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欠番戦闘員の戦記  作者: yamaki
第4章 女王蜂の今昔
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6. 兄弟コア


 ガーディアン東日本基地内の各所では、先の襲撃の傷を癒すための工事が進められていた。

 リベリオンの手によって予想以上に大きなダメージを受けた基地の機能は、あれから1ヶ月以上経った現在でも完全に回復出来ていないのである。

 基地の各所では至る所で野太い怒声と工事音が響き渡り、逞しい男たちが土木工事に励んでいる。

 そんな基地内で奇跡的にほぼ無傷の状態で残っていたある部屋で、白衣を着た妙齢の女性とガーディアンの制服を着た少年が向かい合っていた。


「あー、眠い。 なんでやる事も無いのに、こんなに朝早くに来ないといけないのよ」

「午前10時過ぎは絶対に朝早くとは言いませんよ、三代さん…」


 眠たそうな様子を隠そうとしない女性、三代は頬杖を突いただらしない格好のまま欠伸を噛み殺していた。

 現在、三代の城と言える研究施設、通称三代ラボは先の白仮面の襲撃時に少なくないダメージを受けてしまった。

 特に施設内にあった高額な研究器具を再調達するには、天下のガーディアンと言えども有る程度の時間が掛かってしまう。

 そのため三代ラボは復旧が終わるまで使用が出来なくなり、バトルスーツの研究を頓挫させられた三代の機嫌は余りよろしい物では無いらしい。

 三代に相対する少年、白木は大人気ない三代の様子に若干呆れているようだ。


「全く、こういう仕事は私の研究所が完全に直ってから依頼しなさいよ」

「すいません、無理を言ってしまって…。 それで結果の方は…」


 三代とそこそこの付き合いがある白木は、三代の機嫌が悪い時には余り話を長引かせてはいけないことを経験上知っていた。

 下手に話を引き伸ばしでもしたら、意外に愚痴っぽいこの才女の話に付き合わされて何時までも本題に辿り着けないのだ。

 白木はとりあえず三代を呼び出したことを謝罪しながら、いそいそと今日の本題について話を進めた。


「ボウヤには悪いけど、残念ながら白よ。

 あの欠番戦闘員とやらのコアは、ボウヤが奪われたそれでは無かったわ」

「そんな…」


 話を促された三代は不機嫌な表情を崩さないまま、単刀直入に結論を述べた。

 白木は三代の言葉が余ほど予想外のものだったのか、気落ちした表情を見せた。

 あの欠番戦闘員のコアの正体について白木が立てた推論が、三代によって明確に否定されてしまったのだ。







 かつて白木と黒羽のコンビが使用していたバトルスーツのコアは、通常の物は異なる性質を持った貴重な代物だった。

 実は両者のバトルスーツのコアは、全く同じ性質を持つ兄弟コアと呼ばれる物だったのだ。

 通常のコアは生成時の偶然的な要素の影響を受けて、作り出されるコアの性質は全く異なるものになる。

 コアの性質によって使い手となる人間の条件も変わるため、コアの使用者は千差万別となってしまう。

 未だに宇宙から送り込まれたコアの製造技術の全てを解明出来ていないガーディアンには、生まれてくるコアの性質を任意に調整することは不可能なのだ。

 しかし白木と黒羽の使用していたそれは奇跡的な偶然が重なった事により、ほぼ同じ性質を持って生み出されたコアであった。

 そして同じ性質と言う事は、コアの使用者としての条件もほぼ同じと言うことになる。

 この兄弟コアの性質故に白木は、黒羽の使用していたコアをそのまま受け継ぐことが出来たのであった。


「で、でも僕のスーツのコアが共鳴を…」


 そして兄弟コアには通常のコアには無い、ある特殊な性質が存在していた。

 互いに同じ性質を持つコアが近付くと、コア同士が共鳴する現象が発生するのだ。

 ガーディアンではこのコアの共鳴の研究データを取るために、兄弟コアを使用する戦士たちにコンビを組ませて活動をさせていた。

 白木と黒羽はガーディアンの思惑通りに順調にデータを集めてくれた、彼らの前にあの蜂型怪人が現れるまでは…。


「完全に共鳴しなかったんでしょう?

 後になって戦闘データを調べてやっと解ったくらいの微笑な反応だものね…。


 優等生である白木は何時も訓練や戦闘の後にスーツの稼動データを自分でまとめ、その戦いの内容を復習をするのが日課となっていた。

 今回は怨敵であるクィンビーや理不尽の塊のような存在であった白仮面との戦闘記録であることもあり、白木は気合を入れてデータの分析を行ったのだ。

 そこで白木は自分のバトルスーツのログから、欠番戦闘員のスーツのコアとの共鳴反応を見付けることになる。

 戦闘時には全く気付かなかった僅かな反応であるが、確かに欠番戦闘員とコアは白木のコアと共鳴していた。

 その反応は僅かな物であるものの、確かにかつて黒羽と白木が共闘したときに発生した内容と一致しているのだ

 白木はこの事実からあの欠番戦闘員が、かつて自分からインストーラを強奪した戦闘員では無いかと疑いを持つことになる。

 そして白木はバトルスーツの専門家である三代に調査を依頼し、その結果を聞きに来ていたのだ。


「多分、あの欠番とやらのコアは、ボウヤのコアと似た性質の物だったのよ。

 まぁ、兄弟コアとまではいかなくても、似た性質のコアが出来ることは有り得ない話じゃ無いしね…」

「…解りました」


 白木の予想通り、欠番戦闘員の使うコアは以前に大和が9711号と呼ばれていた時に白木から手に入れた物である。

 ただしそのコアはセブンによって大々的に魔改造を施さたことで、その性質を大きく歪められてしまっていた。

 そのため白木の今使っているスーツのコア、かつての黒羽の使用していたそれと完全に共鳴することが無かったのだ。

 もし仮に白木が三代以外の専門家が正しく調査をしていたら、欠番戦闘員のコアがかつての白木の使用していた物だと判明したかもしれない。

 しかし白木は基地内で一番の開発者であり親交もある三代に…、裏で欠番戦闘員たちと組んでいる女性に調査を依頼してしまった。

 当然のことながら三代が馬鹿正直に真実を語るはずも無く、哀れにもこの正義の味方の好青年はばっさりと自分の推論を否定されてしまうのだった。

 自分の推測が外れた事に落ち込む白木の姿を見て顔色一つ変えない三代は、中々の狸と言えよう。










「はぁ…」


 白木は基地内に設置された架設食堂のパイプ椅子に座り、先ほどから憂鬱そうに溜息を付いていた。

 落ち込んでいる理由は勿論、先ほど三代に欠番戦闘員に関する推測を真っ向から否定されたこと…、ではない。

 白木は三代から欠番戦闘員のコアについての調査結果の報告を受けた後で、三代にある頼み事をしたのだ。

 しかし彼の頼みごとは三代にあえなく断れてしまい、その事が白木の気持ちを憂鬱なものにしていた。


「よう、優等生! どうした、暗い顔して…」

「えっ…」


 何時の間にか架設食堂に入ってきた男に声を掛けられた白木は、俯いていた顔を上げる。

 二十台前半くらいの見るからに逞しい体の男は、白木に向かって男臭い笑みを浮かべていた。

 もし男が薄汚れていた作業着を着ていたら、外で工事しているガテン系の仲間と思ってしまう筈だ。

 しかし男の服装は作業着などでは無く、白木と同じガーディアンの制服を着ていた。

 どうやら男は白木と同じ、ガーディアンに所属している人間であるらしい。


黄田(きだ)さん!? どうしたんですか、今日は非番じゃ…」

「なーに、ちょっと汗を掻きに来ただけだよ。 運よくジムは無事だったからな」

「ははは、相変わらず筋トレが好きなんですね、黄田さんは…」

「俺たち戦士は体が資本だからな、鍛えるだけ鍛えておかないと!

 坊主ももう少し肉をつけた方がいいぞ!!」

「ははは…」


 この白木から黄田と呼ばれた男は、白木と同じガーディアンの戦士である。

 どうやら黄田は体を鍛えるために、わざわざ休日にガーディアンの基地を訪れていたらしい。

 恐らくトレーニングを終えてシャワーで汗を洗い流したのか、黄田の髪は僅かに濡れていた。

 黄田の見るからに鍛えられた体は、日々のトレーニングによって維持されていた。

 戦士として白木も黄田と同様に訓練は積んでいるものの、残念ながら彼は筋肉は付きにくい体質らしい。

 同じ男として密かに土留や黄田のような逞しい体に憧れている白木は、黄田の駄目出しに苦笑いで答えるしか無かった。


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