20. 終幕の狼煙
白仮面の内に隠されていた人外の姿を前に、白木たちは凍り付いたように固まっていた。
ガーディアンの白木に土留、リベリオンのクィンビーと言うそれぞれの組織に属する人間に取って、白仮面はそれだけ有り得ない存在なのだ。
長年に渡って敵対を続けている両組織の象徴とも言えるバトルスーツと怪人、それらは互いに不可侵の技術であった。
例えそれがコアの出力をより引き出すための近道であったとしても、ガーディアンは決して怪人製造技術には手を出さなかった。
一方のリベリオンもお手軽に自分たちの戦力を強化する手段だと理解しても、バトルスーツを使う怪人が現れることは無かったのだ。
しかし今、両組織の常識を打ち破るバトルスーツを纏った怪人と言う存在が、初めて陽の目にあったのだ。
そしてそれは、セブンと同じ発想に至った者がこの世界に存在していることの証左でもあった。
「…か、怪人!? それならあれはリベリオンの…」
「ちぃ!? やっぱり初めからぐるだったのかよ!!」
「ちょっと、言い掛かりはよしてよ、あんなのが家の怪人の訳が無いわ!
そもそもリベリオンが、バトルスーツなんておもちゃを使う筈は無いんだから!!」
ようやく白仮面と言う衝撃を受け入れた白木たちは、彼らの常識に当てはめて怪人である白仮面をリベリオン所属であると糾弾する。
しかしこの場のリベリオンの代表と言えるクィンビーは、白木たちの謂れ無きレッテル張りに真っ向から反論する。
クィンビーの常識に当てはめたら、バトルスーツを使う白仮面は寧ろガーディアン所属であると言えるのだ。
両組織の面々は互いに所属している組織の名誉を守るために、白仮面と組織との関わり否定しあった。
そして肝心の白仮面は、不気味なことに一言を言葉を発すること無く仮面の下の素顔を曝け出していた。
「…時間だな」
「何ヲ…!?」
白木たちに劣らずに白仮面の正体にショックを受けていた大和は、白仮面の近くで棒立ちの状態になっていた。
そして白仮面の一番近くに居た大和が必然的に、謎の怪人の呟いた言葉を聞き取ることが出来た。
意味ありげな言葉に、大和は白仮面の真意を問いだそうとする。
しかし大和が全ての言葉を発する前に、ガーディアン東日本基地で異変が始まった。
「な、なんだ!?」
「畜生、まだ爆弾が残っていたのか!!」
ガーディアン東日本基地の各所で突如として爆発が発生し、凄まじい爆音が基地内に響き渡った。
基地侵攻の狼煙を上げた爆発と同じそれは、当然のことながら今は亡きステレオンが残した物である。
リベリオンの計画に沿って仕込まれた前回と今回の爆発物の細工は、それぞれに別の目的があった。
最初の爆発は基地内にダメージを与えるついでに、奇襲を容易に進めるために仕掛けられた物であった。
それはかつてリベリオンの秘密基地にガーディアンのスパイが行った行為を、そのままやり返した意趣返し的な意味もあった。
「あぁん、もう時間切れ!? 戦闘員、次にあったら覚えておきなさいよ!!」
「ま、待て!? クィンビー!! くそっ、邪魔をするな!?」
そして今回の爆発は、リベリオンの撤退を支援するための霍乱工作であった。
古くから戦場において敵陣から撤退する行為はリスクは大きく、追い討ちの危険性を孕んでいた。
リベリオンは今回の侵攻作戦に対して万全の態勢で挑んでおり、撤退時のリスクを最小限に縮める策も用意していたのだ。
基地内で暴れていた怪人たちは、この爆発によって起こされた混乱に乗じて続々と撤退を始めていた。
そしてそれはこの場に居る、蜂型の女怪人も例外では無かった。
「…クィンビーィィィッ!!」
クィンビーは欠番戦闘員に未だに執着を見せながら、逃走用のために残した最後の大蜂を放ちながら撤退を始める。
怨敵を逃がしまいする白木だったが、残念なことに大蜂にその行く手を阻まれてしまった。
白木が大蜂を全てを排除した時には、既にクィンビーの姿は何処にも見当たらなかった。
まんまとクィンビーを逃してしまった白木は、苛立つ感情をぶつけるように剣を地面に突き刺す。
白木の怒りと悲しみに満ちた雄たけびが、東日本基地に響き渡った。
どういう訳か白仮面は、事前にリベリオンの撤退時刻を察知していたようだ。
恐らくリベリオンが撤退を開始した隙に、白仮面もこの基地から脱出するつもりだったのだろう。
何時の間にか白木と土留の拘束を力付くで外した白仮面は、そのまま大和に別れの挨拶を告げた。
「今は引こう。 しかしお前が戦場に居続けるなら、俺は必ず再びお前の前に現れるぞ」
「オ前ハ一体…」
「本当の自分の居場所は何処か、よく考えるんだな…」
白仮面は己の正体について何も語ること無く、幾多の謎を残しながら東日本ガーディアン基地を後にした。
まるで風のように凄まじいスピードでこの場を離れる白仮面の動きからは、先ほどの大和の渾身の一撃が全く応えていないことを示していた。
大和は白仮面を追う気は無かった、下手に手を出せば確実にやられると理解しているのだ。
暫く白仮面が去った方向を見ていた大和は、やがて自分もこの場を立ち去るために踵を返した。
「くそっ、クィンビーに逃げられたか…、折角の手柄が…。
あ、旦那も逃げるぞ! 追え、白木!!」
「何っ、欠番戦闘員が…」
火事場のクソ力を発揮して白仮面撃退の切欠を作った土留だったが、流石に限界が来たらしく最早立つ事も出来ない状態だった。
しかし未だに意識ははっきりしていたらしく、土留は目敏く大和が戦場を去ろうとしている姿を見つける。
クィンビーや白仮面という大物を取り逃がした土留たちに取って、この場に残っている手柄首は欠番戦闘員である大和しか居ない。
しかし指一本動かすことも困難な土留には、残念ながら声を出すことくらしか出来る事が無かった。
そのため土留はクィンビーを取り逃がしたことを悔やんでいる白木に、先ほどまでの共闘相手であった大和の追撃を命じるのだった。
「待て、お前には聞きたいことが色々と…」
「…ジャアナ、正義ノ味方サン」
白木は地面に突き刺した剣を引き抜いて、慌てて大和を逃すまいと駆け寄る。
しかし白木たちの反応は一歩遅く、既に大和は相棒の下に辿り着いていたのだ。
大和は捨て台詞を残して、何時かの△△のようにファントムのステルス機能を発動させて姿を消す。
姿を晦ました大和を見つける術を白木たちが持ち合わせている筈も無く、大和は悠々とその場を立ち去るのだった。
「畜生、今日は散々だったぜ…」
「欠番戦闘員、それにあの白い仮面の男、奴らは一体…」
「細かいことは後だ、後! それより俺を早く医務室に連れて行け!!」
「全く、お前と言う奴は…」
この混乱した状況では、神出鬼没の欠番戦闘員を基地内に閉じ込めると言う当初の作戦は不可能だろう。
欠番戦闘員が自分たちの手から離れたを確信した土留は、絶望の声を上げなら大の字になって倒れた。
今日のリベリオンの侵攻作戦によってガーディアンと言う組織は、少なく無いダメージを受けることになった。
明日から白木や土留と言ったガーディアンの戦士たちは、失った信頼を取り戻すために今まで以上に頑張らなければならないだろう。
しかしそれは明日の話で有る、今は正直言って早く体を休めたいというのが白木や土留の本音であった。
このような状況でもふてぶてしい態度を崩さない同期に対して笑みを浮かべながら、白木は土留まで歩み寄る。
白木は自分より一回り大きい同期を苦労して担ぎながら、医療設備が備わった最寄のシェルターまで向かうのだった。




