19. 仮面の下
大和がファントムの情報を元に立てた作戦について、白木とクィンビーは半信半疑の様子だった。
しかし代案を立てている余裕も無く、今のままでは確実に白仮面にやられてしまう状況では大和の話に乗るしかない。
ガーディアンの白木、リベリオンのクィンビー、そしてどちらの勢力にも属さない謎の欠番戦闘員こと大和による反撃が始まる。
「イクゾ、チャンスハ一度ダ!!」
「タイミングを間違うなよ、クィンビー!!」
「…嘘だったら承知しないわよ、戦闘員!!」
まず先手を取ったのはクィンビー、お得意の大蜂によるオールレンジ攻撃である。
クィンビーが両腕を空にかざすと、何処からともなく大蜂たちが彼女の傍に集まってきた。
これまでの戦いで既に大蜂の大半を消費している筈なのに、どういう訳か大蜂たちはこれまでと遜色無い数が群れている。
そしてクィンビーは僅かに溜めた後、両腕を白仮面に向かって勢いよく振り降ろした。
クィンビーの合図に合わせて大蜂たちは翅を激しく震わせながら、白仮面に向かって果敢に突撃していく。
「何度やっても同じだ、そんな物は効か…」
「"ファントムちゃんフラッシュー!!"」
「何っ!?」
迫り来る大蜂たに大して白仮面は再びスーツの固有能力を発動させて、迫り来る脅威を防ごうとする。
しかし白仮面からエネルギー波が放たれようとする直前、白仮面の正面の何も無い空間から突然幽霊のように黒い車体が浮かび上がった。
実は今回の作戦のためにクィンビーは嫌々ながらファントムの包囲を解いており、ファントムは密かにステルス走行で白仮面の傍に近付いていたのだ。
そしてクィンビーは包囲に使用していた大蜂たちで不足分の補充を果たし、今回の攻撃で十分な数を集めることが出来ていた。
ステルスを解除して姿を見せたファントムは、即座に自身に搭載された対怪人用の目くらましを発動させる。
突然の目潰しをもろに受けた白仮面の視界は潰され、外部からの視覚情報を一切遮断されてしまった。
「ちぃ、目潰しの隙を突こう言うのか…、甘い!!」
例え視界が無くなろうとも大蜂が接近している事実に対して、白仮面が能力の発動を躊躇う理由は無い。
白仮面は大蜂を排除するために視界が回復しない状態のまま、全方位に向けてエネルギー波を放った。
自分の周囲に間断なくエネルギー波を放出しておけば、何処から大蜂が来ようとも白仮面の安全は保障されるのだ。
エネルギー波に阻まれた大蜂が次々に地面に落ちていき、大蜂たちが潰れる嫌な音が白仮面の無事な耳朶に響いた。
やがて白仮面の耳に大蜂の破砕音が聞こえなくなり、同時に視力が回復し始めた白仮面は能力の発動を止めた。
「ふっ、所詮は悪足掻き…」
「今だ、いっけぇぇぇっ!!」
「何っ!?」
視界を取り戻した白仮面が始めて見た物は、白木によって放たれた氷の力場がすぐそこまで迫ってきている光景だった。
先ほど白仮面の目を潰したファントムの姿は既に正面に無く、何時の間にか白木の攻撃の射程範囲外に退避している。
恐らく最後の力を振り絞ったのか、迫り来る力場まるで津波の様に左右に広がった広範囲の代物だった。
ここまで力場が接近しては白仮面が回避を選択するのは不可能である、ならば取れる選択肢は迎撃しか無い。
白仮面は再びバトルスーツの能力を使用し、迫り来る氷の力場を相殺しようと試みる。
しかしどういう訳から白仮面のスーツからエネルギー波は放出されることは無く、白仮面はあえなく氷の力場をまともに受けることになってしまった。
「何!? うわぁぁっ!!」
「欠番戦闘員の言った通りだ!? あの白仮面の能力は連発が効かない…」
白仮面の使うバトルスーツの能力、コアから出力されるエネルギーを衝撃波として放つこの能力には欠点がある。
この能力を使用する際にコアからエネルギーを貯める時間が必要になり、連続での能力の使用が行えないのだ。
まだ技術的に未熟だった頃のガーディアンの技術者は、コアから能力に必要なエネルギーを即座に抽出する術が無かった。
そのためこの能力は連発出来ず、威力も低いというデメリットが重なり合い、自然とガーディアンのバトルスーツに使われなくなっていった。
白仮面の使うバトルスーツはガーディアンのそれと比べて明らかに質で劣っており、コアからの高出力頼みに無理やり運用している代物である。
そんな技術的に低レベルなスーツに組み込まれた能力が、当時の弱点を克服している訳が無い。
ファントムの推測は見事にあたり、白仮面は大和たちの思惑通りにまんまとエネルギー波の溜め時間の隙を突かれてしまう。
「くっ…」
「よしっ、動きを封じたぞ!」
「後はフルボッコにしてやるわ!!」
「ウォォォッ!!」
まともに氷の力場を受けた白仮面は、一瞬で顔から下の体が凍り付いてしまう。
そして氷によって体が地面と縫い合わされた白仮面は、その動きを封じられてしまった。
最早、白仮面に抵抗する術は無く、後は止めを刺すだけである。
この面子の中で一番直接的な攻撃力がある大和が、この絶好の機会を逃さないために白仮面に向かって全力で駆けた。
「ふんっ、こんなものっ!!」
「そんなっ、僕の氷が…」
「うわっ、脆っ!?」
白木の操るバトルスーツによる氷結攻撃は強力であり、例え相手が怪人で相手もそう簡単に破壊出来る代物ではない。
しかし今回は相手が悪かった、相手は80%のコア出力によって並の怪人を遙かに超える力を持つ白仮面である。
氷によって首から下を拘束された白仮面は特に動じた様子も無く、氷付けにされた四肢に力を込めた。
すると白仮面が少し気合を入れただけ、苦労して張った白木の氷へ簡単に罅が入ってしまったでは無いか。
このままでは白仮面の拘束は後数秒も持たずに外されてしまい、白木たちの勝機が失われてしまう。
大和たちが白仮面に勝利するためには、後一手が足りなかった。
「…何っ!?」
「あれは…」
そして大和たちに足り無い一手を補うように、何処から現れた飛行物が白仮面に向かって行った。
飛行物…、バトルスーツのパーツ群は氷の拘束から抜けかけていた白仮面の体に張り付き始める。
そしてパーツ同士が強固に結びつき合い、白仮面は氷とバトルスーツのパーツによる二重の拘束を受けてしまう。
「…ははははっ、ざまー見やがれ!!」
「土留!?」
先ほどバトルスーツのパーツ群が跳んできた方向から、勝ち誇った声と共に土留が姿を現した。
白仮面に受けたダメージが抜けていないらしく体はまだふら付いているが、その顔には嫌らしい笑みが浮かび上がっている。
どちらかと言えば根に持つタイプの土留が、自分をこけにした白仮面に許しておける筈が無い。
奇跡的なタイミングで覚醒を目覚めた土留は、ダメージによって満足に動かすことが出来ない体を執念によって無理やり立たせたのだ。
「落チロォォォォッ!!」
「うわぁぁぁぁっ!?」
白木の氷結攻撃と土留のパーツ群によって二重の拘束を受けた白仮面が、大和が近付くまでに自由を取り戻すことは不可能だった。
とうとう拳の届く距離まで白仮面に接近した大和は、今まで一番の炎を右腕に激しくまとわせる。
そして白仮面に駆け寄った勢いをそのままに、全身の体重を乗せた拳を無防備な白仮面の顔面に向けて放った。
最大限の力を込めた大和の拳は、白仮面の付ける薄気味悪い仮面を完膚無きまでに粉砕した。
「ソ、ソノ顔ハ…」
「…見たな!?」
白仮面の付ける白い仮面が砕け散り、仮面の下に隠された素顔が露になる。
普通の人間では精々20%程度の出力しか耐えられないコアの力を、80%近くまで使いこなしている事実から予想はしていた。
しかし現実に明らかに人とは異なる白仮面の素顔を見た大和は、少なくないショックを受けることになる。
目、鼻、口の形は人の物と変わり無い、蜂の要素を持ったクィンビーなどと比べたら白仮面の素顔は人に近い物だろう。
ただしそれはあくまで近いだけであり、白仮面の素顔は人間の物とは明らかに異なったものである。
人体では考えられない病的に白い肌、作り物染みた各所のパーツが自然とは程遠い人工の産物であることを物語っていた。
バトルスーツを使用する怪人、セブンの理想とした存在が此処にあった…。




