7本目 犯罪者と作戦会議
「毎度毎度、何でこんなやつに」
「頼んなきゃいけねぇのかしらねぇ」
俺と芽頭は、中腰の姿勢で顔を見合わせて肩を落とした。
平日の夕暮れ時。芽頭のガレージの中に止められ、卓球台みたいにだだっ広い大排気量の米国製セダンの黄色いボンネットに置かれた、台湾製ノートパソコンの前で。
俺達は、画面の向こうの相手に「作戦会議」と呼ばれて芽頭のガレージに来ていた。
「別に良いじゃん!もっと頼ってよぉ〜!この全知全能のかわいくてたまらない僕に!大船に、いや護衛艦に乗ったつもりでさぁ〜!とりあえず作戦会議!始めるね☆えーとまずは…。」
そのノートパソコンの画面の中で、ヘッドセットを付け、藍色の作務衣に身を包んだ、赤毛のレイヤーショートの髪型の“女の子”が弾ける様な笑顔で言葉を返す。ついでにウインクも添えてくる。やっべ恋に落ちそう。
そんな事よりも、今日は学校休みだっだろうか。それとも、また学校サボったか。
そういえば初登場だったなコイツ。一応紹介しとくか。
『範田 怜恩』
それが“彼”の名。
ピッチピチの17歳、“男子”高校生。
潤んだ瞳に、アメリカ人の母親譲りの端整で、甘々で胃もたれしそうなスイートでキュートな顔。そして柔道部出身の父親譲りのポジティブ思考。おまけに成績優秀で運動神経も良いというテンプレート付き。
あまりにもカワイイ容姿なので、学校内でファンがいるとか、繁華街を歩けば“男”にナンパされたり“アイドル”のスカウトに付き纏われるとボヤいてたな。殴りてえ。
嗚呼、こんな二物を与えちゃう神様も居るのかと悔し涙を流してアスファルトに額を擦りつけたくなってしまう程だ。てかもうジャ○ーズ行けよ。モデルになれよ。写真集出たらマジで買うから。出来れば女装コスのやつ。マジで。
でもまあ、彼も色々とあるようで…。
「さてさてさてさて!それでは2枚目の資料をご覧下さい!」
おっと。ボーッとしていた。俺は慌てて画面の向こうから予め送られていたA4の資料を手に取る。
「えーと、アザラシの交尾だっけ?」
芽頭が範田に真顔で聞き返す。お前も聞いてなかったのかよ。ちょっとアザラシの交尾がどんなものか気になるけども。
「僕はカブトムシの交尾が好きかな〜」
誰も交尾の好みなんか聞いてねえよ範田ァ!
「あのー、この地図に付いてる赤点達は、なんだ?」
交尾の話になりそうな所で、俺は資料として配られた衛星写真を指差しながら問う。衛星写真は、俺達の住んでいる地域一帯を写しており、赤い点が12ヶ所付いている。
「えーとね。ここ1ヶ月の間の被害箇所!実は同じ手口が隣町でも多発してるっぽいの!」
続けて「赤い点がそうだよ」と範田がすかさず補足する。中にはスーパーや銀行にも赤い点が付いている。
「1ヶ月でこれは多いなぁ。これマジ?」
「もちろん!色々クラッキングしたから間違いないよ!」
芽頭の問いに、範田が胸を張って答えたが、それは犯罪だと俺は思うよ、範田クン。カワイイのも罪だけど、これ以上罪を増やしてどうするよ、範田クン。
「それなら信じられるねぇ。」
芽頭も少しは疑念を抱いてほしい。
「で、これらの場所には必ず――、」
と、言いかけた所で、範田クンが得意げに右手人差し指を下ろした。エンターキーを押した様だ。
あの、よくあるやつよ。得意げにエンターキーを「ッターン!」って押すやつよ。あの、見てるとちょっとイライラするやつよ。あれ、やり過ぎるとエンターキー割れるらしいから皆様には気をつけてもらって…、今そんな事はどうでも良いんだよ。
範田の「ッターン!」が終わると、画面が切り替わり防犯カメラの映像が12分割に表示された。
駅近くの雑踏風景、人気の無い運送会社倉庫。ブラインドが下がった信用金庫の外観等々、画質も様々な映像が並んだ。そして様々な画面に映り込むは、同じ人影。
「同じ服着た奴が居るな…?」
俺が呟くと、範田が「それな!」と弾むように嬉しそうな声で反応する。
画面には白い帽子に青い作業服を着た人影。コイツがきっと“ホシ”だろう。背格好から男っぽく見えるが、画質が粗いのが気になる。しかしここまで調べるとは流石だ。
おそらくだが、範田は外出せずに情報を集めたのだろう。彼はこの手の情報収集に長けており、世界規模のハッカー集団『ハニーレモン』に所属してるそうな。ホントかどうか知らんけど。
ちなみに依頼時のハンドルネームは「スズミヤ」と名乗るらしい。組織の規定に則って名乗っているらしいけど。そのセンス、どーにかならなかったか。いや元ネタは名作だけども。
しかしながら凄いなぁ。範田クンは。きっと、犯人の居場所も特定してるに違いない。
さて、それじゃあコイツの正体を明かしてもらおうか!勿体ぶらずにさ!遠慮なくさぁ!
「…じゃあ後はよろしく。僕FPSやるから。」
「「………は???」」
芽頭と意見が合致したようだ。思わず呆れと怒りが混じった返事が飛び出した。もう前言撤回ですわ。とんだクソニート野郎ですわ。ぶち殺すぞですわ。ポテチの袋が開けにくい呪いをかけて差し上げますわ。
「だって仕方ないじゃん?これでも頑張った方だし?てか早くゲームやりたいんですけど?むしろお金欲しいぐらいだし?僕は探偵じゃないんだけど?ハッカーなんだけど?なんだろう、勝手にマッターホルン並みの期待するの止めてもらえません?」
画面の奥から範田が呑気な声で答える。芽頭は顎に手を当て、俺は頭を抱えた。こんなに情報少ねえのかと。まあいつもの事だけども。あー、今回は堪忍出来ねえ。俺は思わず声を上げて今までの不満をぶちまける。
「おめえさ、前に『任せてよ!この“天才ハッカー”にっ!』って言ってたじゃん!ハッカーってのは、キーボードをカタカタ叩いて犯人の居場所特定して『ビンゴ!』って言うもんだろ!?範田ァ!毎回毎回寸止めだよなぁ!範田ァ!」
あ、コイツ俺の事無視して、呑気になんか喰い始めたぞ。チョコバーか?チョコバーなのか?自宅に山程ストックしてるチョコバーか?
範田が付けたヘッドセットマイクが拾った咀嚼音や袋がこすれる音が高音質で流れる。完全にお仕事終了モードである。
おまけにお茶も急須で入れ始めた。ジョボジョボ聞こえる。これがイマドキの高校生か。最近の高校生はイマイチわからん。
あー、なんか俺もヤル気失くした。とりあえずタバコを吸って帰ろう。
今日の晩御飯は何かなー。想像つかねえや。そーいや昨日はサバうどんだったな。生臭くて辛かったなー。なんで水煮やサバ味噌煮じゃなくて生のサバをブチ込むかなー。
「……これ、先週合鍵作ったところだわ。」
顎髭を触りながら考えていた芽頭が、ポツリと呟くと、ボリボリと聞こえてた咀嚼音が止む。つられて俺も、点火しようと煙草に添えたライターを仕舞う。
「マジで!?」と画面の奥から元気な声が音割れして出力される。
その声に「あぁ」と芽頭は冷静に答えると、デスク代わりにしていたセダンの隣に置いてある一斗缶に、俺の口から毟り取った煙草を放り込み、話を続けた。
「思い出したわ。この前、社用車の鍵が無いとか言われて、軽バンの鍵作ってよぉ。確かここに…」
そう言いながら、ガレージに止めていた、目の醒めるような黄色に塗られた社用車のハイエースに飛び込むと、「あったあった!」と意気揚々にA4サイズの納品書を持って転がる様に出てきた。慌てないで芽頭。
「えーと、『鞍馬産業株式会社』ってとこ。だと思う。」
卒業証書を渡す教師の様な体勢で芽頭が読み上げると、「ビンゴッ!芽ッちゃんナイス!」と明るい掛け声をあげる範田。
ふと気になった俺はスマホを取り出し、無駄に速くなったフリック入力で検索すると、同じ様な制服に身を包んだ笑顔の従業員の画像が出てきた。どうやら清掃業者みたいだ。加えて、賃貸物件の清掃もやっているらしい。
余談だが、サイトに掲示された写真は皆揃って引きつった様な笑顔ばかりだ。笑顔が下手なだけであればいいが。
「さてと、それじゃあ身元割り出しますか!」
先程からは想像出来ない程のテンションで範田が声を上げると、画面の奥でキーボードとマウスの音が忙しなく聴こえて来たが、すぐに止んだ。
「じゃーさ、誰か爆弾仕掛けてきてー。」
「…は?」
分かっているとは思うが、範田が仰る爆弾とは、本物の爆弾の事ではない。
直訳すると「強盗や器物破損してこい」と仰っておられるのだが、他人に聞かれるとマズイので、こんな回りくどい表現をしてるそうな。面倒くせえ奴。
しかし、「何故そんな事を。」「ハッキングした方が早いだろ。」と思われるかもしれないが、理由は簡単。範田からすれば、簡単で手間いらずだから。
どんな強固なセキュリティでも、範田クン特製のUSBメモリを直接ブッ挿せばパスワード関係なく情報を自動的に盗れるし、膨大なデータを盗みたければ、いっそ機器本体ごと持ち帰れば速いし、サーバーを破壊したければ、クラッキングよりも物理攻撃が一番確実。
そして何よりも、範田の場合は乗り込ませるのに適任な人材がいるというのも大きいだろう。例えば、死ぬリスクが無い俺とか。
でも、もう本当にやりたくない。精神的に疲れるし、報酬も安いし。あれだけやって一回二千円って…。せめて二十万くらいは欲しい。
「あのー、芽頭とかどうですかねぇー」
「無理っすわ。顔知れてるし、明日は彩葉ちゃんと遊ぶし。」
だよなー。鍵作った取引先だし、何より見つかれば会社の信用に関わって――
「彩葉ちゃんとぉ!?!?」
「あ、まだ話してなかったかね」
俺は絶叫したが、芽頭は顔も変えずに答える。え、いつ?いつそんな事になったの?え?でまかせ?何?
喧嘩売ってんの?
「今付き合ってんのよ。ホント、良い子だよな〜。優しいし。あとデカいし。」
「あふっ」
あまりのショックに俺は、変な断末魔と共に絶命する。
が、ふつふつの煮えたぎってきた怒りを燃料にして息を吹き返す。
偉いぞ自分!お前はここで亡くなる無力な漢じゃない。さあ彩葉ちゃんを取り戻さなきゃ。そう、ここで彩葉ちゃんを、取り戻す。日本を、取り戻す。そういう、所存で、日々を生き抜くつもりで、あります。日本と、彩葉ちゃんを取り戻す。
てか彩葉ちゃんは…、お前の事なんか!お前の事なんか何も思っちゃいない!絶対だ!絶対に何も思っちゃいな
「前みたいにメールで地雷踏ませればいいじゃないの。」
復讐を誓い、手元にあったスパナを振り下ろそうとしていた俺をよそに、芽頭がコーラを開栓しながら提案をするが、範田は「冗談よしてよ」と笑った。
「フィッシングなんか仕掛けても迷惑メールで弾かれて終わりだって。」
「なら信憑性のある内容でさ。あっ、SMS使えばいいじゃないのさ。」
範田の意見に、芽頭はすかさず反論した。その意見に範田は「た、確かに…」と苦虫を噛み潰したような顔で納得した。
最近よくある、配達業者等を名乗り、「不在通知」や「支払いトラブル」等と、とっさに反応したくなるようなメッセージが送られてくる手口だ。
今まではメールアドレス宛に送られてくる事が多かったが、最近は電話番号を用いたSMSを用いて送られる手口が多く、程よい緊急性のある内容が気になって、ついつい引っかかってしまう人が多い。
「で、でもでもでもでも!電話番号に送るんでしょ!?欲しいのはサーバーの情報だよ!電話では意味ねえじゃん!はい論破〜!翼、爆弾よろしくね!」
なんかグチグチ言って満足そうに範田がドヤ顔してる。なんだアイツ。ムカつくな。
でも満足そうなドヤ顔の範田カワイイ。眼球舐めたい。
「いや、でもよ。あいつら、社用のスマホでシフトや施工写真のやり取りしてたな。」
「なっ…!」
ダビデ像の如く、顔色一つも変えない芽頭の反論に、範田のドヤ顔が崩れていく。
芽頭が言いたいのは、「社内ローカルネットワークと業務に用いるスマートフォンが繋がっているのではないか」という事だ。
最近は職種に関わらず、どこでも人員不足。街のコンビニやスーパーの店員に、公共交通機関や宅配便トラックの運転手や、公務員である警察や役所関係の職員、更には医者や看護師などなど、どこでも手が足りなくて悲鳴のリサイタル状態。
出来る事なら、書類等の無駄な手間を省き、タイムラグのないやり取りが出来れば助かる。
そうとなれば、便利なIT化に手を出すのは必然的だろう。スマホだけでオフィスと現場のやり取りが直接出来れば尚の事。
「そのスマホで通話もしてたしな。でも最近導入したからか、不慣れなオッサンも多かったなぁ〜。」
「へぇ…そーなんだぁ。」
さらに芽頭が言葉を続けていくうちに、範田の顔が“仕事顔”に変わる。
いつものキュートな顔から、異常に口角が上がり、眼球も水を得た魚のように、ギラギラと輝いている。
ディスプレイ越しだというのに、尋常ではない雰囲気も感じ、毎度のこととはいえ圧倒されてしまう。もう眼球舐めたくないです。
そして無言のまま画面から顔を背けた範田は、何やら別のキーボードとマウスを狂った様に弄り始める。
先程までのキュートな範田は、もう居ない。画面の前に居るのは、犯罪組織の一味、『スズミヤ』と名乗る犯罪者だ。もう眼球舐めない。
「よっしゃ!釣れたー!」
無言のままキーボードやマウスを叩いて2分程。もう釣り上げたらしい。
何をどうやったのか、こちら側は全くわからないが、こんな夕暮れ時に釣られた社員は、疲れ切った顔で着信のあったスマホを眺め、何も考えずにリンクを踏んでしまったのだろうか。
範田の事だから、リンク先はアダルトサイトだろう。アイツ、おっぱい大好きだからな。ビビってブラウザを閉じる社員さんの顔が、容易に想像出来る。せめて登録外着拒しとけよ。とりあえずご愁傷様です。
「さてさて。おっ、履歴書出てきたよー!」
真顔になった範田が呟く。どうやらリンクを踏ませてウイルスを仕込んだだけでなく、会社のサーバーにまで侵入していたらしい。
てか履歴書が電子化されてるって、かなりIT化進んでんな。セキュリティの面はイマイチだったみたいだが。
「ダメだねー。居ない…」
範田が呟く。履歴書には見当たらないみたいだ。
そこに芽頭が、コーラを飲み干しゲップをしながらアドバイスをする。
「こんな事するぐらいだから、もう辞めてんじゃねーの?下っ端のシフト表とか無い?」
芽頭の意見は一理ある。スリル等を求めなければ、犯罪行為をやる必要なんか無い。
ましてやIT化も進み、宣伝写真では引きつっていた笑顔でも、先程調べたクチコミでは待遇は良いと評価されてるそうだから、金銭面で困って犯罪に走る可能性も低い。
そもそも、身元が割れやすい制服を着込んで下見なんて事をすれば、会社内での立場も危うくなり、リスクも高い。だとすれば。
「つまりは辞めて、表から名前が消えてる奴が」
「カメラに映ってた奴ってこったな。」
あ、俺のセリフ、芽頭に取られた。
「ビンゴだよ芽っちゃん!ポリのデータにも引っかかった」
範田が、地毛である赤毛のサラサラな毛先を触りながら告げた。警察のデータベースも覗いていたらしい。
そもそもショッピングサイトでも見る様に気軽に犯罪者データベースにアクセスしちゃダメだと思うよ。範田クン。
いや、俺だけ感覚がおかしいのかな。範田クン。
「強盗と空き巣の常習犯。あと昔ラグビーやってたみたいだよー!」
範田クンお決まりの「ッターン!」と同時に、画面が切り替わり、犯人の顔と情報が表示された。
「秋瀬 剛。いかにもって感じだねぇ。」
範田が犯人の名前を読み上げる。画面には真四角で冴えない男の顔が表示されている。いやホント真四角だな。スルメばっか喰ってたのだろうか?
「どうだ?コイツだったか?」
まじまじと見ていた俺に、芽頭が問いかけるが、「いやフード被ってたしちょっと…」と言うと、深い深い溜息をつかれた。範田も溜息を漏らした。
いや、顔見る前に死んじゃったから全然覚えてねえよ。なんだよ。みんな揃って溜息つきやがって。畜生。
「で、でもまあ、コイツの取引先にさ、彩葉ちゃんのアパートもあったよ。草刈りとか清掃もやってるみたいだし、やっぱりコイツだよ!ねっ!」
呆れきった空気の中、範田が渋々助け船を出す。と同時に、清掃や草刈りの施行写真が表示される。階段やくたびれた外壁もほとんど同じ…、な気がする。
「じゃあ決まりか。…で、どうやってお灸添える?」
呆れきった芽頭が、コーラのキャップを開けながら作戦会議を進める。
「そうだねぇ。さっきのカメラ見る限り、ここのレストランだけが、まだ被害にあってないんだよねー。」
範田が画面を先程の防犯カメラ映像に切り替える。昼時の賑わう店内を映した映像だが、あの作業服の男が、周囲を観察しながらも堂々とオムライスをパクついているのがよくわかる。
おっ、なんか追加するみたいだ。店員が駆け寄ってオーダーを聞いている。
そこで俺は、変な違和感を感じた。この店員、どこかで見たような…。あっ。コイツ――。
「…一海じゃねぇか!!!」
俺の大声に驚いたのか、芽頭がコーラを思いっきり吹き出す。
「えっ、一海ちゃんのバイト先!?マジ!?」
範田が驚く。そーいやコイツ同じクラスだったか。
しかし驚いた。あのメシマズ妹が、レストランでバイトしてたとは。しかも犯人と対峙してたとは。バイト先を頑なに言わなかったのはそういう事か。なんか意地張っててカワイイですねぇ。
「決めた。僕、毎日通うよ!一海ちゃんの働く姿拝みに行くー!死んでも行くー!」
「うるせぇぞ範田ァ!来んな!」
コイツ、前から一海を狙ってんのか、しつこく聞いてきた事があったな。何なら「一海ちゃんのパンツくすねてきて!」って、目の前に現ナマ積み重ねて土下座してきた事あったな。もちろんグーで断ったけども。
「翼お兄ちゃん!一海ちゃんのシフト表とか持ってない?絶対会いに行きたいからさ!3万で!あ、待ってやっぱ7万!いや10万出す!」
「競りを始めんな範田ァ!あと俺もバイト先レストランは初耳っすわ範田ァ!」
「んじゃあ、なおさらアイツを締め上げなきゃならんね。」
ギャーギャー言い合う俺と範田をよそに、汚したボンネットを拭き終えた芽頭が立ち上がる。
「…まぁ、そうだな。」
「一海ちゃんのバイト先は、僕が護るー!」
「じゃあレストラン周辺の警備強化って事でいいね。」
その後、対峙した際の立ち回り等を相談し、作戦会議は終了した。
ちなみに今夜の夕飯は、一海が作ってくれた『合い挽きハンバーグ』だった。
今回は珍しくレシピ通りに事前に食材を揃えて作ってくれたらしく、一海の小さな秘密を知った故なのか、更に美味しく感じた。