彼氏?彼女?
「お兄さん?」
「えっ?あ、ごめん。ぼーっとしてた」
「ふふっ、今の顔、写真に撮っておきたかったです」
「え?そ、そんなに……」
「かわいかったです」
「…………」
まあ、そうだよな。普段かっこいいとか言われてない人間が、ぼーっとしただけでかっこいいとか言われるわけがない。
苦笑いをしていると、こちらを振り返った千秋が、手招きをしてきた。
「へいへい、お二人さん。私を忘れて二人で盛り上がっちゃ困るぜー。あと着いたよ」
へいへいってお前……てか、もう着いたのか。
千秋のチョイスした服屋は、しっかり見なくても十代の女子向けとわかるよかうな店だった。
これは……入るのは躊躇われるな。
さりげなく外で待つか、どっか別の場所で待っていようかと考えていると、それを察したのか、こちらを見た真冬ちゃんが頷いていた。どうやらフォローしてくれるらしい。助かる。
「お兄さん。どうせなら、選んだ服が似合ってるかどうか、チェックしてくれませんか?」
どうやらフォローじゃなかったらしい。知ってた。
ていうか、俺にファッションチェックをしろとか、マジか。
「ははっ、兄貴がファッションチェックとか百年早いよ」
「うるせーぞ」
ほら、さっそく我が妹が暴言のネタにしているぞ。正直、ファッション雑誌とかチェックしないから、この手の事には疎いのだ。
しかし、真冬ちゃんはにっこりと笑い、俺のシャツの袖を摘まんでいた。ああ、この笑顔が色々やばい時に浮かべるやつなのは、さすがにもう気づいてる。
「大丈夫です。私はお兄さんを信じてます」
「…………」
何を信用されているのかは知らないが、間違いないのは逃げることができないということだった。
*******
とりあえず、一人では絶対にうろうろしたくない、ていうかできないので、楽しそうにはしゃぐ二人に、従者の如くぴったり寄り添いながら店内を見て回っているのだが、やはり居心地はあまりよくない。
香水のような甘い香り、ポップなBGM、ギャルっぽい店員。あらゆる要素が何となく引っかかる。
「兄貴、キョロキョロしないでよ。不審者みたい」
「え?俺、そんな挙動不審だった?」
「うん。ぶっちゃけ知り合いじゃなかったら、警察に通報して、逮捕されて、ケチな兄貴罪で捕まってるとこだよ」
「キョロキョロしてたの関係なくないか、それ?」
「とにかく、キョロキョロするの禁止。あと店員さんにエロい目向けるのも禁止。わかった?」
「……了解」
言い方はむかつくが、内容自体は全面的に同意できるものだった。まあ、別にエロい目なんて向けはしないがな!
「お兄さん、私試着しますから見てもらえますか?」
「え?」
いつの間に取ってきたのか、服を片手に真冬ちゃんが、試着室を指差していた。
それを見た千秋も頷いている。行ってこいという意味だろう。
まあ、感想を言えばいいだけだし、何とかなるだろ。
*******
試着室の前に立っていると、衣擦れの音が聞こえ、何だかドキドキしてきた。落ち着け、俺。相手は妹の友達だぞ。
とりあえず携帯を見ながら時間を潰していると、シャッとカーテンが開く音がした。
「……どう、ですか?」
さっきまでロングスカートを履いていた真冬ちゃんは、今度は黒のミニスカートを履いていた。
身長の割に長い足が、剥き出しになっていて、ついつい視線が吸い寄せられそうになるが、そこは自重した。あれ?これもうファッションチェックできてませんね。
だが、何も言わないわけにもいかない。
「い、いいんじゃないかな?」
「お兄さん、ちゃんとこっち見てください」
くっ、こうやってからかうのが目的だったか、と警戒していると、店員さんが真冬ちゃんを見ながら、笑顔で近づいてきた。
「お客様、お似合いですよ~。彼氏さんも、こんな可愛い彼女さんがいて幸せですね~」
「彼氏……」
「彼女……」
本来ならすぐに間違いを正すべきなんだろうけど、相手が店員なのと、完全な不意打ちだったため、それができなかった。
その後真冬ちゃんは、すぐに試着した服を購入し、上目遣いでこちらを見てきた。
「お兄さん、彼氏って言われてましたよ」
「……う、うん」
「私、彼女って言われてましたよ」
「……そうだね」
「どう思います?」
「さ、さあ……」
「どう思います?」
これは何か答えないと終わらないやつなのか。果たして何が目的なのか。からかう為だよな。
返答に窮していると、千秋がこっちをジト目で見ていた。
「あの~、お二人さん?さっきから私を忘れてない?」
「「あっ」」
完全に忘れていたというわけにもいかず、今度は千秋の服の感想を言う流れになってしまった。
まあ、何にせよ……逃げられてよかった。




