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欠番戦闘員の戦記  作者: yamaki
第1章 リベリオン
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5. ガーディアン(3)

 リベリオン日本支部のとある一室、そこにガーディアンとの遭遇戦から生還した9711号の姿があった。

 無事に生還を果たした9711号だが、覆面で隠されている内の表情は何処か優れないようだ。

 何故死地を乗り越えた今の状況を喜んでいないのか、その理由は9711号を無理やり自室に連れ込んだ彼の目の前に居る女怪人クィンビーにあった。

 クィンビーは室内の椅子の上に腰を降ろし、床の上に正座している9711号を見下ろしていた。


「あの蟹野郎とは最初から反りが合わなかったのよ!

 まあ、組織結成当初に生み出された旧式怪人と、最新モデルの怪人である私と話が合わないのは当然なんだけどねー。

 そもそもあのロートルが何で私の上に居るのよ、おかしいと思うでしょう!!」

「イィィ…」


 女怪人クィンビーは延々と愚痴を垂れ流し、9711号は話を聞いていることをアピールするため奇声で相槌を打っていた。

 クィンビーの機嫌を損ねれば戦闘員など簡単に殺されてしまうため、彼なりに必死にご機嫌を取ろうと努力しているのだ。

 何故、有る意味死地といえるような状況に9711号は陥ったのか、それを説明するには今から1時間ほど時間を遡る必要があった。











 ガーディアンとの戦闘後、クィンビーが呼び寄せた新たな輸送車に乗って9771号はリベリオン日本支部までの帰還を果たしていた。 

 支部に到着した輸送車から降りるクィンビーと戦闘員たち、その前に彼らを出迎えるように一体の怪人が近づいてきた。

 クィンビーは現れた怪人の姿を見て一瞬だけ顔を歪め、一歩前に出て待ち構える怪人と向き合った。

 どうやらこの怪人はクィンビーの上司に当たる存在らしく、簡素な挨拶を交わした後に彼女はガーディアンから奇襲を受けた件の報告を始めた。


「…という訳で、ガーディアンの連中にしてやられたの。

 勿論、連中は返り討ちにしてやったけど、こっちも戦闘員を何割かやらたので仕方なく帰還をした訳よ」

「おやおや、お早いお帰りと思ったら任務失敗とは…、あれだけ威勢よく出撃した割りには散々な結果でしたねー」


 蟹をベースにしているらしい怪人は左手に生えている巨大な鋏を無意味に上下に揺すりながら、さらりとクィンビーへ嫌味を言ってのける。

 両者の間から漂う嫌な空気から察するに、この二体の怪人の仲はよろしいものでは無いらしい。


「ま、今回はガーディアンの連中が一枚上手だったという事ですね、私から本部に報告はしておきますが多分お咎めは無いでしょう。

 全く、製造から1年に満たない新米怪人が粋がるからこういう結果になるのですよ。 今後はもうちょっと自重してくださいね」

「ありがとうございます…」


 作戦失敗の責任が有るゆえに嫌味を耐えるしか無いクィンビーは、蟹型怪人からの寛大な処置に礼の言葉を述べる。

 しかしその言葉尻は震えており、後もう一押しすれば爆発しそうな雰囲気であった。

 頭を下げるクィンビーの姿を満足そうに見た蟹型怪人は、そのまま踵を返してその場を立ち去っていった。






「くっそぉぉぉっ、あの蟹野郎ぉっ!!

 何時か焼蟹にしてやるんだからねぇぇぇぇ!!」


 幹部怪人が姿を消した所で案の定、クィンビーが限界を向かえた。

 見るかに怒りのオーラを醸し出している女怪人は、先ほどの蟹型怪人への殺人予告を高々と宣言する。


「…何見ているのよ!

 ほら、ぼさぼさしないで戦闘員たちはさっさと倉庫に戻りなさい!!」

「「「「ィィィィッ」」」」」


 クィンビーの指示に従い戦闘員たちが倉庫、恐らく9711号が初めて目覚めたあの収容施設に向けて移動を始める。

 9711号はこれ幸いと、他の戦闘員たちの後についてこの場を離れようとした。

 勿論9711号はあの嫌な思い出しかない場所に戻る気は無く、途中で別れてセブンの研究室に戻るつもりであった。


「…あ、そこの9711って覆面に書いてある戦闘員は残りなさい」

「イッ!?」


 しかし何故か9711号は、クィンビーに名指して呼び止められてしまう。

 呆然とする9711号を無理やり引っ張り、クィンビーは支部内にある彼女の私室へと向かった。











「あぁぁぁ、ガーディアンの疫病神!

 あいつらさえ居なければ、あの蟹野郎に嫌味を言われずに済んだのにぃぃぃっ!!」


 こうしてクィンビーの私室で、9711号は先ほどから延々とクィンビーの愚痴を聞かされ続けていた。

 一向に彼女の話しは終わる様子は無く、愚痴の矛先の上司のからガーディアンに切り替えたクィンビーは先の戦闘の顛末についての憤りを見せていた。


「もう、腹立つ!

 結局、あのガーディアンの連中にも逃げられるし今日は踏んだり蹴ったりだわ!!」


 あのガーディアンとの戦いの最終局面、クィンビーが放った一撃は勝負を決するものだったろう。

 しかしクィンビーの、リベリオンの完全勝利は一人の少女の取った咄嗟の行動によって覆されたのだ。

 9711号はクィンビーの話を聞きながら、先の戦闘の最終局面の光景を思い出していた。












「っ、危ない!!」


 先にクィンビーが放った巨大蜂たちに気付いた黒羽がまず優先したのは、相棒である白木を助けることであった。

 しかし彼は丁度自分の手を借りて立ち上がろうとしていた所であり、即座の行動は難しい中途半端な姿勢になっている。

 このまま何もしなければ黒羽は白木と共に殺されてしまう、絶体絶命の状況の中では彼女はある決断を下した。


「はぁぁぁぁぁっ!!」


 黒羽は腕に嵌められたインストーラ、白木が嵌めていた物と色違いのそれに手を伸ばしてある操作を施す。

 すると黒羽の全身は青色のもやが立ち上り、それに合わせて何故か彼女は苦悶の表情を浮かべた。

 痛みを振り払うかのように黒羽は迫りくる巨大蜂の方に片腕を差し出し、裂帛の叫びとともに掌か氷の魔弾を射出する。

 氷の魔弾と巨大蜂がぶつかりあった瞬間、哀れにも蜂たちは全て氷付けにされてしまった。


「なんですってっ!?」


 クィンビーは己の巨大蜂たちが同時に倒されるという有り得ない事態に驚きの声をあげる。

 先ほど彼女が放った巨大蜂たちはガーディアンの隙を付いて、彼女が行使できる最大数を放った必殺の一撃だったのだ。

 それをあんな簡単に防げる筈が無い、少なくとも剣を交えることで大よそ把握していたガーディアンの女戦士の能力ではあんな芸当ができないのだ。


「死ねぇぇぇ!!」

「なんなのよ、あんた!?」


 目の前の光景の呆然とするクィンビーに対して、死地を脱した黒羽はお返しとばかりにが剣を構えて迫る。

 そのスピードは先ほどの戦闘時と比べて倍以上に早くなっていた、クィンビーは咄嗟に数匹の巨大蜂を差し向けて迎撃を行う。


「そんな小細工、今の私には効かん!!」


 黒羽は両の手に持つ剣を虚空に向かって振り下ろす、すると剣の軌跡から氷の斬撃が飛ばされる。

 氷の斬撃は簡単に巨大蜂を飲み込んでそのままクィンビーへと辿りつき、クィンビーの体を地面ごと凍りつかせた。

 胸の辺りまで氷付けにされたクィンビーは絶対絶命の状況に陥る、もし黒羽がこのまま止めを刺せていればクィンビーの命は無かっただろう。

 しかし実際はそうはならなかった、クィンビーを氷付けにした黒羽がその直後に血反吐を吐いてその場に倒れたのだ。






「…くっ」

「黒羽、やっぱりお前、リミッターを外したのか!?」


 倒れた黒羽の元に駆け寄った白木は慌てて彼女のインストーラを操作して、彼女が先ほど行ったコマンドを取り消した。

 リミッター解除、それはバトルスーツに秘められた性能を全開放する禁じ手である。

 怪人の人外の戦闘能力に対抗するため開発されたバトルスーツ、しかしその力はただの人間の手には余るものであった。

 訓練を受けた人間でもバトルスーツの数割の力しか扱えることが出来ず、仮にスーツの全性能を引き出したら人間の体は数分と持たずに壊れてしまう。

 黒羽は白木を助けるため、己の命をベットに掛けたのだ。


「撤退だ、早く黒羽を病院に…」


 異常を察知して何時の間にか近くに来ていたガーディアンの他の戦士たちに撤退を指示し、白木は黒羽を担いでその場から脱出を試みる。

 クィンビーは氷付けの状態からすぐには抜け出せず、ガーディアンの逃走を見ているしか出来なかった。

 これが今回のリベリオンとガーディアンとの戦闘の顛末であり、この後で氷から脱出したクィンビーが日本支部に連絡を入れて迎えを呼んだのだった。






 ちなみに9711号はこの時、戦闘に巻き込まれないように再び死んだ振りをしながら戦いの様子を眺めていた…。

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