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欠番戦闘員の戦記  作者: yamaki
第4章 女王蜂の今昔
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4. 再会


「…そして今、研究部では妃先輩の代から培ってきた研究データをまとめた、自作の怪人データベースを作成中なのです!」

「あ、データベースのソフト開発は、研究部側じゃ無い方のパソコン部員がやってまーす」


 姫岸は突如現れた部の創設者、妃に対して怪人調査研究部の歴史を熱く語っていた。

 現在、研究部では彼らの研究の集大成とも言うべき怪人データベースと言う物を開発していた。

 データベースの元となる資料は、怪人調査研究部が数年に掛けて集めた研究の結果である。

 そしてややこしい話であるがパソコン部内で純粋にパソコンを弄りたい方の部員が、研究部の集めた資料を基にデータベースを構築していた。

 意外に怪人調査研究部とパソコン部の部員たちは、各々の役割分担が出来ているようであった。

 ちなみに妃が大和の存在に気付いたのも、その研究のための情報収集の一巻による物である。

 直接怪人と接した貴重な体験者である深谷から話を聞く過程で、彼女は大和の存在に気付いたらしい。






「うわっ、何よこれ…。 どうして此処まで精密な予測が出来るのよ…」

「ふっふっふ、妃先輩が居なくなった後もちゃんと調査と研究を続けていましたからね…

 もうリベリオンが狩場として選定する場所の予測は、凡そ八割くらいのレベルで実現できますよ」


 怪人調査研究部の怪人に関する研究の成果は、正直言って学生レベルを超えている物があった。

 特に今妃が見ている狩場の予測機能については、大和も始めて見たときには驚かされたものである。

 狩場と言うリベリオンが素体を捕獲するために選定された場所の情報は、基本的に一般市民には秘密にされている。

 しかし研究部の面々は一体どのような手を使ったか、過去に狩場として選定された場所をほぼ正確に把握していたのだ。

 実際に大和がかつてリザドとかつて激しい戦いを繰り広げた狩場の場所を、研究部の資料にしっかりと残されていた。

 そして過去の狩場の選定パターンを元に分析した狩場の推測アプリは、普通にガーディアンに高く売れそうな程の代物となっていた。






「うわっ、リザ…、この蜥蜴型怪人って奴、評価が結構高いな…。

 ていうかこの怪人の写真とか、どうやって撮ったんだよ」

「ふふん、蜂型怪人が特Aクラスの怪人ね、解っているじゃ無い…」

「今までこの近辺で活動していた怪人の情報は殆ど揃えています。

 少し毛色が違いますが、噂の欠番戦闘員のデータも…」

「ぶはっ!?」


 怪人調査研究部の名に相応しく、彼らはリベリオンに所属する怪人のデータもまとめていた。

 怪人の姿・形は勿論、使用する能力、活動の記録、ベースとなった動植物の推測まで行っていた。

 データベースの中には大和が今まで戦ってきた怪人は勿論、大和が見知らぬ怪人の情報で溢れている。

 一体、何処から情報を集めたのか、研究部のデータベースにはガーディアン基地襲撃が最初で最後の任務であったステレオンの情報も存在していた。

 もしかしてこの研究部には、ガーディアンサイドの協力者でも居るのだろうか。






「へー、ガーディアンのデータも有るんだ。 特に白木さんのデータが多いな…。

 ガーディアンの最強の戦士、灰谷? 一体どんな…」

「ふんっ、ガーディアンの連中のことはどうでもいいのよ。 ほら、他の物を見せなさい!!」

「ええっと、それならリベリオンの活動拠点の推定位置を…」

「ああ、まだ見ている途中だったのに…」


 怪人に対抗している組織として、研究部ではガーディアンの情報も集めていた。

 流石に怪人に関する物ほど力を入れていないようだが、ガーディアンに所属する戦士たちの情報がデータベースにはしっかりインプットされている。

 白木や土留と言った大和が知る者だけで無く、見覚えの無いガーディアンの戦士たちの情報も多数集められている。

 大和としてはガーディアンの情報もじっくりと見ておきたかったが、妃に急かされて渋々と他のデータに移動させられてしまう。






 この他にも怪人データベースには、様々な情報が収められていた。

 少し前からこの怪人データベースの作成に参加していた大和も、まともにデータベースを閲覧するのは初めてであった。

 予想以上の完成度の高さに、大和はこの部が冗談半分で作られた物では無いと実感させられることになる。

 姫岸が自身満々と言った様子で、怪人調査研究部の成果としてこのデータベースを見せた事も納得の出来だろう。


「どうですか、妃先輩!! 先輩の残した研究部の研究の集大成は…」

「だから私は妃なんて名前じゃ無いわよ! 誰よ、それ…」

「先輩っ…」


 大和の前に現れた少女は、明らかに写真に写っていた妃と瓜二つの顔をしていた。

 しかしどういう訳かこの少女は大和たちに対して、自分が妃であることを明確に否定していたのだ。

 敬愛する先輩に拒絶された姫岸がその表情を凍りつかせた時の光景は、今でも大和は明確に思い出す事が出来る。

 ショックを受けた姫岸が半ば強引に妃を学校の情報室に連れてきて、熱心に研究部の話を聞かせても妃の態度は変わらなかった。

 一体妃に何があったのだろうか、反応を見る限り妃は姫岸や研究部のことを完全に覚えていない様子である。

 そもそも妃と言う少女は大和と共に、今の今まで行方不明になっていた筈だ。

 最初にその話を聞いた時、大和は恐らく妃も自分と一緒にリベリオンに捕って戦闘員にでもされたのだと考えていた。

 ならば妃は大和のように、戦闘員手術の影響で記憶を失っているのだろうか。


「もういい、これ以上は付き合ってられないわ。 ほら、行くわよ」

「えっ、俺も…!?」

「妃先輩!? 丹羽先輩も…、どうして…」


 しかし妃は大和と同じように、過去の記憶を完全に失っている訳では無かった。

 どういう訳か妃は大和のことは覚えているらしく、大和に対してだけは知り合いのような態度を取っていた。

 妃は縋るような目をした姫岸を振り切り、大和を腕を取って情報教室を後にしようとする。

 情報教室を出る間際、後ろから聞こえてきた姫岸の悲痛な声は大和の耳にはっきりと聞こえてくる。

 非常にも妃は姫岸の声に全く反応することなく、淀みない足取りで情報教室から出て行った。











「おい、妃!? お前は一体…」

「妃じゃ無いって言っているでしょう!!」


 学校の敷地を出た辺りで大和は意を決して妃の腕を振り切り、幼馴染らしき少女の行動を問い質そうとする。

 しかし妃は逆に大和に食って掛かり、その剣呑な態度の大和は怯んでしまう。


「……本当に私のことが解らないのかしら、"戦闘員"?」

「!?」


 "戦闘員"、それは今の大和が抱えている誰にも知られてはならない秘密である。

 その秘密を何故、行方不明になっていた筈の幼馴染が知っているのだろうか。

 混乱の極みに陥った大和は、妃に話しかけることさえ間々ならずにうろたえてしまう。

 やがて妃が発した"戦闘員"と言う響きに刺激されるかのように、大和の脳内に次々に過去の情景がフラッシュバックしていった。

 かつて他の戦闘員と間違われて戦場に出てしまい、黒羽や白木と言ったガーディアンとの不本意な戦闘を経験した記憶。

 戦闘後、指揮官である怪人に無理やり連れられて、その怪人の指揮官の部屋に連れられたときの記憶。

 そして大和はその怪人に戦闘員マスクの下の素顔を見られ、逆にその怪人が人間に偽装した時の姿を見たのだ。

 そう…、確かあの怪人、クィンビーが見せた人間の姿はまさに今大和の目の前に居る…。











「お、お前は…、クィンビー!?」

「…正解」


 妃の姿に見覚えたあった大和は、自分が戦闘員になる前の記憶を取り戻し掛けていると勘違いしていた。

 しかし真相はそうでは無く、戦闘員となった後の大和が妃の姿を一度だけ見たことがあったのである。

 間抜けなことに大和は今の自分の記憶と、過去の自分の記憶を混同してしまったらしい。

 かつてクィンビーが見せた人間への偽装形態、それはどういう訳か妃と大和のかつて幼馴染と瓜二つだったのだ。

 漸く大和が自分の事に気付いた事が嬉しいのか妃は…、否、クィンビーは大和に対して不敵な笑みを浮かべる。

 大和は期せずして再会した因縁の怪人、クィンビーとの邂逅に戦慄を覚えた。


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