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第十一話

 ガンに連れていかれた場所は、練習場だった。だが、第三類の練習場ではなく、第一類の練習場だった。


 第三類と同じデザインの練習場には、剣士養成のための器具が散乱している。木刀と鎧が、乾いた血の付いた床の上に転がっている。木刀の持ち手は真っ赤に染まり、鎧は不格好にへこんでいた。円形のフィールドの周囲を高い壁が囲んでいる。


「先生、ここで何をするんですか?」


 一体ガンが自分に何を見せようとしているのか、皆目見当もついていなかった。剣士用の練習場に連れてこられた理由もわからない。


「ちょっと待ってろ。今準備する」

 

 ガンはそういうと召喚札を取り出した。その数は、四枚にも及ぶ。


「よし! 始めてくれ!」


 ガンがそう叫ぶと、突如として木刀を持った三体甲冑が現れ、ガンを襲い始める。


 赤い甲冑が、ガンに肉薄し、斜めに木刀を切り上げる。


 ガンはそれをバックステップしてよける。


 するとそこに青い甲冑が追撃する。


 上段からの一撃。


 その一刀はスピードがあり、甚大なダメージを与えうるものだった。


 だが、ガンはそれを左腕一本で受け止める。左腕で、甲冑の腕をつかみ、後ろから迫る黄色の甲冑に投げつける。黄色の甲冑は動きを封じられ、距離を詰められない。青い甲冑はいまだ立ち上がれていなく、赤い甲冑はガンを攻められる間合いにはいない。


 ガンはそのことを確認すると、召喚札に魔力を込める。


 だが、クラウスの目には何も召喚されたようには見えなかった。


「クラウス! よく見てろよ!」


 ガンを取り巻く空気が一変する。


 刹那、三体の甲冑は許容できない損傷を負い、実体を失って霧散した。


 クラウスは目の前の光景に驚愕し、身じろぎ一つしない。


 なんだよ、今の。


 気づけば、甲冑がすべてやられていた。けど、ガンはその場から動いたようには見えなければ、召喚された魔物が何かしたわけでもなさそうだ。信じられなかった。一瞬の出来事は、自分の理解の範疇を大きく超えていた。


「どうだ? 見てたか?」


 ガンは、二カッと笑いながら、クラウスに近づく。


 その額には、一滴の汗もなく、肩も上下していない。


「……今のは、いったい何なんですか? どうやって、倒してんですか?」


 クラウスは、身を乗り出す。


 その瞳にはかすかな光が生まれていた。


「今説明する。ちょっと待て」


 そういうと、ガンはおもむろに服を脱ぎだした。


「エ……」


 おっさんの筋骨隆々な姿を目撃して、クラウスは不快感を覚える。だが、直後クラウスは目を見張る。


「これだ。こいつらのおかげで、俺はさっきのような動きを実現できる」


 ガンの体には、四匹の蛇がまとわりついている。三十センチ程度の白蛇が、それぞれ、足や腕にまとわりついているのだ。

 

「こいつらは俺が召喚した魔物だ」


「でも、先生。これとさっきの動き、どう関係があるんですか?」


 四匹の蛇には、何か特殊な能力があるようには見えない。むしろ蛇にしては短く、強さが一切感じられない。ジジとギギにと同様に。


「ただ、ちょっとした電流を起こせるだけ。それが、こいつらだ。つまり、俺の召喚の才能もその程度だ。蛇以外にも召喚できないわけじゃないが、屈強な魔物は召喚できん。クラウス、お前、召喚の才能を負けた理由だと思っていたようだな」


「……はい」


「確かに、それは否定できない。けどな、そんなもんに夢を壊されちゃ、かなったもんじゃねえ。学生のとき、お前と似たような状況な中、必死で、打開策を考えたよ。これは、それで見つけた唯一の道だ」


 クラウスは、ガンの言葉を聞き逃さないよう全力で耳を傾けている。見開かれた目はジッとガンに向けられていた。


「俺たち、召喚士自身が戦闘のメインになるしかない。それが、俺の結論だった」


「……」


 何を言っているんだ。召喚士は、召喚士は魔物で戦ってこその召喚士だ。それは、世間の常識だ。クラウスもそう考えていた。


 だが、次の言葉でそれは崩される。


 そして、同時に急に視界が開けた気がした。


「この蛇たちが、俺の動きを格段に向上させている。腱を伸ばすときに補助してもらって、筋肉を動かすときに微弱な電流でパワーとスピードを高めてもらってる」


 ガンは蛇からクラウスに視線を移してつづけた。


「クラウス、お前は蜘蛛を活用する方法を探せ。簡単には見つからないだろう。邪道だと非難されるだろう。けどな、そんなもん構うんじゃねえ。召喚士の神髄は召喚することにあるんじゃない。召喚した魔物との関係の中にあるんだ。もしお前が、本当に召喚士になりたいんなら、とにかく考えろ。いかにして魔物を生かすのかを」


「……」


 クラウスは、何も言わない。だが、彼の頬を流れる涙は雄弁に語っていた。彼の安堵と喜び、そして覚悟を。







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