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半熟魔法使いの受難  作者: 有沢真尋
【第三部】
31/47

暗闇(後編)

 最近。

 寝つきが良すぎるし、記憶も飛びがちだ。その自覚はある。


「自覚……………………」


 朝起きたら、寝台のそばに椅子を置いて、ジークハルトが上半身を寝台に突っ伏して寝ていた。


「お、起きてください」

「実は寝ていない」


 思った以上に、すっきりとして眠気の欠片も感じていなそうな声で返答があり、エリスはひえっと悲鳴を上げた。


「いつから起きていたんですか」

「うーん……夜明けの、朝日で寝顔を見るのが辛い頃からここにいた。何もしなかった自分を凄いなと思ってるけど、凄くなくても良いから何かしておけば良かったと後悔真っ最中」

「ジークハルト、心の声が漏れてる」


 ドヘタレ君主、言うことは言う。

 顔を伏せたままながら、あけすけとした言うジークハルトを、エリスは頬を赤らめてたしなめた。もとからまっすぐな気質は感じていたが、正直すぎるのもどうかと思う。


「エリス、俺の頭に手が届く? 寝ぐせつきやすいんだけど、髪どうなってる?」

「髪ですか。大丈夫だと思いますけど」


 そもそも寝ぐせがつくような体勢ではないのでは、と思いつつエリスは手を伸ばして、ジークハルトの明るい茶色の髪に触れた。軽く梳くように指を絡ませて、二、三度撫でつける。


「やばい……死んだ」

「何がですか!? わたしの手からは何も出ていませんが!?」

「嬉しすぎ死」


 ジークハルトのぐずぐずした物言いに、エリスは思わず寝具を引っ張って肩まで隠そうとした。


「そこ……恥ずかしいからいい加減やめてね。恥ずかしいから」


 呆れた口調のファリスが二回言いつつ近寄ってきた。


「あ~~~~~~、よし、起きる。おはよう!!」


 変な掛け声とともにジークハルトは顔を上げると、エリスの顔を見て来た。

 真っ赤。

 つられて、エリスも顔を赤くしたまま固まった。


「うちの王子が馬鹿すぎてやばい。間違えた、王様だった」


 国が国なら不敬罪で百回くらい死んでいそうなことをさらっと言って、ファリスはジークハルトの両肩に手をかけると、勢いよく椅子ごとひっくり返した。不敬罪……。


「さて、エリス姫。二日続けて男の寝台で目覚めとなりましたが、気分はいかがですか」


(悪女)


 エリスは心の中でのたうちまわってから、顔を上げた。


「お師匠様がいたような気がしたんですけど」

「保護者。いますいます、大丈夫。今バルコニーでエンデとディアナ姫と話しています」


 そう言って、窓の方を手で示してから、極めて何気ない口調で言った。


「エリス」

「はい」

「そうですか。エリスなんですね」


 なんの確認だろう、と思いながらエリスはもう一度「はい」と返事をした。

 ファリスが、端正な容貌にたおやかな笑みを浮かべて、小さく呟いた。


「おかえりなさい」


 おはようではないその挨拶は、まるでどこか遠くへエリスが行って帰ってきたかのような響きだった。



 ──エリスの人格は、戻らないかもしれない。



 エリスの目覚めに先立ち、アリエスが皆にそのように忠告していた。

 しかし、目を覚ましたのは「時」の魔導士ではなく「エリス」で、忘却の波に記憶を洗われながらもエリスとしての人格を残していたことが確認されると、育ての親大魔導士アリエスは得意げに言った。


「エリスはもともとの本人の性格に近いからな。単に忘れなかったんだろ」


 明るい声はなぜか一同の間に、寒々しく響いた。

 ディアナ姫が皆を代表して言った。


「『時』の魔導士って、もとからああいう感じなの? つまり、ちょっと抜けているのに、極悪の悪女で無自覚に男を振り回すの?」


 それに対して、アリエスは少しばかり情けなさそうな、もの悲しい表情で答えた。


「俺に言うなよ、それを」

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