ヤンキーと優等生との出会い
俺には2つ歳上の姉と2つ年下の妹がいる。
まあ、どちらとも程よい距離感を保ち、まあ普通の姉弟といったところだろう。
姉の名前は春香。穏やかでマイペースな性格の優しい姉。成績優秀で料理上手という我が姉ながらハイスペックな面もある。
妹の名前は千秋。少し生意気だが、なんだかんだ家族想いの妹。活発なタイプで、陸上部に所属している。そちらではそこそこいい成績を残しているそうだ。
そんな二人に囲まれているので、毎日賑やかなのだが、最近その賑やかさが爆発的に増した。その理由は……
「なあ、直登。今日はアタシとボウリング行くんだろ?」
「お兄さん。今日は私と映画に行くんですよね?」
「え?えーと……」
二人の女子から詰め寄られ、つぅーっと頬を汗が伝う。
嬉しいとかいう感情より、この場をいかに上手く丸く抑えるか。それしか考えられず、口はヒクヒクと引きつっていた。
しかし、そんなのは二人に全く伝わっていないようで……。
「「さあ、どっち!?」」
「…………えっと」
ちなみに、この二人は姉でも妹でもない……その友達だ。
右側にいる目つきがやや鋭い金髪のスレンダー美人は夏希さん。姉の友達。
左側にいる大人しめの黒髪ロングの大和撫子は真冬ちゃん。妹の友達。
そんな二人が、背後に妙なオーラを漂わせ、俺に選択を迫っている。
そう、一月前まではこんな事になるとは思いもしなかった。
*******
1ヶ月前……。
「ただいま~」
高校一年生になり、新しいクラスにもだいぶ慣れてきたところで、ようやく女子と連絡先交換した記念すべき日。
ウキウキ気分で帰宅すると、先に帰宅していたらしい、姉さんが出迎えてくれた。
「おかえり~……どうしたの?ニヤニヤしちゃって」
「してねえよ。いつも通りだよ」
「ふぅ~ん、それもそっか」
納得されるのも、それはそれでどうなんだと苦笑いしていると、姉さんはせっせと飲み物とお菓子を用意していた。
「誰か来てんの?」
「うん。ちょっと友達が来てるから。直くん、いつもみたいにいきなり入ってこないでね」
「はいは~い」
姉さんの背中を見送り、手洗いうがいを済ませ、二階にある自分の部屋に戻ろうとすると、姉さんの部屋のドアが少し開いていた。
こういうとこ抜けてんだよな、と通りすがりに何の気なしにチラ見すると、見慣れない金髪に目を引かれた。初めて見る顔だ。少し見えづらいが、間違いなく……美人。目つき鋭いけど。
そして、次の瞬間……睨まれた。
なので、慌てて目を逸らす。
こわっ!姉さん、ヤンキーに友達いたのかよ……意外。
自分の姉の交友関係に驚いていると、今度は誰かとぶつかった。
「きゃっ!」
「あ、悪い。ちあ……き?」
てっきり、妹の千秋だと思っていたのだが、全然知らない女の子がそこにいた。
さらさらの長い黒髪に、さっきのヤンキーさんとは対照的な穏やかな目つき。そして……制服越しに激しい主張をしている豊満な膨らみ。
だ、誰だ、この美少女……?
「あ、あの……ごめんなさい。大丈夫ですか?」
「え?あ、うん。大丈夫大丈夫。そっちは?」
「あ、はい、ご心配なく。あの、もしかして……」
彼女が口を開きかけたところで、ドアが開く音と共に、妹の千秋がポニーテールを揺らしながら顔を出した。
「ふゆっち、どしたの?って、あー!バカ兄貴、ふゆっちに何してんの!?」
「いや、何もしてねえよ。てかこの子、お前のクラスメイトか」
「そうだよ。ほら、あっち行った。しっ、しっ!兄貴のバカが移って、ふゆっちの成績が落ちたらどうすんの?」
「失礼な」
「だ、だめだよ、ちーちゃん。お兄さんにそんな事言ったら……」
おお、わざわざ庇ってくれるとは……もしかして、この子が天使か。目もくりくりしてて可愛いし……。
千秋はそんな友人の言葉を聞いて、ひらひらと手を振った。
「いいのいいの。ウチの兄貴はこれくらいが喜ぶんだから。それより、ふゆっち。トイレ行きたかったんじゃないの?」
「ち、ちーちゃんっ!もうっ!あ、あの、お兄さん、失礼します!」
「あ、ああ……」
兄への失礼と友人へのデリカシーのなさを同時に発揮するという合わせ技を披露してから、千秋は自分の部屋へと引っ込んだ。なんだったんだアイツ……。
とりあえず、僕もさっさと着替えよう。
*******
課題を終わらせ、居間でテレビでも見ようかと階段を降りると、玄関にさっきの金髪ヤンキーさんがいた。
さっきはよく見えなかったが、よく見ると姉さんと同じ学校の制服を着ている。
睨まれた件もあるし、気づかれないように通りすぎようとすると、彼女はこちらを振り返った。
「おい、お前……春香の弟?」
「あ、はい。そうです……」
やばい見つかったあ……やっぱり美人……とか思いながら質問に頷くと、彼女は立ち上がり、距離を詰めてきた。
「ん~?」
「あ、あの……」
ふわりと漂う甘い香りに、胸が高鳴るのを感じていると、ためつすがめつしていた彼女は、俺の頭を両手で掴んだ。
「え?え?」
「…………」
な、何だ、これ……もしかして……
「……うん。あんま似てないな」
「は?」
「悪かったな。それじゃ」
彼女はパッと両手を離し、靴を履いてから、振り返る事もなく出ていってしまった。
何が起こったかよくわからないまま、僕はリビングへと向かった。
二人との出会いはそんな感じで、特別な事はないと思ってた。
でもこれは、現在に繋がる確かな第一歩でやっばり特別だった。
「私を選べよ、直登」
「私を選んでください、お兄さん」
「…………」
まさか、こんな事になるなんて……。