6本目 犯罪=牛丼
「で、逃げられたもんな。笑うしかねえな。」
所と日にちが変わって芽頭のガレージ。気怠そうな西日が照らすのは、相変わらずR15なグラビアアイドルのポスター。てか2枚増えてる。そして相変わらず色々ハミ出てたり解けている。あえてここでは詳細な説明はしない。ちなみにビキニの色はそれぞれ水色とピンクの花柄。それぞれ「M字開脚」と「雌豹のポーズ」だ。イイね。
そんな異様なガレージで、芽頭が呆れ顔でコーラを開栓しながら、一口流し込む。事務用の回転椅子でグルグル回りながら。たぶん30rpmくらいで回ってる。よく気持ち悪くならねえなアイツ。
さて、あの事件から既に一週間が経過していた。
「押し入り強盗」という見出し付きでマスメディア達のおもちゃになっていたが、一週間も経てばマスメディア達も飽きてしまうらしく、人々の記憶に残る事はなく忘却の彼方へ流されていった。
そして当の俺は一回死んで蘇った後、あの男のニオイを頼りに追いかけたつもりだったが、やはり“再起動直後”は身体に負担がかかったらしく、ドアを開けて数メートル歩いた所で哀れにも俺はブッ倒れた。倒れた時に打ち付けた鼻が未だに痛む。
通報は、なんと妹の一海が通報してくれたらしいが、結局犯人は見つからず、警察も犯人探しに苦労しているそうで、あの“巡査”も肩を落としていた。
「俺がわざわざスマホ届けに来るほどの博愛主義者で良かったねぇ。」
「…はい。」
啖呵を切って追いかけたのを恥ながら、ドラム缶を再利用したスツールに座ったまま返事をすると、芽頭の回転が止まった。いや、右足で回転を止めたようだ。
「ところでよぉ。アイツ、タダの人間じゃねえぞ。」
ふらふらっと立ち上がった芽頭が、飲んだコーラをガレージの隅にある排水口に吐き出しながら語り始めた。
お前は吐かない漢だと思っていたのに…。
「錠前の強度、バカなお前でも分かるだろ?」
「そんくらいわかるわい。」
分かっている。分かっては、いる。
でも、あの錠前の壊れ方は、妙に覚えていた。
絶対的な信頼性を誇るといわれる、某日本企業製造のシリンダー錠が、まるで油粘土を指の腹で掬うように切り落されていた。
あれは人間の仕業じゃない。緑色の巨人や未来から来た殺戮ロボットの仕業ならまだ脳味噌が理解できる。
でも、対峙したのは人間だった。デカくもなく、普通のオッサンみたいな体型だった。妙に突き飛ばす力が強かったが。
「…なんか工具とか使ったんじゃねえのー?」
ハリウッド映画のモンスターじゃあるまいし。と、俺は呑気に言ってみる。
が、言葉を紡ぐ途中で矛盾点を感じた。
「だったら他の侵入経路探すだろタコ。」
そりゃそうだ。わざわざ錠前を破壊しなくとも、侵入は出来る。そもそも空き巣や強盗の手口は、簡単で手間のかからない、そして意外と大胆な方法で行われる。そしてデカいリターンがあればより良いから、下見もしっかりする。
「安い」「早い」「美味い」の要素が揃ってこそ、犯罪は行われる。要するに牛丼みたいなもんか。おっ、今回の例えは中々しっくり来たぞ。今まで以上にしっくりキテる。オマケに両方には“罪深き味”という共通点もある。やべぇ最高にしっくりキテる。やべぇ。
ちょっと脱線したが。
前に芽頭が言っていた言葉を引用すれば、「窓を割って入る」か「訪問者を装う」方が一番楽である。わざわざ錠前を苦労して壊す必要も――
「待てよ、それじゃあ…」
「“その方法が一番楽だった”からじゃねえのか?」
その言葉にハッとした。犯人にとっては、錠前を壊す方が一番楽だったのかと。芽頭は更に言葉を続ける。
「現に、オマエもなかなかイカれてる存在だしな。“オマエみたいな存在”が、もう一人いても不思議じゃねえだろ?」
確かに。世の中には超人みたいな人は居る。「火の上を歩く」とか「デカ盛りを平らげる美女」とかよくテレビで見るし、なんならオリンピック選手達は超人だらけの連中だし、オレみたいな存在が居ても可笑しくは無いか。
ハハハッ。
「いやおかしいだろ!」
「お前が言うなよ…。」
オレにツッコミを入れた芽頭は、気怠そうな仕草で事務机の引き出しから取り出したA4コピー紙の束を、ガレージに止められているシートが被さった車のボンネットフードに叩きつける様に置いた。
「“スズミヤ”が集めた情報だ。練ろうや。」
芽頭から出た人名に「またあのクソガキに頼るのか」と思いつつ、俺はスツールから立ち上がった。