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異世界クイズ王 ~妖精世界と七王の宴~  作者: MUMU
第四章  決闘 百人クイズ編
70/82

70 (百人早押しクイズ 1)






それは半球状の空間。高さならば40メーキあまり、広さならば250メーキほどの広大な空間である。


奥側には棚田のような階段状の床が設けられ、そこに丸テーブルと椅子が置かれ、貴族や富豪たちのための貴賓席となっている。もし一般人がその席を買おうとすれば、労働者の五年分の収入に匹敵するという高価な席。テーブルにはこれも極上のワインと軽食が並ぶ。


一般席は手前側、これはコンサートホールのように長い椅子の並んだ席となっている。しかしやはりチケットは相当に高価であり、よほど裕福な人間か、あるいは一生に一度の贅沢として見に来ている人間ばかりである。みな正装し、オペラグラスを構えている。

会場の装飾は古代の神殿ふう、全体を彫刻で覆った石柱や、珠を咥える獅子の像。天井付近には大理石の鷹が張り付いている。人の頭ほどの石の花がセットのあちこちを飾っている。



ふいに、照明が落ちる。



妖精による光は、数十名の専門のスタッフにより完璧に制御されている。屋上部分での妖精は機械的な仕掛けにより覆いをかけられ、一時的に光量を落とす。天蓋の中央で、筒状の空間に閉じ込められた妖精がおり、その底の部分が開き、一条の光がホールを真っ直ぐに降りる。


そこにいたのは、白いスーツの男性。豊かな銀髪を持ち、いかにも威厳の有りそうな司会者。

彼は、とつぜん満面の笑顔になり、全員に向かって愛想を振りまく。


「おまっち、どーーーさま、で、ございましたあ! うるわしい美男美女の皆様、そーでもない紳士淑女のお皆さま! 年に一度の妖精王祭儀ディノ・グラムニア! 楽しんでおられますでしょうか! それにしてもハイアードのみなさんは酒ばっか飲んでましたね。まあ美味しいですからねお酒、私はついさっき酒が抜けたところです。スタッフは全員グデングデンですが」


観客から笑いが起こる。この人物、これだけのイベントの司会を務めるだけあって、一気に場を和ますような天性の愛嬌やおかしみがある。落語でいうなら「フラがある」という存在、観客がたとえ鮫の群れだとしても笑っただろう。


「さてさて、まずは業務連絡、みなさんご存知かと思いますが、問題作成委員会っつの? あの「塔の百人」のトップが逮捕されちゃったとかでね、問題はクイズ会社が合同で提供することになったそうです。ビックリですね、でも迷惑なんですホント、おれが「塔の百人」のリーダーだよって言って姐ちゃん口説いてたのに、嘘だってバレちゃった」


この人物は、最も分かりやすい言い方ならば「大物司会者」という存在である。本業は俳優だったりラジオ番組の司会者だったりであるが、大規模なクイズ大会の司会を務めることもある。クイズの興行会社であるバンドンプロダクションの所属ではあるが、フリーに近い存在であり、富豪や王室の依頼を受け、極めて大きな大会のみ担当する。ちなみにではあるが、結婚式の司会に呼ぶ場合は4時間の拘束で一千万ディスケットは下らない。


「しかし混乱はありましたが、今年も無事に大会は行われるそうです。年に一度のお楽しみです、なんで年に一度かって? 年に二回もやったらみんなぶっ倒れるからですね。ラジオで聞いてるみなさんも応援よろしくお願いします。中継はハイアードラジオノクス社。これ聴取率90%だそうですよ。逆に残りの10%はなに聞いてるんでしょ、そっちのほうが面白いんじゃないでしょうか? さあ、では参りましょう! まずは王族の皆々様、各国の代表たるクイズの王たち、そのご紹介でございます!」


空から、七本の光が降り注ぐ。


色ガラスにて着色された七色のスポット光が柱のように降り注ぎ、その中に王族たちの姿が浮かび上がる。シュネスのアテム王は髪に片手をあてて物憂げに構え、ヤオガミのズシオウは手を丹田の前で清楚に揃え、フォゾスのコゥナは高い位置で腕を組んで観客を睨み付ける。王族のみの紹介のため副官を務める人物はいないが、パルパシアのみユギ王女、ユゼ王女の二人が柱の中にいる。


「さあ!! まずは胡蝶の国……あ、あれ?」


水色の光の中、そこには誰もいない。さらに言えば、中央にある黄金色の柱の中にもいない。そこにはジウ王子が立っている予定だったが。


司会者もさすがに焦らないわけもないが、そこは老練さと言うべきか、おどけたような顔芸をしつつ観客を振り向いて言う。


「おや、こりゃ遅刻ですかね? 困ったもんですね王様ってのも、私なんか年に100日ぐらいしか遅刻しませんよ、ん、なに?」


スタッフの男が小走りに駆けてきて、一枚の紙を手渡す。


「なんだい急に? これ読めばいいの? えーと、ずっとお慕いしておりました、じゃないねラブレターかと思ったけど違うか。ええと、これは……」


司会者の男から、数秒だけおどけたような空気が引き、文面を目で追う。そして再度、司会者としての仮面をかぶり直して腹筋から声を絞り出す。


「――おおっと。これは驚きですよお! 皆さん知っての通り、セレノウは今年、アイルフィル第一王女に代わり、第二王女のエイルマイル様が出場予定でした! そしてガナシア衛士長に代わり、市井のクイズ戦士であるユーヤ氏が参加とのことでしたが、この二人は公式の大会にまったく参加経験がありません! そうですね私もユーヤって聞いたことないですもん。誰か知ってます? え? 飼ってる猫がそんな名前? さては! いやそんなわけないですね」


などと軽口を交えつつも、その目にはどこか爛々とした光が宿り、ただごとではない発表が行われるという予感が漂う。


「さらにセレノウ側の発表によれば、ガナシア様が今年は不参加というのもファンの方に申し訳ないとのご意向。そうですねガナシア様って人気ありましたからね、おもに女性にですが。さあそこで! セレノウから新たに参加する二人のお披露目のため! そしてガナシア様のファンのため! クイズ大会の開始の前に! ガナシア様を交えたセレノウの三名と、ハイアードのジウ王子とで! 臨時の直接対決三本勝負・・・・を行いたいと思います!!」


観客に、燃え広がる火のように熱狂が広がる。

最初は状況が分からず、隣の人間と囁き交わすものもいた。

だが十秒後には、ほとんどの人間が立ち上がり、怒涛のような歓声が押し寄せてくる。


だが、もし。

もし、観客に人間離れしたほど目がよく、注意深い人間がいたなら。

背後の柱の中、清楚に佇む人物に。

仮面で顔を隠し、白装束で手足を隠したズシオウに、何か違和感を抱いたかも知れぬ。


だがそれは喧騒の中でやりすごされ、司会者のがなり声に押し流される。


「なんとあのジウ王子の戦いがさっそく見れちゃうわけです! お得ですねえ!! これ聴取率も急上昇でしょう、105%ぐらい行くんじゃないですか? しかもしかも! 勝負はこの機会にあたって、新たに考案されたという全く新しいルールで行います! これはなんと! 奥の席に座っておられます貴賓席の皆さま!! その協力によって行う「百人クイズ」というものだそうです! 簡単にルールを説明いたします!!」


スタッフが走り寄り、また別の紙を渡す、司会者は十数秒、その中身に目を走らせ、スタッフと小声で質問をかわす。そして再び声を張る。


「第一ラウンド!! 百人早押しクイズ!! 貴賓席の百人に紫晶精アメンジアのボタンを渡し! 決闘するお二人と合わせて102人で早押しクイズを行います! これはすごい! 見たことありませんねそんなの!」


「第二ラウンド!! 百人唯一解クイズ! 貴賓席の百人に黒板をお配りいたします! 答えが複数ある問題を出し、全員で解答、その中で、答えたのがたった一人だけの解答を当てるゲームです! いやあ何だかすごいですね、そんなこと可能なんでしょうか?」


「第三ラウンド!! 百人オーディエンスクイズ!! 百人の皆さまに四択クイズを出題、その解答のどれが一番多いかを当てるクイズです! 自分で言っといて何ですが、これ何でしょうね。よく分かりませんが、まあ見てのお楽しみということでしょう!」


会場には狂乱と同時に、発表された新しいクイズについて囁き合う声が上がる、何人かは高額なチケットを投げ出して会場を飛び出すものもいる。おそらく開催されるであろう、ブックメーカーの賭けに参加するつもりだろうか。


七本の光柱のうち、左端と中央のものが消える。

そして、会場の左右、壁面の中腹にせりだした二階席に斜めのスポットライトが当たる。


片方には銀に近い髪。冷然と佇む貴公子ジウ王子。


一方には黄金の髪。緩やかなロングドレスに身を包み、銀のティアラで黄金の髪を飾るエイルマイル。その劇の一場面のような光景に、観客が息を呑む。


「――いよいよだな」


エイルマイルの背後、ライトの当たっていない範囲に、ユーヤとガナシアがいる。ガナシアの呟きに、ユーヤは首だけでうなずく。


「ついにここまで漕ぎ着けた、ジウ王子との直接対決だ。三本勝負、まず早押しは私がやる。ユーヤ、お前は最後の種目だな」


この熟練の衛士も、やはり緊張の度合いは高いようだ、やや口数が多くなっている。

――勿論、ユーヤから見ればこの決闘が理想だったとはとても言えない。むしろユーヤはジウ王子と直接出会うことを避けて動いてきたはずだが、事ここに至って、ユーヤからそれを口にする事は出来ないだろう。


「……そうだな、百人唯一解クイズは僕には不可能、かろうじて、百人オーディエンスクイズだけが僕の戦える種目だ」

「任せておけ、私とエイルマイル様で必ず勝利する、お前までは回さぬ」

「ああ……」


(……頼む、ガナシア、必ず勝ってくれ)


それは、口に上らせればプレッシャーになることが分かりきっている言葉、だから心の中だけで呟く。


(この三本勝負、小細工の余地など無いに等しい。ジウ王子を勝負に誘うためには、可能な限りフラットな条件を提示する必要があった)


(もし、僕まで回れば)


(それは、確実なる敗北を意味する……)







「……結婚だって?」


ユーヤは、目を丸くしてつぶやく。


「そうです、セレノウでは婿であっても男子が第一王位継承権者となります。ユーヤ様が妖精の鏡を使い、ジウ王子の要求する人材を呼ぶと言えば、交渉の材料になるはず。それはおそらく私には不可能、それに、負ける事態を考えることは好みませんが、セレノウとしては王子を全員失うわけにはいきません。私とユーヤ様が結婚するのが最善なのです」

「……ま、待ってくれ、エイルマイル」


エイルマイルはユーヤの頬に手を当てていたが、ユーヤはそれから逃れるように、数歩後ずさる。


「ユーヤ様」


ユーヤが何かを言う前に、エイルマイルが二の矢を放つ。


「私は、「合格」なのでは?」

「う……」

「先刻の競馬クイズ、ユーヤ様が私の実力を測るような目を向けていたのは分かっています。そして私は全問正解した。不足はないはずです。あなたの補佐としても、后としても」

「わ、分かっているのか、結婚だなんて、たとえ書類の上でのこととは言え……」

「私は書類の上だけとは思っていません。ユーヤ様、この世界でもっとも気の効いた芸当とは、「そうするべき」である事と、「そうありたい」事を同一にするという事です。我々(・・)はけして目的のための手段として結婚するのではない、私たち(・・・)にとってそれが最も自然であり、願うべきことであるから(ちぎ)るのです。ユーヤ様の言い方で言えば、究極の技術とは、己の人生すら(・・・・・・)統御する(・・・・)事なのです。あらゆることを運命ではなく、己の意思で選択したことと捉える。そして幸福のままに死に逝く、それこそが十全なる人生だとは思いませんか?」

「それは」


ユーヤも知っている、クイズのために誰かを好きになった王のことを。己のクイズ道のために、喜んで人生を捧げた人間のことを。それは目的と手段の統合。ユーヤもまた同じ。



クイズ王とは、人生すら(・・・・)意のままにする(・・・・・・・)存在であると。



だが緊張の場面はそこまでだった、エイルマイルはふいに気配をゆるめ、柔らかく微笑みかける。


「しかし、ユーヤ様にもお心を決める時間は必要ですね。それは夕刻までに考えていただければ十分です。今はそれよりも優先させて検討すべきことがあります」

「検討?」

「そうです、ジウ王子の強さの秘密。それを打開する方法を考えねばなりません。ジウ王子とどんな方式で戦うにしろ、あの方が行っているという不正を見抜かなければ勝ち目はないのです」

「……し、しかし」


ユーヤは、額に汗を浮かべている。それは彼がこのときまで見せたこともないような気弱な表情であったが、同時にどこか深い悲しみを湛えたような顔でもあった。背後にいるガナシアは、この男でもそんな顔をすることがあるのかと、どこか安心するような気分を感じる。


「ろ、六年間も世界の誰も気づいていない不正だぞ、いくら何でも……」

「いま、広間ではメイドたちが藍映精インディジニアを用意しています。過去にジウ王子が出場した試合の全てです。ジウ王子の試合をもう一度見るのです。ユーヤ様ならきっと見つけられるはず。さあ広間に戻りましょう、私もお手伝いいたします」




「……これは驚いたのう」

「そうじゃのう、まさかこんな事態になっておるとは」

「なんだつまらんな、あやつはフォゾスに連れて帰る予定だったのに」

「ヤオガミにですよ」

「私もまだ諦めてないネ」

「というかユーヤ殿、けっこう尻に敷かれそうでござるな……」




「そこにおられるみなさんも! ご協力お願いしますね!!」


エイルマイルが声を張ると、曲がり角の向こうで大勢がどたばた逃げていく気配がする。四、五人ではなくかるく二十人はいそうな、野生馬の群れのような足音がした。


「……覗かれてたか」

「気にすることはありません。さあ、我々も参りましょう」


エイルマイルに手を引かれ、ユーヤも歩き出す。その手から伝わる体温を意識すると、自分がとてつもなく遠くに来たような感覚がある。

あるいは己の記憶、七沼遊也という人物の方が幻であり、自分は最初からこの世界の人間、セレノウのユーヤであったような気もしてくる。


それがすなわち、真の意味で生まれ変わるという事なのだと、

このときのユーヤに考えている余裕は無かったが。




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