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第3話 囚われの貴公子様 1

 わだちの数本残る道にまた新しい轍を刻みながら、一台のおんぼろ馬車が走っていた。


 辺りは一面の草地である。

 一本の赤土の道だけが、続く草原の緑を切り裂いてどこまでもまっすぐ伸びていた。

 ぼこぼこと整備も怠られたその道を、もはや引退を迎えて然るべき老いた馬がせっせと肢を前に出して荷台を引く。

 荷台には盛り上がるほどわら束が積み上げられて、車輪が石ころを踏んで大きく揺れるたび、細かいわらくずを落としていた。


 中天の太陽のもと、馬車は北へ北へと車輪を進める。

 御者は一人。大きなトンガリ帽子を目深にかぶった、灰色のぼろ着の男が手綱を握っていた。胸の辺りまで伸ばされた白いひげが涼しい風にそよぐ。

 しかし、馬車に乗っているのは彼だけではなかった。


「……で、あとどれくらいで着くの?」


 突然、荷台のわら束の一角が起き上がった。

 否、それはわら色をした人間の頭だった。

 起き上がったのは、年の頃が十七、十八歳ほどの少女。

 わらと見紛うほど黄色い髪をしている。

 髪は色もさることながら水気さえわらと同等に少なく、乾いてそこらじゅうが飛び跳ねまくっていた。

 格好はくすんだ赤のスカートに赤の肩掛け。しかし白いシャツを肘のところまで腕まくりしていて、暑いのか寒いのかよく分からない格好をしている。そこから伸びる腕は白く、骨と皮だけのように細かった。

 少女は昼寝でもしていたのか、揺れる荷台の上で眠たげに目をこすっている。

 彼女の問いに、御者は前を見たまま答えた。


「あと三時間ほどじゃ。日暮れまでには着く」


 その答えに、少女は顔をしかめた。そんなに遠いとは聞いていなかった。

 街を出てすでに四時間ほど、人っ子一人出くわさない田舎の道を馬車に揺られている。

 そこに、さらに三時間とは。


「うぅ、とんでもない仕事引き受けたわ……」


 わら色の髪の少女・ダイアスは、そう言ってまたわら束の中に寝っころがった。


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