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異世界クイズ王 ~妖精世界と七王の宴~  作者: MUMU
第一章  死闘 早押しクイズ編
11/82

11 (○×クイズ 2)+ コラムその2




「はい、ではそろそろよろしいですね。繰り返しになりますが、もう優勝は無理だと思った場合はいつでも退出されて結構ですので、その際は静かに出ていかれるようお願いします。……では、第一問」


こととん。

と、部屋の隅で若い侍が太鼓を叩く。それは万国共通らしい。


「永雪山とも呼ばれ、古来から万年雪が積もると言われる白覧山びゃくらんざん、しかし過去の観測で、夏に冠雪しなかったこともある、○か×か」


衣擦れの音、思案に唸る声、勢いよく上げられるボード。



――真ん中にいる、タキシード姿の男に気をつけてくれ。



遠く、声が聞こえる。

ユーヤの掲げるボードは、○。


「はい、そこまで、正解は○です。白覧山びゃくらんざんの山頂が白いのは石灰岩質の岩のためですね。そもそも南国にある低山ですので、冠雪すること自体が稀です」



アオザメが問題を解説し、ざわざわと悲喜こもごもの空気が広がる。

ユーヤの耳の後ろから、幻の声が聞こえている。



――どういうことですか、ただの初心者にしか見えませんが。


――○×クイズはしょせん多数決のゲームだ、たいていの問題は、周囲の解答を見ていれば分かる。


――多数決?


――あの男はボードを出すのが微妙に遅い、周囲の人間を観察して、多数決的に答えを導いている。



「第五問、ラウ=カンの詩人、揺名ヨウミンによる詩集「八百連山録やおれんざんろく」に収録されている詩の数は500を越える、○か×か」



――まさか、ずっと項垂れたままですよ、周囲を見回してる感じもないし。


――周囲を見回すだけなら眼球を動かすだけで十分だ。項垂れた姿勢はどこを見ているのかを隠すため、さっきボードを放り投げたのも意図的だろう、司会者を誘導して、ボードを左右の手に持たせるように注意させたんだ。


――さらに言うなら、この◯×のボードは後ろから計測しやすいように、マークが両面についている。ただ座ってるだけでもかなりの人数の解答が分かる。



「正解は×です、八百連山録やおれんざんろくは序文にて、すべて一つながりの詩だとされており、また短詩に区切った場合でも180作ほどですね」



――ですが、たとえ周囲の人間を窃視したとしても、問題の難度が上がれば誰が正解するか分からないでしょう。


――この手のイベントなら最初の問題はごく易しいはずだ、最初の数問で少数派に回っている人間は優勝圏から除外できる、それを繰り返せば実力者を数人に絞り込める。また、全員の解答を覚えていれば、「誰がトップか」は分かる。トップに居ると思われる人間とずっと同じ答えを上げ続ければ、自分もトップにいられる。


――まさか……。



(……)


それは、ユーヤだけに聞こえる声だった。


この異世界にあるはずもないカメラを通し、モニタールームで二十以上もの画面を前に語る人物。

それは七沼遊也と呼ばれた男。インカムをつけ、周囲の人間に言い聞かせるように語る。



――今から問題の差し替えはできるか。できれば席替えも。


――無理ですよ。本番中です。それに、優勝には30問中、25から28問の正解が必要なんですよ、カンニングだけではとても……。





「第15問、リンゴの品種名にもなっている別羅べきら村ですが、別羅村で最も多く作られている果実類はもちろんリンゴである」


「正解は×です。別羅村の主な農産品はミカンですね。そもそも、別羅種というのはもともとミカンの品種名であり、リンゴの別羅種は「別羅ミカンのように小ぶりで甘い」ことから名付けられたものです」




――あの男、すでに司会者の癖を見切っている。練習問題も含めて、これまで「もちろん」のある問題がいくつも出ているのはよくない。後半のひっかけ問題で振り落とせないかも知れない。


――どういう事です?


――「もちろん」のある問題は○×クイズの定番だが、「もちろんAである」と見せかけて本当にA、つまり答えが○であるというひっかけ問題にも使える。「ディーゼルエンジンを発明したのはもちろんディーゼルさんである」みたいな問題だ。答えは○だな。


――それが何か……?


――司会者の癖さえ見抜けば、「もちろん」の言い方でどちらか分かる。カンニングだけではトップの人間にコバンザメのように張り付くだけだが、ひっかけ問題を見抜けるなら……。



「第21問、ヤオガミで最大の流域面積を持つ川と言えば八宵やよい川ですが、この川はもちろん長さでもヤオガミ最大とされている、○か×か」


(……)


周囲の気配が伝わる。ここまで9割以上で正解してるのは4人、その四人の解答は×、×、×、×。

一瞬ののち、ユーヤが上げるのは○。


「そこまで、正解は○です」


司会者のアオザメは会場を見渡し、会心の問題がうまく決まったときの、微笑むようなしたり顔で解説する。


「おや、みなさん不正解が目立ちますね。確かにヤオガミで最長の川として知られるのは三左国吉さんざくによし川ですが、つい先月、フツクニでの河川学会において流路距離の基準が改定されました。複数の指定河川が合流している川の場合、最も流量の多いものが源流と見なされます。三左国吉さんざくによし川は天菱てんぴし川を源流と見なした場合はヤオガミ最長でしたが、今は甘牟田あまむた川が源流と見なされるため、二位に転落してしまったわけですね」


つい最近、答えの変化した問題、しかもヤオガミ内部での学術上の事である。ハイアードに在住している市民が知る機会などないだろう。なまじ知識があると間違える問題である。



――やはり、だ。あの男、「もちろん」の言い方で答えを見抜いた。


――偶然では……。しょせん◯×ですよ、二分の一で当たる問題です。


――これであの男がトップに立ったぞ。偶然で片付けるのか。


――それは、しかし……。



「第22問、砂糖を計量するための秤において……」



――それは結局のところ、七沼さんがそう思う、というだけの話でしょう。


――大会を壊してまで、摘発するようなことでは……。



(…………)


ユーヤにとっては、もはや手に取るように解答が分かる。虎の絵を見てそれは虎であると答えるように、思考の必要すらもなく自然に浮かぶ。周囲の解答、司会者の声調、あるいは背後で小声を交わす係員たちの気配、そしてこの場にいない問題作成者の癖すらも読める。読もうとせずとも分かってしまう。


(……そう、○×クイズは、生来的にカンニングと無縁ではいられない)


ユーヤは一瞬の間隙に気配を読み、問題の紙背を見抜いて答えてゆく。


大勢で一斉に参加できる、数人のグループがまとめて参加できる、視覚的に誰が正解かひと目で分かる。

それがイベントとしての◯×クイズの利点であり、カンニングの温床となっている部分でもある。もしも、あらゆる不正を厳密に排除してしまったら、それは楽しむべきイベントとしての◯×クイズから、遠くかけ離れたものになってしまうだろう。


なぜ、あのクイズ番組では何千人もが一斉に移動するのか。

人の流れでどちらが多数派か分かってしまうのに。


なぜ、あのクイズ番組では階段状の席に何百人もが並ぶのか。

上げようとしているボードが、後ろの人間に見えてしまうのに。


それはあたかも、そのように周囲の気配を読むことすらも、◯×クイズの醍醐味であると企図されているかのような――。


(……馬鹿なことをしてる)


もはやユーヤの視野の中で、全員の獲得ポイントが把握されている。あるいは背後にいる参加者すらも。


(……不正をするために、身につけた技術じゃないのに)


「第30問、秋の味覚として知られる……」


第30問は、もはや答える必要もない。

二位の人物が正解数27なことも、すでに分かっていた――。











コラムその2



セレノウ大使館付メイド長、ドレーシャのコメント

「私たちの勤務いたしますのは大陸の片隅に咲く花にして胡蝶の国! セレノウの大使館でございます! ここでは大使館と、我々上級メイドについてご紹介いたします!」


上級メイド、リトフェットのコメント

「これを読むのはとことんヒマな御方だと思いますけれど、まあ話してあげなくもないですわ」





・セレノウ大使館について


メイド長、ドレーシャのコメント

「セレノウ大使館の立地はハイアードキールの公館街です! 周囲は要人の住まわれる公館が並んでいまして、他に裁判所、公証役場、国営銀行などの巨大な建物が並んでいます! ちなみにハイアードキールは造船の街ですので、商工組合などは港に集中しています! 我らのセレノウ大使館は敷地面積にして8800平方メーキ! 前庭が広く取られておりまして、これはイベントや式典などを行う機会が多いからです! 来客を迎えてのパーティなどはおもに前庭で行われます!

当然ながら内部は実務スペースと居住スペースが分かれておりまして、居住スペースに入れる使用人は我々メイドのみです!!

ハイアードキールはひじょーに環境の良い街です! 公園なども整備されておりまして、公館街の道は広く作られています! 馬車が四台同時にすれ違えるのです! 四台同時です!!! ハイアードには王宮もありますが、貴族や大臣などは公館街か、もしくは市内に邸宅を構えて住んでおります!」



上級メイド、リトフェットのコメント

「セレノウの大使館は、ハイアードにある各国大使館の中では最も小さいものですわ。他に公館街にある大使館はフォゾス白猿国とシュネス赤蛇国のものです。

パルパシア、ラウ=カン、そしてヤオガミはハイアードキール郊外に広大な敷地を得て大使館を作っており、公館街には小さな出張所だけを構えております。これは国家元首がハイアードに逗留する機会が多いためでもありますが、単にパルパシアとラウ=カンの見栄の張り合いという印象もいたしますわ。

ヤオガミに関しては、ラウ=カンと特に親交の深いあの国を、ハイアードが大使館を提供して懐柔しようとした、などという見方もありますが、どうでしょうね。

特にパルパシア双兎国の大使館はもはや一つの街であり、実際に内部に歓楽街めいたものが存在するとか。あの国ちょっとおかしいのですわ、いえホントに」





・上級メイド資格について


メイド長、ドレーシャのコメント

「メイドとはこの時代においては資格のいらない自由業であります! 人は誰しもメイドの魂を持っているのです! ですが我々上級メイドは大陸統一の国家資格によって認定されるものです! それぞれの国にある養成学校にて学ぶか、メイドとして三年以上勤務し、認定試験を受けることで資格を得られます!! 養成学校コースなら5年でほぼ確実に取得できますが、認定試験コースだと合格率はせいぜい3割ほどです! ちなみに私は認定試験コース! リトちゃんは養成学校コースです!!」


上級メイド、リトフェットのコメント

「養成学校は年間の学費が400から600万ディスケットほどもかかり、おもに貴族や富豪の子息が学んでおります。この時代、上級メイドは時代の花形であり、羨望の的である立派な職業なのですわ。あの助平ぞろいの大使館の男どもとは一味違いましてよ。

さて、養成学校の卒業という肩書きに比べると、どちらかと言えば認定試験コースは一般資格という印象ですわ。勤め先もごく一般的な富裕層のお屋敷が多いのです。

しかし、認定試験から直接、王宮や大使館に務められるようなメイド、これはまさに万に一人の傑物。その試験では実技はもちろん、学科試験やクイズ試験、妖精や美術分野への造詣も卓抜でなくてはなりません。正直なところ、我々のメイド長が認定試験で年度トップだったというのが信じがたいのです……やはり替え玉……いえ袖の下……あるいは釘バットとかで脅して……」




・勤務形態について


メイド長、ドレーシャのコメント

「勤務形態は雇用の契約によって様々ですが! お給料や勤務時間などは組合によって目安が決められております! 組合は上級メイドと、そうでない一般のメイドの両方がすべて所属していると見なされ、届け出がないまま家事のために人間を雇うことは違法となります! 

我々、セレノウ大使館のメイドは二交代制ですが! メイド長である私はほとんど住み込みであります! 他のメイドはハイアードキールにアパートを借りていたり、実家暮らしのものもおります! ちなみに大使館内には常に6人以上のメイドがおりますが! 妖精王祭儀ディノ・グラムニアの時期はセレノウ本国から応援を呼んで、10人以上が常に働いているのです! 非番の日には女子会の嵐が吹き荒れます!!」


上級メイド、リトフェットのコメント

「ちなみに、王宮や各国大使館、それに大臣公邸などに限り、勤務するのは雇用主と同じ国籍のメイドとなります。これは組合でも定められているルールです。国家機密などを見聞きする機会もあるから当然ですね。なので我々はすべてセレノウの国籍を持っています。

メイドを雇う基準にもお国柄がありまして、ラウ=カンは知識や教養を重視。パルパシアは、これはもう露骨に容姿で選んでいるそうです。あの国はあの双王といい、アタマおかしいですわ。水着審査とダンス審査があるんですのよ」







・最後に


上級メイド、リトフェットのコメント

「上級メイドはすべての家事をこなせますが、セレノウ大使館のメイドは各人の個性が強く出ているように思います。それは服装にも現れており、メイドたちはそれぞれ色違いのリボンで髪をまとめております。後ろ姿だけで誰か分かるように、という実務的な意味もあります。メイド長はオレンジのリボン、私は白のリボンですわ。

さて、妖精王祭儀ディノ・グラムニアの時期は前庭にて様々なイベントが行われておりますので、お立ち寄りの際はぜひクイズ大会ばかりでなく、各国大使館を見てみるのもオススメいたしますわ。我々メイドたちが歓迎させていただきますね」


メイド長、ドレーシャのコメント

「え、なんでリトちゃんが締めるの……」




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