表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5

03話 対雷狼戦

 俺とユーカは準備を整えるとすぐさま討伐対象のいる草原へと向かった。村を出るときにベンスンに『俺も連れて行って欲しい』と懇願されたがベンスンを守りながら戦えば苦戦を強いられるので『帰りも送ってもらわないといけないので比較的安全な町で待っていてください』と言ったのだががなかなか引き下がってくれなかった。だから、『もしも救援が必要になったら赤の位置発信魔法を、戦闘が終了したら緑の位置発信魔法を上空に打ち上げますのでそれを見て助けに来てください』と約束してようやく引き下がってくれた。俺と話している間ずっと顔が赤らんでいるように見えたがきっと夕日のせいだろう。うん、絶対そうだ。惚れられたとかじゃないよ?



 走り続けること30分、俺達は目的の草原に到着した。俺の身体はユーカに改変されているだけあってここまで走りっぱなしでも全然疲れはなった。ユーカにも同じことができればもう少し早く着く事ができただろうがユーカの身体能力は一般的な冒険者に毛が生えた程度である。全力疾走で10分走ると流石のユーカもばてたようだった。しかし10分も俺についてこれたのは大したものだと思う。ばててしまったユーカをおぶっていくことにしたのだが背中に胸は当たるは太ももは柔らかいはで理性がぶっ飛びそうになった。そんな悶々とした気持ちと戦いながらなんとか到着したのだ。理性の手綱を離さなかったことを褒めてもらいたいものである。

 ユーカをおぶっている時に聞いた話なのだが魔法を行使するには、


『先ず発動する魔法の効果を思い浮かべます。次にその魔法の名称を唱えます。最後にその魔法を行使するだけの魔力マインドがあれば魔法は発動します。しかし高レベルの冒険者になると魔法の名称を唱える必要なく発動します。因みに私も魔法の名称を唱える必要は無いですよ。それと、前提条件として自分が使える魔法を把握しておかなければなりませんよ』

との事らしい。先ずは自分の使える魔法を把握しておき、魔法の名称と効果が分からないと発動しないのか。ん?だったらどうやって使える魔法を知るだ?そんなことを疑問に思ったが目的地に着いてしまったので後で聞いてみよう。


 草原を見渡すとそこには先程の話に出てきた通りの数の雷狼サンダーウルフがいた。幸いにもこちらに気づいていないようなのでユーカの大規模殲滅魔法《安らかなる死ユーサネイジア》で半数を一瞬のうちに消滅させた。これだけでも恐るべき魔法なのだがこれで30%の出力らしい。フルパワーで発動させなかった理由は俺に実戦経験を積んでもらうためだとか。俺は恐慌状態の雷狼の群れの中に飛び込んだ。いや、正確には投げ込まれたの方が正しいだろう。後方からは


「ヒールやバフはしっかりやりますから安心して突っ込んで下さ〜い」


なんて声が聴こえた。可愛い顔して凄いスパルタ教育をかましてくるれるんだ。そんなことを内心でボヤいても仕方がない。俺は頭を切り替えるとサーベルを構え、近くにいた個体に斬りかかった。斬撃は普段よりも切れ味が冴え渡っていた。きっとユーカの魔法のおかげだろう。俺は近くにいる個体を20匹ほど倒したが雷狼の統制のとれた動きは全くと言っていいほどに変化は無かった。恐らく司令官的な固体がいるのだろう。俺は周囲を見回すと、他の個体とは内包しているエネルギー量が違う個体を3匹見つけた。俺は一番近いところにいるその個体に狙いをつけて接近し横薙ぎの一撃を食らわした。肉を深くまで斬り裂いた。死にはしなくともかなりのダメージを負わせただろうと思ったのだが、流石は上位個体、みるみるうちに傷が回復して行った。俺は再び痛烈な斬撃をお見舞いしようとした…その時俺の意識は微睡み、時の流れが遅くなったように感じた。同時に直接脳に


【雷狼ノ因子ヲ獲得シマシタ。融合シマス・・・・・・完了シマシタ。雷狼ノ因子ヲ獲得シタコトニヨリ、以後雷狼ノ能力ノ発動ガ可能トナリマス】


という機械的な音声が響いてきた。

 その声が遠ざかると意識はハッキリとし始め、時間の流れも元に戻った。

 身体に自由が戻ったのを確認するとサーベルを構えて斬りかかろうとしたその時、上位個体の雷狼が人化し話しかけてきたのだ。


「ちょっと待ってください。話だけでも聞いてくれませんか?」


俺は小さく頷き話を続けるように促した。


「この時期になると私達の種族はこの草原付近に群生する植物を使って巣を作り、子供を産む習性があります。その為この草原の周辺には大量の雷狼が集まってきます。ですがそれを人間達が脅威に感じて私達に攻撃を仕掛けてきます。本来私達に人間を攻撃する意思は無いのですが攻撃されたら自分達を守るために戦わなければなりません。今までは意思疎通を図れなかったのですが今は何故か意思疎通が図れ出るのです。このチャンスを逃したら私達の意思は人間側に届けられないかもしれません。ですから雷狼と人間との橋渡しをして欲しいのです」


 雷狼の話を途中から聴き始めたユーカだがそれだけで全てを悟ったような顔をしていた。


「なぁユーカ、もしかしてだが俺達に何が起こったか分かってるんじゃないか?」

「え、えっとですね・・・・・・簡単に言うと私が渚さんを改変したことによる副作用みたいなものですかね・・・・・・はい、多分、きっと・・・・・・」

「詳しく説明してもらっていいよね(ニコッ)」

「ええ・・・・・・えっと、渚さんを改変した時にですね…私の因子を渚さんに少し移植したんですよ。その影響で戦ってる最中に何らかの要因で雷狼の因子が渚さんに混ざったんだと思います。そして、渚さんが無意識下で雷狼達に自分の因子を提供したことにより雷狼も人化して、人語を話すことが出来るようになったんじゃないかな〜って思います。それに人化した雷狼が皆、目を見張るほどの美男美女なのがその証拠ですよ」

「つまりこうなったのはユーカの所為って事でいいのかな?」

「端的に言えばそうなりますかね・・・・・・ははっ」

「でも、人間に魔物と共存するなんて選択肢を取るわけないよなぁ。どうしたものか。あ、そうだ、雷狼って最高時速どれくらいなの?んでぶっ続けで何時間くらい走れるの?それとユーカは黄色の位置発信魔法を打ち上げてくれ」

「そうですね、個体差はありますが平均して時速150㎞で8時間はぶっ続けで走れます」


(なるほど…荷台のことも考えても竜車よりも効率がいいな。うむ、これはいい商売ができるかもしれない)


「そーいやあんたらの名前を聞いてないんだけどなんて呼べばいいの?俺は本郷渚であれがユーカ、ユーカ・ランゲンフェルトな」

「私達には個別の識別名称がありませんのでお前などで結構です」

「名前がないならさ、俺が付けてやるよ。嫌なら別にいいけどさ」

「私達に名前をくださるのですか?嫌なんて、そんな事はありません。むしろ大歓迎です」

「でも全員分考えるのは面倒くさいから人化出来る3人だけな」


 そう言って俺は改めて人化している3人をまじまじと見つめた。1人は大柄で青髪の優男。しかし、内包しているエネルギー量はずば抜けていて、何処となく武人のような雰囲気を感じた。他の2人は俺よりも少し背の低いくらいの女性だ。片方は黒髪のセミロングボブで人前に出るのが苦手なのかおどおどした様子で女の子と形容するのが一番合う子だ。もう一方は腰の辺りまで伸びるの赤髪が特徴的で『憧れのお姉さん』的な雰囲気を持つ魅力的な女性だ。


「そうだなぁ〜、じゃあ、青髪のお前は宗頤ソウエンで、黒髪のお前が羽黒ハグロ、そして赤髪のお前が伊織イオリな」

 後から聞いた話で、人間・魔物を問わずすべての知的生命体の常識らしいのだが嘗て魔物はその強大な力で世界を壊しかけた。故に世界から以前の力と名前を奪われ魔物同士で名前を付けることが出来なくなってしまったらしい。しかし、自分の力を超越している他の知的生命体から名前を付けてもらうと忠誠を誓う代わりに嘗ての力の一部を取り戻すことが出来るのだとか。だから魔物にとって名前を付けてもらうことはとても特別な事らしい。


 位置発信魔法を打ち上げてから10分もしないうちにベンスンはやってきた。竜車から降りると俺に向かってすぐに駆け寄ってきて、俺に怪我はないかとしつこく聞いてきた。余りにもしつこかったのであしらうように雷狼の素材回収に向かわせた。ソウエン達は仲間の死体を弄ばれていると感じてよく思わないかも知れないと思いソウエンに聞いてみたのだが弱肉強食だから仕方ないことだと割り切っていているようだ。ベンスンが雷狼の素材を回収している時に生きている個体を発見し、仰天して失神してしまうと言うハプニングもあったが大した問題も無く討伐クエストは終了した。



 竜車に乗ってブラウヴァルトに帰る途中、俺はベンスンに商談を持ちかけた。何かと言うと竜の他に雷狼にも車を引かせたらどうだろうという事だ。雷狼は竜の2倍以上の速度で走ることができると説明したが最初は渋っていた。しかし、サラリーマン時代に習得した完璧な(営業)スマイルと俺に惚れているという弱みに付け込んだらすぐに陥落した。町にはすぐに着いてしまったので話は全然進まなかったので後日時間を作って話し合うことになった。町について宿でもとって話せばいいじゃないかと思ったのだが、俺たちの凱旋を祝して宴が開かれるから後日にするということだった。



 町に着いた俺達を驚愕の眼差しで見ていた。それもそうだろう、俺の後ろには討伐対象だった雷狼が20匹以上もいたのだから。俺は町の人々に『なんか、戦ってたら懐かれちゃって倒すことが出来なくなって連れてきちゃいました。テヘッ』といった具合に説明した。テヘッとはにかみながらいうと周りにいた人達は皆、頬を緩ませながら『それなら仕方ないな』などと言い言及されることはなかった。異世界と言えどもやはり『可愛いは正義』という概念は存在しているようだ。



 暫くして宴が始まった。雷狼達も混ざっていることを疑問に思って町長に尋ねたら『渚様のペットなら大歓迎ですぞ』と言ってきた。昨日の敵は今日の友というやつだろうか。考えるのが面倒になった俺は何も考えずに楽しんだ。出てきた料理は見たこともない食材ばかりで躊躇っていたが食べてみるととても美味しく隣にいた町長さんに抱きついてしまうほどだった。

 最近、理想の女の子のような振る舞いをしているせいか、女の子になったせいかは分からないが突発的に抱きついてしまうのだ。可愛いから許されるのであって男のままだったら即刻鉄格子の中にぶち込まれていただろう。やっぱり女の子って素晴らしい‼︎

 鼻の下を伸ばしきって頬が緩んでいる町長さんは町の男どもに何処かへ連れて行かれたが俺には関係のない話だ。

 その後も宴は引き続き行われた。途中でてきた踊り子さんはユーカやハグロ達には及ばないにしてもかなりの美人だった。その上動くたびに揺れるふくよかな胸、細くくびれているお腹、程よい肉付きの太ももなどがとても扇情的だ。もはや眼福としか言いようがないだろう。


 夜も深くなり宴はお開きになった。俺達は宿屋に着き部屋を借りて部屋に入るとすぐに布団を被り、死んだように眠りについた。それも仕方ないだろう。今日1日でいろんなことがあったのだ。


 こうして渚とユーカの最初のクエストは成功したのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ