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欠番戦闘員の戦記  作者: yamaki
第5章 正義と悪
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3. 特訓


 そこはとある雑居ビルの中にある極々一般的なフィットネスジムだった。

 雑居ビルの1フロアを全て使ったジムはそれなりの広さを持ち、室内にはエアロバイク等のお決まりのトレーニング器具が並んでいる。

 ジム内にはそこそこの客が集まっており、各々が黙々とジムで体を動かしているようだ。

 ダイエット目的の中年の男性や女性たち、純粋に体を鍛えたい若者たち、中には既に還暦を越えているように見えるご老体もジムで汗を流していた。

 そんな老若男女が入り乱れる有り触れたジムの一角で、ある高校生くらいの男女のグループがあった。

 一人は平凡な容姿をした少年で、顔中が汗だくになりながらランニングマシンの上を走っている。

 奇妙な事に少年は、全身にぴったりとフィットしているボディスーツを身に着けていた。

 手首辺りまで腕を覆っている長袖タイプのスーツは見るからに暑苦しそうで、真夏真っ盛りの今の時期ではエアコンが効いたジム内でも快適と言い難いだろう。

 一人はショートカットの髪をした眼鏡の少女で、彼女はランニングマシンの近くで息も絶え絶えと言う様子で蹲っていた。

 こちらの少女は先ほどの男性と違って、Tシャツに短パンと言う一般的な服装をしていた。

 そして平凡な少年と眼鏡の少女を監督するかのように、彼らが使っているランニングマシンの前に立つ黒髪の少女の姿があった。

 黒髪の少女は眼鏡の少女と同じようにTシャツに短パンと言う普通の格好をしていたが、何処か怪我でもしているのか右腕で体を支える杖を突いていた。


「丹羽さん、ペースをそのまま維持して! 八重君、休憩はさっき済ました筈だが…」

「はぁはぁ、了解…」

「ぜぇ、ぜぇ、何で私まで…。 私にこのような事をしている時間は…」

「まだやれる、頑張るんだ、八重君! 君はあの三代さんのように運動神経0のまま社会人になりたいのか!!」


 かつて日常的に着ていた戦闘員服と似た印象を持たせる黒いボディスーツを着る大和は、息を荒くしながらも懸命にランニングマシンの上で走り続けていた。

 心情的には早々にギブアップしたセブンのように、大和もランニングマシンから降りて体を休めたい。

 しかしそのような事をしたら大和たちのトレーナーを買って出た、黒羽の雷が落ちてしまうだろう。

 最早スパルタコーチと化している黒羽は数分足らずで脱落したセブンに近付き、セブンのやる気を目覚めさせるために熱く語っていた。

 大和はそんな女子高の先輩後輩のやり取りを眺めながら、現実逃避気味に自分がこのような状況になった経緯について回想していた。











 本格的にリベリオンに喧嘩を売る事になった大和たちには、一つ重大な懸念事項が存在していた。

 白仮面、リベリオンが誇る怪人の体に加えてガーディアンが誇るバトルスーツを身に纏う謎の存在である。

 理由は不明だが白仮面は大和が戦場に立つ事を快く思っていないらしく、大和に対して過去二回の警告を与えていた。

 このまま大和が白仮面の意に反して素体捕獲任務の妨害を行っていれば、何れは白仮面との三度目の対決が行われる事がは明白である。

 次は実力行使に出ると宣言した白仮面に対抗するための手段が、今の大和には必要であった。


「そのために前々から密かに計画していた、あなたの戦力強化プランを実行に移す」

「戦力強化プラン? 一体何を…、バトルスーツを強化するんですか?」

「違う、あなたはまだ怪人専用バトルスーツを完全には使いこなせてはいない。

 この強化プランではあなた自身の性能を強化し、より大きいコアの出力に耐えられるようになって貰う」


 大和が使用している怪人専用バトルスーツの試作品は、その名の通り怪人の使用を前提にした代物だ。

 バトルスーツとは本来、ガーディアンが怪人に対抗するために生み出した人間用の装備である。

 そしてバトルスーツの力の源であるコアは、怪人の製造技術と同じく宇宙から送り込まれた人類にとって未知の技術を使用して生成される。

 このコアの力は非常に強力であり、貧弱な肉体しか持たない人間では精々三割程度の力しか引き出すことは出来なかった。

 普通の人間ではコアの力を使いこなす事は出来ない、しかし強靭な体を持つ怪人ならば話が違うのでは無いか。

 怪人ならばコアの力を十割全て引き出す事が可能で有り、コアの出力を全開にしたバトルスーツを纏う怪人は最強と呼べる存在になるに違いない。

 そのようは発想に至ったセブンは、怪人専用バトルスーツと言う代物を生み出したのである。

 残念ながらただの戦闘員でしか無い大和には、この怪人専用バトルスーツの真価を引き出せていなかった。

 怪人の出来損ないで有る戦闘員の体を持つ大和では、精々コアから最大八割の力を数分だけ引き出すのが精々なのである。

 あくまで大和は怪人専用バトルスーツを完成させるためのデータ収集を目的としたテスターでしか無く、今まではそれで問題は無かった。

 しかし白仮面と言う明確な障害が現れた今、大和には白仮面に対抗するために怪人専用バトルスーツの真の性能を引き出して貰う必要が出来てしまったのだ。


「強化プランって…、一体何をするんですか? ま、まさか俺を再改造…」

「大和、あなたにはこれから毎日、私の指示するメニュー通りにトレーニングを行って貰う」

「……はぁっ、トレーニング?」


 戦闘員の体ではコアの力を引き出すことは出来ない、その事実を知っている大和はセブンが言う強化プランと言う事場に慄いた。

 大和の体は戦闘員として一度改造されてり、それを強化すると言うのならば再びこの体を改造するのではと早合点したらしい。

 しかし大和の予想と裏腹にセブンは大和に対して、トレーニングと言う酷く場違いな言葉を告げる。

 聞き間違いかと自分の耳を疑った大和だが、セブンから差し出されたタブレッドの画面を確認する事で先ほどの発言が正しかった事を理解する。

 タブレットの画面には、腕立て、腹筋、ランニングなどの正にトレーニングメニューの内容が映し出されていたのである。

 セブンの正気を疑った大和は思わずタブレットから顔を上げて、正面に居る少女の顔を見詰める。

 そこには何時もと同じ、感情が抜け落ちた鉄仮面の如きセブンの無表情があった。









 リベリオンが怪人を製造するために施す改造とは、機械的なそれでは無く生物的なそれになる。

 宇宙から送り込まれた生物の合成技術は、人間と言う素体に全く異なる生物の長所を組み込むことを可能とした。

 リベリオンは素体となる人間に複数の生物の長所を取り入れ、人間とは全く異なる怪人と呼ばれる存在を作り出している。

 そして怪人の端くれである戦闘員もまた、同じようにリベリオンが誇る生物の合成技術によって生産されるのだ

 最も何度も触れているように量産品である戦闘員には、怪人ほどの緻密な改造は施されていない。

 怪人が素体の人間としての部分をほぼ丸ごと取り替えるのに対して、戦闘員は要所要所のみを最低限弄って済ますと言う感じだろうか。

 大和の体にも戦闘員改造手術によって、リベリオンが作り出した人工筋肉が体の各所に埋め込まれている。

 リベリオンが生み出した人造筋肉は、通常の人間が持つ筋肉とは比べ物にならないくらいの筋力・耐久力を誇る。

 この人工筋肉の恩恵によって大和は、戦闘員としての力を発揮できるのだ。


「人工筋肉は普通の人間の筋肉と同じように、適切な刺激と栄養、そして休息を与える事でより強化する事が出来る。

 これから一定のトレーニングを行うことで人工筋肉を鍛え、コアの力に耐え得るより協力な体を作って貰う」


 筋肉は一定の負荷をかけることで筋線維が傷付き、それが回復する際により太い筋線維が作られる。

 所謂、超回復と言う筋肉の仕組みは、どうやらリベリオンの人工筋肉にも当てはまるらしい。

 セブンの意図は普通の人間が筋トレして筋肉を鍛えるように、大和の人工筋肉にトレーニングを施そうと言う事のようだ。

 都合の良いことに大和とセブンはまだ夏休み中であり、暫くは学校に縛られる事なく活動する事が出来る。

 高校三年の大和としては最後の夏に受験勉強をしないでいいのかと考えてしまうが、今の状況で受験がどうだのと言ってられないだろう。


「り、理屈は解ったんですが…、このスーツは何の意味が…」

「人工筋肉に常時負荷をかけることで、訓練の効果を高める」

「キツイんでもう脱ぎたいんですけど…」

「駄目、訓練期間の間は日中、それを着続けて貰う」


 セブンから渡された黒いボディスーツを身に付けた大和は、何やら苦悶の表情を浮かべていた。

 実はこのボディスーツは大和の人工筋肉に常に一定の負荷を掛ける為に、絶えず大和の体を締め付ける効果があった。

 大和は全身に力を入れなければ体を動かすことが出来ず、このボディスーツを着ているだけで大和は消耗していった。

 つまりこのボディスーツはセブンお手製の、昭和に流行った某野球漫画に出てくる養成ギブスと同じ類の物なのだ。

 この日を境に対白仮面に備えた筋トレと言う、大和の非常に地味な強化プランが開始される事になった。


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