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02話 竜車の確保、そして…

 俺達は今ブラウヴァルトに向かっている。何故かと言うと、現在大量発生している雷狼サンダーウルフの50頭討伐クエストを受注しているからである。出発し始めた頃は『とっとと行って俺達の強さを知らしめてやるぞ』などと意気込んでいたが2日も歩きっぱなしではそんな気も失せて『もう帰りたい』となるのはバリバリの現代っ子なので当然である。ブラウヴァルトまで徒歩で8日以上、距離にして300㎞以上あるなんて思わないだろ。馬車でもあればもっと早く着くのに…ん?馬車?何故今まで気づかなかったのだろう。馬車を使えばいいではないか。まぁこの世界では馬ではなく竜なのだが細かい事は気にしない。


「なぁユーカ、何で俺達は竜車を使わないで歩いてるんだ?まさかとは思うが気がつかなかったわけじゃないよな」

 

俺がユーカにそう問いかけると


「・・・・・・え?ええ、も、勿論理由があってのことですよ。ほら、アレですよアレ・・・・・・そう、始めから楽をしていたらダメ人間が出来上がってしまうじゃないですか。渚さんがそうならないように私は竜車に乗ることを提案しようも思いましたが心を鬼にしてここまで歩いてきたんですよ。ま、まあ渚さんは少し楽をしたくらいじゃダメ人間にならないでしょうしどうしてもというならば竜車に乗って行きましょうか?丁度良いことにすぐ近くに町があるみたいですし、そこで竜車をブラウヴァルトまで出してくれる方を探しましょうか」


 竜車に乗って行きたいのは山々だが、ここでユーカの提案に乗ってしまっては負けた気がするので少し意地悪でもしてやろうかな。


「いや別に良いよ。ただ疑問に思っただけだからさ。それに無駄にお金を使うこともないだろうしな。それよりも立ち止まってないで進もうぜ。俺達の強さを証明する為にな」


 するとみるみるうちにユーカの目に涙が溜まり始めた。


「渚さんごめんなさい。本当は私気づいてませんでした。謝りますからそんな意地悪しないで竜車に乗って行きましょうよ。(グスッ)もう歩きたくないですよ。竜車で行きましょうよ」


(ヤバイ、泣かせちゃったよ)


「分かった、じゃあ竜車で行こう。だから泣くなよ」

「渚さんありがとうございますぅ。(グスッ)」


 そう言いながら俺に抱きついてきた。その仕草に少しドキッとしてしまった。それと、ユーカのたわわに実った2つの柔らかい果実が押しあてられて少し興奮したのは秘密である。


 近くにあった町ーービルネンベルクーーに到着した俺達はまず食事処に向かった。そんな事よりも早く竜車に乗せてくれる人を探すべきだという人もいるかもしれないが今の最優先事項は食事なのだ。数日間くそまずいレーションを食べ続けてみろ、普通の料理があると言うだけで何よりも食事を優先してしまうから。

町を歩いていると西部劇に出てくるような木製のスイングドアのレストランがあった。とても目を引く外装だったので入ってみることにした。


「おっと、見かけない顔だな。旅の者かい?」

「酒を一杯。…じゃないよ。取り敢えず美味しいのが食べたいです。ここ数日、レーションしか食べてなくて普通の食事に飢えてまして(笑)」

「ノリの良い嬢ちゃんだな。なら、美味いもんをたらふく食わしてやるよ。少しだけならサービスもしてやるさ」


 普段ならさほど美味しいとも思わない食事でも、このような状況下であれば超有名シェフが作った高級フレンチに引けを取らない美味しさである。生きてるって素晴らしいと心から思った瞬間だった。

 さて、お腹もふくれたことだし本題の竜車を提供してくれる人を探しに行こうか、と思っていた時に先ほどの男が声をかけてきた。


「なぁ、嬢ちゃん達はこれからどこへ向かうんだい?もし目的地がここからかなりの距離があるってんだったら俺の倅を使ってくんないかい?竜車の運ちゃんをやってんだが最近仕事が全くなくて不貞腐れてんだよ」


 願ってもいない申し出だった。俺とユーカはお互いの顔を見合ってうなづくいた。


「「よろしくお願いします」」


 俺達は声を揃えてそう言った。それにたくさんサービスしてもらったから断るこ

となど出来なかった。断るつもりはなかったけどね。


「んじゃ、この店の隣に行ってくれ。そこに俺のせがれがいるから声をかけてやってくれ」

「色々とありがとうございました。それと名前を伺ってもよろしいですか?私は本郷渚って言います。そしてこっちがユーカ・ランゲンフェルト。Aランクの冒険者です」


 そう言ってAランク冒険者の証であるミスリル製の識別タグを見せた。


「あぁ、すまん。俺はトリニン・アルタールで、倅はベンスン・アルタールだ。またこの町に来た時はサービスするから俺の店に来てくれな」


 トリニンと別れた後、俺達はベンスンに会いに行った。ベンスンは疲れたサラリーマンのようにやつれていた。


「私は本郷渚で、こっちがユーカ・ランゲンフェルトです。こちらを訪れたのはベンスンさんが竜車の御者だとお父様に伺ったからです。早速ですが本題です。竜車を出してもらうことは可能ですか?」

「うちの竜車を使ってるれるんすか⁉︎ ですが、先日魔物に襲撃されて人用の竜車は半壊してしまったんですよ。修理するにも新調するにもお金がなくて、今、うちにある竜車は荷物運搬用しかないのですがそれで構わないでしょうか?」

「ええ、問題ないですよ。よろしくお願いします」

「どちらまで行かれるんですか?」

「ブラウヴァルトまでです」

「ブラウヴァルト⁉︎今魔物が大量発生してるんですよ‼︎そんな所にいったら魔物に殺されてしまいますよ‼︎それに荷物運搬用の竜車までも壊されてしまいますよ」

「安心してください。私達はAランクの冒険者ですので魔物は問題ありません。これがその証明では足りませんか?それにもし竜車が破壊されたとしたら修理費は私が支払います」


 そう言って俺は冒険者の識別タグを見せた。


「分かりました。その条件ならば問題ありません。片道銀貨2枚銅貨40枚で如何で

しょうか」

「ええ、それで構いません。ちなみにブラウヴァルトまではどのくらいかかりますか?」

「そうですね、魔物との遭遇回数にもよりますが普段ならば3~4時間程度で着きます。出発は今から3時間後で宜しいでしょうか」

「ええ、問題ありません。私達はこの街を見て回ります。では2時間後にここに戻ってきます」


 そう言って俺達はビンネンベルグの散策に出かけた。



 町の繁華街は適度に賑わっていた。広い道路の端では露天商が商いをしていた。露店の数は大したもので全てを見て回るには1日は軽くかかるだろうと思われた。

 並べられた品々を見てみると冒険者向けの物も並んでいた。武器や防具は勿論の事、ポーションやレーションなどもあった。他にも、魔法で動く冷蔵庫や洗濯機などのがあり科学が発達していない分魔法で補っていて、文化レベルもそれなりに高かった。俺達の装備はギルドから提供された初期装備なのでお金があればここで良質な装備を購入しても良いかもしれない。そう思って俺はユーカに相談してみることにした。


「なぁユーカ、今持ち合わせてるお金ってどのくらいあるんだ?もしまだまだ余裕があるならここでいい感じの武装を買ってかないか?いくら俺達が強いと言っても初期装備でAランク且つ高難度のクエストはキツいんじゃないか?」

「お金でしたら私たち2人が3年間豪遊し続けられるくらいのお金はありますが、一銭たりとも無駄にするつもりはありませんよ。ですが装備品は必需品なので買っていきましょうかね。私はフリルがいっぱい付いてて可愛いのが良いです」


 ユーカのお許しが出たので俺達は武器や防具、衣服などを物色し始めた。



 俺が選んだのは、武器は細身で美しく意匠が凝らされたサーベル、防具は必要最低限の箇所を守るライトアーマー、そしてアーマーの下に着る服は細かい刺繍が至る所に施された深紅のドレス。このドレスは激しい動きをしても破けにくい特殊な素材で出来ている為、1番値が張った。本当はフルプレートメイルが良かったのだが重くて動きにくいし、視界は悪いし、それに何よりも俺の芸術品のような肉体が隠れてしまうから絶対にダメだとユーカに言われ許しが出なかったのだ。


 ユーカは、武器は魔法の発動効率を上げる先端に翠の宝玉が埋め込まれたロッド、衣服は胸元に赤いリボンの付いたフリルの黒いワンピースを着込み、その上にローブを纏ってとんがり帽子を被りロングブーツを履くというどこからどう見ても魔女っ娘な格好だった。一般人がこの衣装を着たら衣装の可愛さに負けてしまうのだが、流石は元天使と言うべきかユーカの幼い外見に見事に合っていた。



 そんな事をしていると約束の時間になった。

 集合場所であるベンスンの店に着くと、そこには1匹の立派な竜がいた。大きさは馬車馬よりひとまわり大きいくらいでなのだが速度は5倍の時速50㎞も出るのだ。これに乗っていけば最初にいた街からブラウヴァルトまで7時間もあれば着いてしまうのだ。竜車って素晴らしい‼︎ そんなことをがんがれながら俺達は竜車に乗り込んだ。竜車の荷台は急遽取り付けられた座席のおかげもあってか思っていたよりも乗り心地が良かった。2時間ほど竜車に揺られていると魔物と遭遇した。出現したのは3匹のゴブリンと2匹のオークだった。どちらの魔物も知性が低いので単調な攻撃しかしてこないらしい。俺とユーカは竜車から降りて魔物と相対した。俺は先ほど買ったサーベルの切れ味を試してみたかったので丁度よかった。


 小さくて小回りが利くゴブリンを先頭にして襲いかかってきた。1匹目をサーベルで両断し、もう1匹をギルド支給の小刀で心臓を穿った。残る1匹はユーカの魔法で地面ごと抉り消滅した。ゴブリン3匹が瞬殺される様子にオークは恐れをなし遁走し始めた。ここで逃がしてやっても良いのだが、早くこの力に慣れたいので済まないがここで倒されて頂こう。そう考えて俺は地面を蹴りオークに肉薄した。そしてそのまま鼻筋に膝蹴りを食らわし、勢いを殺さずにもう1匹のオークに回し蹴りを食らわしてオークの動きを止めたところでとどめを刺した。

 どうやらユーカによる改変は剣術だけでなく、体術までにも及ぶようだ。もしかすると接近戦闘全般にまで及ぶのかもしれない。今度実験してみようかな。

 そんなことを考えているとベンスンが声をかけてきた。


「お嬢さん方は強いだろうなーと思ってたんですが予想以上の強さですね。相手がゴブリンとオークだとしてもここまで瞬殺できる人はなかなかいませんよ。おっと魔物が朽ちてしまう前に回収してしまいましょう」


 そう言ってベンスンは魔物から素材の回収を受け持ってくれた。動物を解体した経験が無かったので正直助かった。パーティーに1人は欲しい人材だ。



 その後、魔物と遭遇することなくブラウヴァルトに到着した。

 ブラウヴァルトに着くと町に活気はなかった。魔物が大量発生していていつ襲われるかもわからないから当然と言えば当然だ。なので俺たちは町の外周を見て回ることにした。そしたらベンスンも付いてくると言ったのだ。なんでも町にいるよりも俺たちについてきた方が安全なのと魔物を解体できる人がいるといいだろうという理由だった。俺達は魔物を解体できないので助かった。

 外周を見回っているとすぐに雷狼サンダーウルフに遭遇した。外見は毛の色が銀の狼なのだが一般的な狼と違うのは額から生えた2本の大きな角だ。この角で雷を操り思いのままに落とすことができるのがやったいな点である。なので角を先に切り落とし攻撃力を落としてから叩くのが最も一般的な戦い方だ。もちろん俺もその戦い方で雷狼サンダーウルフを狩るつもりである。

 雷狼サンダーウルフに相対すると牙や爪は鋭く、それに切り裂かれたらひとたまりもないだろうと思われた。

 俺はサーベルを握り直してサンダーウルフに斬りかかった。一太刀で角を根元から切り落とし、勢いを殺さずに追い打ちをかけ難なく仕留めることができた。


「2~3匹程度なら問題ないですがそれ以上になると厄介ですね。最悪はユーカの大規模殲滅魔法で全滅させれば良いかな?まぁそれをやると完全に消滅しちゃうから魔物の素材は手に入らなくなるんだよね。」

「ですです。それに魔力(マインドの消費量が馬鹿みたいに多いので何発も撃てるものでもないんですけどね」

「ならマインドポーションなどを購入しておいたほうがいいと思います。普通の治療用のポーションよりはかなり高価ですが一気に魔力マインドを消費するような魔法を連発する職業の方であれ、はらば持っていて損はないと思います」


 そう言いながらベンスンは魔物から素材を回収していた。意外と手の早い奴である。それよりもベンスンに言われて気がついたが俺達はポーションを持っていなかったのだ。冒険者には必需品なのに何をやってるんだ。そう思わずにはいられなかった。


 魔物から希少部位を回収し終わると、俺達は場所を変えて雷狼サンダーウルフを探した。だが見つけることができず日が落ちてきたので町に戻ることにした。町に戻ると100匹を超える雷狼サンダーウルフ群れが町の近くで発見されたらしいく、町の人々は逃げる準備をしていた。俺達は町長の元に赴き説明を受けた。なんでもここから北西に10㎞ほど離れたところにある草原で見つかったそうだ。腕に自信のある冒険者達でもその数に恐れ慄いて全く役に立たないらしい。

 その話を聞いて、俺達はポーションなどの回復薬を買い揃えるとその草原目指して出発した。

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