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異世界クイズ王 ~妖精世界と七王の宴~  作者: MUMU
第二章  暗闘 イントロクイズ編
23/82

23 (上下左右イントロクイズ 1)


「こちらの花を体のどこかにお付けください、それが招待者の証となりますので」


ユーヤたちは言われるままに花を身につけるが、見れば、すでにそのへんに花が捨てられている。どうも形式だけのアバウトな受付のようだ。

ユーヤが問う。


「あの滝は?」

「はい、パルパシアの双王、ユギさまとユゼさまの指揮により作られた人造の滝でございます。ヴァッサール宮の裏手側に貯水櫓を建て、大河ボーモーフより荷馬車で水を運び、天井部分より流し込んでおります」

「どうやって水を流してるんだ?」

「人力でございます。屈強な男が何十人も天井にいまして、中央部に空けた穴から水を流しております」

「アナログっぷりが逆に凄い……」


ユーヤは、ここまでくると最早呆れるしかない、という風である。

つと、エイルマイルが一歩前に出て言う。


「双王にご挨拶したいのですが……」

「申し訳ありませんが個別の挨拶は無用と仰せつかっております。双王や、他の国の王族の方々も会場にて自由に歩き回っておりますので、お客人には身分の上下にかかわらず、どうぞ自由にお過ごしください、との事です」

「ですが、私どもには少し用件が……」

「よし、エイルマイル、ここで一旦別れよう」


ユーヤがエイルマイルの二の腕を掴み、会場の中に連れ込みつつ言う。


「別れる……別行動するのですか?」

「ああ、他の国の王族もいるなら都合がいい、僕の顔が知られる前に、他の連中を少し偵察しておきたい。会場でどこかの王族に出会っても決闘の話はしないでくれ」

「分かりました……。では私は、そのあたりで目立たぬようにしておきますね」

「ああ……それと、ガナシア、ちょっと」


と、ユーヤはエイルマイルから数歩離れ、ガナシアを呼ばわる。会場中に水音が満ちているためか、数歩離れるだけで声が届きにくくなる。


「? どうした」


ガナシアが近づく。ユーヤはエイルマイルと自分との間にガナシアを置き、万一にも周囲の人間に声を聞かれぬよう、口の動きすら少なめに話す。


「会場に、ハイアードのジウ王子もいるのかな」

「いや、分からない……。公務日程は空白になっていた。妖精王祭儀ディノ・グラムニアの時期はよくあることだ。突発的なイベントや夜会が多いからな……」

「そうか、では、一つだけ、細心の注意を払ってほしい事がある」

「そ、それは……?」


ユーヤは、一度間を置き、それに無限の重みを乗せるかのように呟く。


「――何があっても、どんなことが起きようとも、エイルマイルとジウ王子を二人きりにしないこと・・・・・・・・・・、だ……」

「……!」


そのあまりに重々しい物言いに、ガナシアはぞくりと寒気が走るのを感じる。


「な……」


なぜ。

その二文字を、飲み込む。


それを聞くことが、何か恐ろしい暗がりへの扉を開けてしまうような気がする。

ガナシアは、思えば何も把握していない。

それはつい昨日のこと、アイルフィルが異様な様子で帰ってきた理由も、この異世界のクイズ王を呼んだ理由も何も知らない。そこにはやはり、あのジウ王子が関わっているのか。それは考えてみれば当たり前ではあるが、では具体的に何が起こったのか。


それは、

想像することが、恐ろしい。


ガナシアは、慎重にうなずく。

おそらくガナシアに正しい推測など不可能であろうし、少なくとも今は誰も語らないような気がする。この限られた時間の中で、誰もがすべてを知ってなどいない。己の役割だけに一意専心すべきなのだ。


「頼んだぞ、それじゃ……」

「あ、ああ……」


ガナシアの答えをその場に残し、ユーヤは会場の中へと歩みだす。


一人になって、ユーヤは何かの匂いをかぐように、周囲をゆっくりと睥睨した。


気配はずっと感じている。

それは獅子のような、あるいは竜のような。


クイズ王だけが持つ、絶対の自信にみなぎる気配だった。





会場は広く、そして細かな催しが様々に行われている。

大道芸がある、軽演劇がある、数人の演奏家に囲まれて歌手が歌っている、綱渡りや玉乗りが披露される、バーテンダーが酒瓶でジャグリングしながらカクテルを作っている。


ユーヤは会場の中心を見る、あの滝はただのハッタリではない。水音で会場を満たすことで、一つ一つのイベントの音が聞こえる範囲を狭めている。本来ならば歌手の歌などそれだけで百メーキ以上の範囲で注目されるはずが、今はせいぜい30メーキほどだ。

この広い会場で、複数のイベントを同時進行的に行うための舞台装置ということか。と内心で舌を巻く。


ユーヤは会場をざっと見渡し、近くにいたボーイを呼び止める。なぜそのボーイなのかと言えば、パンの乗るトレーを持っていたからだ。


「パンはあるかな?」

「はい、ございます。ガウフブレン、オルトシキム、タンバーなども」

「必ずSRが出そうなガチャだな、じゃあオルトシキムってやつを」

「はい」


持ち手が紙に包まれた、クレープのようなパンだった。甘いクリームが封入されていて、一口目から満足感がある。


「あの、ちょっといいネ」


声が聞こえて左を振り向くと、そこに少女がいる。


一瞬、その服装に目を奪われる。


それはいわゆるチャイナドレスに近かった。詰め襟であり、左右に深いスリットが入っている。色は燃えるような真紅である。

ただし、ユーヤの知るそれとはあまりに違う。

まずそのスリットは腋の下まで切れ込んでいる。最初に反物のような長方形の布を用意し、中央に頭が通る穴を開け、それをサンドイッチマンのように前後を隠す形ですっぽりと被り、左右をバツの形に糸で締め付けたような服だった。

当然、体の側面が思い切り露出している。しかも体のラインに沿って実に見事に誂えており、その豊かな胸をしっかりとお椀型に浮かび上がらせ、脇腹のくびれ、鼠径部の三次元的形状にもしっかりと沿うような見事な縫製。まるで薄い紙を糊で貼り付けたような神業のライン取りである。しかも股下の丈は10リズルミーキもない。張りがあるが細身の美脚、それが見事に露出している。

布地の表面を走行する細緻な刺繍や、体の側面を走る糸が金糸銀糸を混ぜた撚り紐であることから、これがそれなりに高価な服であることは分かるが、それにしても大胆というレベルではない。これをデザインした人間は、本当に素肌を隠す気があるのか疑わしい。


少女はクレープのような、紙で持ち手を作った薄手のパンをぱくりと食べる。

自分と同じものか、と思って手元を見れば、そこには何もない。


「あ!? おまえ!」


パンをスられた、と気づいた瞬間には、すでにそのすべてが彼女の口の中に収まっていた。少女は唇についたクリームを指で拭い取り、ぺろりと舐める。


「このオルトシキム、食べてもいいネ?」

「食べてから言うなよ!」


ユーヤが珍しく憤りを見せてそう言うと、そのチャイナドレスの少女はついと立ち去ってしまう。


「あ、おいちょっと」

「ちょっと待つのじゃ、そこの紅柄ファンガン!」


そう呼び止める声がする。


ユーヤがまず首を向け、一瞬遅れて少女も向ける。


そしてユーヤは、また目を見張る。

その服装は、少なくとも眼の前のチャイナドレス風の少女よりは露出は抑えめだった。

しかし、ユーヤはおそらく、この世界に来てから最大級に驚いていた。

この世界にもその服があったとは。いや、実のところはただのタイトワンピースなのであるから、存在しても不思議ではないが、それにしても何たる偶然だろうか、と誰も分からぬ心中での独り言。


それは一言で言えば、膝上25センチのタイトワンピースである。肩の空いたオフショルダータイプ。しかもボディラインをぎゅっと引き締める造形で作られており、その豊かな胸囲も、見事にせり出した腰の後ろも、それをさらに強調させるような立体感を持たせている。腰部を締め付けるようなライン取りのため、チャイナドレスの少女よりもさらに体のラインが強調されている。

着ているのは、年の頃は十代なかばの女性、強くウェーブのかかった髪はかなりの毛量で、赤やブルーの部分ウィッグが入っている。もともと顔立ちは良いようだが、さらに目を大きく、口元に艶を出すような濃いめの化粧をし、爪を真紅に塗り、人を喰うような口角を尖らせた笑みを浮かべている。

ユーヤはこういう女性を知っている。世のすべての楽しみを食いつくさんとするエネルギーを。

あの華やかなれど狂おしきバブル全盛期。このような存在を指して、社会はこう呼んだ。


ボディコンギャル、あるいは、お立ち台ギャル、と。


しかし彼女は、ディスコで踊っていた女子大生たちよりはだいぶ若いようだ。強めの化粧で険は強く見えるものの、その笑顔にはどこかスレていない無邪気さ、少女特有の自由奔放さのようなものが感じられる。


ファンガンと呼ばれたチャイナ服の少女が、首を振って言う。


「私ファンガンじゃないネ、睡蝶スイジエですネ」

「その着てるのは紅柄ファンガンじゃろ、名前が分からぬからそう呼んだまでじゃ」


お立ち台ギャルは、これまたやはりと言うべきか、先端に綿のような房飾りのついた扇子を取り出し、口元を隠しつつ言う。


(そうか、この何というかものすごい服は紅柄ファンガンというのか)


とユーヤは何となくそれを覚える。

お立ち台ギャルの後ろから、さらにもう一人出てくる。同じような超ミニのオフショルダータイトワンピース、色は最初の一人がスカイブルーなのに対して、こちらはモスグリーンである。やや暗色だが地味にならない程度の明るさがあり、周囲の女性たちの中でも一際目立っている。

モスグリーンのほうが言う。


「参加者がおらぬのじゃ、我らのクイズイベントに参加していかぬか」

「イベント?」

「そうじゃ、我らは色々と新しいクイズを模索しておってのう。今宵はイントロクイズと早押しを組み合わせたクイズを考案したのじゃ。優勝したら賞金ぐらいは出そうぞ」

「賞金、いいですネ、睡蝶スイジエはお金大好きネ」


そこでユーヤは思い至る。この二人。同じ服という以前に、見事に同一の目鼻立ちを持つ双子。それにラジオで聞き覚えのある声。


「さあ、あのセットじゃ、お主のような参加者を探しておったのじゃ」


見れば、ホールの一角で床が少し掘り下げられており、深さ20センチほどのプールになっている。


そこに、輪が3つ。

互いにぎりぎりで接しない程度の距離で、直径2メーキあまりの鉄の輪が設置されている。

さらに、それぞれの輪の上下左右には紫の半球、あの紫晶精アメンジアの早押しボタンが、輪の内側を向いて固定されているようだ。


「これは……音ゲーでも始まりそうな仕掛けだな」


ユーヤがぽつねんと呟く。すでにその舞台の周り、おもに正面側には百人余りの観客がおり、なぜか手に手に銀写精シルベジアを構えている。


「名付けて! 『早押しイントロクイズ! 上下左右フットワークゲーム!』じゃ!」


モスグリーンの方のギャルがプールに踏み込み、ぱしゃぱしゃと軽快な水音を立てて輪の中に入る。


周囲の観客が、それは九割以上が男であったが、ぱしゃぱしゃと銀写精シルベジアのシャッターを切る。みなタキシードや燕尾服で正装しているが、それがあってなお、後頭部から脳がこぼれ続けるような、だらしない気配を隠せていない。


「ルールは簡単じゃ! これから曲をかける、その曲は曲名に必ず「上」「下」「左」「右」が入っておる。それに該当するボタンを押せばよい。ただし、ボタンはかならず脚で押さねばならぬ!」


うおおお、と男たちがどよめく。

ユーヤは少しだけ冷静さを見せてツッコむ。


「脚で押すって、君らもだけど、この睡蝶スイジエって子も、この服でハイキックなんかやったら完全にパンツ見える……」


ぎろ、と男たちから「余計なことを言うな」という視線が飛ぶが、それは無視する。


「なんじゃおぬし、こういう色気のあるゲームは嫌いか?」

「いいや」


と、頭を振りつつ答えるユーヤ。


「実はこういうの嫌いじゃないと言うか。こういうの考えるのも仕事だったと言うか。放送倫理とかでお色気ゲームがやれなくなったことはそれなりに残念だったと言うか。バカ殿さまの女体神経衰弱とか芸能人水泳大会とか活気あっていい時代だったよなと言うか」

「なにブツブツ言っとるんじゃ?」

「いや別に。それにしても、このルールならハイキックになにかボーナスが欲しいとこだな」

「くくく、そのため、「上」の曲はボーナスで3ポイントとなっておる。ちなみにお手つきはマイナス1ポイントじゃ。10ポイント先取で優勝としようぞ」


ユーヤは脇を見る。そこには長机があり、セレノウの大使館にあったものより少し簡素なラジオがあり、ガラスに銀メッキをした立方体、セレノウの大使館で藍映精インディジニアを使った時に見た、あの記録体とやらが並んでいる。スタッフと思われる若い男が、ラジオの背面に記録体を並べて準備しているようだ。その脇には、片手で抱えられるほどの麻の袋が4つ。


「……」

「わかったネ、賞金があるならやるネ」


ぴょん、と、軽く跳ねるように水の中に入っていく睡蝶スイジエ。脱ぎ捨てられた赤のパンプスがユーヤの前に転がる。


「ちょっと待てえい!」


そこに声が飛ぶ。

何だかそれも懐かしいコールだな、と思いつつ、ユーヤはそちらを見る。




そこにいた人物に、

今度は、その場の全員が驚いた。



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