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欠番戦闘員の戦記  作者: yamaki
第5章 正義と悪
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1. 獅子身中


 素体捕獲任務、それは悪の組織リベリオンにおける重要度の高い作戦行動である。

 リベリオンの主戦力である怪人や戦闘員は、健常な人間の体を素体として製作される。

 そしてリベリオンには正義の組織リベリオンと言う怨敵が存在しており、両組織の争いは十年経っても終わる気配が無い。

 この正義の味方との戦いでリベリオンの怪人や戦闘員は常に消耗させられており、戦力補給のための素体集めは組織の力を維持するために重要なのだ。

 しかし普通の人間とは比べ物にならないほどの力を持つ怪人に取って、ただの人間を捕獲することは難しい事では無い。

 怪人を阻むことが出来る存在はガーディアンの戦士しか居らず、その正義の味方の目さえ誤魔化すことが出来れば素体捕獲任務の成功は約束されたも同然だった。

 その筈だったのだ…。










 現在、某所で行われている素体捕獲任務は、今の所は順調に進んでいた。

 今回の任務に派遣された二体の怪人と無数の戦闘員たちは、襲撃地点に居た人間たちを手早く拘束する事に成功する。

 後は素体運搬用の輸送車が到着次第、この素体を車両に詰め込めば彼らの任務は完了である。

 捉えられた人間たちは戦闘員たちに監視されて身動きが取れず、ただ怯えながら己の不幸を嘆いていた。

 彼らに出来ることは耳障りな嗚咽を漏らす事くらいであり、、このひ弱な人間たちが怪人の手から自力で逃れることは不可能だろう。

 一番の懸念である正義の組織ガーディアンは、リベリオンの偽装工作に上手く引っ掛かってくれた。

 奴らがこの場所に現れる頃には、リベリオンの怪人たちは多数の素体と共に既に姿を消している事だろう。

 まさにリベリオンの思惑通りに計画が進んでおり、彼らの作戦成功は失敗する要素が皆無のように見えた。


「くそっ、輸送車はまだか?」

「焦るな、後数分もすれば到着する」

「解っている!!」


 しかし現場の指揮を取る二体の怪人たちは何処か余裕が無く、まるで何かに警戒するように絶えず辺りを見回していた。

 ガーディアンが現れる確立が極めて低くなった今回の作戦で、怪人たちが怯える要素など無いにも関わらずである。

 馬をベースにしたと思われる馬型怪人は落ち着き無く歩き回り、地面に打ち付けられる蹄の音が周囲に響いていた。

 馬型怪人の相方である鹿がベースらしい鹿型怪人は、時間を気にしているのか近くに設置された時計を頻繁に確認していた。

 怪人たちは落ち着き無い様子で会話している所、携帯していた無線機からの連絡が入る。

 それに気付いた馬型怪人の方が、即座に無線機を手に取って耳に当てた。


「待て、A地点からの連絡だ…。 馬鹿な、輸送車がやられただと!?」

「またしても警戒網を突破されたのか! 護衛は何をやっているんだ!!」


 怪人たちの元に無線機を通して、この場所に到着する予定の輸送車が破壊されたと言う有り得ない情報が舞い込んできた。

 素体捕獲任務の肝は素体を無事に組織の秘密基地に届ける事であり、素体を運ぶための輸送手段はとても重要になってくる。

 そして最近、輸送車を破壊する事で素体捕獲任務が妨害されたケースが幾度か報告された事により、今回の作戦では万全を期すために輸送車に護衛の怪人を付けていた筈なのだ。

 有象無象の戦闘員たちならいざ知らず、リベリオンが誇る怪人が傍に付いていながら輸送車がやられたのである。

 輸送車が破壊された時点で今回の素体捕獲任務の成功の目が詰まれた怪人たちは、怒声に近い声を出しながら無線機で詳しい説明を求めた。


「…はぁ、地雷だと、何でそんな物が…!? こちらのルートが読まれていたと言うのか?

 輸送車が地雷で吹き飛ばされて、護衛の怪人ごと転倒したと…」

「間抜けが!? 戦わずして敗れたのか、あのトカゲ野朗が…」


 どうやら輸送車が事前に設置されていた地雷を踏んづけてしまい、その爆発によって大破したらしい。

 流石の護衛の怪人も車両に乗ったまま、車両ごと吹き飛ばされては打つ手が何も無かったようだ。

 地雷などと言う物が偶然落ちている訳が無く、これは明らかに今回の素体捕獲任務を妨害するために仕組まれた罠である。

 しかしそうなってくると地雷を仕掛けた妨害者は、リベリオンの素体移送用の輸送車がどの道を通るか知っていた事になる。

 一体どのような手段を持って妨害者は、リベリオンが今回の作戦のために極秘裏に定めた輸送車の移動ルートを知ることが出来たのだろうか。






 輸送車がやられた事が余ほどショックだったのか、怪人たちは茫然自失といった表情を見せていた。

 まるで壊れた人形のように固まる怪人たちだったが、背後から聞こえてくる嗚咽が怪人たちの意識を現実に戻した。

 怪人たちの背後には本当なら怪人たちの戦利品となる筈だった人間たちが、戦闘員たちによって一纏めにされている。

 この場にはまだリベリオンによって拘束された人間たちが居り、輸送車を破壊した妨害者が此処に現れる可能性は極めて高いのだ。

 ようやく自分たちの置かれている危険な状況を認識した怪人たちは、自然に背中合わせになり互いの死角を守りあうような陣形を取っていた。


「来るなら来い、俺様が返り討ちにして…」

「…ナラ返リ討チニシテ貰オウカ」

「何っ、ぐわぁぁぁぁっ!!」


 しかし怪人たちの涙ぐましい努力は、結果的に無駄に終わった。

 虚勢を張っていた馬型怪人の目の前に、フルフェイスのマスクで顔を覆った者がまるで幽霊のように現れたのだ。

 余りの事態に驚く馬型怪人に対してフルフェイスの男は、容赦無く右腕の拳を前に突き出した。

 馬型怪人の顔面にめり込んだ拳はそのまま凄まじい勢い振り抜かれ、そのまま背中合わせになっていた相方の鹿型怪人ごと後方へ吹き飛ばした。


「…くそっ、またしても我らの前に立ちはだかるか! 欠番戦闘員!!」


 仲間の怪人の巻き添えを食った鹿型怪人は、顔面が有らぬ形に変形した相方の体を押し退けて立ち上がる。

 馬面と言う形容詞がよく似合う馬型怪人の長めの顔はすっかりひん曲がっており、身動き一つしないその様子では戦線復帰は絶望的であろう。

 馬型怪人を倒した男はフルフェイスのマスクで顔を隠しおり、黒いスーツタイプのバトルスーツを見に付けている。

 その姿形と傍に黒いバイクを控えさせている特徴から、鹿型怪人は相方を倒した者の正体があの欠番戦闘員である事を即座に理解する。

 欠番戦闘員、それはリベリオンの前に唐突に現れた謎の存在だ。

 素性、背後関係は一切不明、しかしその並外れた強さは既にリベリオン内でも知らぬ者が居ないほどの存在感を持っていた。

 この欠番戦闘員は近頃、積極的にリベリオンの素体捕獲任務を妨害するようになり、最近行われた素体捕獲任務はこの働き者の妨害者の手によって全て頓挫しているのだ。


「後ハオ前ダケダ…」

「欠番戦闘員、リベリオンを甘く見るなよぉぉぉっ!!」


 両腕に嵌めた手甲の上から炎を纏わせながら、欠番戦闘員は両腕でファイティングポーズを形作る。

 欠番戦闘員の実力が噂通りならば、平均的な戦闘能力しか持たない怪人一体と戦闘員たちの力で勝つことは難しいだろう。

 しかし人間を超えた存在であると自負する怪人に、逃走と言う選択肢は存在する筈も無い。

 鹿型怪人は勇ましく雄たけびを上げながら自慢の角を前に突き出し、欠番戦闘員に向かって無謀な特攻を試みた。










 リベリオン関東支部内にある作戦室内で、怪人シザーズは今回の素体捕獲任務も失敗に終わった事を知る。

 今回の素体捕獲任務の作戦計画にはシザースも関わっており、部下の失敗は上司にも返って来ると考えればこれはシザーズの失敗でもあった。

 作戦失敗の報に苛立つシザーズは、右腕に生えた巨大な鋏を何時もより乱暴に振り回していた。

 蟹型怪人は明らかに機嫌が悪い様子を見せており、作戦室に居る他の怪人たちは誰もシザースに声を掛ける事を躊躇っていた。


「聞いたわよ、また失敗したんだってねー。 あんたもそろそろ焼きが回ったんじゃ無いの?」

「クィンビーさん、作戦の失敗はリベリオン全体の損失に繋がるのですよ?

 少なくとも今のあなたのように笑っていられる状況では無い筈です」

「笑うしか無い状況ってのも有るんじゃ無い? だって最近、あの欠番に悉く邪魔されて良いところ無しだもんね…」


 しかし空気を読む怪人たちの中で一体、全く空気を読まない蜂型怪人が居た。

 日頃から気に食わない相手として見ているシザーズの失態に対して、クィンビーは機嫌が良い様子を隠そうとしなかった。

 シザーズはクィンビーの挑発に対して、あくまで上司としての態度を崩さないようにしながら諌める。

 残念ながらクィンビーはシザーズのお小言など糞喰らえとばかりに、不遜な態度を崩さなかった。


「クィンビーさん、そう言うあなたも以前、欠番戦闘員に素体捕獲任務を妨害されている筈です。

 どうです、最近暇をしているようですし、此処で一つリベンジでもしてみますか?」

「ああ、そういえばそう言う事もあったわね、忘れていた。

 でもリベンジの方はパス、やっぱり私はそう言う面倒くさい任務は好きじゃ無いのよ」

「待ちなさい、クィンビーさん!? まだ話が…」


 言うだけ言ってクィンビーは上司であるシザーズの制止を無視して、作戦室から出て行ってしまう。

 作戦室には機嫌がより一層悪くなった蟹型怪人と、それを腫れ物のように扱う怪人たちと言う最悪の空間が作られる事になった。

 シザーズの鋏の動きは、先ほどより激しさを増していた。






 妃 春菜と言う自分の過去を取り戻したクィンビーは、今もリベリオンの怪人として活動していた。

 リベリオンに戻る事を決めたのはクィンビー自身であるが、当然の事ながら真実の一部に触れた蜂型怪人にはリベリオンへの忠誠心など欠片も残ってなかった。

 クィンビーは自分の生身の体を奪ったリベリオンへの復讐のために、あえて渦中と言えるリベリオンの中に舞い戻ったのだ。


「こんな物では済まさないんだからね…」


 手始めに素体捕獲任務の正確な情報を欠番戦闘員こと大和に漏らすようになったクィンビーの復讐は、まだ始まったばかりである。

 獅子身中の蜂を懐に入れてしまった悪の組織リベリオンの明日は、決して明るいものでは無いだろう。

 クィンビーの怨念の篭った言葉が、リベリオンの通路の中で空虚に響いた。


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