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異世界剣士の流浪譚  作者: 邪悪丸卑劣之介
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異世界・車・イルマニ

 朝の風が草原を波打たせた。

 登り始めた陽が天幕の隙間から前田の顔を照らした。

 外に出ると一団は撤収準備を始めていた。

 前田が元いた世界ではこうした雑事は年少のものがやるものだったが、ゴールと一部の者をのぞいて、大人も子供も皆同じ作業をしていた。それだけ一団の人的資源が乏しいということを意味しているのだろうが、前田は今更ながらその少ない団の中で一人一人が無駄のない動きをしていることに気がついた。

 そう言えば、と前田は昨日一団に囲まれた時に感じた殺気の数が、一団の大人の数より圧倒的に多かったと思い出した。


 撤収が完了すると、前田は促されるままに車に乗り込んだ。

 てっきり前田一人で街に向かうものだと思っていたので、意外だった。

 同じ車にエーリアとフィアラベも乗っていたので、前田はゴールにもらった街の地図を同乗した者たちに見せてみた。

「―--マーダガリア-------!」

「マーダガリア--」

 皆「マーダガリア」という言葉を口にした。そしてその口調は決して不穏なものを秘めてはいなかった。

 皆が口々に出す中で、フィアラベが前田の隣に坐ると、幌を少し持ち上げ指差した。前田もその隙間から覗いてみると、地平線の先に連山がそびえている。昨晩見た地図では、大草原とマーダガリアの間には山脈が横たわっていた。恐らくフィアラベが指差す先にマーダガリアがあるのだろう。

 前田にはその道程がどれほどのものかは知らない。

 それでも今後の目標が定まったことに前田は安心した。「マーダガリア」が街を指すのか、街の名であるのかは分からない。それでもマーダガリアには女神マルキアと悪魔イミリアに関する何かがある。言葉が分からない以上は、とにかくそこだけが頼りだ。


 車の中ではそれぞれが勝手にくつろいでいた。

 この一団の人間は皆肌が浅黒く、一方で体毛の色が薄い。

 前田はこの機会にこちらの言葉を覚えようと思い、団員たちの会話に耳を傾けた。

 その内、「イルマニ」という言葉が頻繁に登場することに気付いた。しかし「イルマニ」の意味までは分からなかった。

面倒になってきた所に、声をかけてきた男がいた。

 男の手には昨日前田が使っていた大猪ラィンドーラの角が握られていた。

 ただ昨日と違うことには、握り手には布が巻かれ、反りが抑えられ、さらに切っ先は鋭く、骨刀として生まれ変わっていたのだった。

 その角を握ってみると、昨日とは違う手応えがあった。それは決して不快なものではなかった。それどころか前田の手にピタリと収まるものだった。昨日よりわずかに細くなっているようだった。それなのに重量はさして変わらないようだ。

 前田は不思議でならない。この男は前田に昨日会ったばかりなのに、どうしてこんなにも前田に合った武器を作り出せたのだろう。

 男は前田の表情を見てにんまり笑った。

「不思議で仕方ないだろう?」と、そういう笑い方だった。

 男は骨刀の柄の一箇所を指差した。そこは昨日握った際に、わずかにへこみを感じていた所だった。それが違和感なくなるまでに磨かれていた。それによって前田は握りの際に力むことがなくなっていた。

 男の作業に驚いていると、エーリア達が「イルマニ」と言うと、男から小刀や銃などの武器を受け取っていた。

「イルマニ?」

「イルマニ」と、エーリアは男を指差して言った。

「イルマニ」とは、この男の名であった。


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