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欠番戦闘員の戦記  作者: yamaki
第4章 女王蜂の今昔
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13. 欠番の復讐

 欠番戦闘員がリザドたちと戦いを始めてから暫く経ったが、未だに戦いの決着は付いていなかった。

 荒い息を吐きながら地面に倒れている数十匹もの戦闘用犬の数が、欠番戦闘員のこれまでの死闘を物語っていた。

 生き残っている戦闘用犬たちは数の利を失いかけている事に警戒したのか、唸り声を上げながら欠番戦闘員の周囲を窺っている。

 既に欠番戦闘員が身に纏うバトルスーツは、戦闘用犬たちの刻んだ傷跡が幾多も見えた。

 頑丈なバトルスーツに守られた事で、辛うじてスーツの下の生身部分にはまだ負傷は無いが、既にスーツの耐久力は限界であろう。 

 欠番戦闘員の様は、まさに満身創痍と言っていい状態だった。


「ハァハァ…」

「ここまで粘るか…。 やるな、欠番戦闘員!」

「くそっ、まだ輸送車は来ないのか!?」


 宿敵である欠番戦闘員を後一歩の所まで追い詰めたリザド・ハウンドたちであったが、どういう訳か両怪人の顔色は優れなかった。

 今回のリベリオンの本来の目的はあくまで素体捕獲任務で有り、此処で欠番戦闘員を倒す必要性はリベリオン側には無い。

 彼らの勝利条件は戦闘員たちによって拘束された人間たちを、無事にリベリオンのアジトに輸送することにあった。

 そして素体の輸送には輸送車両が必要であり、予定ではリベリオンから寄越される輸送車両はとっくにこの場所に来ている筈なのだ。

 しかし輸送車両は現れる様子は無く、怪人たちが欠番戦闘意に構っている内に悪戯に時間だけが過ぎてしまった。

 このまま時が過ぎれば、折角他の場所に誘導した筈のガーディアンまでもが現れてしまうだろう。

 怪人たちは予想外の事態に焦りを覚えていた。


「輸送車は来ないわよ」

「なっ、どういう事だ!?」

「あの欠番が乗っている姿が消えるバイクが有るじゃ無い、あれが輸送車を事故らせたみたいよ」

 私の蜂が目撃した確かな情報よ」

「クィンビー! 何故、お前の蜂共で車両を守らなかった!!」

「仕方無いでしょう! あのバイクが消えている時は、私の蜂たちでも見付からないんだから…

 気が付いた時にはもう車両は盛大に転がってたのよ」


 そして今まで観客に徹していた筈のクィンビーから、怪人たちにとって最悪の知らせが伝えられてしまった。

 何と怪人たちが待ち侘びていた輸送車は、既に使用不能な状態にされていたのだ。

 素体捕獲任務を妨害に来た欠番戦闘員に取っても、怪人たちを倒すのが本来の目的で無い。

 そして欠番戦闘員はリベリオンの素体捕獲任務を妨害する一番の方法は、リベリオンの足を止める事であると過去の経験から学んでいた。

 そのため欠番戦闘員は危険を冒して、相棒であるファントムに単独でリベリオン輸送車両の妨害を指示したのだ。

 怪人たちの様子から作戦が上手く言ったことを確信した欠番戦闘員こと大和は、覆面の下で笑みを浮かべた











 リザドたちが知る欠番戦闘員の傍には、主をサポートするあの幽霊マシンが常に控えていた筈である。

 しかし今回の戦闘ではあのマシンは姿を見せること無く、何故か欠番戦闘員が一人だけで戦っていた。

 その答えが主を囮にした幽霊マシンの破壊工作であり、怪人たちは愚かにも欠番戦闘員の作戦に気付くことが出来なかった。

 欠番戦闘員の策略にまんまと嵌められた怪人たちの怒りは、この瞬間に頂点に達した。


「アォォォォォォォォンッッッ!!!」


 最早罵詈雑言を発する事さえ省き、ハウンドは自身の切り札である音波攻撃を繰り出した。

 ハウンドの巨大な口から放たれた指向性を持った音の衝撃波は、欠番戦闘員に向かって飛んでいく。

 恐らくハウンドが音波攻撃を放った後で動いていたら、回避は間に合わなかっただろう。

 しかし欠番戦闘員の中身である大和、かつて9711号と呼ばれていた元戦闘員はハウンドの音波攻撃の存在を知っていた。

 直前の予備動作から過去の記憶が蘇った欠番戦闘員は、音波攻撃が放たれる前に既に動いていた。

 そしてハウンドの放った音の衝撃波は、欠番戦闘員が先ほどまで居た地点を通り過ぎて行く。


「避けただと!? それならば…、オォォン!!」


 自身の音波攻撃が避けられたハウンドは、今度は生き残っていた戦闘用犬たちを欠番戦闘員にけしかけた。

 欠番戦闘員が戦闘用犬に掛かりきりになって動きが封じられている間に、音波攻撃で止めを刺す気なのだろう。

 絶対の支配者であるハウンドの指示に従い、忠実な生きた殺人機械は再び欠番戦闘員に襲い掛かろうとしていた。

 ハウンドの切り札である音波攻撃と戦闘用犬たちの波状攻撃、今のダメージを追っている欠番戦闘員が凌ぎきるのは困難だろう。

 しかしこの絶対絶命な状況の中で、欠番戦闘員の中身である大和は全く動じて居なかった。


「"…やれ、ファントム"」

「"アイアイサー"」


 何故なら彼の傍には既に、役目を終えて幽霊の如く密かに舞い戻っていた相棒が居たのだ。

 欠番戦闘員の使う怪人専用バトルスーツは、肉体能力に特化した汎用性ゼロの特化型スーツである。

 その性能ゆえに近付いて格闘するしか戦闘方法が無く、相手に距離を取られれば今回の戦いのように成す術が無くなってしまう。

 しかしだからこそ怪人専用バトルスーツの開発者であるセブンは、装着者をサポートするためのマシンを開発したのだ。

 ファントムは主の指示に従い、対ハウンド用にセブンによって組み込まれた新機能を開放する。

 自身に課された役割を果たし、主の道を切り開くために。


「キャン!?」「アォン!?」

「な、なんだ、この耳障りな音は!? くっ…」

「はっ、音? 俺には何にも…」


 突然、戦闘用犬たちが呻き声を上げながら、おかしな動きを始めた。

 ある物は酔っ払ったように千鳥足になり、ある物は地面に蹲る。

 そして戦闘用犬たちの主もまた、両耳を腕で押さえながら自分の脳を揺さぶる音に耐えていた。

 しかし近くに居たリザドにはハウンドが苦しみ理由が解らなかった、彼の耳にはハウンドが言うような耳障りな音など何も聞こえなかったのだ。






 最早、豆知識にすらならない情報だと思うが、犬の可聴域は人とは異なっている。

 犬にしか聞こえない音の周波数を出す犬笛という物で、犬にしつけをすることがあった。

 そしてハウンドは戦闘用犬たちを操作する方法として、犬笛と同じように人には聞こえない周波数の音域を利用していたのだ。

 ファントムは音を利用しているハウンドの能力を逆手に取り、外部スピーカーから戦闘用犬たちを妨害するための音を出していた。

 勿論、ハウンドを妨害するための音を作り出すためには、ハウンドについての正確なデータが必要になる。

 普通だったらハウンドの能力を正確に分析して、それに対抗する音を作り出すことなどは不可能だろう。

 しかし欠番戦闘員の裏には元リベリオン開発主任のセブンが有り、かつてハウンドのデータを閲覧した彼女にはこの程度の細工は簡単だった。


「ウォォォォォォッ!!」


 ファントムのお陰で邪魔な戦闘用犬たちが無効化され、怪人たちへの道が開かれた。

 欠番戦闘員は雄たけびを上げながら、躊躇うことなく怪人たちに向かって突っ込む。

 既に輸送車を潰したことで欠番戦闘員の目的は達しており、此処でファントムに乗って逃げる選択も出来た。

 しかし事前に決めた作戦とは言え、戦闘用犬たちや怪人たちに言いようにやられたのが余ほど苦しかったのだろう。

 お返しに怪人たちをぶん殴ってやらなければ気が済まないと考えるほど、欠番戦闘員こと大和は怒りに燃えていた。

 怪人たちに向かって駆ける欠番戦闘員の動きは、これまでのダメージを感じさせないほど躍動的であった。

 いや、むしろ先ほどより動きがよくなっているくらいである。

 実は欠番戦闘員はこれを今回の戦いの最後の攻防と判断して、切り札であるリミッター解除をしていたのだ。

 通常の50%のコア出力が80%に上がったことで、欠番戦闘員の肉体能力はより強化される。

 コアの出力が上がった証として、彼の両腕に今までで一番の炎が燃え盛っていた。


「欠番、やらせん!!」

「ッ、邪魔ダ!!」

「よしっ!? なっ、ぐわぁぁぁっ!?」


 迫り来る欠番戦闘員に対して、リザドは勇敢にも迎撃の態勢を取る。

 リザドは近付きつつある欠番戦闘員に向かって、口から粘着液を吐き出した。

 既に欠番戦闘員は数メートルの距離までリザドに迫っており、この距離ならば粘着液を完全を避ける余裕は無いと判断したのだろう。

 リザドの思惑通り欠番戦闘員は粘着液を避けることは出来ず、彼の体にリザドの粘着液は付着してしまった。

 しかしリザドの粘着液は欠番戦闘員の体を封じることは無かった、欠番戦闘員は咄嗟に粘着液を両腕で燃え盛っている炎で迎撃したのだ。

 コアの出力が上がったことで勢いを増した炎は、リザドの粘着液を一瞬で燃やし尽くしてしまう。

 そして粘着液が当たったことで一瞬油断してしまったリザドに、念願の手が届く距離まで辿り着いた欠番戦闘員を止める手は残されていなかった。

 リザドの元まで駆けてきた勢い殺さずに、振りかぶるように放った欠番戦闘員の拳はリザドに放たれる。

 その拳は腕を十字にして構えたリザドの防御を簡単に貫き、リザドに何度目になるか解らない敗北を提供した。


「何故だ、何故この俺が…」

「今マデノ礼ダ!!」

「なぜだぁぁぁぁぁぁっ!!」


 リザドと言う障害を排除した欠番戦闘員は、いまだにファントムの妨害音の影響を受けているハウンドに辿りく。

 ファントムの妨害音の効果で脳が揺さぶられ、体がふらついているハウンドに、最早勝ち目は無いだろう。

 ハウンドは迫り来る二度目の敗北と言う事実に耐えられないと言った様子で、半狂乱のようになっていた。

 大和はハウンドに容赦なく拳を振りぬき、ハウンドは最後まで自分の敗北を受けれられないまま意識を失った。











 白染めの車両が現場に辿り着いた時、全ては終わっていた。

 リベリオンから開放された人間たちの証言や、密かに携帯なので隠し撮りしていた映像から、ガーディアンの戦士たちはこの場で起きた戦いの詳細を知ることが出来た。


「また旦那に助けられか…」

「欠番戦闘員、お前は一体何者なんだ…」


 結果的に市民たちに被害が無かったことは喜ばしい。

 しかしその結果を得るための過程で、正義の味方であるガーディンが全く絡んでいないと言う事実は問題だった。

 欠番戦闘員の存在を疑問視する白木の言葉は、道化となったガーディアンの戦士たちの中で空しく響いた。


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