17. 預かり物
大和は母の霞から、妃家に纏わる顛末を知ることになった。
霞曰く、妃家は妃 春菜と言う少女が行方を晦ましたた直後に、原因不明の火災が発生したそうなのだ。
家に居た妃の家族は逃げることが叶わずに全員死亡、家も跡形も無く燃え尽きてしまった。
出火の原因はガス漏れ事故と言うのが消防の発表らしいが、それだけであそこまで綺麗に家が燃え尽きるのは不自然である。
「十中八九、リベリオンが関係しているわよね…」
「タイミングが良すぎる。 そう考えるのが妥当」
「けどリベリオンが何でクィンビーの家を…。
博士、素体となった人間の家族に手を出すことは、リベリオンでよくあること何ですか?」
「ありえない。 素体となった人間の家族に手を出すメリットは、リベリオンには無い」
セブンの部屋に集まった大和たちは、顔を突き合わせながら妃の家が火事になった原因について考察していた。
当然のように彼らは妃の家の火事の原因を、リベリオンの仕業であると推測した。
妃がリベリオンに素体として捕まると同時に、図ったように妃の家が火事になったのだ。
この流れでリベリオンの介入を疑わない訳にはいかないだろう、しかしリベリオンの介入があったとするならば一つの疑問がある。
一体リベリオンはどのような目的があって、わざわざ妃の家を事故に見せかけて焼くような事をしたのだろう。
まず考えらる理由は口封じ、素体として捕らえられた人間の家族が世間にリベリオンの悪行を広めることを防ぐ目的である。
しかし悪の組織リベリオンの存在は既に世間に認知されており、今更素体として攫った人間の家族を始末する必要は無い。
そもそも口封じが目的ならば、同時期に捕らえられたと思われる大和の家族も狙われなければならない。
何故、同時期にリベリオンの手に掛かった二人の内、妃の家だけが狙われ、大和の家は見逃されたのだろうか。
大和たちはリベリオンの目的が読めず、顔を付き合わせながらリベリオンの意図について話し続けた。
「あ、すいません。 電話が…、どうした、姫岸? お前、今は打ち上げの筈じゃ…。
…ん、妃なら一緒に居るけど」
大和のポケットに入っていた携帯が突如電子音を鳴らし、電話の着信があったことを伝えた。
携帯を取り出した大和は、それが彼の同学年の後輩から掛かってきた着信であると知る。
セブンたちに断りを入れて、大和は携帯を取り出して姫岸からの電話に出た。
「……えっ、妃からの預かり物? 妃が行方不明になる前にお前に預けた物があるって!?」
「はっ、何よそれ?」
「解った、今からその場所に行けばいいんだな! …勿論、妃も連れて行くよ!!」
一体何の話かと思えば、姫岸はかつて妃から預かった物を返したいと言うのだ。
当然、過去の記憶を失っているクィンビーはその預かり物の存在を知る事無く、寝耳の水の様子である。
しかし過去の妃が残した物と言うことは、大和やクィンビーの記憶を辿る手がかりになるかもしれない。
妃家についての話も大事であるが、今は姫岸の言う妃の預かり物の方が重要度が高いだろう。
妃 春菜がリベリオンに捕らえられる直前に預けた物である、もしかしたら妃家の件と何か関係のある物かもしれない。
何故今になって姫岸がこの話を出したのか不思議に思いつつ、大和はその預かり物を手に入れるため姫岸に指定された場所に向かうことを決めた。
大和とクィンビーは姫岸に指定された場所に向かうため、ファントムに二人乗りをして移動していた。
今の大和は道路交通を取り締まる警察を怖がる必要は無かった、何故なら大和は先日再発行した普通二輪免許を所持しているのである。
かつて大和は幼馴染である妃の無茶振りによって、高校生の身でありながら二輪免許を取らせていた。
しかし戦闘員になった時に過去の記憶を全て失った事、そして母の霞が息子の身を案じて意図的に二輪免許の存在を教えなかった事により、戦闘員となった後の大和は今まで警察に怯えながらの無免許運転を強いられていた。
「"はっはっは、これで堂々とファントムちゃんを乗り回せますね、マスター"」
「"どう見てもお前は中型バイクに見えないけどな…"」
最近になって姫岸の情報でようやく自分の二輪免許の存在を知った大和は、すぐに免許の再発行をしようとした。
リベリオンに捕まった際に大和の免許は失効状態になっていたため、本来なら免許の再発行には色々と面倒な手続きが必要である。
しかし大和には、正義の味方として幅を利かせているガーディアンの人間のコネが有った。
三代の仲介で手続きをすっ飛ばして免許を取り戻した事で、大和は公的に二輪車を乗り回す権利を手に入れたのだ。
最も、大和の取得した普通二輪免許では400CC以下のバイクしか乗ることを許されていない。
一方、大和の相棒であるファントムは400CC以下所か、怪人レベルの身体能力が無ければ乗りこなす事が不可能なモンスターマシンである。
一応書類上は中型バイクと言う事で誤魔化しては入るが、余りファントムを大っぴらに乗り回すのは控えた方がいいだろう。
「ちょっと戦闘員、まだ付かないのー? 何か、全然人気の無い場所に向かっているみたいだけど…」
「もう少しで付くから待ってろよ。 全く、あの子はなんでこんな辺鄙な場所に俺たちを呼んだんだ…」
ファントムのナビが正しいのならば、大和たちは確かに姫岸に指定された場所に近付いている筈である。
しかし大和たちを乗せたファントムは、段々と人の気配が感じられない町外れの方へと向かっているようなのだ。
大和やクィンビーは、こんな僻地の自分たちを呼びつける姫岸の意図を測りかねているようであった。
彼らは知らなかった、今目指している場所はリベリオンに捕まったあの日に、大和と妃が向かっていた目的地である事を。
まるで大和たちの悲劇の過去を焼き増ししたような行動を取らせる、姫岸の真意は一体どのような物だろうか。
そこはとある町外れの、人気が全く無い廃墟だった。
恐らく元はホテルか何かだったろうが、既にその面影は殆どなく辛うじて建物の原型を留めていた。
崩壊の危険が有るのか建物の四方にロープで張られ、さび付いた鉄の看板が建物への侵入を禁じている。
ファントムのナビが確かならば、この場所は確かに姫岸が指定した場所だった。
一体、姫岸はどのような意図があって、大和たちをこのような場所に呼びつけたのだろうか。
廃墟の付近は全く整備されていないのか道が酷く荒れており、大和とクィンビーは既にファントムから降りて徒歩になっている。
ファントムの性能ならばこの程度の荒道なら踏破出来そうだが、流石に二人乗りでそんな無茶をしたくないと大和が判断したのだ。
道すがら大和は、これは先ほどの研究部でのやり取りに対する、姫岸の性質の悪い仕返しなどではと想像してしまった。
このような場所に姫岸が居るとはとても思えず、最悪姫岸が指定された場所に現れない可能性も考えられた。
しかし大和の悲観的な予想は外れ、すぐにこれは姫岸の悪戯では無いことは判明した。
姫岸はロープを越えた先の廃墟の玄関部分に立ち、大和たちを待ち構えていたのだ。
「…先輩、この場所は何なのか解りますか?」
「いや、解るかって言われても…」
「くっ…、な、何言っているのよ。 あんたが私たちを此処に呼び出したんでしょう?」
「おい、本当に大丈夫なのかよ、お前…」
大和たちを出迎えた姫岸は開口一番に、おかしな質問を投げかけた。
何故なら此処の廃墟は姫岸が指定した場所であり、大和たちがこの場所の事を知る筈は無いのである。
姫岸の奇妙な問い掛けにクィンビーが早速噛み付くが、どういう訳かクィンビーには何時もの元気が無かった。
口では姫岸に対して憎まれ口を叩きながらも、その表情は蒼白としており尋常で無い様子が解る。
まるで何かに堪えるように頭に手を当てながら、クィンビーは何かを探るように辺りを見回していた。
大和はクィンビーの様子を心配していた、この怪人はこの場所に近付くに連れて様子がおかしくなっていったのだ。
最初の頃は大和の後ろで色々うるさかったクィンビーだが、目的地に近付くに連れて段々と口数が減らしていく。
やがてファントムから降りて歩き始めた時、クィンビーは頭痛にでもなっているかのように頭を手で押さえながら此処まで来たのである。
「…やっぱり妃先輩だけで無く、丹羽先輩も昔の事を覚えていないのですね?」
「なっ、それは…」
「此処はあなたたちが二人で向かい、そして消息を絶つことになった目的地。
私たち怪人調査研究部が独自ルートで掴んだ、リベリオンの狩場だった場所です」
「こ、此処で俺たちが…!?」
「くぅ…」
「おい、妃、大丈夫かよ、お前!!」
今自分が立っている場所の意味を知った大和は、改めて目の前に広がる廃墟を見渡した。
姫岸の話が本当ならかつて大和は一度此処に来ている筈だが、幾ら目を皿にして見回しても過去の記憶は蘇らなかった。
しかしクィンビーは違った、蜂型怪人は姫岸の言葉を聞くと同時に益々苦しみだした。
やがて立っていることすら難しくなったのか、クィンビーは片膝を付いて崩れてしまった。




