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小さく動き始める日常

 次の日、学校までの道をのんびり歩いていると、見覚えのある後ろ姿……というか、金髪を発見した。

 あれは昨日のヤンキーさん……。

 俺の脳裏には、昨日至近距離で見た綺麗な顔と、その前に自分を射抜いた鋭い視線を思い出した。

 自分の頭の速やかに『恐い>美人』となり、そのまま気づかないふりをすることが確定した。姉さんの友達といえども恐いものは恐い。

 だが、その心配は杞憂だったようで、彼女は途中で道を曲がり、その背中は見えなくなった。

 すると、脳内に都合よくあの至近距離で見た綺麗な瞳が浮かんでくる。やっぱり声かけとけばよかったと思う自分に呆れた溜め息を吐くと、背中をバシンッと叩かれた。


「兄貴っ、何ぼけーっと歩いてんの?気味悪いよ?」

「い、いきなり叩くなよ……魂飛び出るかと思ったぞ」

「あははっ、兄貴は大げさだなぁ」


 ケラケラと笑う千秋は、短いポニーテールを小動物のように跳ねさせていた。相変わらず元気だけは無駄にある奴だ。


「ったく、静かにしてろよ。俺は今考え事してたんだから」

「もしかして、ふゆっちの事?」

「ふゆっち?ああ、昨日家に来てた……違うよ」

「そうなんだ、ふゆっちがさ……兄貴のカッコいいって言ってたよ」

「……マジで?」


 瞬時に昨日見た清楚系美少女を思い出す。

 あ、あ、あんなかわいい子が……俺を?いよいよ来たか、モテキ。恋が攻めてくる予感がしてきたぜ。


「まあ、嘘だけどね」

「だよな」


 もちろんわかってた。だって昨日フラグたった気配しなかったんだもん!

 千秋は悪戯っぽく笑い、俺の腕にしがみついてきた。


「まあまあ、ドンマイドンマイ。そのうちいいことあるよ」

「え、何?なんでフラれたみたいな空気になってんの?あと歩きにくい。離れろ」

「はいはい」


 千秋はぱっと腕を離し、隣を歩き始めた。

 そこでふとある事に気づいた。

 姉さんと同じ学校だって聞いたけど、あっちの方角だったっけ?……ま、いっか。


 *******


 途中で千秋と別れ、学校に到着し、下駄箱で靴を履き替えていると、隣から声をかけられた。


「おはよ、日高君」

「あ、おはよう、桧月さん」


 まさかこんな朝イチラッキーイベントが起こるとは!神に感謝だ!

 彼女の名前は桧月悠里。先日のクラス替えで隣の席になった時に、連絡先を交換した女子だ。ウェーブのかかった茶色のロングヘアーがトレードマークで、その清楚で物静か佇まいから『お嬢様』とか『姫』言われている。

 だが、実際話しかけてみると、割と気さくな子で話しやすい。なので、男子からも人気が高い。

 まあつまり…


「ふふっ、どうかした?私の顔に何かついてる?」

「いや、別に……」


 いかん、つい見とれてしまっていた。落ち着け。

 俺は慌てて首を振り、それを誤魔化すようにさっさと靴を履き替えた。


 *******


 そのまま流れで他愛ない話をしながら歩いていると、すぐに教室に到着した。なんだよ。あと100メートル以外遠くてもいいんだぞ


「おはよう、桧月さん。ついでに日高も」

「おはよう。三田村君」

「ついでは余計だ」


 三田村がにこやかに失礼をかましてきた。朝っぱらからチャラい雰囲気が目にしみる。


「いや、ほらそこは仕方ないじゃん?」

「まあ、たしかに……」


 立場が入れ替わったら、俺だってこいつをぞんざいに扱うだろう。それは間違いない。


「あははっ、二人とも今日も仲いいね!」


 桧月さんはそう言って笑うが、俺としては苦笑するしかない。そんなセリフは、美少女の幼馴染みと登校した時にクラスメートがからかってくる時に言われたいのであって、断じてこいつとではない。

 三田村も同じ気持ちなのか、苦笑いをして俺と距離をとっていた。

 まあ多少ケチはついたが……今日はそれなりに運がいい1日になりそうだった。


 *******


 ……うん。特に何もなかったよ!

 朝の予想をあっさり裏切るように特別なことがなかった1日。いや、何事もなかったからそれでいいじゃないか。今日も1日平和だった。

 そんな風に自分の脳内で色々整理してから、部活に向かうクラスメートや教室で三田村とその友達を尻目にさっさと校舎を出た。

 だが、校門を通過したところで、あるものが視界に入った。


「えと……その……」


 小柄な女の子が一人でわたわたと何かを躊躇っている。見たところウチの制服じゃない。

 ……ていうか、この子……


「あの……もしかして千秋の友達?」

「は、はい……あ、たしか、ちーちゃんのお兄さん、ですよね」

「そうだよ。えっと……そっちはふゆっちって呼ばれてた……」

「はい。如月真冬といいます。よろしくお願いします」

「ああ……日高直登です。よろしく」


 ぺこりと可愛らしく頭を下げる真冬ちゃんに、つい合わせてこちらも頭を下げた。こっちは可愛らしくないけど。ていうか礼儀正しいな、この子。千秋に1ミクロンでもこのおしとやかさを分けてやりたいくらいだ。


「それで……どうしたの?高校の前で」


 なるたけ優しい声音で話を聞こうとすると、真冬ちゃんはもじもじしながら上目遣いでこちらを見た。


「あの……お姉ちゃんに会いに来たんですけど、入りづらくて……あ、そうだっ」


 彼女は何か思い出したように頷き、深呼吸してから、何故か手を猫っぽい形にした。


「あ、あのあの!校舎まで連れていってくだしゃい!お、お願い……にゃん!」

「…………」


 ……何が起こった。

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