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欠番戦闘員の戦記  作者: yamaki
第4章 女王蜂の今昔
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21. 最悪の未来


 何時かのガーディアン基地と同じように大和たちに対して圧倒的な力を見せた白仮面は、泰然とした態度を見せていた。

 先ほどの言葉通り白仮面は大和たちと戦うので無く、あくまで話し合いとやらをするつもりらしい。

 大和から見る限り、白仮面から戦意らしき物は完全に失われていた。

 一体白仮面にどのような腹積もりがあるか解らないが、この話し合いの場は白仮面の謎に迫る好機である。

 大和は恐る恐ると言った様子で、白仮面に話しかけた。


「…話し合いって言うなら、まずは聞かせて貰う。

 今日のお前の目的は、姫岸が預かっていた妃のメモリなんだよな?」

「その通りだ。 私は以前から妃 春菜が残したデータを狙っていた。

 そのために姫岸と言う少女をマークしていたので、お前たちが彼女に接触した事はすぐに解ったよ」

「ふんっ、姫ちゃんの監視? ストーカーが仕事とは、良いご身分ねー!!」

「お前たちには感謝するよ。 お陰で彼女が隠していたデータを手に入れる事が出来た」


 やはり白仮面がこの場に現れた目的は、姫岸が今まで隠していた妃からの預かり物にあったらしい。

 どうやら白仮面は姫岸の動向を監視しており、そのお陰であの廃墟に先回り出来たのだろう。

 大和たちはまんまと、白仮面が妃の残したメモリを手にする機会をお膳立てしてしまったようである。

 白仮面に使われた事を知ったクィンビーはプライドが傷つけられたのか、今にも白仮面に飛び掛りそうなほどの形相を見せた。


「…お前はリベリオンの人間なのか?」

「さて、どうかな…。 もしかしたらガーディアンの手の者かもしれないぞ」


 少なくとも妃 春菜と言う少女を捕らえ、クィンビーと言う怪人に改造したのは悪の組織リベリオンである。

 それならば妃が残したデータを狙っているのも、リベリオンであると考えるのは当然だ。

 しかし白仮面は大和の問いに対して、自分がリベリオンに所属していると明確に答えなかった。

 この状況で所属を偽る理由が解らず、大和は白仮面の態度に訝しがる。


「あんたはあのメモリの中に何のデータが入っていたか知っているの?

 私がリベリオンに狙われた理由を教えなさい!!」

「世の中には知らなくていい事があるんだよ。 クィンビー、お前はパンドラの箱を開けたいのか?」

「知った事じゃ無いわよ! あれは私が残した物なのよ、なら私に知る権利が有る筈よ!!」

「…その様子では、あのデータの内容を思い出した訳では無いようだな。

 命拾いしたな、もし記憶を取り戻していたらお前の命は無かったぞ」


 白仮面の言葉を咀嚼するために無言になっていた大和に代わり、今度はクィンビーが白仮面が破壊したデータの内容について問いかける。

 しかし妃が残したデータの破壊を目的に現れた白仮面は、当然ながらあのメモリの保存されていた内容について口に出すことは無かった。

 その口振りから白仮面は妃が残した物の正体を把握しているようで、そのデータをパンドラの箱と例えて見せた。

 恐らく白仮面が姫岸の監視を始めたのは、昨日今日と言う短い期間の話では無いだろう。

 大和が知る限り最強と言って力を持つ白仮面ほどの存在が、妃のデータを手に入れるために動き続けていたのだ。

 パンドラの箱とは大層な例えであるが、それだけ白仮面とその背後に居る者にとって妃の残したそれは危険な物なのだろうか。







「さて、では今度はこちらから話をさせて貰おう、丹羽 大和よ。

 何故、お前は戦う? 何故、自分から死地へと足を踏み入れる?」

「っ!? またその質問かよ…」

「お前は今、自分が足を踏み入れている世界の怖さがまだ理解出来ていないのか?

 犠牲になるのはお前だけでは無い、周りに居る人間もお前のせいで傷つくことになるぞ」


 今まで受身の態勢で大和たちの問いに答えていた白仮面が、徐に自分から口を開いた。

 白仮面は以前、ガーディアン基地の三代ラボの時とほぼ同じ内容の問い掛けを大和にぶつける。

 言葉を終えてクィンビーの方に視線を逸らした白仮面の意図を、大和はすぐに理解できた。

 クィンビーの素体となった少女、妃 春菜が掴んだ情報のせいで、彼女だけで無く彼女の回り人間も犠牲になった。

 大和は妃と一緒に居たというだけの理由でリベリオンに捕まり、戦闘員として改造されてしまった。

 そして妃の家族は、妃が残したデータを狙う白仮面か、もしくはその仲間の手によって命を落とした。


「丹羽 大和。 お前には妃 春菜と違ってまだ家族が…、帰るべき場所が残っている。

 そして私はお前の正体を知っている、この意味が解るな?」

「…俺を脅す気か、俺が戦いを止めなければ母さんを狙うと?」


 今、大和が成り行きで足を踏み入れている世界は、そのような事が起こりうる危険で非常な場所なのである。

 大和の目の前に居る白い仮面を被った謎の男は、どういう訳か大和の素性を把握していた。

 白仮面と白仮面の所属する組織がリベリオンかどうかはまだ解らないが、少なくともその組織は大和の家族に手を出すことが出来るのだ。

 かつての妃 春菜と家と家族と同じような事が、大和の家で行われる可能性は十分に有りえた。

 大和は卑怯にも家族を盾に取ろうとしている白仮面に対して反発し、怒りの感情が湧き上がってくる。

 感情の高ぶりに呼応するように大和の両腕に炎が噴出し、内臓型インストーラに据えられたコアが輝きを増した。


「お前は今の生活を…、丹羽 大和としての人生を自分から棒に振る気か?

 まだ間に合うんだ、お前はまだ元の生活に戻ることが出来るんだぞ…」


 そのまま白仮面に向かって飛び掛りそうになる大和だったが、寸での所で己の短慮な行動に待ったを掛ける事になる。

 大和は白仮面の悲痛な叫びのような言葉を聞き、そして内に秘めた感情を現すかのような白仮面の拳の振るえに気付いてしまったのだ。

 全てを失う前に戦いから身を引けと警告するその言葉には、大和は何か圧倒されるような重みを感じた。

 もしかしたら白仮面はかつての妃のように、自身の体を強制的に怪人として改造され、そして家族を失う目にあったのかもしれない。

 そして白仮面はどういう訳か大和に対して、自分と同じ境遇になってはいけないと忠告をしているのでは無いか。

 都合の良い想像のような気もするが、今までの白仮面の大和に対する行動を見ると、そのようにしか考えられない。

 大和は白仮面の言葉に揺り動かされ、先ほどまで感じていた怒りの感情がすっかり消え去っていた。











 敵意を失った大和は再び、白仮面の事をより知ろうと耳を傾け始めていた。

 もしこの場に大和と白仮面しか居なかったならば、両者の話し合いはもう少し長く続いていただろう。

 残念ながらこの場にはもう一体、先ほど白仮面が全てを失った例として挙げた蜂型怪人の姿があった。

 自身の使役する戦闘用の大蜂の大半を迎撃された事で、白仮面の動きを警戒したクィンビーはそれまで大人しくしているようだった。

 しかしお世辞にも気が長いとは言えないかの怪人が、自分の悲劇と言っていい過去をを引き合いに出されて怒らない筈が無い。


「…遺言はもういいかしら? いい加減、死になさいよっ!!」

「おい、クィンビー!?」

「やれやれ…」


 大和の静止を無視してクィンビーは再び、白仮面に対して戦闘用の大蜂を放ってしまう。

 どうやら大蜂のストックが残り少ないらしく、先ほどの半分ほどの数に減った大蜂たちが再び白仮面に向かって突撃した。

 耳障りな羽音と共に、普通の人間なら一撃で絶命する毒を持った大蜂が白仮面に迫る。

 しかし白仮面は些かも慌てた様子は無く、先の攻防と同じように両腕を構えた。

 また白仮面の持つバトルスーツの能力で、大蜂たちを迎撃する気なのだろう。


「…油断大敵よ!!」

「なっ!?」


 白仮面の放つエネルギー波によって大蜂が迎撃されるという、先ほどと同じ光景が広がると予想していた大和は度肝を抜かれることになった。

 丁度、白仮面が両腕からエネルギー波を放出しようとする瞬間に、突如白仮面の足元の地面から何かが飛び出してきたのだ。

 それはクィンビーが使役する大蜂であった、何とあの大蜂は地面の中を掘り進んで白仮面の足元に密かに近付いていたらしい。

 どうやらクィンビーは白仮面のあのエネルギー波の対策として、この大蜂による奇襲攻撃を狙っていたようだ。

 恐らく少し前の攻防で大蜂の大群を放った時、白仮面が大蜂の相手をしている隙をついてあの蜂たちを地面に潜らせていたに違いない。

 今回の行動は怒りにまかせた無謀な行動と見せかけて、用意周到に準備したクィンビーの作戦行動であったのだ。

 そしてまんまとクィンビーの策に引っ掛かった白仮面に、地面から飛び出した大蜂の奇襲を回避する術は無かった。

 クィンビーの執念が実を結び、白仮面は大蜂の毒針をまともに受けてしまう。

 大蜂の毒針は強靭なバトルスーツの装甲をも貫き、スーツの下にある白仮面の体に毒針が突き刺さった。


「ぐぁぁぁ!? …くそぉぉぉっ!!」


 もし白仮面の中身がただの人間であったならば、この一撃で全てが終わっただろう。

 クィンビーの大蜂が持つ毒の威力は、普通の人間ではとても耐え切れるレベルの物では無いのだ。

 毒に負けて棒立ちになった所を、迫り来る大蜂たちの群れに文字通り蜂の巣にされていたに違いない。

 しかし白仮面の正体は人間で無く、素性不明の怪人である。

 怪人の人外の耐久力はクィンビーの大蜂の毒に辛うじて耐え、そのまま発動直前だったエネルギー波の放射に成功したのだ。

 白仮面が放ったエネルギー波は、ギリギリの所でクィンビーが放った大蜂たちを飲み込んでしまう。






「ハァハァ…。 春菜、お前って奴は相変わらず…」

「気安く呼び捨てにするんじゃ無いわよ!!」


 クィンビーのシナリオは地中から放った大蜂で白仮面の動きを止め、その隙に大蜂の群れで止めを刺すと言う物だった。

 シナリオから逃れきった白仮面の姿に、クィンビーは苦々しげな表情を浮かべる。

 しかしどうにか生き延びた白仮面も無事では無い、その荒い呼吸から大蜂の毒が体を蝕んでいる事を示していた。

 白仮面との戦いは新たな局面を迎えていた。


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