第十八話
セシリアはどこか不満げに座っている。
他の生徒らは試合が終了すると、すぐに会場を出ていったため観客席にはクラウスとセシリアしかいなかった。
クラウスはセシリアの隣に腰かけ、言った。
「……セシリア、俺やったよ。お前も見てただろ今の試合。まだ、完ぺきとは言えないけど、リカルド先輩とアンナが協力してくれたおかげで何とか召喚士としてやってく目途がついたよ」
「……」
セシリアはいまだに不満そうな表情を浮かべている。
やはりこの前の喧嘩のことをまだ引きずっているのだろうか、とクラウスは考えた。
「この前はごめん。お前の言ってることが正しかった」
クラウスは膝に手を突き頭を下げる。
だが、セシリアはそれを一瞥したきり何も言わない。
むしろ先ほどよりも怒りをあらわにしている。
「……なあ、この前は俺が悪かったって。だからさ、機嫌なおせよ」
「……」
「何が不満なんだよ? 俺は無事試験で結果残せたし、お前に謝罪だってしてる。何一つ不満が残るところはないじゃないかよ」
「……ある」
セシリアの発した声は、とても女性のものとは思えないほど低かった。
その声にクラウスは思わず顔を引きつらせる。
「……なんだよ?」
「……」
セシリアは言葉を発さず、わき目に見ながら、クラウスの胸元を指さした。
「はあ? 俺に何か文句あんのか? でも、さっき謝っただろ?」
セシリアは頭を振ると、指先を下に向けた。
「……喧嘩のことはもういい。というか、最初から気にしてない。そうじゃなくて私はそれが気に入らない。どうして、私に頼まなかった」
そこでやっとクラウスは、セシリアの不機嫌の原因を察した。
セシリアが指さしていたのはクラウスではなく、クラウスの身に着けていた魔道具――コートとリストバンドだったのだ。
「……いや、お前に頼もうかと思ったけど喧嘩中だったし、セシリアがやってくれるていったからさ」
「私は喧嘩のことなんて気にしてなかった。なんで頼ってくれなかったの!?」
本心を語るのは気恥ずかしいが、クラウスはそうする覚悟を決めた。それはひとえに目の前で嘆く幼馴染のためだった。
「……お前を喜ばせたかったんだよ。情けない真似して失望させちまったから、その分喜ばせたかった。だから、お前の手を借りずに成し遂げたかったんだ」
「……わかった。けど、次からは私が作るから」
「……ああ。そん時は頼むよ」
「……」
返事はなかった。
セシリアは急にしおらしくなり、クラウスから顔を背けたのだった。珍しく赤くなってしまった自分の顔をクラウスに見せないよう隠すために、セシリアは必死に首に力を入れていた。
今日はあともう一話投稿します。