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欠番戦闘員の戦記  作者: yamaki
第5章 正義と悪
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6. 色部 正義

 東日本ガーディアン基地の一室では、未だに勝利の宴が続いていた。

 欠番戦闘員から齎された情報によって、最近のリベリオンの作戦行動を悉く潰すことに成功しているガーディアンの戦士たちの表情は明るかった。

 しかしそんな中で、周囲の雰囲気に溶け込めずに浮かない表情をしている人物が二人居た。

 一人は白木、欠番戦闘員に思う所がある少年は相変わらず宴の輪に加わる事が出来て居なかった。

 そしてもう一人、白木とは別の理由で欠番戦闘員の存在が気に食わない存在がこの場に居たのだ。


「欠番戦闘員? そんな得体の知れ無い奴に手伝って貰って満足なのか、貴様たち!!」

「まあ、落ち着いて、紫野(しの)さん」


 正式コアに選ばれたガーディアンの戦士たちは、その大半が未成年の若者である。

 一方簡易コアを使う下級戦士や実働部隊サポートする裏方の人間たちの殆どは、成人を過ぎた大人たちであった。

 そのため宴の席にはアルコールも提供されており、大人たちは未成年に気を付けながらささやかな飲酒を楽しんでいた。

 欠番戦闘員に対して気炎を吐いている一人の中年男性の顔も赤く染まっており、恐らく少なくないアルコールを摂取しているのだろう。

 アウェイの雰囲気を感じていた室内で見つけた数少ない仲間の存在に気付き、白木は端正な顔を歪ませた。

 どうやらあの紫野(しの)と呼ばれている男性と、自分の意見が一致している事に嫌悪感を抱いたらしい。






 ガーディアンの制服を纏った紫野と言う男は、年齢や弛んだ体から前線で戦う戦士では無い事は一目で解る。

 この男はガーディアン東日本基地の司令、つまり白木たちガーディアンの戦士たちの上に立つトップなのだ。

 ガーディアン東日本基地と言う巨大な施設を、問題無く管理している紫野の組織の運営の手腕だけは誰もが求める物である。

 しかし残念ながら紫野は、ガーディアンの戦士たちからの評判が余り芳しく無かった。

 紫野は口が悪いことで有名で有り、失敗した者に対しては粘着質に叱責を行う嫌な上司でもあったのだ。

 規則違反の常習犯である土留などは半ば自業自得であるが紫野に何度も槍玉に上げられているらしく、何時かあの中年をぶん殴ると白木に語っていた。

 優等生である白木は紫野から直接叱責を受ける事は無かったが、伝え聞く紫野のやり方を好ましい物とは思っていなかった。


「そもそもあの襲撃時にあの欠番戦闘員が我が基地に居た事がおかしいのだ。

 矢張り、あいつがリベリオンを手引きしたに違いに無い!!」

「口が過ぎますよ、紫野さん!!」


 先のリベリオンによるガーディアン東日本基地襲撃の後、基地のトップであった紫野は批判の矢面に立たされた。

 リベリオンの跳梁を許した無能な司令と責任追及された紫野は、職を辞する寸前まで追い込まれたらしい。

 どうにか首だけは免れたようだが、紫野は少なくないペナルティを課されてしまう。

 そんな紫野がリベリオンを恨まない筈が無く、その恨みはどういう訳かあの襲撃時に居合わせた欠番戦闘員にまで向かっていた。

 紫野の考えではあの場所に偶然欠番戦闘員が居たとは考え難く、恐らくあの謎の存在は事前にリベリオンの襲撃を察知していた。

 それにも関わらず欠番戦闘員は襲撃の情報をガーディアンに伝えることは無く、その結果があの事態を引き起こしたと言うのだ。

 最近ではリベリオンと欠番戦闘員は裏で繋がっているとまで言い出し始めた紫野は、逆恨みに近い形で欠番戦闘員と言う存在を憎んですらいた。


「欠番戦闘員は我々ガーディアンの敵だ!! お前たち、次にあいつに有ったら奴をぶちのめして…」

「紫野さん!!」


 偶然、近くに居合わせた事から酔っ払いのストッパー役になってしまった黄田は、ヒートアップしていく紫野の暴言を止めようと必死だった。

 しかし日頃の鬱憤を晴らすかのように、紫野はビールを一気飲みしながら思うがままに欠番戦闘員の批判を始めてしまう。

 酔っ払っているとは言え相手は上司である、成熟した大人である黄田は紫野の暴走を力尽くで止める事が出来ずに困り果てていた。

 そんな大人たちの背後に、右腕に銀トレイを持った大柄の少年が徐に近づいてきた。


「…おっと、手が滑った!」

「うげっ!?」

「土留、お前は…」

「これ位勘弁してくれよ、まあ無礼講って奴だよ」

「いいぞー、土留!!」

「よくやった、若造!!」


 さり気なく紫野の背後を位置取った土留は、わざとらしい台詞を吐きながら銀トレイを勢いよく振り下ろす。

 銀トレイは紫野の脳天を直撃し、蛙が潰れたような呻き声を上げながら紫野はその場に倒れてしまう。

 土留は白目を剥いて地面に寝転がる紫野の姿に満足気な笑みを浮かべ、勝ち誇るようにひん曲がった銀トレイを掲げた。

 どうやら他の人間たちも紫野の暴言にうんざりしていたらしく、上司に手を掛けた土留の暴挙を褒め称える声さえ聞こる始末である。

 過去の恨みを晴らした土留の顔は晴れやかで有り、そんな同期のの様子に白木は呆れ気味溜息を吐いた。











 気絶した紫野を解放する黄田とその横で勝ち誇る土留の近くに、何時の間にか年配の老人が立っていた。

 ガーディアンの制服を着た老人は、真っ白い髪や皺が浮かぶ顔がある一定の年齢を超えている事を示していた。

 しかし背筋をピンと伸ばしている姿勢や、強い意思を感じさせる瞳は何処か若々しさを感じさせた。


「おやおや、紫野君にも困った者ですね…」

「お、何だ、爺?」

「あ、あなたは…」


 紫野の知り合いであるらしい老人は、未だに意識を取り戻さない紫野の姿に好々爺のような笑みを浮かべる。

 土留は突然現れた老人の姿に訝しげな視線を向ける、どうやら彼はこの老人の素性を知らないらしい。

 しかし紫野の解放をしていた黄田は違った、老人の姿を捉えた黄田は正に驚愕と言った表情を見せていた。

 そして老人の存在に気付いた白木や室内に居る他の人間たちも、一斉に黄田と同じような驚きの顔となる。


色部(しきべ)総司令!? どうしてこんな所に…」

「色部!? それってガーディアンの創設者だよな!? 本物かよ…」

「何、ちょっと近くに来たんで顔を出しただけですよ」


 色部(しきべ) 正義(まさよし)、それがガーディアンの創設者であるこの老人の名前である。

 この老人はかつて、リベリオンの首領となる科学者と共に宇宙から送り込まれた未知の技術の研究を進めた。

 そして自身の体を怪人へと改造した同僚の科学者の暴挙から辛うじて生き残り、来るべきリベリオンとの戦いに備えて密かにガーディアンと言う組織を作り出した。

 色部の行動が無ければ世界は当の昔にリベリオンに支配されていた事は間違い無く、彼はまさしく英雄と呼んでいい人物であった。

 現在、ガーディアンの総司令の座に付いている色部は、リベリオンに対抗するために日々世界中を飛び回っていた。

 白木もガーディアンの資料で色部の顔自体は知っていたが、本人と直接会う機会はこれまで無かった。

 伝説の男が何の予告も無く東日本ガーディアン基地に現れた事実に、白木たちは凍り付いたように固まってしまう。


「はっはっは、そんなに畏まらないで下さい。 今日は本当にただ立ち寄っただけ何でから…。

 そうそう、最近の東日本ガーディアン基地の活躍は私の耳にも入っていますよ」

「総司令、そろそろ…」

「ああ、もうそんな時間ですか。 慌しくて申し訳無いですが、私はこれで失礼します。

 みなさん、世界の平和のためにこれからもガーディアンでの活躍に期待しますよ」


 何の音沙汰も無く現れたガーディアンの総司令は、警護役を務めているガーディアン最強の戦士灰谷に促されて部屋を後にしていった

 時間にすれば僅か数分足らずの対面であるが、色部の存在は東日本ガーディアン基地の人間たちに少なくない衝撃を与えたようだ。


「あれが…、ガーディアンのトップ…」


 見た目こそただの老人にしか見えない色部であったが、あれ確かに世界の平和を守る正義の味方の組織に相応しい風格を持っていた。

 司令に総司令と言葉にすれば一文字しか変わらないが、未だに床の上で寝ている紫野とあの色部で天と地ほどの違いが有るだろう。

 白木は色部から受けた衝撃がまだ抜けていないのか、呆然とした表情を浮かべながら呟きを漏らした。


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