蝶は舞う、美しく
「蝶って舞ってるように見えて美しくないか?」
それは私は彼にある感情を持っていない頃、ただ純粋な憧れだけを抱いていたころの会話
確か私は
「そうですか?私はただ飛んでるだけにしか見えません」
なんて言ったと思う
自分のことだけどちょっと悪い回答だったと思う
だから彼も苦笑いをして私のことを見ていたんだと思う
でも
そんな表情は二度と見ることはできない
「起きてよ!」
血を流しているあの人は見るからに死んでいて
もうだめだって誰もが心のどこかで思ってた
だけどみんな信じることが出来なくて「起きろ」なんて言ってしまうけどわかっているんだ
もう朝が弱いからよく寝坊して寝癖をつけたままにしていたあの姿は見れない
もうみんなの暗い雰囲気を明るくしようとしてスベッてしまった時の恥ずかしそうなあの顔は見れない
もう仲間のためにいつもとは違う真剣で頼れるあの声は聞けない
もう動いて喋って見ている楽しそうなあの彼は見れない
そう見れないのだ
でも
だから
私は変えてやるんだ
未来を!
聖魔法は神の魔法とされる
つまり神の力を一時的に借りる魔法なのだ
だから私はその力を持って
奇跡を創る!
「退いて!」
「えっ、シェ」
「いいから!」
私の愛用していた杖を彼の近くの地面につける
私の作った魔法
いや、私の創った奇跡
それを使って悲しい未来を変える!
初めて使う魔法は真っ赤な魔法陣を作り私の杖を中心として傷ついていたみんなをおおった
とても美しいそれにみんな驚き動けなかった
だから今のうちにやらなければいけない
私の全力で!
「我が奇跡の力、全てを癒し全てを照す太陽、神による未知を我解き明かしたり、我の全ての力を変えよ、全ては元の姿へ」
「あいつ!ルリカ止めろ!」
「えっ?」
もう遅いんだ
私は決めた
全てを使うって
「我が神よ、力を!完全なる再生!」
蝶が飛ぼうとする
私には出来ないこと
彼の動く姿を見ること
でも蝶は見守っている
彼らが生きる姿を
蝶は舞う、美しく
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目が覚めるととても美しい赤色の蝶が舞っていた
死んだはずの僕はまた再び起き上がる
でも仲間達はみんな泣いている
ただ一人を除いて
いつも見せる優しい笑顔
仲間が問題を起こした時に見せる困ったような笑顔
親を無くした子供のために見せた怒った顔
その全ては止まってしまった
思い出でしかなくなってしまった
彼女は場違いな幸せそうな顔をしながら倒れていた
僕達の傷はなかった
だけど彼女だけは傷だらけで端から見たらおかしな光景なのだろう
でもそんなことばかり気にしてはいけない
彼女は自らを犠牲にしてみんなを助けた
なら僕は?
僕は僕のために死んだ
勇者としての僕を守るためにみんなを巻き込んだ
その結果がこれか?
僕はたった一つのプライドのために命を失いその命を庇って彼女が命を失う
そんな馬鹿げた話あってたまるか!
全てを正常に戻す
それが僕の冒険!
だったら僕は戻してやる
変わってしまったこの世界を!
「不完全な繰り返し!」
蝶が飛んでいる
僕に出来ること
彼女の笑顔を残すこと
だから蝶を止めてやる
彼女が生きる世界の為に
舞うことは許さない、絶対に
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またダメだった
彼女が身代わりになって勇者が巻き戻す
でも不完全だから記憶は戻らない
だから俺が代わりになる
何度繰り返しても助けてくれるあいつらのことを
全ては俺の自己満足であっても構わない
俺がいない未来でもいい
それは仕方ないことなのだ
あいつらのためなら俺は犠牲になる
俺を苦しみから解放してくれたのが偽善だったとしても構わない
狂ってると言われても構わない
俺は俺のためにあいつらを助けるんだ
何の問題もない
人間自分のために動くのが一番動ける
だから助ける
最高の終演の為に!
蝶が休んでいる
俺に出来てあいつらには出来ないこと
最高の未来を作ること
それなら蝶を飛ばしてみせる
美しい未来に向けて
狂ってやる、美しい終わりで
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神は笑った
とても素晴らしい終わりを繰り返す彼らに対して
不可能を可能にした彼女
己のために全てを戻す彼
彼らのために奮闘する者
予想外な出来事によって引き起こされた現象は全ては神の手の外に
奇跡によって彼らは苦しみもがく
なんという悲しい結末だろうか!
奇跡を願う少女によって引き起こされ、プライドのために戻し繰り返す少年、それを知って自らを犠牲にして戦う青年
とても美しいじゃないか!
そしてとても面白い!
全てを予感できてしまう神ですら先の見えない奇跡を
それは見世物でしかなく救いの手など存在しない
しかし同時に願うこともある
美しき物語の誕生を
蝶達は戻っている
神にすら見えない物
最高の未来を目指して
蝶達は舞っている
神が見ている中で
美しく舞え、未来に向けて