妹の友達の両親
「……うわあ」
「お兄さん、さっきと同じリアクションしてますよ」
そんなこと言われても仕方ない。実際そうするしかないくらい驚いているのだから。
まず、玄関だけでも無駄に広い。てかなんでベンチ置いてるんだよ。待ち時間できるくらい客が来るのか?
なんだか本当に自分が上がっていいのか、なんて思えてくるような……なんだ、この感覚?
「そんな緊張しなくてもいいですよ。ただの家なので」
「りょ、了解」
まあ、住んでる本人からすればそうだろう。
すると、奥からぱたぱたと、こちらに向かってくる足音が聞こえてきた。
誰だと思い、背筋を正すと、黒髪の……なんだか真冬ちゃんを大きくしたようは女性が出てきた。ま、まさか、この人……。
その女性は無表情のまま、真冬ちゃんに話しかけた。
「あら、真冬。今帰ったの」
「すいません、お母さん。遅くなりました」
え、お母さん?ぶっちゃけ姉だと思ってたんだけど……若すぎやしませんかね。
真冬ちゃんがぺこりと頭をさげると、真冬ちゃんのお姉……お母さんは、笑顔を見せた。
「いいのよ。それより、そちらの男の子は?」
「……彼氏です」
「おい」
この子、普通に嘘ついてるんだけど。あまりにスムーズな流れで言うもんだから、普通に受け入れかけたわ。
その様子を見ていた真冬ちゃんのお母さんは、「あらあら」と俺の方に目を向けてきた。
「そういう事だったのね」
「いえ、そういう事では……」
なんかこの人納得しかかってるんですけど……。
感情の読めない瞳で、じっと見つめられると、何だか妙に居心地が悪くて、つい首筋に手を当ててしまう。
すると、ようやく彼女は口を開いた。
「あなた、お名前は?」
「あ、はい。日高直登です」
「日高君ね。よかったら、あなたも一緒にどうかしら?」
どうやらここで拒否されて家に帰る。なんて流れにはならないらしい。ていうか、真冬ちゃんのお母さん。どこぞの馬の骨とも知れない男に対して、無用心すぎませんかね。
もちろん、反論する気はないので、そのまま二人の後ろを歩いていた。
そして、同時に違和感も感じていた。
この二人……なんか他人行儀というか、ぎこちない。
別にこれといった確信があるわけではない。
しかし、今の些細なやりとりの中に、これまで友達の家で見たような……例えば今日水瀬さんの家で見たような、家族の空気感はだいぶ薄いように見えた。
今から自分は何を見せられるのか、これがただの気のせいであればいい。
そんな事を考えながら、俺はピカピカに磨き上げられたフローリングの上を滑らないように歩いた。
*******
大きめのテーブルのある部屋に通されると、そこには既に食事が並べられていた。こちらはこちらで、また美味しそうな料理だ。
「お父さんはまだ帰ってきてないんですか?」
「今、部屋にいるからそろそろ出てくるわよ。日高君の分もすぐ用意するから待っててね」
「あ、はい。ありがとうございます……」
真冬ちゃんのお母さんは、何故かさっきよりリラックスしたような表情を見せながら、棚から皿を出し始めた。
その隙に、俺は真冬ちゃんに話しかける。
「ねえ、すごく急展開すぎて頭がついていかないんだが……」
「私にとっては日常ですよ?」
「俺にとっちゃ非日常もいいとこだし。あと真冬ちゃんのお母さんなんだけど……」
「スリーサイズは上から91、59、88です」
「うわ、すげえ。教えてくれてありがと……………………違うわ!どこの世界に妹の友達の母親のスリーサイズ聞く奴がいるんだよ!」
「私の目の前に」
「聞いてねえよ!」
「嬉しくなかったですか?」
「……まあ、ぶっちゃけちょっと嬉しい……いや、そういう話じゃなくて!」
「も、もしかして、私のスリーサイズが知りたいんですか?お、お兄さんになら、教えてあげてもいいんですけど、その際はあのおばさ……お姉さんとの縁を切っていただく必要が……」
「そっちも聞いてねえよ!あとさらっと怖いこと言わないでくんない!?」
なんでこの子はこうも水瀬さんに敵意剥き出しなのか。
頭を抱えたくなるような気持ちでいると、真冬ちゃんはくすりと悪魔めいた笑みを浮かべた。ちなみに、『小』は入れ忘れたわけではない。わざと入れなかっただけだ。
「お兄さん、ツッコむのが好きなんですね」
「そっちがさせてるんだろ。あと下ネタっぽく聞こえるから、言い方気をつけて」
「……仲良いのね」
いつの間にか近くに来ていた真冬ちゃんのお母さんに声をかけられ、肩が跳ね上がる。……びっくりしたぁ。この人、忍者かよ……。
そして、目の前に皿やら料理やらが置かれていることにも驚いた。
「お母さんは、仕事が早いので」
真冬ちゃんが淡々と言ってるけど、そういうレベルを超えてるような……。
すると、すぐそばのドアが開き、背の高い若々しい男の人が入ってきた。多分、この人が真冬ちゃんの……
「いやあ、悪い。つい読書に夢中になってたよ。あれ?こちらの彼は?」
「真冬の彼氏よ。せっかくだから、招待させてもらったの」
「そっかぁ。真冬も彼氏を連れてくるようになったか。よろしくな、彼氏君」
「え?え?」
いや、あんた何信じてんだよ、というツッコミも入れたいが、色々と目について、それどころではなかった。
まず、真冬ちゃんのお父さんの喋り方が、台本をなぞっているように感情のないこと。それと、彼を見る真冬ちゃんの目は、一瞬だけではあるが、こちらが底冷えするくらい冷たかったこと。
そんな二人を見る母親の目は、どこか寂しそうだった。




