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第十九話

 入学してから二回目の試験から一夜明けた今日、クラウスは第三類一学年Fクラスの教室へと足を進めていた。その両肩にジジとギギはいない。今頃は部屋で悪戯を働いていることだろう。


 朝の学校の廊下には多くの生徒がいた。荷物を運ぶものもいれば、慌てて教室へ向かうものもいるが、皆、試験の緊張から解放され、明るい表情をしている。


 それは、教室でも同じだった。席に座るものも、窓際で本を読むものも、皆晴れやかな様子だ。ただ、クラウスだけが緊張を感じていた。


 昨日、試合直後は良い試合をしたと感じていたが、夜、寝ようと目を閉じると不安が一気に押し寄せた。召喚士らしからぬ戦い方は、第三類では評価されないのではないか。そう考え始めると、思考は止まることを知らず、不安が募っていった。


 十分に寝ることがかなわなかったクラウスの眼もとには大きな隈がある。試験の疲れもあるのか、クラウスは大きくあくびをする。


「ふぁ~~~」


 ちょうどその時、クラウスの間抜けな声が上がるのと同時に扉の開く音がする。


 教室に入ってきたガンの右手には紙の束が握られている。Fクラスの生徒はそれを見ると、忘れていた緊張感を思い出したのか、急に落ち着きがなくなる。膝を小刻みに揺らしたり、両手をこすり合わせたりと反応はそれぞれだが、皆、先ほどまでとは様子が一変している。


 それとは対照的にクラウスは落ち着きを取り戻していた。事態がすぐ目の前に迫ったことで、むしろ緊張を忘れていたようだった。


「それじゃあ、順に取りに来い。大きく書かれているのが向こう一か月間のクラスランクで下の表が今回の成績だ」


 ガンの指示に従い、生徒たちが順に受け取りに行く。


 自身の順番は随分と先なのにもかかわらず、席を立ちあがるものが多く列が出来上がる。クラウスもそれに並ばざるを得なかった。列ができてしまった以上、出席番号の都合で並ばなければいけなかったからだ。


 順に成績表を受け取っていく。それを渡すとき、ガンは一人一人に何か一言声をかけていた。


 Fクラス――最底辺のクラスだからか、喜ぶものはいるが落胆する者はいなかった。むしろホッと胸をなでおろすものが一番大かった。皆、退学の瀬戸際に立たされていたのだろう。だが、クラスに喧騒が生まれた。学生という身分上、試験からの解放感がそれを作り出した原因だったのは間違いない。


 そして、クラウスの順番が回ってくる。


「ほれ」


 成績表を渡す際、ガンはクラウスにそれ以上の声をかけはしなかった。


 クラウスはその意味をはかりかねる。


 プライバシー保護のために二つ折りにされた成績表。それをなかなか開くことができずに、クラウスは立ちすくむ。


 真っ白な紙をすかして、中が見えないか試みるもクラウスの目に映るのは白色だけだった。


 直視する勇気がわかず、開こうとするもクラウスの手は震えだす。


 成績表を渡すときのガンの表情を思い出すも、緊張のためか判断がつかない。


 やがて、成績表を開くことなく授業を終えることになった。


 成績開示の日は、次のクラスの準備のため生徒も教師も忙しくなる。そのため、成績表を渡したらその日は解散となる。


「遊び行こうぜ!」


「私、アイス食べたい!」


「今夜はパーティだ!」


 多くの生徒が歓談に興じる中、クラウスは逃げるように自室へと向かった。ポケットに入れた成績表が、歩行の邪魔になる。


 廊下に出ても試験後の雰囲気は教室と変わらない。


 人だかりを避けるようにクラウスは進み校舎を出ようとしたとき、見たくない光景がクラウスの目に映った。


 剣を背負っていることから第一類の生徒と思われる生徒が、校舎と寮をつなぐ道の中程で泣き崩れていた。その手に握られた紙は、握りつぶされにじんでいたが、明らかにアルファベットではないことが跡から判別される。


 クラウスは、泣く少年から目をそらし、寮に向かう。


 扉を開けたとたん、ジジとギギがクラウスに飛びつく。


 質量が少ないながらもその突飛な行動に、クラウスは驚き腰を地面に落とす。


 その拍子にポケットから成績表が零れ落ちる。


 クラウスが慌てて拾おうとすると、ジジとギギがそれに糸を吐きつけどこかへもっていこうと跳躍する。


 蜘蛛離れした身体能力で、部屋中にある巣をつたって、ジジとギギは迫りくるクラウスから逃げ続ける。


「捕まえぇぇぇ~~~~」


 二匹を捕まえられると確信して手を伸ばした瞬間、クラウスは足元に落ちていた空き缶につまずき大きく転倒する。


 それにジジとギギも巻き込まれ、一人と二匹は仲良く床に転がる羽目になる。


「いって~~」


 したたかに打ち付けた後頭部をさすりながらクラウスは立ち上がり、床に落ちた成績表を拾い上げようとした瞬間、自然と目から涙があふれ出した。


 ジジとギギがクラウスを心配するように肩に乗る。


「……ありがとな」


 クラウスは両肩に声をかける。


 しばらく涙が止まることはなかったが、ジジとギギはクラウスから離れることはなかった。


 


 床に転がる成績表にはおおきくAという文字が躍っていた。






これでとりあえず第一章は終了となります。ここまで読んでくださった方、心から感謝申し上げます。

これから一週間ほどは、第二章に入ることはありません。代わりに、ここまでの話の中で矛盾点、誤字脱字等がないか、描写の付け加え等をしていこうかと思います。大きく話の筋がそれることはありませんのでご安心ください。また、同時にちょっとした小話や設定資料のまとめなんかも投稿できればと思ってます。

もしよろしければ、ブクマ評価感想レビューしてくださると励みになります。

第二章はほのぼのとした雰囲気にしようと思ってます。心待ちにしていただけると幸いです。

改めて、ここまで読んでくださりありがとうございました。


P.S

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