01話 取り敢えずギルドに行こう
目が醒めるとそこは完全に異世界だった。
街には人間のみならず、エルフやドワーフなどの亜人種までいた。さらに、主な移動手段は竜車だと言う。
街並みは中世のヨーロッパのような作りだ。
街行く人々の話に耳を傾けてみると話している内容はほとんど一致していた。なんでもわりかし強い魔物が大量発生する時期に入ってしまったのだとか。
それよりもだ、無事に異世界に召喚されたのだからこれだけは取り敢えず言っておこう。
「ここから本郷渚の異世界転生チーレム無双が始まったのだった」
何事も初めが肝心なのだ。ほらなんかで言ってたもんな、強気き思いは口にすれば叶うって。
「渚さん、変なモノローグ入れないで貰えますか。それにハーレムを作るっていうなら渚さん周りに集まるのは男性ばかりになってしまいますよ?それは兎も角、鏡で自分の顔を見てみたらどうですか?男性は言うまでもなく女性でさえ声をかけられただけで惚れてしまいそうな美少女になっておりますので」
そう言われて俺はユーカに渡された鏡を受け取り覗き込んだ。するとそこには金髪ロングの碧眼美少女が映っていた。
「なぁユーカ、これって本当に俺なのか?」
「はい、天使までもが嫉妬するレベルの美少女になるように改変したので当然と言えば当然の結果なんですけどね。それと、可憐で華麗な美少女になったんですから口調とかを意識して変えてみたらどうですか?少なくとも一人称を『俺』って言うのは絶対ダメですからね。妥協点としては『ボク』ですかね。分かりましたね?(ニコッ)」
(その時俺は思ったのだ。この人を怒らせては行けない、と)
それよりも流石にこの顔で俺っていうのもどうかと思う。ならユーカの挙げたボクはどうだろうか。
『ボクは本郷渚だよ。ついさっきこの世界に転生してきたばかっかりで右も左も分からないんだ。詳しく教えてくれると嬉しいな』
違うな。俺の見た目にはこんな口調は似合わないだろ。おれの勝手な偏見だがボクっ娘はショートヘアでサバサバした性格の子じゃないと似合わない気がする。じゃー清楚系お嬢様さんてどうだろうか。
『わたくしは本郷渚と申しますわ。つい先ほどこの世界に転生して参りましたの。至らぬ点がございますでしょうが以後宜しくお願い致しますわ』
うん、見た目には合っているんだが、俺の心が持たないだろう。どうしたものか。
「あの、渚さん?声に出でますよ?べ、別に無理はしなくても良いですよ?ただ一人称を変えていただければ…そ、そうです、普通に私なんてどうですか?」
少々上ずった声でユーカは言った。
うん、恥ずかしいね。内心で考えてたことがだだ漏れだった時って。
「そ、そんなことよりこれからどうすればいいんだ?この世界の事情に詳しいんだろ」
「そうですね。では先ずは、ギルドにでも行きましょうか?」
「ギルド?」
「はい、正式名称は冒険者自由組合といいます。なんでも転生してきた人々がギルドと呼び初めた所、そっちの方が短いし何よりカッコいいという理由で一般的にギルドと呼ばれるようになったらしいです。今では組合自体もギルドという呼び名の方を推奨しているみたいです」
「で、それは何処にあるんだ?」
「アレですよ」
そう言ってユーカの指差す方を見ると立派な教会風の建物が聳え立っていた。
「善は急げですよ、渚さん。早く行きましょう」
そう言ってユーカに手を引かれて俺はギルドの門をくぐった。ギルド内部は外見からは想像も出来ないほど賑わっていた。
「受付はあちらですよ」
ユーカに促されおれは受付に向かった。
「ようこそいらっしゃいました。ご用件はなんでしょうか」
「冒険者の新規登録をしてもらっていいですか?」
「では、こちらの書類に名前を記入して下さい。その後、貴方方の強さを測りますのであちらの第3ゲートへお進み下さい。装備品がない場合は貸し出しますのでご安心ください」
名前を記入し終わった俺とユーカは剣と杖と武具一式を借りゲートへと向かった。
「なぁユーカ、俺魔法は勿論の事だが剣術も全く使えないぞ。どうすんだよ」
「一人称…忘れましたか?(ニコッ)
まぁ、今それは置いとくとして剣術においては問題ないですよ。私がトップレベルの剣術使いに改変しましたので身体が勝手に動いてくれるはずです。慣れれば自分の意思で動かせるようになりますよ。魔法は平均的な冒険者と同等程度ですがその点は私がカバーするので問題ないでしょう。あくまでもこれは初期値ですので努力次第ではまだまだ強くなれますよ。魔法適性もかなり高いので強力な魔法も使えるようになるでしょう。伸び代はまだまだありますよ」
なるほど。これならチーレム無双は無理でもチート無双はできるような気がしてきたぞ。いやただのチートどころではないのかもしれない。
おれの時代が来た‼︎そう思いながら俺たちはゲートをくぐった。
結論から言おう。圧勝だった。調子に乗った俺は
『その程の実力で冒険者の力を判断しておりましたの?もう少し善戦してくれると思っていたのですが貴方にはガッカリしましたわ。これではギルドという組織もたかが知れますわね。もう一度鍛えなおした方が宜しいのではなくて?』
などと高飛車なお嬢様のように言ってしまったのだ。俺の相手をしてくれた人は俯いて泣いてしまった。スンマセン、ホントスンマセン。
いやでもこう言う台詞を1度くらいは言ってみたいじゃないですか。なんかよく分からないけど圧勝しちゃったから『言うならこのタイミングしかない』って思っちゃったわけですよ。うん、仕方ないよね。そんな時もあるって。と俺は自分のしたことをごまかした。
そんな状況を見かねたのか、先ほどの受付嬢が慰めに来てくれたお陰でその場は収まった。
その後、受付嬢が冒険者登録の残りを済ませにやって来た。
「先ほどはご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした。あの方にも『調子に乗ってひどいことを口走ってしまって申し訳ありませんでした』と伝えておいてもらえませんか?」
「畏まりました。しっかりと伝えておきます。
それでは冒険者の説明に入らせていただきます。まず、冒険者はSSS,SS,S,A,B,C,D,E,Fの9つのランクに分けられ、SSSランクが最上位でSS,S,A,B,C,D,E,Fの順で続きます。先ほどの戦闘を鑑みて、実力だけを考慮するならばSSランクは堅いだろうと見受けられたのですがここではAランクより上のランクを付けることが許可されていませんので渚様とユーカ様はともにAランクとさせて頂きます。Aランク以上の冒険者は全体の10%ほどなのでAランクでも一流の実力を持った冒険者と評価されるでしょう。ちなみに現在ギルドに登録されている冒険者の総数は凡そ100万人いて、ランク構成比はB以下が全体の90%、Aランクは5%、Sランクは3%、SSランクは2%、SSSランクは0.01%といった具合にになっております」
なるほど俺たちはAランクからのスタートか。中々の好スタートが切れた気がする。さてどこまで行けばAランクより上を認めてくれるギルドがあるのだろうか?後で質問でもしてみよう。
「次にギルドへの年会費ですがお支払い方法は2種類ございます。1つは、年の初めに金貨6枚を直接お支払いしていただくパターンです。もう1つはギルドから支払われる報酬金から毎回10%お引きするパターンになります。稼ぎの多い冒険者は毎回引かれるよりも金貨6枚を先に払った方が安上がりなので前者のパターンが多いですね。逆に稼ぎの少ない冒険者は毎回10%引かれても年間の合計で金貨6枚を越えることは滅多にないので後者のパターンが多いですね。
以上のことを踏まえてどちらのお支払い方法にするかお決め下さい」
「なぁユーカ、今金貨6枚持ってるか?」
「はい、ありますよ。転生先で何があってもいいようにある程度のお金は準備しておきましたから」
うむ、流石は元天使、準備も完璧ではないか。
「それじゃ、一括払いでお願いします」
「畏まりました。では登録料と年会費で合計金貨6枚銀貨2枚になります」
ユーカが出した金貨にはとても精緻な彫刻が施されていた。これがこの世界の通貨らしい。後でゆっくりとユーカに見せてもらおう。
「確かに頂きました。こちらが冒険者の識別タグになります。この識別タグは冒険者のランクによって素材となる金属が違います。渚様たちはAランクですので素材となる金属はミスリルになります。それを手首に装着してください。では最後に、何かご質問はございませんか?」
「Sより上のランクを得るにはどこに行けば良いですか?それとランクごとの金属も教えてください」
「Sより上のランクを得るには王都のギルドに行ってもらうのが良いかと思います。ですがDランクより上になるには実力だけでなく、実績も必要ですので周辺の街を回ってクエストをクリアして人々に名前を覚えてもらうのが良いでしょう。ランクごとに上からヒヒイロカネ、アダマンタイト、オリハルコン、ミスリル、金、白金、銀、銅、鉄となっております」
「ではAランクで受注できる最高難度のクエストを見繕ってもらえますか?」
「畏まりました。では、現在ブラウヴァルトに大量発生している雷狼50頭の討伐などは如何でしょうか」
「じゃ、それでお願いします。でも討伐したことをどうやって証明すればいいんですか?」
「それはですね、魔物ごとに死ぬ時に発する魔力の周波数が違います。それを感知して魔力の総積算量より討伐数を判断する機能が識別タグに付いているので、クエストを受注したギルドで専用の機械に翳していただくと討伐数が表示される仕組みとなっております。それと魔物の素材はギルドで買い取り、武具屋に販売しているので希少部位は剥ぎ取ってくることをお勧めします。ですが魔物は死ぬとすぐに肉体が朽ちるので早めに部位を摘出して下さい」
「ありがとうございました。それじゃ討伐に行ってきます。あ、それと地図とかって貰えます?」
地図を受け取ると俺達は討伐に向かった。
そうして俺達の冒険者ライフが始まったのだった。
この時美少女2人のチームがこの世界に誕生した瞬間だった。彼女達の噂が瞬く間に広がったというのは言うまでもないことである。