呼び鈴にもチャイムにも反応しない時、どうすればいいの?
日曜日になり、俺は水瀬家への道を歩いていた。
自分が勝負で負けたとはいえ、また日曜日の予定を埋められたのはアレだが、水瀬家のチビ達は可愛いし、水瀬さんの手料理にありつける可能性もあるので、色々と期待はしている。
あの人の顔を思い浮かべると、同時に左肘の辺りに、あの柔らかな感触が蘇ってくる。別にそういうのを期待しているわけしではないが、脳裏に焼き付いたものはどうしようもない。
水瀬家が住んでいる木造アパートは、すぐに見えてきた。こんな近くにあんな変わった人がいるなんて、改めて驚かされる。世間って狭いな。
敷地内に入り、一階の端っこの部屋の前に立ち、呼び鈴を鳴らす。
しかし、誰も出てこない。
だが、明らかにちびっ子達が騒ぐのが聞こえてくる。その中に水瀬さんの声も混じっていた。
……聞こえてないのかな?
今度はドアを控えめにノックしてみる。しかし、何の反応もない。
だが、中から声は聞こえてくる。
これはもう入っていいやつだな。
このままでは埒が明かないし、中に誰かいるのはわかっているんだから、別にいいだろ。
そう判断した俺は、「失礼しまーす」と呟きながら、ドアノブを回し、中に足を踏み入れた。のだが……
「こぉらっ!さっさと着替えろっての!もうすぐアイツが来るんだよ!」
「わーっ!姉ちゃんがおこったー!」
「おこったー!」
「…………」
そこにいたのは、パジャマ姿で走り回るちびっ子二人と、その様子をじっと見つめる真帆ちゃん。そして…………ピンクの下着姿でちびっ子を追いかける水瀬さんがいた。
……………………え?
予想外のあれこれに思考が追いつかないでいると、ちびっ子達がこっちに気づいた。
「あっ、兄ちゃんきたー!」
「きたー!」
「…………」
「え……」
4人の瞳がこちらを向く。それでようやく脳が正しく現実を認識し始めた。ちなみに、水瀬さんは固まっていた。下着姿のまま。
もちろんちびっ子達は、色々と気にすることはなく、元気に駆け寄ってきた。
「兄ちゃん久しぶりー!」
「久しぶりー!」
「……や、やあ、こんにちはー」
「えっ?な、直登?え……あ……」
水瀬さんも、徐々に現実を正しく認識してきたのか、何度も俺と自分の格好を見比べていた。そして……
「~~~~~~~~!!」
思ったよりもずっと大きな声が、どこか可愛らしく、休日の穏やかな空の下に響き渡った。
そして、真帆ちゃんだけがグッと親指を上げていた。どういう意味なのかはわからない……。
*******
「そっか。それで、誰も気づかなかったというわけか」
「……はい。本当にすみませんでした」
何とか殺されずに済んだ事に、俺はほっとしながら返事をした。とりあえず、わざとじゃないという事だけはわかってもらえたようだ。
「……まあ、その、アタシだって呼び出しておきながら、気づかなかったわけだしな」
「いえ、それでも、その……ごめんなさい」
「ああもう!とにかくもう謝らなくてもいいっての!ちょっとした事故みたいなもんだから、お互い忘れようぜ!」
「…………」
それは無理な気がします。色々と。
先程の下着姿が思い浮かび、今さらながら胸が高鳴ってきた。顔が熱くなっているのが、頬に触れずともわかる。や、やばい……。
「お、思い出してんじゃねーよ、バカ!」
「い、いえ!そんなことは……!」
「ウソつけ!顔真っ赤じゃねーか!どうせいやらしいこと考えてたんだろ!この変態!!」
「姉さん、落ち着いて。反応しているということは姉さんに興味がある証拠。お兄さんは、姉さんを性的な目で見ている」
「違う違う違う!そういうんじゃないから!」
「えっ……そうか。違うのか……まあ、そうだよな。アタシ、あんまり女らしくないし……」
「女らしくないなんてことは……あー、えっと、めちゃくちゃ魅力的だと思いますよ!」
「そ、そうか?……あはは」
しゅんとしたかと思えば、急にぱあっと笑顔になる水瀬さん。なんだ、この緩急の使い分け。後ろの方で真帆ちゃんが、「ナイスアシスト、私」とか呟いてるのも気になるし。
「そうかぁ、めちゃくちゃ魅力的か……うんうん。あ、直登、今お茶淹れるから座れよ」
「は、はい……」
にんまりと笑う水瀬さんに促され、畳の上に座ると、ようやく一息吐いた気分になる。
とりあえず……助かった、のか?
頭の中は、申し訳なさや興奮混じりの胸の高鳴りで埋め尽くされていた。




