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異世界クイズ王 ~妖精世界と七王の宴~  作者: MUMU
第二章  暗闘 イントロクイズ編
33/82

33 (イントロクイズ 2)+ コラムその5



二つの、まったく同じ解答が並ぶ。


「正解! バズファッツの3rdシングル、「祈祷のメモワール」です! お見事!」


「――正解した」


小さく呟くのはガナシアである。


「ええ、さすがユーヤ様です。あの短時間で……」


エイルマイルはほっと胸を撫で下ろす。脇にいたコゥナは、なぜ二人が安堵しているのか分からずに首を傾げる。先程コゥナが馬車の外で夜風に当たっていた時、ユーヤたちはずっと曲を復習していたようだが、まさかこんな超有名曲を知らなかったはずもないだろう、と言いたげである。


(――しかし)


ガナシアの心中からは、疑問と不安の影が去ってくれない。


(この書き問題、おそらくパルパシアの双王は間違いなく全問正解、ユーヤが満点を取れたとしても差がつかないことになる。この後の早押しクイズで勝てる見込みがあるのか? 一体どうやって……)


問題は進む。流れる音楽はワンフレーズから一小節、そして最初の数音へとだんだん短くなっていく。

そして、あっさりと10問目。たった一音だけの問題にも同じ解答が並ぶ。


白路紅天はくろこうてん楽団の「六蓮リューレン」! 正解です! まことに圧巻と言わざるを得ません! 両者ともここまで10問連続正解です!! パルパシアの双王様は流石の一語ですが、セレノウのユーヤ様もお見事です!」

「……」


ユーヤはそれには答えない。目を伏せて、口の中で何かを呟いている。


「ふむ、なかなかやりおるのう、とはいえこの程度はできて当然。要はこれからの早押しじゃ」

「――」

「ん? 何をブツブツ言っておる?」


ユーヤは、眼球をまったく動かさぬまま、どこか切羽詰ったような様子で語る。その声は呟きに似て小さく、誰かに向けて言うのではないような粗雑さが、そもそも誰かに向けての発言なのかも曖昧な不安定さがある。


「すまなかったと言っているんだ」

「ん?」

「本当に悪いと思っている。ここまでするつもりはなかった。何か軽いクイズで反対票だけ勝ち取る道もあったんだ。だがそれには君たちの方から決闘を仕掛けさせる必要がある。それを仕組むだけの時間はなかった。それに僕だってやはり怒りを感じた。あのパーティーに来ていた無関係の客を巻き込むなんて。だから僕は怒りに便乗して、意図的に感情を昂らせることで集中力を高めたんだ。それに君たちの不確定な動きは看過できなかった。分からないのか、完全に出遅れている状態でハイアードに喧嘩を仕掛けるような真似の危険性を。あんな雑な計画で、相手の手の内で暴れる無為無策ぶりを放置できるわけないじゃないか。ジウ王子も一部始終を見ていたというのに」


ユーヤの呟きはどんどん早くなり、ほとんど一単語たりとも聞き取れなくなっていた。何かの言い訳を並べるような、痛みに耐えかねる苦鳴のような、あるいは銃殺刑に処される者が、目隠しをされて十字架に縛り付けられたまま神への祈りを呟き続ける様子のような。


「……おぬし本当に何を言っておるのじゃ? 勝負はまだ中盤じゃぞ」


さしもの双王も、そのユーヤの様子に不気味さを覚える。


「違う、勝負はもう終わっている・・・・・・


怒涛のようなつぶやきの中、その言葉だけがカクテルパーティー効果のように像を結ぶ。

実のところ、それはユーヤにとっても無意識に近い発言であった。一時間に渡って脳を酷使し続けたこと、想像し得ぬ様々な感情が胸中に渦巻いていることで、ユーヤも己の言動を制御しかねていた。外部の刺激に反応するだけの機械になったかのように。


「何――」

「君たちが勝つには、僕が書き問題でいくつもミスを犯すしかなかった。早押しでは君たちは絶対に勝てない。なぜならこの世界はクイズに対して甘い。番組荒しと戦い続けてきたスタッフもいない。生まれてから死ぬまでクイズのことだけを考え続けるような病的なマニアもいない。そしてイントロクイズの全てを数え尽くさんとカウントアップする暴君たちもいないんだ。君がどれほどの深度にいるのか知らないが、第四深度ということはありえない。なぜならその深度に誰かが達した時に、純粋なイントロクイズは終わるからだ。だから僕がその深度まで極めれば君は勝てない、簡単な道理なんだ」


ユーヤの言葉は非常に早口で、意味不明な単語も多かったが、それでも自分が勝つという宣言なことぐらいは分かる。


パルパシアのユギ王女に、その迂遠な勝利宣言がじわじわと浸透し、ゆっくりと、静電気が蓄積されるかのように皮膚が泡立つのを感じる。


「お主、調子に乗るでないぞ――。我らはこれまで全ての試合において無敗。まして早押しにおいてはかのハイアードの王子すら凌駕する。誰であろうと、イントロクイズでだけは絶対に負けぬのだ」

「そうか、本当に申し訳ない。君たちの唯一の拠り所を奪ってしまうことになって」


「――っっ! ええい司会者! とっとと次の問題をかけぬか!!」

「は、はい、では次から早押しイントロクイズとなります、第11問――」




意識が沈む。


周囲から音が遠ざかる。


針の落ちる音すらけたたましく響くであろう、瞬間的な無音。







―――♪ぴんぽん。


蛇を打ち上げるのはユーヤ。


「ぬおっ――」

「はい、セレノウのユーヤ選手、お答えをどうぞ」

「パーシーバンシーズ、「葬列」」


沈黙。


「正解です!! お見事!」

「ぐ、なんという早業――」


それは、憤りを覚えていたユギ王女も、思わず感嘆に近い感情を漏らすほどの早押し。


(この男――ほとんど聞こえるか聞こえぬかの刹那で)

(確かにかなりやりおる……。だが、それでもなお我らの、パルパシアの不敗は揺るがぬぞ)


ユーヤは呟く。


「ここで止まってくれ」


誰にも聞こえない声で、祈りのように。


「この――第二深度までで」









コラムその5 クイズにまつわる仕事あれこれ




大使館付メイド長 ドレーシャのコメント

「この大陸におきましては、クイズイベントの問題作成、司会進行などを請け負う業者が存在いたします! ここではそのようなクイズにまつわる御商売について解説いたしますよ!!」



上級メイド マロルのコメント

「これを読むのはすげぇヒマな人だと思うでぇすが、精一杯お手伝いいたしますでぇす」




・問題作成について


ドレーシャ「クイズにおいて絶対に欠かせないのが問題そのものです!! 大陸の都市部においては数多くの問題集が出版されており、またクイズの話題、問題の掲載などを專門とする新聞もございます!! 大使館では日刊紙の「ハイアードロジクス」、週刊新聞であるシュネスの「アルゴト」を取り寄せて購読しております! 

このような出版社とは別に、フリーランスのクイズ作家もおられます! 作家の方が作るのは時事問題が多いです!! 売れっ子になると月に二冊のペースで本を出すそうですよ! クイズ本にはベストセラーなどもあり、昨年は「ゴージャスな女のためのクイズ」が160万部を売り上げました!! メイドの控室にも5冊ぐらいあります!」



マロル「妖精王祭儀ディノ・グラムニアで問題を作るのは「塔の百人」と呼ばれる民間組織なのでぇす。これには大学教授、出版社の編集者、小説家、芸能人、その他さまざまな人間が参加してると言われてるでぇす、しかしそのメンバーは完全非公開で、活動実態の多くが謎に包まれてるのでぇす。自分がそのメンバーなんだよお、と言う男は同窓会に行くと三人はいるでぇす」




・イベント運営、司会進行について


ドレーシャのコメント「大都市においてはクイズのイベントを担当する業者が存在いたします! この時代、例えば村のお祭り、会社の新商品発表会、教育機関の文化祭、果ては結婚式などにおいてクイズは定番の余興なのです!! ハイアードにおいては大手のハイアード・クイズオフィサー社、ラウ=カンに本店のある虎智公司フーチーゴンスー。芸能人を派遣してくれるバラドンプロダクションなどがございます! 売れっ子の司会者は寝る間もないほど引っ張りだこだそうですね。ちなみに司会一人、スタッフ10人程度であればおよそ30から50万ディスケットでしょうか!!

イベントの設営は専門技能であり、競技会なども開かれております!! 紙の鎖を作る早さなどですね! ちなみに昨年、私が15分で75メーキの大陸記録を出した時は新聞の一面に載りました!」



マロル「クイズ屋はつまりイベント屋なのでぇす、軽食の屋台、妖精の知識、客いじりの話術なんかも必要なのでぇす。問題作成は外注している会社もあるでぇすが、基本的には自分のところで作っているようでぇす。芸能人が多く所属するバラドンプロダクションには一線を退いたお笑い芸人なんかも多数いるのでぇす。冒頭に「この人は誰クイズ」でひと笑い稼いでくるそうなのでぇす」




・その他クイズにまつわる仕事


ドレーシャ「この大陸において、言うまでもなくクイズが最大の娯楽です!! そのためクイズにまつわる商売がたくさんあります! 例えば街角でクイズを出し、正解すれば景品がもらえる辻クイズ! 暗号解読やマッチ棒パズルが多いですね! 他にも酒場などのクイズイベントを渡り歩く賞金稼ぎ! 妖精王祭儀ディノ・グラムニアでの勝敗を対象とするブックメーカー! クイズをモチーフとした小説や映画もたくさんあります!!

他にはレスリングとクイズを組み合わせた全く新しい格闘技もあります! 格闘団体NZWは100人あまりの選手を擁し、世界中で興行を行っております!! ちなみにNZWとは「殴りと頭脳とレスリング」の略です!」



マロル「歓楽街ではお姉さま方とクイズを楽しめるお店が人気なのでぇす。特にパルパシアにある大陸最大の歓楽街では、もうほんとにものすっごいクイズができるそうなのでぇす。どこかの貴族が旅行に行ったら、数年入り浸って全財産使い果たしたとかの話はザラなのでぇす。こういう話をパルパシアの諺で「ナマコが紙縒こよりになる」というのでぇすが、意味わかんねぇでぇす」




・最後に


ドレーシャ「クイズに関する仕事では億万長者もたくさんいます! 売れっ子のクイズ作家! 大物司会者! 大規模なイベントを任される会社などなど!! 私はメイドの仕事が天職ですが! クイズ関係で一山当てるのは市民の皆さんの夢なのです! 皆さんもたまには選手だけでなく、その背後にいる人々にも思いを馳せてみてくださいね!!」


マロル「私は昨年一山当てたのでぇす、「ゴージャスな女のためのクイズ」が売れたのでぇす」








ドレーシャ「えっ?」




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