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異世界クイズ王 ~妖精世界と七王の宴~  作者: MUMU
第四章  決闘 百人クイズ編
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更新が遅れて申し訳ありません

この章が最終章となります、もう少しだけお付き合いください

いつもPV、評価、感想等ありがとうございます


もう一つの連載の方もゆるゆると更新していきますので、よろしくお願いします

https://ncode.syosetu.com/n3609fg/


ふと廊下で足を止め、窓の外を眺める。

そこにあるのは静かな闇だった。ビルが目を閉じて夜に沈み、ぽつぽつと遠くの窓がいくつか灯りを残している。果てしなく遠くまで暗澹たる気配が満ち、眠っているのに体のどこかが起きてるような居心地の悪さがある。ビルが横になって眠らないのは、熟睡を恐れるためだろうか、とぼんやりと思う。


「七沼さん」


背後から追いすがるのはADの男。付き合いは長いほうだが、個人的に飲みに行ったことはない。だから彼がこの場面で声をかけてきたのは少し意外だった。いろいろと面倒な仕事に付き合わせてきたし、きっと自分を恨んでると思っていた。


「七沼さん、辞めるって本当ですか」

「ああ、もともと僕は社員でもないし、契約上は独立事業主なんだよ。タレントと同じだ。だから話はすぐについた」

「どうして……、こないだの企画だって好評だったじゃないですか。ひさびさの大規模な素人参加型の大会だったし、有名なクイズ王も何人も来てたし、ネットの評判だって」

「もう無理なんだ、僕はクイズの仕事をやっていく自信がない。もう僕の力だけでは不正を防げないし、王たちのクイズ以外の部分での技術を止められない」

「……」


そこでADの男は一度押し黙り、言葉を探すように窓の外を見てから言う。


「……こういっちゃ何ですけど、僕は七沼さんのこと好きでしたよ。そりゃまあ色々大変でしたし、思い出したくもないような上との折衝とか、参加者とのトラブルなんかもあったし、こだわりっぷりについていけない時もありましたけど、理念のようなものはまあ、理解できましたし、誰よりも頑張って番組に取り組んでたし。だから辞めるなんて」

「僕なんかに大した力はないよ。スタッフあっての番組だ」

「……七沼さん、別にいいじゃないですか、クイズをクイズ以外の部分で戦っても。それだってクイズ王たちの実力ですよ。インチキとまで言えるものじゃない、技術の延長のものだってあったでしょう、それだって競い合いの範囲です。野球で言うなら監督のサインを読むとか、投球の癖から球種を読むとかそういう事でしょう。勝負ごとなら当然あることですよ」

「……」


そうかも知れない、と七沼遊也は思う。

それは、事ここに至って、クイズに携わる人間としての職責を降ろした瞬間に初めて認められたことかも知れない。

あるいは己のやってきたことは独善であり、クイズ王はこうあるべきだという理想は、現実とかけ離れた夢物語に過ぎないのかも知れない。

だが、少年の日に抱いた理想。

純粋なる知恵の勝負、綺羅星の如きクイズ王たち。その憧れを、理想を捨てるには、狂っていた時間が長すぎた。


七沼遊也という人物は何も答えず、無限の時間が流れよと願うかのように、深く長く沈黙した――。







朝に目が覚めるという感覚、誰もが当たり前のように経験している感覚が、どうやら普通の人々とは違うと気づいたのはだいぶ前のことだ。

穏やかで柔らかな意識の上昇、ゆっくりと滲み出すような覚醒。おぼろげに思い出すこの世界。そのようなものが通常ならば、自分のそれは坂からの転落。命からがらどこかに逃げ込んだような覚醒。思い出して・・・・・しまった・・・・この世界。朝は常にそのように訪れる。


目を覚ますとベッドの上だった。色々なことが急激に思い出され、背中を這い登る義務感のようなもので体が覚醒に至る。厚手のカーテンが掛かっているために室内は薄暗い。


目の前に誰かがいる。

ベッドが自分以外の重量を受けて沈んでおり、ユーヤ自身もわずかにそちらに傾斜するような感覚。薄暗くて肌の色や髪の色が分からないが、どうやら女性のように思える。


これは気をつけねばならない、とユーヤは冷静に思う。経緯は分からないが、失礼があってはいけない。おそらく双王あたりの悪戯だろうが、大げさに驚いてやるのがワビサビというものだろう。


あるいはズシオウかコゥナだろうか。かなり遅くまで騒いでいたようだし、寝ぼけて部屋を間違えた可能性もなくはない。あるいは寝ぼけたメイドの誰かか。メイドも王族たちの酒宴に付き合わされていたし、まだ子供のような印象の子もいたから、ありえぬ話ではない。まさかガナシアやベニクギということはなかろう。


そっとベッドを降りようとして、自分が壁側にいることに気づく。降りるには相手の体を乗り越えねばならない。

どうしたものかと悩んでいると、眠っている女性がもぞりと動く。のっそりと上半身を起こすと、その髪はベッドに触れるほど長い。エイルマイルかと思ったが違う。あの宝石のような金髪ならば、この暗さでも分かるはずだ。女性は膝立ちの姿勢になって、だらりと両手を下ろしている、


朝の日差しを受けて、厚手のカーテンから無数の針のような光が漏れている。そのために体のシルエットが見えるが、豊満な胸とくびれた腰。見事なプロポーションであることが分かる。どうやら何も身に着けていないらしい。その体は猫科の獣のように筋肉の張りと弛緩が同居し、豊満な胸がわずかに重力に負けている。

シルエットだけの女性は首だけで振り向き、ユーヤを見たように思える。その手がそっとユーヤの下腹部に伸びる。


「……んー」


猫が喉を鳴らすような声。片手をもぞもぞと動かしながら、ややあって言う。


「……ギリギリ合格」


女性はすとんとベッドを降り、床に投げ捨ててあった衣服を適当に身に着けて廊下へ出ていく。長い髪をくるくると後頭部で小さくまとめていく。廊下に出ると、途端にメイドの叫び声が上がる。侵入者だとか、なぜこんなところにとか、そんな叫びである。


「朝から失礼なこと言われた気がする……」


部屋を出ていく一瞬に見えた衣服の色。高貴な女性が着るという紅柄ファンガンの紅色だけが目に残っていた。







睡蝶スイジエさん! なぜあなたがこんなところにいるんです!」

「心外ネ、鍵が開いてたから入っていいと思ったネ、二階の端のほうが」

「それは忍び込んだと言うんです! それになぜユーヤ様のベッドにいたんです!」

「私も眠かったネ、朝までゼンオウさまの話し相手になって慰めてたから疲れてたし、お酒も少し入ってたし」

「メイドから聞きましたが裸だったそうじゃないですか!」

「うんそれは完全に悪ふざけネ」

「堂々と言わないでください!!」


祭りのせいなのか何なのか、大使館は朝から騒々しい。

さほど客間の多いわけではないが、このときは全ての部屋が埋まっていた。ヤオガミ、パルパシア、フォゾスの三国に部屋を提供しているためである。当然、従業員たちもフル稼働となっている。

通常、メイドの勤務は二交代制だが、このときは休暇となっているメイドも駆り出して、その多くはラウ=カンから受け取った問題を検討していた。大使館という性格上、勤務する職員は全てセレノウの国民であるため、極秘裏に行うべき問題の検討を行うには都合がよかったようだ。問題は解答付きであるため、分析の内容はおもに早押しクイズにおける確定ポイントの模索になる。


例を挙げるならば。


問、アマゾン川で年に一度見られる川の逆流現象のことを、トゥピ語で「大騒音」を意味するオノマトペに由来して何という?

解、ポロロッカ


ある王はこの問題について、「アマゾン川」までならば多くの答えが存在するが、「アマゾン川で」となればポロロッカしかありえない。と話している。早押し問題は助詞の使い方や前振りによって確定ポイントが変わるため、事前に検討できれば大幅に有利となる。さらに言うなら、確定ポイントよりも前で押してしまうという不自然さを防ぐ、という意味合いも大きい。


エイルマイルも今の今まで問題の分析に取り組んでいたが、徹夜明けのテンションも相まって怒り心頭である。ちなみに言うならばユーヤも検討の手伝いを申し出たが、ユーヤ以外の全員一致で睡眠を取らされた格好であった。

それを見つつ、パルパシアの双王が囁き交わす。


「まったく、ユーヤの寝床に入るとは大胆なやつじゃのう」

「どうやら品定めをしたようじゃぞ」

「ほほう、つまり虞人株ぐじんかぶじゃな。ユーヤに目をつけおったか」


睡蝶スイジエさん、一体どのようなご用件だったのでしょうか?」


話が進まないと悟ったのか、ズシオウがそう言う。睡蝶は弛緩した眠たげな顔のまま、ぽつぽつと思い出しながら語るようにゆっくりと言う。


「私、今朝方までずっとゼンオウさまを慰めてたネ。かなり落ち込んでたネ、とうとう物忘れが来るようになったとか、足がふらつくようになったとか。勝負の時、そちらのやったことは黙っといたネ」

「……それは」


エイルマイルがぐっと息を呑むのを見て、睡蝶はひらひらと手を振る。


「いや責めてるわけじゃないネ。あれについて論じるつもりもないし、ただ報せに来ただけネ。ラウ=カンは今年の大会、ゼンオウさまに代わって文官の代表が出るネ。ゼンオウさまはしばらく休養するとかで、クイズ大会を観戦したらすぐに国元に帰るネ」

「文官から……」

「そう、劉信リウシン統括書記官、それなりに国際的な知名度もあるし、優秀な人ネ。まあ問題をセレノウに渡したこともあるし、ラウ=カンの優勝はないと思うから人選なんてどうでもいいネ。それと念の為に言っておくけれど、ラウ=カンが問題の複製をもう一つ作ってるとか、中身を暗記しているといったことはないネ」


睡蝶はその短い裾丈の服で大胆に足を組み、ソファの上で背を反らしながら言う。彼女は全体的に肉付きがよく、肢体のはしばしに柔軟性が感じられる。そうしてソファの丸みに背筋を這わせていると、猫の動きを連想する。


「なのでラウ=カンとしてはハイアードの優勝の阻止に協力してもいいネ。セレノウが優勝した場合は何を要求するネ?」

「……ハイアードに、これまで奪い取った鏡の返却を」


エイルマイルのその答えに、睡蝶は頭を大きくもたげ、気だるそうに頬杖をついて言う。


「……素直に聞くとも思えないけど、分かったネ。ラウ=カンの鏡が戻ってくる可能性があるなら何でもするネ」

「ユーヤさん、そういえば昨日のハイアードとの会合はどうなったのですか?」


ズシオウが思い出したようにそう言い、周囲の人間の視線がユーヤと双王に集まる。だがそこでパルパシアの双王が立ち上がり、つかつかとユーヤの左右に陣取る。


「ふむ、会合か、色々あったから長い話になるのう」

「まずは唇を湿らせねばならぬな。朝食と行こうかのう」

「ああ、それならお土産の饅魚マンユイを持ってきてるネ」


おお、と場の全員が沸き立つ。


「おお、饅魚マンユイか、コゥナ様も本格的なものは久々に食べるな!」

「楽しみです、ヤオガミでは朝は米ばかりなので食べる機会がなくて」

「なんだなんだ? パンか、パンなんだな」


ユーヤがこころもち腰を浮かせて言う。


「たっぷりあるから全員で食べるネ。城勤めの料理人が作ったやつだから絶品ネ」



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