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異世界クイズ王 ~妖精世界と七王の宴~  作者: MUMU
第三章  虎闘 一問多答クイズ編
41/82

41(ウミガメのスープ)




問、立方体を一度だけ切断するとき、断面は最大で何角形になる?


解、六角形







「二人だけの外出など危険です!」


最初にそう叫んだのはフォゾスのクイズ大臣、マルタートであったが。


「ユーヤ様はこの街に不慣れなはずです! 危険です!」


と、エイルマイルがほぼ同時に発言したので、マルタートの声は特に拡散せぬまま消える。


「心配ないよ、ほんの近くを見てくるだけさ、まだ一般の人に僕らの顔は知れ渡ってないと思うし、せっかく祭りの時期なんだ、二人だけで見物してくるぐらい良いだろう?」

「どうしてもと言うなら私もついて行きます!」


と、エイルマイルはぐいと顔を近づけて主張する。

その様子にユーヤは少し面食らったように見えた。もっときっぱりと反対されると思っていたのだ。


「それなら私も行きます」


と、手を上げるのはズシオウである。びしりと手を真上に伸ばす。


「お、お待ち下さい、ならばこのガナシアも護衛に」

「若様が行かれるなら。もちろん拙者も同行するでござる」

「なんだか面白そうじゃな。我らも行こうかのう」


「ちょっと待った」


ユーヤが手を挙げる。


「遠足じゃないんだ、そんな大人数は嫌だぞ。それに王族が祭りの中をぞろぞろと歩けるわけないだろ。服を変えてお忍びの姿になるとしても、せいぜいあと一人だ」

「一人と言われても……」


全員が顔を見合わせる中で、ユーヤは首のあたりを指で掻いてから言う。


「よし、クイズ戦士らしくクイズで決めよう。たまには僕が出題しようか、最初に正解した人間が同行だ」


ユーヤが言い、びしりと人差し指を立てて出題する、そういう動作は、彼のかつての仕事の名残であるかのように、どこか演出めいていた。


「ある村にメアリーという女と、ロバートという男がいた、二人はともに10歳だった。彼らはとても仲が良く、いつも一緒に遊んでいた。村に他に子供はいなかった。

ある日、メアリーがロバートにこう言った。「大好きだよ、ずっと一緒にいようね」と。ロバートのほうも「僕も大好きだよ」と言った。するとメアリーは青くなってその場から逃げ出してしまった。さてどうして?」


出題が全員に行き渡ると。

一斉に大量の疑問符が浮かぶ。


「それは、その……。実は一方通行の愛だった、のような」


ガナシアがたどたどしく言う。ユーヤが首を振る。


「そういう事じゃない、こういうのをウミガメのスープとか水平思考問題とか言うんだが、本来はイエス・ノーで答えられる質問で答えを絞り込んでいく、という遊びだ。今回は一問一答として、いちおうは僕の用意している想定解を正解とする。だから必ずしも唯一解じゃない。二人の間に複雑な心理があったという考えも成立しうるが、答えはそういう心の機微の問題じゃない。メアリーには逃げ出すだけの理由があったんだ」

「ふむ、分かったぞ、メアリーは他に本命の男がいて、ロバートは腰掛けだったのじゃ」


次はユギ王女が解答する。


「そういう裏事情の問題じゃないって。村に他に子供はいないと言ってるしな」

「うーむ」


それを受けて、今度はユゼ第二王女。


「本命は村長だった」

「妙な方向に行くのはやめてくれ」


「実は女が好きだった」

「そうじゃなくて」

「メアリーは自分しか愛せない女だった」

「君らばっかり答えるんじゃない!」


「はい、分かりました」


ズシオウが手を挙げる。


「お、ズシオウか」

「はい、私も国元では月彦によく言ってましたから、「大好きだよ」って」

「月彦、でござるか? それは確か……」


ベニクギがまさか、という顔をする横で、ズシオウは溌溂と答えた。






「ロバートさんは犬だったからです」

「正解」







「おもしろい問題でしたね」

「パルパシアの双王はぶーすか言っていたがな」


コゥナとズシオウを連れて通りを行く。大道芸人や路上演奏者はもはや数え切れぬほどだが、道路の広さに合わせてその規模も大きくなるかに思える。馬車が数台並走できるほどの通りでは、ちょっとした楽団規模のものや、竜舞いのように複数人で操る人形芸も見られる。

やや視界が開けてきた。そこは市民のために設けられた公園であり、祭りの時期には様々なイベントが行われる場所だという。


「犬が喋ったから逃げたなどと、問題としてアリなのか」

「もちろん多少アンフェアではあるよ。でも幽霊が出たとか、予知夢を見たとか、その程度の怪奇が解答になることはありうるさ、お遊びの範囲ならね」

「まあそれはいい、しかしなぜ急にデートなどと……」

「迷惑だったか? ご免な、急に連れ出して」

「いや……」


コゥナは言葉を一度整理して、ユーヤの背中にそっとこぼす。


「……何か気を使わせてしまったようだな。コゥナ様の方こそ済まなかった」

「……」


三人は公園を進む。広場に簡易的な柵が敷かれ、興業のスペースが区切られているようだ。


「あちらでは演劇が……、向こうでは絵本の朗読会が行われてるようですね」

「真っ昼間からこんなに人が……ハイアードの国民はヒマなのか」


コゥナは少し憮然とした顔をしながらも、通路に沿ってずらりと並ぶ屋台に興味を引かれていた。

大通りなどに並ぶ屋台は飲食物が多かったが、公園ではもっと多種多様である。端から列挙していくならば似顔絵、マッサージ、占い、くじ引き、髪結い、輪投げ、そして多種多様なクイズの屋台もある。ヤオガミの若君は、黒の色眼鏡の奥で目を輝かす。格式張った国屋敷とは真逆の眺めであろうか。


ひときわ大きなテントはバーのようだ。長椅子に中年男性らが集まり、カクテルを片手に早くも酔いどれ顔である。七日と七晩騒ぎ続けるという表現はけっして誇張ではない。


「あれは、工芸品か……」


コゥナが呟くのを見て、ユーヤは自然とそちらに足を向ける。

それはハイアードでも有数の時計工房が出している屋台だという。芝生に置かれた白テーブルの上に、見事な機械式オルゴールやねじ巻き人形、振り子の置物などが並んでいる。


「さあ、我がハイフラックス工房の腕っこきが作った逸品だよ、どれでも一つ一万ディスケット、タダみたいなもんだよ」

「こ、これがハイアードの機械技術というものか。凄い緻密さだな……。この編み込むような仕掛け。まるで虫の腹の中のような……」


ユーヤもオルゴールを手に取り、その隙間から内部を覗く。そこには密林のような大都市のようなメカニズムが広がっていた。

この時代、もっとも優れた職人を擁するのはセレノウと言われているが、それは歴史ある国への謙遜か、あるいは世界中にあまりセレノウの品が出回らぬために、伝説のような扱いになっているためだろうか。現実的には工業規模のはるかに大きいハイアードなれば、職人の育成にも余念はなく、その技術水準も相当なものと察せられる。

ユーヤは感心した様子で呟く。


全部手作りフルスクラッチか、それなら確かに一万は安い……。コゥナ、どれか欲しいならプレゼントしようか?」


ユーヤが言う、それは年齢差のためもあってか、多少淡白な印象は否めない物言いであった。

突っ込む人間がいないために放置されてるが、その言い方ではまるで保護者である。ユーヤの枯れ木のような朴念仁ぶりが出た一場面であろうか。


「も、物が欲しいわけではない……」


コゥナはついと目を背けて立ち上がり、開けた方へと歩き去っていく。

ユーヤも無言で後を追う。


「向こうは何か賑わってるな、人垣ができ、て……」


そこで、ユーヤが硬直する。

信じられないものを見たという驚きで目が丸くなり、前のコゥナを追い抜いて、小走りでその人だかりに向かう。


「? ユーヤ?」

「……こ、これは」


ユーヤの足が震えている。後ろから追いついてきたズシオウも、その様子に小首をかしげる。


「ユーヤさん、どうしたのですか?」

「信じられない……この感動は絶滅したロック鳥か、それとも戦国の世に失われた平蜘蛛を見たような気分だ。もう見ることはないと思ってたのに、こんなところで出会えるなんて」


それは言うなれば小規模のクイズイベントである。腰の高さほどの簡易的な柵を四角形に並べてイベントスペースを仕切り、その一方には百人ほどの観客。そしてスペースの中央には四つの解答席がある。

しかし通常のクイズと違うのは、解答台が二人がけであること。校長が訓示でも始めそうな大きさだ。

そしてイベントスペース奥側に大きな階段が組まれ、四つの解答席は斜めに並んでいた。一番下の席と比べると、一番上の席とは2メーキほどの差だろうか。

それはユーヤにとっては記憶の泉を溢れさせる眺めだった。懐かしき少年時代の思い出が明滅し、ノスタルジアに胸が震える。


「ユーヤさん、階段クイズが珍しいのですか?」

「階段クイズか……確認したいんだが、どういうルールなんだ?」

「はい、これは主に見世物として行われるクイズですね。問題は世界各国の文化や習慣から出題されます。司会者が上の解答席から順番に答えを聞いていって、最終的に答えた人が一番上に行けます。基本的には常に答えた者勝ちのルールで、最終問題での一発逆転もありえますが、上から順に答えられるというので、いちおうは上の席ほど有利と言えますね」

「見世物……すごいな、こんな大々的なセットが大道芸とかと同列なのか」

「ユーヤよ、そんなに興味があるなら見物していくか?」


コゥナが言う。珍しい見世物ではあるが、コゥナも存在は知っている。


「ああ、ぜひ見ていきたい」

「さあさあ、出場希望者はおられますか、あと一組ですよ」


柵の中心で、司会者らしき男が言う。それは白いスーツを着た壮年の男である。山高帽とバネ状のカイゼル髭、肘にステッキを引っ掛けており、靴の尖端は足の甲に付くほど反り返っていた。引き締まった筋肉質な体だが、飛び跳ねるように軽妙に動き、観客たちの前を左右に動いて声をかけている。


「はい、ここです! 三人で出場します!」


人垣の後ろから、ズシオウがぴょんと飛び上がって手を伸ばす。人垣からかろうじて頭が出るのはユーヤだけで、二人の姫君は頭一つぶんほど小さい。


「おお、これはこれは可愛いらしいお嬢さん、いや、お坊ちゃんかな? そちらのお二人もご一緒ですね。おお、こちらもまた麗しいお嬢さんだ、健康的な肌に真っ赤なスカートがよくお似合いです」

「こ、コゥナ様に可愛いとか言うな」

「参加していいのか? よし、やるか」


ユーヤは興奮気味にそう言う。

人垣が左右に割れ、ユーヤが二人の背を押しながら進む。


「ユーヤさん、そのカゴの中におひねりを」


見れば、観客たちの並ぶ前には黄色のロープが引かれ、その前に四角いカゴがいくつか置かれている。中には様々なコインがぎっしりである。

ユーヤも銅貨を何枚か投げる。

コゥナが、じろりとズシオウの方を見て言う。


「……おまえ、妙に慣れていないか?」

「ふふ、私は昨年の妖精王祭儀ディノ・グラムニアも見ていますから。国主代理たるもの、お忍びで祭りを楽しむのも嗜みというものです。あ、ユーヤさん、一番上の席が空いてるみたいですよ」

「おお、一番上か、いやあ緊張するなあ」


ユーヤは珍しく頬を紅潮させている。


「さあ参加者も揃いました!」


山高帽の司会者が、ぴょんと飛び上がって空中で足を鳴らす。かなり年配なわりに軽快な動きである。手足が長く胴が細いが、鍛え込んでいる気配がある。こういう体型は軽業師の特徴だ、とユーヤは思う。イントロクイズのときの司会者とは別ベクトルでのベテランのようだ。


妖精王祭儀ディノ・グラムニアをお楽しみの皆様、我がナルドー・ザールド興業団のクイズイベントによくぞお越しいただきました。わたくし、司会進行を務めます、この興行団の座長ナルドーと申します。ここで行われますのは我が興業団が世界中から集めました難問奇問、この世の神秘、見果てぬ夢の数々、あなた方を世界の絶景にお連れいたします。ぜひとも参加者の方々には惜しみない拍手を! そして目の前の籠にも惜しみない財布を!」


観客から軽い笑いが起きる。ナルドーと名乗った司会者はくるくると回りながらステッキを放り投げ、肘でバウンドさせてから受け取る、ジャグリングまで習得しているようだ。足はピンと伸びるか、あるいは決まった角度にきっちり曲げる構えを維持してるため、動きにとても洗練された印象がある。


「さあ早速参りましょう! なお前説の者が言っていました通り、出題中に動かれますと危険ですのでご注意ください!! では本日はこちらから!!」


司会者の男が右手でカイゼル髭を引っ張りつつ、左手で胸元からそれを取り出す。

それは銀色の立方体に座る、藍色の妖精。その額にある目がカッと見開かれ。



風景が、一変する。



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