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第六話


 クラウスは、ジジとギギをつれて闘技場へと向かっていた。


 マギアのある王都では、迷宮(ダンジョン)攻略の恩恵を受け、多くの国民が豊かな生活を送っている。そのため、人口が集中し、街は喧騒を極めている。道の両脇には、店が列をなしている。タレのついた肉の焼けるにおいが、クラウスの胃を刺激する。


「すいません、これ1本ください」


 クラウスは、店の主人に声をかける。


「あいよ! ちょっと待ってくれ」


 主人が、串焼きを1本差しだす。


「銅貨2枚でいいよ」


 クラウスは言われた金額を差しだし、串焼きを受け取る。


「ん? その制服を着てるってことは、坊主、お前マギアの生徒なのか?」


「ああ、一応そうだけど」


「そんじゃあ、1本おまけしてやるよ。将来有望な少年におっさんからのプレゼントだ」


 主人は破顔一笑しながら、もう1本差し出してくる。


『ジ、ジジ……』


『ギ、ギギ……』


「なんだお前らも食べたいのか?」


 クラウスが両肩の蜘蛛に尋ねる。


『ジ……』


『ギ……』


「わかったよ、ほら」


 クラウスが2本目の櫛から、1切れずつ肉を渡す。


『ジジ、ジジ……』


『ギギ、ギギ……』


 ジジとギギはそれぞれ嬉しそうに食べる。手先の魔力で肉を吸着して、器用に口に運んでいる。


「へえ、肉を食べるとは、こりゃ変わった蜘蛛だねえ」


「ええ、一応、俺が召喚した魔物なんで」


「じゃあ、坊主は未来の召喚士(サモナー)か。第2のハンスを目指しているってわけか」


「……ええ、まあ。それじゃあ、ごちそうさまでした」


「おう! また来いよ。期待してるぜ」



*******************


「ここか……」


 クラウスは闘技場へ着くと、まずその中へ入っていった。


 闘技場は、催し物のない時はいつでも自由に入場することができる。


 平日の午前中ということもあり、闘技場の中にいる人は多くない。


「ここで、父さんは戦ったのか……」


 何ども映像の中で見た光景が、クラウスの目の前に広がっている。だが、クラウスの表情は明るくない。むしろ、これが見納めと言わんばかりに、記憶に焼きつけようとしている。


「俺も、ここに立ちたかったな」


 クラウスは、後ろを振り返り併設されている資料館に向かう。


 こちらも、観覧料はかからない。入ってすぐの部屋では、フィアース・ストライブでの歴代優勝者の写真が壁に飾られ、過去の対戦の立体映像が部屋の中央で流れている。壁に並ぶ顔は、皆、一部を除いて同じものはない。


 クラウスは、自身の父の写真の前で歩を止めた。


「やっぱり、すげえよな」


 見上げるような形で、並んだ写真を見つめる。


 唯一、クラウスの父、ハンス・シュタイナーだけがフィアース・ストライブ連覇という偉業を成し遂げている。


 フィアース・ストライブは世界中から集められた猛者たちによって行われる、闘いの祭典だ。世界各地から、我こそはと足を運んだ者たちによって予選と本戦が行われ、世界一が決定する。参加規程こそあるものの、毎年それなりの数が集まるため、本戦に上がることすら熾烈を極める。


『……ジ』


『……ギ』


「お前らも、すごいと思うよな。連覇だぜ。そんでもって、これが俺の父親だ。まったくさ……」


 クラウスは言葉を飲み込んだ。


「もう今日は帰るか」


 そう告げ、クラウスは帰路についたのだった。




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