞操を狙ってくるとかじゃなく……とにかく、こうしたほうが……
「あー、悪い。アタシ、暗くしないと眠れないんだ」
「私も……深海くらいの暗さがないと」
はい、却下されました。てか、深海くらいってなんだよ。行ったことあんのかよ。
……いや、俺の考えすぎかもしれないしな。てか、ここまで自意識過剰だと、それはそれで気持ち悪い。
そうだ。普通に眠って、祝日の朝を皆で笑って迎えればいいだけじゃないか。
とにかく目を閉じる。あとは何も考えない。それだけでいい。
「じゃあ、明かりは消すということで。それじゃあ、もう寝ますか」
「おう、そうだな……眠いし」
「ええ、そうですね……眠いですし」
相変わらず仲良しな二人の相槌に頷き、俺はベッドに潜り込んだ。
「じゃあ、電気消しますよ……」
「あ、ああ」
「はい」
明かりが無くなると、急に部屋の中が静まり返った。
……今さらだが、遂にこの時間がやってきたか。いやいや、何も考えるなと決めたばかりだろ。
それに、俺は寝つきはかなりいいほうだ。
今日みたいに疲れた日なら、数分で眠りに……あ、無理っぽい。やたら目が冴えてる。そりゃそうだよな。隣の二人が気になって仕方ないもん。
「あの……眠くなるまでお喋りしませんか?」
真冬ちゃんも眠れないらしく、もっともな提案をしてきた。
「ま、まあ、アタシは眠いけど、少しくらいなら付き合うよ」
夏希さんも、変な強がりを言いながら提案に乗ってきた。
「じゃあ、何について話す?」
「お兄さんが決めてください」
「直登、頼む」
「…………」
丸投げかーい。本当に清々しいくらいに丸投げされたんですけど……。
俺は、もうなんでもいいやと、やや投げ槍に思考を働かせ、もう思いつくままに口にした。
「じゃあ、将来の夢」
「なんか子供っぽいな。懐かしい」
「お兄さん、なんか可愛いです」
二人は微妙な食いつき方をしてから、少し黙って考え始めた。しかし、我ながら微妙な話題選び。そんなんだからモテないんだよ。
自分自身にツッコミをいれていると、やがて夏希さんが口を開いた。
「あー……今のところは、働いて家族に楽させてやりたい、だな。細かいことは考えてねえや。てか、こういうの改めて口にするの結構恥ずかしいな」
「別にいいんじゃないですか?俺と真冬ちゃん以外誰も聞いてないですし」
「私もそう思いますよ」
真冬ちゃんの賛同が意外で、つい視線を向けると、夏希さんも真冬ちゃんに目を向けているのが見えた。
彼女はそれに気づいているのか、いないのかはわからないが、そのまま話を始めた。
「私は……早く自立したい、ですね。私も細かい事は考えてないですけど」
二人の普段より大人びた声のトーンに、なんだか自分が小さい人間に思えてきた。理由がなんなのかはさっぱりわからないけど。
……本当になんなんだろうな。
「直登、次お前の番だぞ」
「もしかして、私達だけに言わせて、しれっと寝ようとしてません?」
気づかないうちにしばらく黙り込んでいたのか、二人から催促の言葉を頂いた。
……やばい、何も考えてなかった。
「どした?恥ずかしがらなくていいぞ」
「お兄さんがどんな恥ずかしいことを言っても、私は受け止めます」
「…………アイドルと結婚」
「あ?」
「は?」
受け止めてはくれないようだった。
まあ、こんなしょうもないやりとりも、さっき感じた焦りにも似たもやもやも、しばらくしたら眠気がどこかへ追いやってくれるだろう。
あと少し、あと少しで……
*******
翌朝……
「すぅ……すぅ……」
「すぅ……んん……」
「…………」
どうしてこうなってる。
昨晩は少し話をしてから、徐々に会話が途切れていったのは覚えている。多分、それからほどなくして寝落ちしたのだろう。
問題は…………なんで二人がベッドの中にいる!!?
数分前、目が覚めると、仰向けに寝ている俺の右腕に夏希さんが、左腕に真冬ちゃんが抱きついていた。
ちなみに、左右の二人はまだがっつり眠っている……っぽい。現状を考えれば、演技にも思える。
「ん……」
すると、夏希さんが右腕に抱きつく力を強めた。豊満な膨らみがさらに強く押し付けられ、思春期男子の脳みそを容赦なく揺さぶってくる。
「お兄さん……」
今度は真冬ちゃんが同じように抱きつく力を強めた。こちらは膨らみはそうでもないが、体全体で抱きついてきているので、なんかあちこちの柔らかさが伝わってくる。
……脱出できない。ど、どうしたら、この状況を突破できるんだ?
そこで、ドアが控えめにノックされ、さらなるやばい出来事が……。
「なっちゃん、おはよう……わお」
「ふゆっち~、おはよ~!……わお」
「……おはよう」
とりあえず……朝の挨拶はしっかりしなきゃね!
内心、ヤケクソだった。




