ふわふわ
とりあえず二人は帰り、俺は楽器屋の店長にギターを教えてもらったわけだが、そこは野郎二人の地味な描写しかないのでスキップで……。
ちなみに、ギターはまだ買えていないので、店長のを使わせてもらっている。そろそろバイトを考えるべきか……。
「あれ、直君?」
毎日聴いて、すっかり鼓膜に染み付いた声に振り向くと、姉さんがこっちに小走りで駆け寄ってきた。
「偶然だね。直君もこっちに用事があったのかな?」
「え……?」
姉さんにも千秋にもギターの件は言ってない。そこはせめて一曲くらい弾けるようになってから、ね?
「あー……どっかでバイトでも募集してないかなぁ、なんて思って」
テキトーすぎる言い訳だが、姉さんはふむふむと頷いていた。近い将来、悪い大人に騙されないかが心配だ。
「直君もそんな歳になったんだねえ。何だか感慨深いというか……」
「……なんで急に母親目線?」
まあ、姉さんがメインで家事をやるようになってから、そこそこの年月が経っているので、それも関係しているのかもしれない。
「でもバイトかぁ……この辺りだと飲食店とかスーパーになるかな」
「まあ、そうなるよね。てか、姉さんはなんでここに?」
「え?……あはは、考え事しながら歩いてたら、ここまで来ちゃった」
「…………」
こっちはこっちで嘘をついてるっぽい。しかも、めっちゃヘタクソ。
だが、おあいこには変わりないので、それ以上はツッコまずに、俺は久しぶりに姉さんと並んで、家までの帰り道を歩いた。
*******
その日の夜、水瀬さんと真冬ちゃんからメールが来た。内容は以下の通りだ。
『明日、一緒に帰ろうぜ』
『明日、一緒に帰りましょう』
まさかの同じタイミングで同じ内容のメール。この二人、裏でグルになってんじゃねえかと思えてくる。
さて、確かに明日はヒマだけど、俺の体は一つしかない。ここだけ聞くとモテてるみたいだが、そうでもないというのが哀しい。
とりあえず、俺は思いつくままに返信を送った。
*******
「どういうことだ、直登」
「どういうことですか、お兄さん」
「え?見ての通りだけど」
だって……ねえ?こうするしかやりようがない。これこそたった一つの冴えたやり方。
だって、水瀬さんを怒らせたら肉体的にひどい目にあいそうだし、真冬ちゃんを怒らせたら精神的にひどい目にあいそうだし……どっちも嫌に決まってんだろ。
というわけで、皆がハッピーになれる素晴らしい案のはずなんだけど。
「お姉さん、お兄さんがそのヤンキーオーラに怯えていますから、お帰りになったらどうですか?」
「優等生ちゃんとのおままごとは退屈だってよ。そっちも日が暮れる前に帰ったらどうだ?」
「は?」
「あ?」
学校の近くじゃなくて本当によかったと心の底から思いながら、溜め息を一つ。もう仲良くしてとは思わない。多分、スマブラをノーダメージクリアするより難しいだろう。
なので、さっそく本題に入らせていただく。
「そういや、今日の目的はなんですか?」
すると、間髪入れずに水瀬さんが答えた。
「とりあえず、直登んち行かねえ?」
「……え?」
*******
女子がウチに来ると聞いて、思わず「え?」とか初心なリアクションを返してしまったが、今さらだったな。
だが、以前と明確に違うのが、今回は二人とも俺に会うのが目的になっていることだ。
予想外な展開だったので、片付けなどはされていないが、特に変なのは出てない。
「いや~、この前はドタバタしてて、お前の部屋をあまりゆっくり見られなかったからな。どうしても見たかったんだよ」
「はあ……でも何でまた……」
「そりゃあ、まあ、その……敵情、視察?」
何故敵認定されているかはわからないが、まあ深くはツッコむまい。
真冬ちゃんも、この前よりはおとなしいが、キョロキョロと辺りを見回していた。
「私もお兄さんの部屋をじっくり見てみたかったんですよ~」
「…………」
この前、ベッドの下を隅から隅まで探していたけど?まあ、今日はさすがにあそこまで大胆な真似はしないだろう。しないよね。するな。
「さて、直登の奴はどこにエロ本隠してんのかな」
「いや、あんたまでそのイベント起こさなくてもいいんですよ」
まったく油断も隙もない。俺が知らないだけで、実は女子の中ではエロ本探しが共通のイベントになっているのだろうか。
「お姉さん、はしたないですよ」
お前が言うな。
真冬ちゃんは、長い黒髪をはらりとかき分け、本棚に置かれている本をチェックしていた。ここだけ見ると、なんかいかにも文学少女っぽい。
「まあ、たしかにエロ本なんて持ってて当たり前だし、アタシは気にしねえよ。へえ、お前こういう漫画が好きなのか」
水瀬さんは、さらさらの金髪を揺らし、ベッドに胡座をかいて、漫画のページをぱらぱらめくり始めた。ここだけ見ると、なんかいかにもヤンキーっぽい。あとそこ、普段俺が寝てる場所ですけど。今晩どんな気分で寝ればいいんだよ。
ていうか既に女子二人の甘い香りがふわふわ漂い、俺は普段とは別の意味で、この二人の破壊力を思い知る羽目になった。




