異世界・草原の一団・エーリア
前田が草色のマントを羽織ったことで、気を許したのか、一団は前田の側に近付いてきた。
既に銃は下されている。
一団の男たちは前田が仕留めた大猪に集まり、先ほどの少女(前田より一つ二つくらい年下に見えた)は比較的幼い連中と共に前田をジロジロ見分していた。
少女は何度か口を開く内に前田が言葉が分からないと悟るや、己を指差して何度も「-----」と言った。
何度も聞いている内に、「エーリア」と言っているように聞こえてきたので、前田はそう声に出してみた。
「エーリア」
すると少女はにんまりと顔を崩すと、仲間たちの方を向いて何かしら楽しげに話し、そしてまた向き直った。
「-----、エーリア!―-----!」
少女の仲間たちは少女に対して「エーリア」という言葉を織り交ぜて会話していた。
どうやら少女は「エーリア」であるらしい。「エーリア」が何であるか分からないが、前田は少女を指差して「エーリア」と言うと、少女はうんうん頷いて、仲間たちを前田の前に立たせた。背の小さい順に、「ミーチ」、「フィアラベ」、「ウーサ」、「セクサリ」と呼んでいき、そして最後に再び自身を「エーリア」と呼んだので、前田は「エーリア」とはやはり少女の名だと確信した。
前田は壮年を指差し、エーリアたちに視線を送ると、口々に「ゴール」と呼んだ。
少し面白くなってきた前田は色んなものを指差して聞いてみた。
その度に子供達が嬉しそうに答えてくれるのだった。
大猪は「ラィンドーラ」。
前田が仕留めたラィンドーラの周りには一団の大人たちが集まり、その鱗を剥がし、角や牙を折っていた。
鱗の下からのぞく皮膚に刃物を突き立てていることから、食用にもするのではないだろうか。
二対の翼の鳥は「ミィスタグ」。
壮年の男、ゴールの僕らしく、彼の側を離れない。しかしその眼は常に主人以外の全てに睨みを利かせていた。
車を牽く馬と牛と鳥の合いの子のようなのは「ラィダーバ」。
一団は全部で八台の幌付きの車を所有しているようで、それぞれ一頭ずつラィダーバが牽いている。
今ラィダーバは車から自由になり、好き勝手に草を食んでいる。
その他細々としたものまでことごとく聞いて回ったが、それでも前田はエーリアたちと話すことはできなかった。
一団は野営の準備に取りかかっているようで、天幕を張ったりしている。
エーリアに聞いてみたいことはいくつもあった。
前田はこれからこの世界で生きていかなければならない。
これから先のことを考えていた時、大猪との死合いのことを急に思い出した。
それが前田の体に蓄積した疲労を一遍に甦らせたせいで、前田はヘナヘナと倒れこんでしまった。
子どもたちがいったいどうしたのかと集まってきたが、「何でもない」と言ってみても彼らには分からないのだった。前田には学が無いわけではないが、この一団の名を聞き出す方法を知らなかった。
これからの前田を待ち受けているもの、それらが重く前田にのしかかってくる。
前田はまぶたが自分の支配から逃れていくのを感じた。
「悪魔イミリア」
前田は呟いた。
言葉が分かるのなら、その者の名を聞こうと思った。