異世界・草原の一団・地図
目を覚ますと、暗闇の中にいた。
再び死んだのだと前田は思ったが、その暗闇に光の切れ目が入ったかと思うと、闇がハラリと捲れ上がった。
「--------!」
光から現われたのはエーリアだった。
エーリアは前田に気づくと近づいてきて顔を近づけた。
前田はまだ意識がはっきりしておらず、自分が今どのような状況にあるのか分からなかった。
とりあえず手で腿を触れてみると手触りが布だったので安心した。
エーリアに手助けしてもらいながら、前田は起き上がった。わずかに立ち眩みしたが、構わず光の方に出てみた。
外では既に日が暮れており、一団は火を囲んで食事をしていた。
前田を取り囲んだ車は環状に置かれたまま、しかし今は幌だけでなく、天幕が張られ、簡易的な寝所となっているらしい。前田が出てきたのも、その内の一つだった。
「----!」
前田に気づいたゴールが手を挙げて迎え、その隣に座らせた。
一団の女が前田の前に飲み物と食事の用意をした。
皿の中にはゴロゴロとしたものが入ったあつものがよそわれていた。
ゴールは火の側に横たえられた巨大な骨と皿とを交互に指差した。
骨は大きさから見るに、ラィンドーラのものだろうと前田は思った。
前田はシシ鍋は食べたことがあったが、ラィンドーラは食べたことがなかった。
それでもゴールが勧めるままに、前田は「頂きます」を言って一口食べた。旨かった。
腹が減っていた前田は、寝起きなどなんのそのと、ペロリと平らげた。
平らげる度に、皿にはおかわりがよそわれ、前田は四杯食べた。
他の席では銘々に食事を楽しんだり、弦を張った楽器を掻き鳴らす者もいた。
前田が食事を終えると、ゴールは口を開いた。
「マルキア」
はっきりと、そう告げたのが分かった。前田が驚いていると、ゴールは懐から地図を取り出し広げて見せた。
それは決して精巧なものではなく、草原や山脈、街などが大まかにどこにあるのかだけを描いたものだった。
それでも地図の折り目などから、長く使いこまれてきたものであることがわかった。
ゴールは「エルサラミア」と言いながら地図上の草原を指差した。恐らく現在位置であろう。
そしてゴールは地図の遥か右に描かれた街を指差した。
「マーダガリア」とゴールは言う。
「この一団はこの街に向かうのですか」
前田はそう言おうとして口を噤んだ。
ゴールは懐からさらにもう一枚の地図を広げた。今度は街の鳥瞰図だった。
巨大な城壁で覆われた街の一隅にある塔を指差したゴールは、
「マーダガリア―-、マルキア----イミリア」と言った。
「イミリア」の名が出てきたことに驚いた。女神マルキアや、悪魔イミリアというのは、こちらの世界の名であるらしい。
そして街の鳥瞰図を畳んで、前田に差し出した。
「―------」
ゴールはにっこりと微笑んでいた。
しかし前田にはそれを受け取るのが難しかった。何故この人たちは俺にこんなによくしてくれるのだろう、と裏を勘ぐってしまう。勿論、これまで一団に受けた恩を忘れてはいない。マントをもらい、食事も頂いた。しかし受けた恩の数だけ、前田は不審がらずにいられなかった。
それでもゴールは前田に押し付けるようにして地図を渡した。
ならば前田がするべきことは一つだった。
「ありがとう存じます」
前田は深々と頭を下げた。
そして夜は更けていった。