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欠番戦闘員の戦記  作者: yamaki
第4章 女王蜂の今昔
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3. 姫岸 燈


 妃との接触の永久に機会を失った大和は失意の中で、何故か怪人調査研究部に顔を出すようになっていた。

 大和は現部長の姫岸から一年近く部をサボっていた罰として、これからは毎日部活動に参加するように命じられてしまったのだ。


「丹羽先輩、今日も楽しく部活をしましょうね!!」

「お迎えが来たぞー、先輩。 しかし先輩も災難だな、あの研究部の連中に目を付けられて…」

「大丈夫なのかよ、先輩? もしかして連中に何か弱みを握られているとか…」

「いや、そういうんじゃ無いから…」


 勿論、大和にそんな命令に従う義務は無いのだが、何だかんだで大和は姫岸に従っていた。

 毎日、わざわざ放課後に姫岸に迎えに来られたら、大和としては嫌でも付き合うしか無い。

 薄々感じていた事では有るが、どうやら丹羽 大和と言う人間は押しに弱い性質らしい。

 しかし一応大和にも、調査研究部に足を運ぶことで得られるメリットもあった。

 過去の自分が関わっていた研究部ならば、妃の時のように記憶が刺激されるのでは無いかと期待したのだ。

 そしてあっと言う間に時間が過ぎて行き、数日前に終業式を終えた大和は体感的に始めて経験する楽しい夏休みという物に突入していた。











「おはようございます、先輩! 今日も張り切っていきましょう!!」

「普通さぁ…、三年はもう引退だろうが…」


 残念ながら夏休みにも研究部の活動は続いており、酔狂なことに姫岸はわざわざ家まで大和の事を迎えに来ていた。

 その日の朝、夏休みである事を良いことに惰眠を貪っていた大和は、寝巻き姿のまま菓子を頬張る姫岸と対面することになる。

 最近は戦闘員時代の癖も抜けたのか、大和は朝自然に目覚められなくなっていた。

 母の霞が前にこんな所は昔に戻らなくていいのにと嘆いていたので、恐らく以前の大和も余り朝が強くなかったのだろう。

 休日に無理やり起こされたことに些か気が立っている大和は、半目で年下の同級生を睨みつける。


「大和、早く支度しなさい!

 姫岸ちゃんが待ているでしょう、ゴメンなさい、ズボラな息子で…」

「いえいえ、先輩のお母様。 こちらこそ家の中にまで上がり込んでしまってすいません」

「やっぱりあなたはいい子ねぇ…、あの子とは大違い…」


 居間に通されていた姫岸は霞お手製のクッキーに舌鼓を打ちながら、暢気に大和の支度が済むのを待ち構えていた。

 どうやら姫岸は大和の母である霞と顔見知りらしく、何やら仲が良さそうな雰囲気である。

 かつて戦闘員になる前の大和が姫岸と研究部で活動していた頃に、この後輩は大和の家に何回か来た事があるのだろう。


「さぁ、みんなが待ってますよ! 早く学校に行きましょう!!」

「俺って一応、受験生なんだよな…。 何で高三の夏に部活って…」

「大和、お弁当は此処に置いとくからね」


 そもそも姫岸と大和は共に高校三年であり、普通は既に部を引退して受験勉強にでも打ち込むべきなのである。

 しかし姫岸は研究部の研究の集大成が完成していない事を理由に、熱心なことに部の引退を延期してロスタイムに突入していた。

 必然的に運悪く研究部に見付かった大和もまた、その集大成の作業につき合わされていたのだ。

 過去の大和と姫岸の関係がどのような物だったかは解らないが、どうやらこの同学年の後輩は大和に懐いていたらしい。

 強引に研究部の活動に大和を巻き込んだ理由も、恐らく姫岸が大和と一緒に居たいがための行動なのだろう。

 しかし姫岸と言う少女と今の関係になった経緯を綺麗サッパリ忘れている大和に取って、姫岸の好意は受け入れ難い物だった。

 同学年の後輩との距離感に未だに戸惑いながら、大和は姫岸と共に家を出ようとしていた。











 大和が姫岸と共に玄関を出た瞬間、その少女は唐突に大和たちの目の前に現れた。

 少女はデニムのパンツにタンクトップと言うラフな格好をしており、彼女の人並み外れたスタイルを強調している。

 髪を後ろで縛った美しい少女は大和の家の前の道路で仁王立ちになり、腕を組みながら不敵な笑みをこちらに向けていた。

 大和はその少女の姿に見覚えがあった、少し前に散々睨めっこしていた顔がそこにあったのだ。


「えっ…」

「久しぶりねぇ…。会いたかったわよ、せ…」


 大和は少女の姿を見た瞬間、凍り付いたようにその表情が固まってしまう。

 少女は大和の反応に満足したのか、ますます笑みを深めながら大和に向かって語りかけ始める。


「妃先輩ぃぃぃっっ! 会いたかったぁぁぁっ!!」

「へっ…? えっ、何よこれ…」


 しかし少女の台詞は途中で遮られ、そのまま少女は姫岸に抱きつかれてしまう。

 姫岸は突然現れた大和の幼馴染、妃 春奈に出会えたことに感動したのか涙ぐんでいる様子だ。

 一方、姫岸に抱きつかれた妃は何やら困惑の表情を浮かべながら、大和の方に救いを求める視線を向ける。

 こうして大和は期せずして、幼馴染との再会を果たすのだった。











 此処で怪人調査研究部の活動内容について触れよう。

 怪人調査研究部、それは妃 春名と言う才女の思いつきによって始まった学校非公認の部である。

 部と言っても立ち上げ時には研究部のメンバーや妃と大和の二名しか居なかった、残念ながら妃と言う少女に人望と言う者は全く無かったのだ。

 しかし人望や常識を捨てた代わりに驚異的なスペックを持つ妃は、自信の能力をフル活用して思うが儘に研究部の活動を行っていた。

 そして妃と大和たちが二年生に進級した所で、姫岸や星野と言う物好きな新入生が仲間に加わった事で漸く組織としての体裁が整う事になる。

 新たな仲間を手に入れた事で研究部の活動は益々活気に溢れ、それに比例するように学校側に多大な迷惑を掛け続けていた。

 言って見れたこの時期は研究部としての黄金期と言っていい時間だったのだろう、しかし栄枯必衰は世の常である。

 やがて大和・妃の失踪によって中心メンバーを失った研究部は、一時的に解散の危機に陥ったのだ。


「私が先輩たちの後を継ぐ! 研究部は私が守る!!」


 残された研究部のメンバーの一人である妃は、物好きな事に妃たちが居なくなった研究部を守ろうと試みた。

 しかし怪人調査研究部と言う組織は、妃と言う超人的な人間の力によって半ば強引に成り立っていた学校非公認の部である。

 妃が居なくなって現状では、遅からず教師たちの手によって研究部の活動は頓挫することになるだろう。

 窮地に陥った姫岸はある奇策を使って、この絶体絶命の危機をやり過ごす事を思いついたのだ。


「今日から私たち怪人調査研究部は、表向きはパソコン部のメンバーとなります!」

「これしかこの部を残す手が無かったんだ、すまん…」


 パソコン部とは、大和たちの学校でそこそこ古くから存在する文化部の一つである。

 姫岸たちは表向きはパソコン部の部員となることで教師の目を欺き、裏で怪人調査研究を学校に残そうと企てたのだ。

 パソコン部が怪人調査研究部と言う学校の厄介者を受け入れる気になったのには、彼らの厳しい台所事情に原因があった

 パソコンと言う物が物珍しかった時代には、パソコン部は文化部の中で最大規模の部員を誇った時代も有った。

 しかしスマートフォンが普及した今の時代、わざわざ部に入ってまでパソコンに触ろうとする人間が居なくなってしまう。

 必然的にパソコン部の部員は徐々に減少していく事になり、今では彼らは学校で定めた部として成立するための最低人数の部員しか存在しな有様になっていた。

 部員不足で廃部寸前であったパソコン部としても、理由はどうあれ部員が増えることは好ましいことだったのだ。

 以上の経緯によって現在の怪人調査研究部は表向きは学校公認のパソコン部であり、姫岸たちは表向きはパソコン部の部員と言うことになっていた。

 そして学校側の目を欺くことに成功した姫岸たちは、今日まで怪人調査研究部の活動を続けていた。

 蛇足であるが大和が学校に復帰した時、教師たちは大和が怪人調査研究部に所属していた事をあえて伝えなかった。

 教師たちは研究部の存在を当然のように快く思っておらず、わざわざ記憶喪失の大和に教える義理は無かったのだろう。

 実際、大和が失踪前の研究部はまだパソコン部と合体しておらず、大和は表向きは部活動を行っていない帰宅部だった。

 そのため大和が帰宅部だと説明した教師は、一応は嘘を言っていなかった事にになる。






「先輩、私は先輩たちが帰ってくる場所を守りましたよぉぉぉ!!」

「だから何なのよ、あんたは!?」


 二代目部長となった姫岸と言う少女は密かに、何時か再び妃や大和共に部活動をすることを夢見ていた。

 恐らく彼女が此処まで怪人調査研究部存続に情熱を燃やした原因も、そこにあるのだろう。

 そして姫岸の夢は遂に実現し、彼女の前に再び妃と大和が姿を見せたのだ。

 感極まった姫岸は人目を憚らずに涙をするのだった、まるで自分と初対面のように振舞う妃の不自然さに気付かずに…


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