6 (超難問一問一答クイズ)+ コラムその1
コラムがこれからたまに出てきますが、読まなくてもいいですホントに
あとで気になった国が出てきたら参考にできるように置いています
2019.08.07
フリーソフトのinkarnateにて挿絵用の地図を作成しました
青空に浮かぶような眺めの中で視線を伸ばせば、半球形の浮き島のようなものが三つ見える。それは大地を半球形にえぐり取ったような土の塊であり、上面に石盤を乗せて空飛ぶ舞台となっている。大きさは人が這いつくばって一杯というところか。
浮き島にはそれぞれに人が乗っている。中央は見間違うはずもない。銀無垢の髪をなびかせ、儀礼用の正装に身を包んだジウ王子。ユーヤから見て奥側には燕尾服を着た中年の男、ボールのようにまるまると太っている。そして手前側には和服に似た赤い裳裾の女性がいる。素材は麻のようで、赤地にやや濃いめの水色で大輪の花が染め抜かれている。それを濃藍の帯紐で締めている。しっかりした仕事ではあるが、ニ色染めなのでどこか無骨で飾り気がない。目つきの鋭さと、盆の窪でまとめて馬の尾のようになびかせた髪、髪は先端に行くに連れて炎のように赤くなっている。腰に提げた長刀に手を添えており、見た目は戦国時代の武家の娘という印象だ。この人物だけ靴を履いておらず、草鞋履きである。
「この試合はフォゾス白猿国のクイズ省大臣であるマルタート氏、ハイアードのジウ王子、群狼国ヤオガミの副官であり、ロニであるベニクギさまの三人で行われました」
「ロニというのは?」
「特定の主人を持たない傭兵をヤオガミではハグレと言います。その中で圧倒的な個人戦闘力を持ち、雇用主との主従関係が対等なものと見なされるほどの実力者を指してロニと呼ばれるのです。ヤオガミはまだ国内で地方軍閥が乱立していますが、ロニであるベニクギ様はどこの国にも属さず、この大会にも第一王子であるズシオウ様の個人的雇用において出場しています」
「ふむ、なるほど」
ユーヤは腰を意識して姿勢を立て直し、何もない空中で透明な椅子に座る。よく見ればかなり遠方に断崖絶壁が見え、そこに観客席のようなものも見える。他に気球も二基ほど浮き、さらに先ほどの決闘で見たような光の玉、すなわち妖精が周囲を飛び交っている。色によって性能が違うようだが、中には十数体が集団で動き、光の川のように見えるものもある。
「空間をまるごと再現してるかのようだな……圧巻としか言いようがない」
ユーヤはひとしきり感心すると、三つの浮き島の方に集中する。
「あの浮き島とかも妖精の力なんだな」
「はい、重力を支配するものや、天候を支配するもの、とても貴重で、呼び出すのに特殊なものが必要な妖精ばかりです。ここ数年はずっとハイアードで開催されていますので、大会はいつも大規模で豪華な仕掛けが考案されています」
『第一問!』
突然、アナウンスが轟く。司会者らしき人物のいる気球からのようだ。
『女性用バッグの蝶番などに使われる溝が二重になっているネジ、このネジ溝の計測にはある規格に準じた定規が用いられますが、その規格のことを考案者三人の名前をとって何という?』
「聞くからに難問だな、細かなネジの計測に関わる工業用語の問題か」
「はい、答えはハリーズ・トレディツァ・ベイス規格です。女性ならもしかして知っているかも、という問題ですが」
見れば、参加者たちはそれぞれA3サイズの黒板を持っている。その小さな黒板にはチョークと黒板消しが紐で繋がれており、つまりはユーヤの世界で言うフリップの代わりということか。フォゾスの太った大臣、それにジウ王子は見事にハリーズ・トレディツァ・ベイス規格と書き込んで正解している。ジウ王子は足を揃えて直立したままで、黒板に書き込んだり消したりする動作もごく小さなものだ。
「あの女性は無解答だな」
ロニのベニクギなる人物は動かない。胸より下の高さで腕を組み、はみ出した手で黒板を提げるように持っている。その和服のような、赤い裳裾が大きくはためきだす。赤地に青い花の染めものという柄なので、袖のはためきが蒼穹に映え、炎が揺らめくかに見える。
『さあ不正解者を風が襲います! レッツハリケーン!!』
司会者の軽快な声で、ベニクギの馬の尾のような赤髪が風になびく。裳裾の紅と髪の赤、そして背景の青、そのビビッドな印象が鮮烈な人物である。
「あの島だけ風が吹いてきたぞ」
「はい、天候を操る灰気精の力です。不正解になるごとに、秒速5メーキずつ風圧が強くなっていきます」
よく見れば、三つの浮き島は司会者のいる気球に対して正対するよう、放射状に配置されている。気球と浮き島の中間点には灰色の光球がいくつか飛んでいるから、あれが灰気精とやらだろうか。
「足の裏以外を浮き島につけるか、舞台から落ちたら敗北ですね」
「ちょっと待て、下まで50メートル……50メーキはあるぞ。海みたいだが、この高さで落ちたら海だろうと大怪我する可能性があるだろ」
「大丈夫です。下方にもたくさん妖精がいて、落下速度を緩めたり、水中に気泡を出して落水の衝撃を和らげています。もちろん救助用のボートも待機してますし」
下方に視線を下ろす。下は床のままのはずだが、頭がくらくらするような距離感だ。確かに岸壁に張り付くように何艘かのボートが見える。
「……ま、いいか、王族の出てるゲームで安全対策に抜かりがあるわけがない……。でも間違えるたびに秒速5メーキずつ増えるってのは厳しいな。ビューフォート風力階級によれば、15メーキ程度になると風に向かって歩けず、20メーキを超えれば吹き飛ばされかねないからな」
そう話している間に、司会者が次の問題を読み上げている。
『第二問! シュネスの民芸品である染め糸のスカートをハウキシと言います。使われる色の数によって価値が変わりますが、最も価値の高い七色編みのものを、ある生物の名前をとって俗に何という?』
「エイルマイル、問題の難易度を教えてくれ」
「難易度、ですか?」
「ああ、クイズが趣味の人間なら答えられるものは通常問題、かなりマニアックだと思えば難問、君がまったく手も足も出ないほどなら超難問だ、この試合では出題されないだろうけど、誰にでも分かるものは常識問題とでも言うかな」
「わかりました、今の履物についての問題は難問、ですね」
ジウ王子はきわめて小さい動作で答えを書き、脇を締めたままで黒板をくるりと気球に向ける。
『恋心の孔雀! 正解です! 不正解のヤオガミ代表には速度の追加を――』
そして問題はいくつか続く。
『砂時計には大きく分けて4つの種類があります、そのうち中央がくびれているガラス製のものを――』
「これは通常問題です」
『パッフィングダンスの世界で「雷のように」といえば――』
「この問題は……難問、ですね。演劇をよく見る方なら知っているかと……」
さらに問題は進む。
『第6問! 作家ブリューズメズ・ラックの処女作、『四度目の落日』の中の一節、「10歳の頃に我が由緒ある屋敷を襲った、あの思い出したくもない忌まわしい事件」とは何を指しているでしょうか』
「これは……」
エイルマイルは何かを心の内で数えるかのように、口の中で2・3の言葉を呟いてから言う。
「これは……超難問です。そもそも作家自体がかなりマイナーな人物ですし、『四度目の落日』というのは作者の回顧録などに名前は出てくるものの、世の中に100冊も流通していない絶版本なのです。現実にこの本を読んで答えを知っている、という人はほとんどいないでしょう。……ですが、作者は基本的に私小説しか書かない人ですので、問題文の「我が由緒ある屋敷を」とはつまり作者の生家のことでしょう。なので実際に作者の活躍した時代の背景や、住んでいた場所、それに別作品の『砂に這いたる貴人』などを考慮すれば答えられるはずですが、私ではとても……」
「……」
『ブルギオール大火災! 正解です!』
正解したのはただ一人、言わずもがなジウ王子である。何事でもないかのように、さっさと手元の黒板を消している。
「……さすがはジウ王子だ、この問題を易々と解答するとは」
ガナシアが息を呑む。ユーヤは気球の方向から見て右の島を見やる。
「……ん、ところであのベニクギとかいう人、ぜんぜん答えてないぞ」
速度はすでに秒速30メーキである。時速にすれば108キロ。高速道路を走る車の屋根に、2つの足で立っている状態だろうか。
その裳裾のような赤い和服が強烈にはためき、ポニーテールの赤髪が後方に流れて額が見えている。並の人間なら呼吸も覚束ないほどの強風にまっすぐに正対し、心もち腿を内股に締めて構えている。
すると次の瞬間。ベニクギは着物の右肩を左手で掴み、その腕を薙ぎ払うように動かす。帯が解けて後方に吹っ飛び、赤地の着物が大型の鳥のように飛んでいく。
その下には何もない。わずかに締め込みのような褌で下腹部を隠しているだけで、胸にはサラシも巻いていない。絹のような肌が余すところなく露出する。
バリ、と音がする。
周辺の景色に火花のようなものが走り、風の音や波の音といった環境音に混ざって、キイイというガラスを引っかくような音が混ざる。
『こ……これは驚きました! ヤオガミのベニクギ選手! 服が風を受けるのを防ぐためでしょうか! 一気に全て脱ぎ去った――――!』
「なんか空間にノイズが走ったぞ」
ユーヤが言う。ガナシアがこほんと咳払いをして、なるべく素っ気ない風で答える。
「……そ、それは……その。この大使館の男どもが、このシーンだけ何度も再生してるから……」
「昔のVHSテープじゃないんだから……」
しかし堂々たる脱ぎっぷりである。年の頃は17・8というところか、傭兵という割には筋肉質という印象はないが、全体的に肉付きが良く、出るところは出っ張り、締まるところは美しいラインで締まっている。褌のみでこうして映像にまで残されていると言うのに、その顔に赤みの一筋もない。
『第8問! 「死せる湖のような青だ」という酷評を苦に筆を折った画家と言えばオルバイムですが、その酷評された絵「青い髪留めの少女」のモデルとなった人物はどこの誰か分かっています。そのフルネームをお答え下さい!』
「これも超難問ですね……前に読んだオルバイムの伝記には書かれていませんでした。おそらくは最新の研究を受けた問題です」
「……だろうな。フェルメールの「真珠の耳飾りの少女」がどこの誰か、みたいな問題だ。その画家のマニアしか知らん」
『モルネ=アルガレット子爵嬢! またもジウ王子のみ正解です!』
「うっ……うわあああああああぁぁ!」
叫び声がする、何か大きな影が視界の端をよぎり、数秒遅れて下方から響く着水音。
「おおっと! ここでフォゾス代表のマルタート大臣、失格です! 正解数ではベニクギ様に勝っていたものの、踏ん張りの力では勝てなかったかー!?」
「あ、そっち見てなかったな……」
誰の視線も浴びぬまま落水していった大臣に、ひそかに申し訳ないような感情を抱く。
と、そこでベニクギが胸の前で組んでいた腕を下ろし、腰に手を当てて斜に構える格好になる。その周辺には強烈な向かい風が吹いているはずだが、目はしっかりを開けて前を見ている。そしてまた空間にノイズが走る。
横にいるジウ王子をついと見やり、わずかに笑うと、地面を蹴って身体を浮かす。その全身を空気という名の巨人が把握し、後方に連れ去ると同時にベニクギは後方にバク宙、頭を下にして腕を伸ばした姿勢となって海上へと向かう。そしてはるか下方で水音が上がる。
『あーーーっと! ここでベニクギ選手、ギブアップのようです! いさぎよく自ら落水していったーー! これで順位が確定……』
「よし、もういい、消してくれ」
言うと、ガナシアがテーブルの上にいる妖精を掴み、その三つめの目をそっと閉じる。
ふいに周囲の景色が戻る。暗幕でしっかりと閉ざされた大使館の食堂、急激な明暗差で目の奥にわずかな痛みがあり、周囲から壁が迫ってきたような感覚がある。ガナシアがまたメイドを呼び、遮光幕を片付けるよう言いつけている。
「……以上です。あのような、難問に対する圧倒的な強さがジウ王子の勝利を支えています」
「なるほどね……」
椅子に深く腰掛け、ユーヤはやや弛緩するかに見える。
その目に奇妙な憂いが宿っていた。ゆっくりと首を巡らせ、傍にいるエイルマイルを見やる。精霊のように美しい姫君は、突然まじまじと見つめられて、その意図がわからず少し戸惑う。
「あの……ユーヤ様?」
「ジウ王子について、一つだけ分かったことがある」
「分かったこと、ですか?」
「ああ……」
ごく短い時間、
息を呑むような深い沈黙があった。
ユーヤの目がわずかに伏せられ、そこに逡巡の気配がよぎる。
それは極小の時間ではあるが、極大の深みを持っていた。七沼遊也という人間が自らの人生の最初から最後までを総覧し、あらゆる経験を持って判断しようとするかのような、深い深い迷い。それを言うべきなのか、言うことでこの世界に何が起きるのか、その判断を下す権利が自分にあるのか、言語化に至らぬ無数の迷いが目の奥で明滅する。
そして判断を諦めるかのように頭を振り、この世界に召喚された者の義務として、彼は言った。
「彼は考えて答えていない」
「ジウ王子は不正をしている」
コラムその1 各国紹介
パルパシア王家、ユギ第一王女のコメント
「我らの住まう大陸の名はディンダミア、またはこの世界全体を指してディンダミア妖精世界と呼ばれておる。大陸の姿は踊る影であるとか、睦み合う獣だとか言われておるが、おおよそは菱形に収まる形状じゃ。そこに6つの国と、また東の海に群狼国ヤオガミが存在する。ここではそれらの国について少しコメントしてみようかのう」
パルパシア王家、ユゼ第二王女のコメント
「これを読むのはよほどヒマなやつじゃと思うが、まあ付き合ってくれると我らも嬉しいぞ」
セレノウ胡蝶国
人口:約265万人
首都:銀弓都セレノウリフ
国家元首:ティディルパイル・セレノウ・コアズセズ
ユギ第一王女のコメント
「世界で最も美しい国、と言えば聞こえは良いが、要は国土の美しさぐらいしか誇るもののない国じゃ。地形は大陸の北西部に生えた角のように見える半島で、国境線ではハイアードとのみ接しておる、そのためどうしてもハイアードの衛星国家のように見えてしまうのう。
おもな産業は、あえて言うなら海産物と、貝や真珠などを加工した装飾品、あとは伝統工芸品などじゃな。輸出は少ないが輸入も少なく、だいたいのものは国内で完結できるバランスの良い国でもある。複雑な海岸線を持ち、奇岩絶景の見える場所にはハイアードの貴族や大富豪などの別荘が並んでおるぞ。人々は善良で生真面目な気風、職人の質は高いと言われておるな。パルパシア王家にもセレノウ製の椅子がひとつあるが、一脚の椅子に46頭の獣が彫られておる、変態の域じゃと思う。
ちなみに海路を南に下れば我がパルパシアに、東へ向かえばかなり遠いがラウ=カンに至る。
かの大乱期よりハイアードに地形的に守られ、また海岸線が天然の要害として機能したため外敵の驚異が薄かったので、比較的のんびりとした気風の国が出来上がったのじゃろう。セレノウの王室も古式ゆかしい格式張った性格じゃな。現王のティディルパイルどのは足がお悪いとかで国際社会の表に出てくることは少なく、第一王女のアイルフィルどのが執政と外交を務めておるようじゃ。ま、大陸では我がパルパシアの双王女の次ぐらいにお美しいの。
クイズについてじゃが、セレノウの貴族や王族の教養の度合いはかなりのものじゃ。第一王女アイルフィル殿の知識の広さには敬服する場面も多かったぞ。平和な国なだけに全員ヒマなんじゃなきっと。
ここ数年低迷しておるようじゃが、ま、補佐があの猪武者では無理もないの」
ハイアード獅子王国
人口:約3250万人
首都:黒錨都ハイアードキール
国家元首:グラゾ=ハイアード=ガフ
ユゼ第二王女のコメント
「大陸で最大の人口と国力を持ち、名実ともに大陸の盟主と言える国じゃ。ハイアードキール周辺には大河ボーモーフがあり、その流れを運河として、また港として世界中に船を出しておる。ハイアードキールはもともと造船業の街で、そこから海運が発達。経済の中心となるにつれて統一歴60年ごろに遷都されたのじゃ。
ハイアードは妖精の力を工業に用いる術に長けており、近年、画期的な機械を次々と発明しておる。人々も活気があって物資も豊富じゃ。悔しいが非の打ち所がないの。
主な産業は製鉄や造船、機械部品などの工業、また鉱山資源など。まあ世界中にあらゆるものを輸出しておって、不得意なことはあまりない。
国家元首のグラゾどのはまだ壮年でありお元気じゃが、ジウ王子の優秀さゆえにクイズ大会はずっと任せきりのようじゃな。というより最近は存在感が王子に食われ気味に思うの。どんな顔だったかホントに思い出せん。
国土はそれなりに広く、名所も多いが、特に首都ハイアードキールの巨大さと活気は一見の価値があるな。祭儀の時期だけでなく、一年中なにかのクイズイベントが開かれておるぞ。妖精王祭儀では七日と七晩騒ぎ続けるわけじゃが、終わったあとは大体みんなクタクタになって道に寝ておるな」
ラウ=カン伏虎国
人口:約2170万人
首都:紅都ハイフウ
国家元首:ゼンオウ
ユギ第一王女のコメント
「大陸の文化圏を大きく2つに分けた場合、ラウ=カンとヤオガミ、それ以外という分類になる。ラウ=カンとヤオガミを東方圏、それ以外を西方圏と呼ぶこともあるが、あまり一般的ではないの。とにかく言語や服飾、思想などが根底から違うという具合じゃ。猫の国と犬の国みたいなものじゃな。いま完全に比喩を間違ったが気にするでない。
国力はハイアードに次いで高く、そのため何かにつけて張り合いたがる傾向がある。一例を上げると大陸で統一言語とされているものは元々ハイアードの言葉じゃが、どの言葉を共通語にするかと定める時にもかなり長い議論があったようじゃ。
首都は紅都ハイフウ、紅都というだけあって紅色が高貴な色とされ、衣服や建物も朱塗りでとても美しい。特に紅柄と呼ばれる女性用のドレスはとても色気があって洗練されておる。あれを見た青少年が前かがみになってる姿ほど面白いものはないと思う。
ラウ=カンの気風として記録を重視し、上流階級はもれなく筆まめじゃ。賢人の残した古典を国民みなが丸暗記するぐらい学んでおるな。現代においても優れた文学作品や学術書を数多く生み出しておる。高等教育機関、いわゆる大学の数の一位はハイアードじゃが、一校の規模ならハイフウにあるシュテン大学が最大じゃ。
国王のゼンオウどのは公称年齢104歳と言われておる。文学者であり学者でもあり、シュテン大学の最高学長でもあるのじゃ。いろいろと並外れた御仁じゃが、もっとも格別なのは顔の怖さじゃな。まあ子供の泣くこと」
群狼国ヤオガミ
人口:約340万~450万人
首都:フツクニ
国家元首:大将軍クマザネ
ユゼ第二王女のコメント
「ヤオガミはラウ=カンの東方、沖合400ダムミーキほどに存在する群島国家じゃ。大乱期には噂程度にしか存在が知られておらず、正式にラウ=カンと国交を持つようになったのは100年ほど前からじゃ。
今では多くの国と貿易を行っておるが、政府がひどく閉鎖的で、一般人の旅行は制限されておる。またフツクニという都に中央政府が置かれているものの、他にも力を持った地方豪族がいくつか存在し、それとの勢力争いが続いておるようじゃ。妖精王が降臨して以降、大陸内では大規模な戦争はほとんど行われておらぬが、ヤオガミではいまだにそれが続いておる。
ヤオガミから貿易以外の理由、旅行や職探しで大陸に来る人間は年に百人ほど。特にヤオガミには「ロニ」と呼ばれる傭兵がおり、その個人戦闘力は世界でも最強だと言われておる。彼らを個人的に雇用し、ボディガードとしておる富豪はけっこういるようじゃ。給料はドン引きするぐらい高い。15分いくらという計算らしいのう。コンパニオンか。
ヤオガミは妖精の加護を受けていない国だとされておるが、今では友好の一環としてクイズ大会にも参加しておる。またヤオガミにもクイズの文化が伝わり、特に早押しクイズは武道の一種とされ「雷問」と呼ばれる真剣勝負が行われておるらしい。雷槌のように問う、という意味らしいの。
しかしクイズ大会ではヤオガミの文化圏から出題されることはほぼないため、成績は振るわぬようじゃな。それにしても早押しボタンを親の仇のように強打するのはやめてほしいのう」
フォゾス白猿国
人口:700万~850万
首都:十字都フォゾスパル
国家元首:大族長トゥグート
ユギ第一王女のコメント
「フォゾス白猿国は少し変わった政治形態を持っておる。まず前提として、国土に広大な森林地帯があり、人間の把握しておる部分はその二割にも満たぬ。その他は巨大な獣や奇っ怪な植物が跋扈する人跡未踏の地じゃな。
そんな国土にあって、切り開かれた平地にあるフォゾスパルの都がいちおうの首都として政治機能を有し、外交なども行っておる。
しかし大森林地帯に存在する狩猟民族、彼らが政治的に大きな発言権を持っておるのじゃ。狩猟民族は50あまりの部族に分かれておるが、それを束ねる大族長トゥグートどのが実質的に国家元首と言える。都市部には議会がある議会主義的君主制国家じゃが、その議会は選挙で選ばれた議員が4割、族長たちの送り込んだ各部族の代表が6割という構成になっておる。部族長たちも完全に一枚岩ではないので都市部の要望が通ることも多いが、大体において国家の舵取りをしておるのは族長たちの側じゃ。
こう聞くと他国の人間などは「狩猟民族が都市の人間より上位に立つのか?」とけげんな顔をするが、この大陸において文明とは妖精を使いこなすことであり、蜂蜜や果実の生産を掌握し、より妖精と深く通じ合った狩猟民族こそが優れた文化を持つと言えるわけじゃな。こう説明しておるが我々もよく分かっておらぬ、狩猟民族は他国に出てこぬからのう、会ったことがないのじゃ。すっごいイキり方してくるそうじゃが……。
クイズにおいてじゃが、とうぜん狩猟民や族長たちは不得手としておるため、都市部の代表が出ておる。成績が悪いと部族長に呼び出されてお叱りを受けるらしいの。じゃあ己で出ればよいじゃろと思うのじゃが……」
シュネス赤蛇国
人口: 430万人
首都:シュネスハプト
国家元首:カイネル=アテム七世
ユゼ第二王女のコメント
「シュネスは大陸の南方ほぼ半分を占める、最大の領土を持つ国じゃ。しかし人間が住んでおる土地は少なく、大河の流域に散らばる街や、オアシスを中心とする交易都市などが散在するのみで、広さの割に人口は少ない。
大陸南方は大乱期の呪いによって人の住めない土地になったと言われておって、南端の海岸沿いもほとんど人は住んでおらぬどころか、人智の及ばぬ魔獣の住処だと聞くのう。
砂漠地帯は大陸の中央まで伸びており、西にはパルパシアとフォゾス、東にラウ=カン、北にハイアードという具合になっておる。よって昔から東西の交易は砂漠を渡る隊商か、大陸をぐるりと巡る貿易船で行われておったわけじゃ。
砂漠の他にいくつもの巨大な山嶺を抱え、国土はいくつかの地方に分割されておる。未踏峰も多く、ほとんど地図も存在しないような空白地帯がかなりを占めておるな。ちなみに大陸を南回りで航海するルートはあるが、陸地を目視してではなく、天測航行か、海上に錨泊しておる灯台船を利用して大きく回り込む形をとる。陸地の近くには暗礁が多いとか、陸地から何かが襲ってくるとか言われておるが、とにかく南回りのルートで岸に近づくことはきわめて危険なのじゃ。まるでファンタジー世界のようじゃな。
クイズについてじゃが、シュネスは都市の独立意識が強く、そのためか他の国と違うものを流行させようとする気風がある。クイズも単純な一問一答や四択ではなく、暗号解読、マッチ棒パズル、暗算合戦など、地域によってバラバラじゃな。ある町では住人全員が朝から晩までナゾナゾに明け暮れておるそうじゃ、バカと紙一重じゃと思う」
パルパシア双兎国
人口:1420万人
首都:双子都市ティアフル&ファニフル
国家元首:第一王女ユギ&第二王女ユゼ
ユギ第一王女のコメント
「愛すべき我らの国じゃな。まず最大の特徴として、我が国で生まれる赤子は6割が双子じゃ。これは他国から移り住んだ人々でもそうなるので、土地の加護のためと言えるじゃろうな。我が国は大陸西方に位置し、一年を通して温暖な気候と安定した雨量に恵まれており、世界最大の農業国として知られておる。この豊かな実りと暖かな空気があってこそ双子も生まれようというものじゃ。誰が何と言おうと。
パルパシアには国全体の道徳の根幹として「命を大事にする」というものがある。この思想は長い年月の間に枝分かれし、パルパシアの国民性となっておる。具体的には人生を楽しむことが快楽の追求、そして芸能の発達に繋がり、病の討滅は医学の発達に、食料の確保は農業の発達にといった具合じゃ。つまりパルパシアでは芸能、音楽、医学、薬学、農学などが発達しておるわけじゃな。
国家元首は我ら二人じゃ。パルパシアの王家は必ず双子が生まれ、いつの時代も協力して政治を行っておる。便宜上この我、ユギが第一王女となっておるが、実質的に差はない。首都である双子都市ティアフル&ファニフルにもまったく上下関係はなく、二人の女王がそれぞれの街を統治しておる。先王はまだ存命じゃが、我らの王家は世継が14になると、首都の統治を任せて自分たちは引退してしまうのじゃ。正式な王位継承はまだ先じゃが、我らはすでに大臣や貴族院のサポートを受けて政治を行っておるぞ。先王はと言うと、それもやはり双子じゃが、二人して母上たちとダブルデートの日々らしい。まったく。ほんとにまったく。
クイズについてはイントロクイズが盛んじゃ。また我らの国には多くの歓楽街があるが、そこではちょっとアダルトなクイズが楽しめるぞ。なに、具体的にどんなものか? それはタダでは教えられんのう」
その他
ユゼ第二王女のコメント
「妖精王祭儀でのクイズ大会に出場するのはこの七カ国じゃが、大陸にはそれ以外にも多数の人間が住んでおる。
お国柄で言えばヤオガミにて、フツクニの支配を拒んでおる地方豪族、フォゾスにおいて部族長の集まりに属さぬ独立部族、シュネスにて政府に属さぬ砂漠の民。ハイアードの鉱山に住まう山師たちなどじゃな。
また大陸の外洋には大小様々な島が見つかっておるが、そういった場所では妖精を呼び出すことができず、植民はあまり行われておらぬな。ヤオガミですら妖精が住み着くまでには何十年もかかったそうじゃ、どこかの無人島に、新たに妖精を定着させようなどと考える物好きはおらぬじゃろうな。海賊が根城としておるぐらいじゃろう。
七つの国に属しておらぬ人間は、全て合わせて数万人というところじゃろう」