意外な関係、またまた遭遇
「え~と……どうしたのかな?」
よかった……周りに人がいなくて。もし周りに人がいたら、女子中学生に変な事させてる変態に認定されるところだった。
額を伝う汗をそっと拭うと、真冬ちゃんは落ち込んだ表情を見せた。
「ひぅ……は、話が違います……」
「え?話が違うって?」
「はい……ちーちゃんが『ウチの兄貴は女の子が語尾に「にゃん」を付けたらどんなお願いでも聞いてくれるよ』と言ってたので……」
「…………」
なんだ、その頭の悪そうな神龍。千秋の奴……帰ったら説教だな。まあ、無視されて終わりだろうけど。あと真冬ちゃん、そんなの信じちゃダメですよ?俺、そんな風に見えないでしょ?いや、見えてるからやったのか。なんかショックだ。
少しだけ落ち込んだが、気を取り直して話を進める事にした。
「それで、真冬ちゃんはお姉さんに用事があって来たんだよね?」
「あ、はい。そうなんですけど……高校に直接来たのは初めてで……なんか入りづらくて……」
まあ、その気持ちはわからないでもない。なんか怖い先輩とかに絡まれたらイヤだし。
わざわざ俺にあんな変な頼み方をしてきた理由がわかった。
とりあえず、今日は用事もないから……
「じゃあ、俺が案内するよ」
「えっ?本当にいいんですか?」
「ああ。それと、千秋が俺に関して言う事は話半分に聞いてくれていいよ」
「ふふっ、ありがとうございます。あっ、でもでも!ちーちゃん、お兄さんの事とっても大好きだと思いますよ!」
「アイツが?へえ……意外すぎる。何て言ってたの?」
「えっと……頼めばアイス買ってきてくれるとか、あと上目遣いで10秒間見つめたら千円くれたとか、夏休みの宿題を半分やってくれたとか……」
「…………」
改めて千秋の奴、俺をパシりすぎだろ……。
溜め息を吐いて再び校舎に足を向けると、真冬ちゃんもトコトコ歩き、隣に並んできた。いちいち動作が可愛らしい。
キラキラ目を輝かせ、周囲に目を配るその姿はまさに小動物そのものだ。
「わあ……ここが音浦高校なんですね」
「学校名紹介ありがとう。真冬ちゃんは来年はここを受験するの?」
「はいっ、ここ制服可愛いですし、お姉ちゃんもこの学校の卒業生なんです」
「えっ、卒業生?じゃあ、真冬ちゃんのお姉さんって…」
「はい。私のお姉ちゃんは……」
*******
保健室の扉を開けると、先生が書類の整理をしていた。
「あら、どうしたの?って真冬じゃない!」
「お姉ちゃん、久しぶり!」
真冬ちゃんは保健室に入るなり、さっそく先生に抱きついていた。
そう、彼女はうちの学校の保険医である如月先生の妹さんだったのだ。名字を聞いた時点で気づけよという人がいるかもしれないが、まあ、如月って名字の人は結構いるからね……多分。
先生は、真冬ちゃんの頭を撫でながら、こちらに笑顔を向けてきた。
「日高君、ありがとう。真冬を案内してくれて」
「ありがとうございます、お兄さん」
「どういたしまして」
うわ……この二人、よく見るとめっちゃ似てる……。
て事は、将来的には真冬ちゃんも先生みたくセクシー系になるという事か……。
「日高君、そんなまじまじうちの妹を見るのはやめなさい」
「はい」
そんなに警戒しなくても……。
如月先生の意外なシスコンっぷりに驚きながら、さりげなくその場をあとにしようとすると、真冬ちゃんがこっちに再び極上の笑顔を向けてきた。
「お兄さん!ありがとうございます!」
……まあ、いい事した甲斐はあったかな。
*******
ようやく帰路についてから、家までの距離があと半分になったところで、今度は意外な人物と遭遇した。
「お?」
「あ……」
やばい。ヤンキーのお姉さんだ。朝は何とかやり過ごしたが、今はバッチリ目が合ってしまった。正面から来るなんて
いや、ここは気づいてませんよ風に通りすぎるしかない。
俺は軽やかに口笛を吹き、優雅にスキップしながらその場をやり過ごすことにした。
「おい」
「はい」
いきなり声をかけられ、どちらもストップ。詰むの早すぎだろ
「やっぱ美春の弟じゃんか。いきなり変な動きしだしたから、不審者かと思って蹴飛ばしそうになったわ~」
「は、はあ……」
どうやら逆効果だったらしい。ですよね。俺もそんな気がしてました。
とりあえず愛想笑いを浮かべていると、彼女は俺の顔を覗き込んできた。端正な顔立ちと意外なくらい甘い香りに、心臓が鐘のように鳴ってる気がした。
しかし、そんなこちらの心情などお構い無しに、彼女は余裕のある笑みを見せた。
「う~ん、やっぱ似てねえな。まあ、ドンマイ」
「…………」
こら、謝るな。ドンマイの意味がわかって辛いだろうが。
すると、彼女は何か思い出したように手を叩いた。クールなのか賑やかなのかよくわからん人だな。
「そういや名前言ってなかったな。アタシの名前は水瀬夏希。よろしくな」
「あっ、はい。俺は……」
「直登、だろ?知ってるよ美春から散々聞かされてたからな」
散々何を聞いたのかは聞かないでおこう。また傷つきそうだ。
とりあえず別れを告げてその場を去ろうとすると、そうは問屋が卸さなかった。
「よし、今ちょうど人手がいるんだ。直登、悪いがついてこい」
「えっ、いや俺は、ちょっ、えっ、えっ!?」
腕をがっちり組まれ、引きずられる。この人マジで力つえぇ!!あと肘に……肘に当たってます!♪!いかん、つい音符が入っちまったぜ!
こうして俺は、また家までの道程を遠ざかっていった。