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異世界クイズ王 ~妖精世界と七王の宴~  作者: MUMU
第二章  暗闘 イントロクイズ編
24/82

24 (上下左右イントロクイズ 2)



それは形状としてはビキニ上下、という姿の少女である。全身が褐色に焼けており、目の下や頬に暗色の顔料で線が引かれている。胸部と腰部を隠すのは細めの革製ビキニであり、腰にはハンカチほどの大きさしかない布を巻いている。それはスカートなのか、パレオなのか、とにかく下腹部の着衣はブーメランパンツのように細く、巻いている布も肌を隠す役には立っていない。


年齢は12歳前後、どう見ても14は越えておらぬ。身長は1メーキと40リズルミーキほどしかない。

そして体中を装身具で飾っている。

動物の尻尾のような房飾りを二の腕に巻き、鳥の尾羽根のような、大きな弧を描く巨大な羽根が側頭部からぴょんと後方に流れ、腕輪や足輪が合計で10以上。それは動物の角を加工したものか、あるいは何らかの樹脂か。手にピッタリと吸い付くような丁度よいサイズである。脛や太ももには木の枝のような模様が描かれている。わずかにかすれているから、入れ墨ではなく顔料によるペイントであろうか。


そして彼女の出自を象徴するかのような、大きな弓と矢筒を背中に負っている。


少女は、片腕で男を引きずっていた。それは実に丸々と太った大男で、膨張した体を燕尾服で覆っている。おそらく体型に合わせた仕立ての良い服であろうが、水浸しの会場で引きずられては見る影もない。


「ひ、姫さま、ご容赦を」

「フン」


ぶおん、と少女が腕を振る、すると体重100キロはありそうな燕尾服の男が放り投げられ、ものの見事にごろごろと転がって、くるぶし丈のプールに落ちる。


「うわっと」


盛大に水しぶきが飛んだ。ユーヤは慌てて身をかわす。


「――おい、あの子」

「あの格好、もしかしてフォゾス白猿国の狩猟民族じゃないのか、初めて見たが……」


(フォゾス……)


そこでユーヤは気づく、足元でプールに放り投げられた男、このまるまると太った人物には見覚えがあった。あの大使館で見た藍映精インディジニアの映像の中で、である。

褐色の少女が、高い位置で腕を組みながら、威風堂々とした様子で言う。


「悠久なるランジンバフの森を統べし、フォゾスの大族長トゥグートが一子、コゥナ・ユペルガルが宣言する! パルパシアの双王よ! 此度のクイズ大会、このコゥナ様が出場して優勝してみせようぞ!」


びしり、と己の胸を指して言う。観客たちは一瞬戸惑ったものの、次第にその中に熱狂の火が広がる。


「お、おい、まさかあの子、フォゾスの大族長の娘かよ!?」

「大変だぞ、クイズ大会に森の民族が出てくるなんて初めてだ」

「賭けも変わってくるぞこれは……。ブックメーカーに伝えないと」

「かわいい……」


「ほほう、これはこれは、お初にお目にかかるの。そなたがフォゾスの狩猟民族というものか」


ボディコンギャルは目の端に笑みを浮かべ、猫科の獣のような獰猛さを潜ませて微笑みかける。



――フォゾス白猿国



ユーヤも簡単な説明だけは聞いている。国土のほとんどが森林に覆われており、平野部の都市と、森に住む狩猟民族という二つの民族が共存している国だという。その二者の中で政治的に大きな発言力を持ち、国の実権を握っているのは狩猟民族の側である。

それというのも、この大陸は妖精の世界であるからだという。妖精と深く通じあい、蜂蜜や果実の生産を掌握する狩猟民族のほうが文化の根幹を握ると言えるのだとか。


「それにしても、これまでフォゾスの狩猟民はクイズ大会には出ておらなんだのに、今年はどういう気まぐれかのう」

「この役立たずのせいだ!」


水の中で尻餅をついていた燕尾服の男、その背中をどしん、と思い切り踏みつける。


「はうっ!?」

「クイズ省だのクイズ大臣だの大層な肩書をつけおって! 毎年毎年、下位に甘んじておる現状はもはや我慢ならん!! このコゥナ様がどいつもこいつも蹴散らして優勝してくれるわ! 今日はその宣言をしに来た! そもそもの因縁として我らフォゾスは」

「ちょっと待った」


と、ユーヤがのっそりと手を挙げる。声調の技術により、その発言に存在感を載せているため、言葉が無視されることはない。


「なんだ!」

「観客がお待ちかねだ。どうせ挑戦状を叩きつけるなら、君もゲームに参加していけばいい」

「お前は何者か!」

「ただの市井のクイズ戦士だよ。いいんだろ、参加しても」


言葉の最後はボディコンギャルの二人に投げたものだった。その二人、いまコゥナが呼んだようにパルパシアの双王である二人は、大きく頷いて目を輝かす。


「もちろんじゃ! 麗しきフォゾスの姫君よ! その実力のほど、ここで見せていくがよかろうぞ!」

「いいだろう! 名誉あるフォゾスの狩人は逃げぬ!」


手近なボーイか、あるいはスタッフとでも呼ぶべき男に弓を預け、民族衣装の少女がぱしゃぱしゃと水の中に入っていく。ぱしゃぱしゃと銀写精シルベジアのシャッターも切られる。それは特に水着というわけでもないのだろうが、革製と思われる上下セパレートの着衣は、若すぎることを考慮しても肌のハリであるとか、褐色の肌の質感であるとか、そういう野性的な魅力をアピールするに十分である。

観客はもはや、全身から血を吹かんばかりに興奮していた。


輪は三つ、中央で紅柄を着た睡蝶スイジエが、左にモスグリーンのボディコンを着たパルパシアの王が、そして一際若く小柄なフォゾスの姫が右に着く。男性のスタッフがコゥナへと近づき、簡単にルールを説明する。輪の大きさに対して、そのコゥナだけはかなり小柄に見える。上部のボタンに脚が届くかどうか心配されたが、コゥナは問題ないと主張した。

そして三人ともがクイズ帽を被る。その筒型の帽子はファッションとしては奇抜でしかないが、その奇抜さが非日常性をもたらし、イベントの空気を盛り上げる、とユーヤは個人的に思っている。


男たちは正面に集まって銀の妖精を構え、皿のように丸くした目を血走らせている。ユーヤはというと右手側、コゥナの側面に立って腕を組んでいる。ちなみに言うなら双王と睡蝶は靴を脱いで裸足に、コゥナは編み上げ式のサンダルを履いていた。


(このセット……くるぶしまで水が来てる。ハイキックの際は水の抵抗がきつそうだな、というかほとんど180度に足を振り上げる形になるけど、全員そのぐらいの動きはできるのか? それに、早押しの要素があるけど、あそこで問題を用意しているスタッフと司会者が別人……正解は曲を聞いて判断するのかな)


そして試合は始まった。


~~♪


「はいネ」


ばん、と腰をひねるのは睡蝶、右手のボタンを素足が打つ。蛇の板が打ち上がる。


「正解! この曲は、ボルリー・フォレットの「あの日、天使の右翼に」ですね」


司会者の男は、用意された問題をすべて暗記しているようだ。それともこの世界では当たり前に分かるほどの有名曲ばかりなのか。ともかく蛇が打ち上がった後、曲を聞いて正答を判断している。構えているメガホンはやはり何かしらの妖精なのか、声が微妙に拡大されていた。こうしてイベントが進行している間もひっきりなしに水音が押し寄せているため、拡声装置が必要らしい。


観客が、その体に吸い付くような紅柄ファンガンに熱いため息をつく。


「いい蹴りだ……」

「ああ、腰のひねりが素晴らしいな、くびれとか、意外に大きな尻とかが強調されて」

「蹴られたい」


男どもは案の定という感じの盛り上がりである。

そして次の問題。


~~♪


「こうじゃ!」


ばしゃん、と水面を踏みしめるのはパルパシアの王女。


「正解! ダストボックスの「アンダーパターン」です」


そして問題は続き。


「こっちネ♪」


ひゅおん、と天を衝く見事な蹴り。股下が極端に短い紅柄とは思えない大胆さに、観客たちに爆発に近い興奮がよぎり、銀写精シルベジアのシャッター音が重なろうとする刹那。

水の波がその観客たちに襲いかかる。


「うわあああっ!?」


バケツで浴びせるような水量である。密集していたために避けることもできず、もろに正面からの水を食らう。あわれフォーマルに身を固めた男たちはずぶ濡れである。

それを見て、ユーヤが感心したようにうなずく。


「なるほど、助平さを出して正面にいると、ハイキックのときにああして水を被る仕掛けか。水の深さといい、色々計算されてるな」

「……おい」


そこで、コゥナがユーヤの方を見る。試合の余波で体からぽたぽたと水を垂らしているが、彼女自身はまだ0ポイントである。


「ん? 何か?」

「なんだこいつらは、強すぎるぞ」


手で口を隠し、小声でそう言う。


「そんなこと言われても」

「ちょっと作戦タイムだ!」


と、両手でTの字を切って輪を離れるコゥナ、そのポージングも万国共通らしい。ただの偶然だが。


「マルタート! あいつらに勝つ作戦はないか!」


太っちょの大臣に言う。その大臣は玉のような汗を滴らせている。別に会場が暑いわけでもないが、生来の汗かきなのか、それとも心労なのか、先ほどプールに落ちた以上に汗で濡れている、という錯覚すら覚えそうなほどの汗である。

汗を拭き拭き、怯えながら答える。


「そ、そのように言われましても、イントロクイズに作戦など……」

「おい貴様、さっきクイズ戦士だとか言ってたな」


と、今度はユーヤの肩をどやしつけ、そのまま少し離れた場所に連れ出す。コゥナのほうがだいぶ背が低いため、ユーヤは屈むような姿勢になる。


「まあ一応」

「あいつらに勝つ方法を考えろ」

「なんで僕が……」

「マルタート! そこに立って、足を肩幅に開け!」

「え……?」


言われた大臣は、わけが分からぬままに言われたようにする。まじまじと見るとこの大臣は本当に見事な太鼓腹である。ハンプティダンプティという名前がユーヤの脳裏をよぎる。

コゥナは大臣の方を指さし、おもむろに言う。


「貴様が協力しないなら、こいつの股間を蹴る」

「ええええええええええっ!?」


叫ぶのは大臣である。一瞬で顔から血の気が引き、足をガクガクと震わせる。


「君は鬼か何かか」

「協力するのかしないのか!」

「……」


ふと会場の脇、ラジカセのセットされた長机をちらりと見る、男性スタッフが四つの麻袋から記録体を取り出し、ラジカセの背後に並べている。

ちなみに作戦会議の間、司会者のほうは睡蝶と双王の容姿を褒め称えて間をつないでいる。この世界にはいたるところにプロがいる。

ユーヤが声を潜めて言う。


「次に来る問題が、予想できるかも知れない」

「おお!? なぜだ?」

「視線を送らずに聞いてくれ。問題は、ラジカセの脇にある四つの麻袋からランダムに記録体を取り出し、またランダムでラジカセに入れる、という方法で出題されている。ここまでの問題でほぼ分かった。あの四つの麻袋には右端から「上」「左」「下」「右」の楽曲が入っている」


「おお、ならば楽勝ではないか。よし、ここからの問題を教えろ」

「無理だ」

「なぜだ?」

「あのスタッフだって別に間抜けじゃない。観客からは見えにくいように、ラジカセの影に記録体をいくつか置き、ランダムに一個を選ぶ、という方法で曲をかけている。例えば、いまラジカセの裏側には「左左右上」の記録体があるのは分かる。しかしそこから何を取り出すかはまったく見えない。司会者が指示を送っているわけでもなさそうだし、記録体の並べ方も無造作、さらに動作は手首だけなんだ。少なくとも正面からは無理だ。ついでに言えば、ラジカセも背面から記録体を入れるタイプのようだからな」

「正面から無理なら、背後からならどうにかなるのか?」

「裏側からなら。君の背中に張り付くように立てば、方法がなくもない」

「よし決まりだ、何か理由をつけて背中に貼り付け」

「……仕方ないな」


と、ユーヤとコゥナは連れ立ってプールへと戻る。

その脇でガタガタと震えていたマルタート大臣は、どうやら股間を蹴り上げられないようだと分かって、ほっと息をつく。


その太っちょの大臣が。ふと首を傾げる。

四つの麻袋に、四種類の楽曲が分けて入れられているという。

その記録体をスタッフはどう扱って、どのように曲をかけているのか。

そんなことを、あの男はなぜ観察していた・・・・・・・・のか?


コゥナがプールに戻る、その後ろにはユーヤがいた。コゥナの背中に手を当てたまま、足元は膝までの長靴を履いている。そのへんのスタッフから借りた長靴である。


「なんじゃ、男の付き添いかの? 相談はダメじゃぞ」


双王の片割れが、羽扇子で口元を隠しつつ言う。

ユーヤはコゥナの背中に手を当てている。


「ああ、この男はええと」

「彼女の胸当てが壊れたんだ、後ろから押さえないと落ちてしまう、こういうふうに」


とユーヤが手を離す、すると瞬間。革製の胸当てが背中からぺろりと剥がれる感触。


「――!?」


反射的に胸を押さえて屈もうとする瞬間、ユーヤが背中に手を当てる。それで胸当てが押さえられ、かろうじて踏みとどまる。


「見てのとおりなんだ、背中に手を当てとくだけだから許してくれ」

「ふむ、仕方ないの。そのかわり問題の間は喋ってはいかんぞ」

「ああ、当然だな」


(こ、こいつ――)


コゥナは、驚愕と憤怒と戸惑いを絶妙に混ぜ合わせた顔で、褐色の肌を火照らせる。


(いつの間に――コゥナ様の胸当てを切りおった・・・・・


「それと、そこの君」


と、長机にいたスタッフを呼ばわる。ちなみに言っておくならば、司会者とスタッフはどちらも正装している。ドレスシャツにブーメランパンツという姿を正装と言い張るなら、の話ではあるが。


「――はい?」

「動作が大きすぎる・・・・・。それじゃ次にどの曲をかけるか分かってしまう、もっと慎重にやってくれ」

「えっ……あ、す、すいません」

「なっ……!!」


戸惑う男性スタッフと、驚愕に目を見開くコゥナ。

ユーヤの方を見て、目を三角に尖らせ、針のように鋭い声で言う。


「貴様どういうつもり――」

「よし、試合再開じゃ、次の曲をかけよ!」


空色のボディコンギャル、試合に出ていない方の双王が指示を飛ばす。


「ほら、次の問題が始まるぞ、それに僕が手を離したらトップレスになるぞ、ちゃんと前を向いて立っておけ」

「うぐぐぐぐ」


そして七問目


~~♪


「はいですネ♪」


左側面蹴り一閃、睡蝶が左のボタンを打つ。ボタンを固定している鉄の輪がびりびりと震える。


「正解、カントリーフォックスの「左手のかなしや」ですね」

「やりましたネ♪」


ぴょんと喜んで飛び跳ねる睡蝶、その一動作ですら危ういほどの裾丈である。

ユーヤが口の中だけで呟く。


「……左右上右」




そして、次の問題。



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