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ギブミーカフェイン!  作者: バケツロリータ
2箱目 目覚めよ、クソ兄貴。
13/17

5本目 故障かな?と思ったら

「赤丑さん…!?赤丑さぁん!!起きて!」


 さて、どこから話そうか。ここに至るまで色々あったから説明も面倒くさいんだよね。おまけにオレは瀕死の状態だし。


 でも愛しの彩葉(いろは)ちゃんに肩を叩かれ迫られるのは悪くない。それに、Tシャツ越しに伝わるフニッフニッとした2つの感触も最高なのだが、そんな事よりも何よりもシャンプーの香りが良い。どんなシャンプー使ってんだろ。すげーエエ香り。オレが吸う酸素全部この香りにして欲しいくらいに好き。好き。結婚して。結婚しよ。


 …あー。失礼。ついつい下心が。


 これ以上ない程にムラムラしてきたけど、丁寧に説明するね。ふぅ。よし。


 えーと、遡る事約6時間前、芽頭のガレージにて鍵の修理を頼んだオレは、颯爽と帰ろうとしたものの、芽頭の眼力によって帰路を阻まれ、オレの愛馬であるスーパーカブは点検整備と言う名の“フルレストア”を受けてしまうのであった。


 具体的な修理箇所は、フロントブレーキワイヤーの断裂に速度計の故障、ウインカーとリアブレーキレンズ割れにヘッドライトの球切れにリアフェンダーの腐敗による破損とオイル漏れと、それからタイヤの摩耗にスポークの破損とハブベアリングの摩耗とガソリン漏れとステップの湾曲と…。


 とにかく作業中に「これが“メイドインジャパン”…」と、芽頭が一人でボヤくレベルだった。


 それから無事に“修復”が終わったのだが、ここですんなりと、オレの1日が終わるわけが無いのである。


 それは、残り10キロ地点で起きた。





 スーパーカブが動かなくなったのだ。


 オレは降車して、あらゆる理由を探ったが、それはシートを起こして直ぐに判明した。

 ガス欠。スーパーカブは、座席の下に燃料計と燃料タンクが備わっている。今でこそ燃料計が、速度計の隅っこに付いているオートバイは多いが、この古いスーパーカブは座席下のみに燃料計があるのだ。

 それは、すなわち走行中に確認できないという事。そして、このトラブルは『自業自得』という事。


 ちなみにだが、芽頭の自宅からオレの自宅までは片道40キロ程。その間に3つの市が横たわり、所要時間は交通事情を加味して1時間とちょっと。


 芽頭を呼ぼうとも思ったけど、時間帯も考えて、歩く事を選択し――、


「赤丑さん起きて下さい!赤丑さん!しっかりして!!!」


 あぁ〜!凄い良い香り〜!ちょっと別の良い香りキテるキテる。そして相変わらず布越しに伝わる2つの感触。オレの明快な推理によると、今の彼女はノーブラ。そしてサイズはGカップ。あとオレのシャツ含めると、たった3枚向こうは裸。こればかりは間違いない。興奮してきたな。

 そんな事よりもボディソープ何使ってんのかな。めっちゃ気になる。服の洗剤もどんな使ってんだろ。すげーエエ香り。もう一度言うけどオレが吸う酸素全部この香りにして欲しいくらいに好き。なんならトイレの芳香剤にしてもらいたい。大好き。結婚して。結婚してくれよ頼む。




 あ、ゴメンネ。話戻すね。


 えーと、そんなこんなで、『歩く』を選択したオレは、10キロの長い道のりを原付バイクを押しながら歩み、自宅まで残り10mぐらいのところで、アパートから賑やかな音が聞こえて来た為に、少し寄り道をする事となった。

 本来なら、部屋の前で物音を聞いて110番でも。なんて思っていたけど、スマホは芽頭の家に忘れたらしくて見当たらないし、それよりも中から聞こえた悲鳴に聞き覚えがあった。


 あ、この声、同じバイト先の『富士野』さんじゃないかと。オレには謎の、いや愛ゆえの確信があった。


『何してんだテメェ!!!』


 もう後先考えずに飛び込んじゃったよね。震えながらもケツの穴を絞り込んで出した、大きな声あげてさ。


 部屋の扉の鍵も、“何か”で撃ち抜かれた様に破壊されてたし、銃でも持ってるんじゃねえかとすげぇ怖くて、ヌルめの小便を3滴ほど漏らす事になったわけだが、それよりも扉を開けて室内に入り込むと――その時のオレがシラフだったからのも理由としてあるのだが――何よりも黒ずくめの男が女の子の上に馬乗りになっているという光景にビビってしまったのが理由である。怖過ぎてこのまま引き返そうなんて思った。

 でも、戸を勝手に開けて叫んだのだから引っ込みようがない。


 とりあえず突進して、馬乗りになっている黒ずくめの男と取っ組み合い!

 なんて思ったけど、突進したところで思いっきり張り手で飛ばされ、ローチェストの角にめり込む勢いで頭をぶつけて――。


「赤丑さん…。そんな…、うぅ…。」


 このザマである。あーあ。男は逃げていったし、オレは意識不明で実質即死みたいな状態だし。彩葉ちゃんの胸に抱かれた状態で、なんかカッコ悪いなぁオレ…。

 でも、彩葉ちゃんがオレの為に泣いてくれてる。ちょっと嬉しいネ。バイト先ではそんなに関わる事は少ないけど、オレの顔と名前を覚えててくれるなんて、あと大きな果実に埋もれる程抱き締めてくれるなんて、オレは地球上で一番の幸せ者や…。


 でもなー、コーラ飲んでおけば良かったなぁ…。


 あと、彩葉ちゃんとイチャコラしたかったなぁ…。


 でも、もう、終わりみたいだなぁ…。


 そう思いかけたところで、彩葉ちゃんの泪が、オレの頬に触れて弾けた。










「失礼します!」


 ドアを凄まじい勢いで蹴破る音と共に、今度は聞き覚えのある別の声が聞こえてきた。まさか、この野太い声は――。


「おい翼!どうしたんだ!?」


 め、芽頭じゃねえか!!!何故?何故此処に!?


「ひっ…!だ、誰…!?」


 おいバカ!彩葉ちゃんが怖がってるじゃねえか!しかもタンクトップに迷彩柄のカーゴパンツかよ!

 とりあえず、そのゴリラみたいなナイスバルクと軍曹みたいな服装センスを自重しろ!


「すいません。実はこういう者でしてー」


 おい馬鹿野郎!急に営業時のテンションになるな!あと名刺渡すな!

 彩葉ちゃんも「あ、鍵屋さんなんですね〜」とか名刺見て感心しないの!やめて!オレの死が軽くなる!


「俺、こいつの連れでして…、あ、なんかコーラとかカフェイン入ったのあります?」


 おぉっ。流石はオレの親友。オレだけに有効な蘇生術を知っているとは気の利く奴じゃん。


 突然だが説明しよう!オレは「カフェインを取れば不死身なスーパーメェン」になれる体質なのだが、シラフで死んだ時も直ぐにカフェインを流しこめば生き返るのだ!


 全く、都合の良い設定である。


「た、確か冷蔵庫に」


 ちょっと震えるような声で、彩葉ちゃんが冷蔵庫を指差した。

 それに呼応する様に、巨漢が素早い動作で冷蔵庫の扉を開け、目当ての物を取り出す。


「えー、丸々一本後で弁償しますんで!」


 そう言って芽頭は、オレの前に跪く様にしゃがむと、勢いよく『パプシコーラ』の“1.5L”を“振って”開栓し、




 待ってくれ。




 “1.5L”を“振って”だと?

 振るんじゃないよ、このバカチンが!



「オラッ!オレのコーラ受け取れ!!!」


 オレの半開きになった口にぶち込む。

 正確に言うと彩葉ちゃんのコーラだからな!それは!

 どうでも良いけど、なんか『彩葉ちゃんのコーラ』ってなんかヤラシイな。興奮してきたな。


 そんな訳で、オレは『彩葉ちゃんのコーラ』に溺れた。

 人は溺れると、どうにも生存本能が働いて手足が動いたり酸素を吸おうと身体が勝手に活動したりするみたいで、オレも例外ではなかった。










「…んぐぉふぉ゛ぉ゛!!!!!げっぼげホゲほうぉぉおお゛ぉぉぉっ゛ぼおおおおお゛ぇぇぇぇぇぇぇええ゛え゛えっぶぁっっっっっっっっっ゛!゛!゛!゛!゛!゛」



 オレは見事に現世(クソ)に蘇った。


 好きな人の家でコーラを口腔内から撒き散らしながら。



「きゃぁぁぁぁ゛あ゛あ゛あ゛あああああああああああああああ!?!?!?!?」


「うわあ゛あああああああああああああああああああああ!!!?!?」


 堪らず彩葉ちゃんが金切り声を上げて、やたらとダイナミックな尻餅を付く。

 無理もねえよ。バイトの先輩が突然お仕掛けてきたらローチェストの角に頭ぶつけて死んで、そんでもって友達名乗る奴が乗り込んできて自宅のコーラを勝手にぶち込んだら、コーラ吹き出しながら蘇生するもんな。服も床もビチャビチャだわこれ。かっこわる。


 だけどもちょっと待て、芽頭が驚くのはおかしいだろ。まあ慣れてたら、より可笑しいか。ゎら。


「うっ、ゲボッ。げぇーっぶあー死ぬかと思った。」


 オレはありのままの気持ちを、咳込みながらコーラと共に外に出す。生き返った直後だからなのか。走馬灯が眼球内でチラつき、頭部に痛みが蘇ってきた。


「…よ、よっしゃ!馬鹿が生き返った!」


 芽頭が笑いながらガッツポーズをする。さながら敵国を攻め落としたローマ兵の様だ。生のローマ兵を見たこと無いけど、多分あいつらは戦いに勝ったら、こういう笑顔してたんじゃないかな。知らんけど。


「す、凄い…、本当に…。」


 彩葉ちゃんは凄まじい程にドン引きしてるけど。泪で腫れた目がめちゃくちゃ引きつってるし。

 芽頭も無理矢理ハイタッチを仕掛けようとするなよ。更に引いてるやん。でもハイタッチしてくれる彩葉ちゃん、優しいねぇ。


「…さてと、芽頭。後は頼んだ。」


 2人のリアクションに少し満足したオレは、かち割れて液漏れしている頭を抑えながら立ち上がると、玄関の方へと身体を向けた。


「…えっ!どこ行くんですか!?怪我してるのに。」


 彩葉ちゃんが少し驚いた顔で、オレに問いかけた。

 何処に行くって。そりゃあねぇ――。


「…お灸を添えてくるんでさぁ。」


 オレは、ちょっと自慢げな顔で答えて見たが、彩葉ちゃんは『お灸で怪我治すのか?』なんて考えてる様な顔でオレを見つめていた。


 そういう所、かわいいねぇ。

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