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第七話


「明日の試験ですが、君の対戦相手はアルノルト君に決まりました」


 入学後、初めての試験前日、クラウスはAクラス担任のマランに呼ばれていた。翌日に控えるテストの予定を伝えるためだ。


「そうですか」


「順番は一番最初です。くじ引きで決まってしまうので、ご理解ください」


「……はい」


「会場は、この前の授業と同じ練習場です。朝9時から開始になりますので、その15分前には準備を終えておいてください」


「まあ、準備することなんてないんですけどね」


 クラウスは苦笑いしながら言った。


「ですが、よく1週間連続で召喚し続けられてますね」


 マランは、クラウスの両肩に乗るジジとギギを指さして言った。

 

「鳴いたり、肉を食ったり、消費魔力が少なかったり、よくわからないところで高性能みたいです。一晩寝ている間に、バカみたく大量に巣を作りやがるんで、朝起きると大変なんですよ」


 クラウスはおどけるように笑う。


「そうですか。普通なら、連続して10時間も召喚しつづけていれば魔力切れになるものですが……」


「魔力だけは、無駄に持ってますから」


「……とりあえず、明日の試験頑張ってください」


「ええ、まあ。それより、先生、父の本をくださってありがとうございました。しっかり活用していきたいと思います。それじゃあ、これで失礼します」


「ええ、また明日」


 クラウスは職員室を後にした。


*******************


 中庭では、木々が雄弁に咲き誇っている。


 クラウスは、芝生の上に腰掛けただ宙を眺めていた。


 明日で、この学年ともおさらばか。就職先を見つけて、セシリアが卒業するまでは金でも貯めてるか。そうすりゃ、何とか村のみんなに対して面目も保てるだろうし。


「ちょっといいか?」


 クラウスは不意に頭上から声をかけられる。後ろに手をつき、上を見上げるとリカルドの顔があった。


「……急にどうかしたんですか?」


「まあ、ちょっとな」


 リカルドがクラウスの隣に座る。


「聞いたよ、君の召喚の件については。その2匹の蜘蛛がそうなんだろう?」


「……ええ、まあ」


「あっさりと認めるのだな」


「もう、自分に召喚士(サモナー)の才能がないことは受け入れましたから」


「そうか。では、単刀直入に話そう」


 リカルドが、クラウスのほうへ体を向ける。


「第1類に来ないか?」


 クラウスは一瞬口をぽかんと開けたのち、笑った。


「何の冗談ですか? 僕は第3類、召喚士(サモナー)を目指していた生徒ですよ。剣士やパラディンなんかを育てる第1類に行ったって、どうしようもないですって」


 クラウスは信じられないといった風に笑っているが、リカルドは表情を変えない。


「確かに、普通の第3類の生徒なら、第1類に来てもうまくいかないだろう。だが、君は肉体測定もA評価だ。十分やっていける。それにこのままでは、明日の試験で君は退学処分を受けることになるだろう。まだ、確実とはいいがたいが私から学園長に打診してみる。おそらく君なら、大丈夫だろう。どうだ、第1類に来ないか?」


 クラウスはリカルドから目をそらす。だが、視線を向ける場所もなく、ただそれを泳がしている。


「……でも、俺は」


「君が召喚士(サモナー)を目指していたことは知っている。だが、このままではどうしようもないのはわかっているだろう」


「けど、やっぱり僕に剣術は無理ですよ」


「まあ、いい。それでは、次回のテストが終わるまで、つまり1か月間の猶予をあたえる。その間にどうするか決めなさい。取りあえず1か月は退学にならないように掛け合ってやる」


「……」


「現実的に考えて、判断を下せ。君は村の期待を背負っているのだろ?」


 クラウスは手を握り締め、じっと地面を見つめる。


 頭では、わかっている。第3類に残ることに、召喚士(サモナー)を目指すことに固執していたってうまくいくはずがない。どれだけ、努力してもジジとギギとでは、獅子や鷲を相手に戦えるはずがない。だが、夢が無謀だとわかっていても、第1類に行きたくはない。ただ、怖いのだ。


「恐れるなよ。召喚の才能がなかったのは偶然だ。剣術も同じというわけではない」


 核心を突かれ、クラウスの肩がビクンとはねる。


「確かに、君は召喚については才能がなかったようだ。そのことにショックを受けたことだろう。だが、安心しろ。もし、君が剣術を不得手としたとしても、私がつきっきりで教えてやる。2年第1類主席の私が」


 リカルドは、クラウスの言葉を待つ。


「……一つだけ聞いてもいいですか?」


「なんだ?」


「どうして、リカルドさんは俺にそこまでしてくれるんですか?」


「君は評価がAランクまでしかないことをおかしいとは思わないか?」


「どういうことですか?」


 リカルドの言葉に、クラウスは意表を突かれる。


「君の入学試験の結果だが、普通のAランクの数値を軽く超えていたらしい。魔力、筋力ともにね」


「えっ?」


「ただ、1人の王子として考えているんだよ。君という優秀な人材を放っておくのはもったいないと」


 クラウスは呆然としている。


「よく考えるといい。君がどうするべきなのか。返事はいつでも構わないが、来月の試験までには伝えてくれ。それじゃあ」


 リカルドはクラウスのもとを去った。


 その後、クラウスは自身の選択について考え続けていた。だが、答えは簡単には出なかった。


 確かに、俺に召喚の才能はなかったのかもしれない。だけど、それはAクラスにおいての話なのかもしれない。取りあえず、来月まで考えてみるのもありなのではないか。クラウスはそう考えていた。夢をあきらめる踏ん切りがつけられなかった。











 







少し更新ペースが遅くなるかもしれません。あくまで可能性の話ですが。

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