18. 歪な共闘
リベリオンとガーディアン…、正義と悪の組織は言うなれば火と油の関係である。
長年に渡って争い続けていた両組織間に溝は深く、如何なる理由があろうともその因縁を断ち切ることは難しいだろう。
そしてそれは、謎の白仮面を相手に共闘することになったガーディアンの白木とリベリオンのクィンビーにも言えることだった。
「その趣味の悪い仮面を顔ごとぶち壊してやるわ!! 喰らいなさい!!」
クィンビーは得意の大蜂を白仮面に向けて放ち、それと同時に右腕を相手に向けて水平に伸ばした。
するとクィンビーの掌から数十センチも長さを持つ毒針が飛び出し、鋭い風切音と共に白仮面に向かっていくでないか。
蜂を素材にした怪人クィンビーは大蜂を操る能力だけで無く、大蜂と同じように毒針を操る能力も保持しているのだ。
数十にも及ぶ巨大な蜂たちが縦横無尽に飛び回り、毒針がマシンガンのように連続で射出されていく。
大蜂とクィンビー自身の毒針の連携攻撃が、白仮面に向かって襲い掛かった。
「…はぁっ!」
白仮面は迫り来る大蜂の大群と毒針に対して、大和を相手にした時には使用しなかったバトルスーツの特殊能力を発動した。
その能力は単純なものだった、それはコアから出力されているエネルギーを指向性を持った物理的な波として放つだけのものである。
氷や炎などの属性変換をしていない単純なエネルギー波は威力が低く、頑強な怪人相手には殆ど通用しない。
ガーディアンの最初期のバトルスーツで使用されたこの能力は、今では誰も使う物は無い黴臭い代物だ。
しかしそれがコア80%と言う出力を誇るバトルスーツが使用するのならば、話が大きく違ってくる。
「なんですって…」
「うわっ!!」
白仮面の周囲に放出された強大なエネルギー波は、迫り来る大蜂や毒針をいとも簡単に弾き飛ばしてしまった。
大蜂はエネルギー波の衝撃に耐えられずに体を破裂させて地面に墜落し、毒針もあらぬ方向に飛ばされてしまう。
そして運悪く反射された毒針が正面にやってきた白木は、慌てて剣で大針を叩き落とすのだった。
「気をつけろ、僕に当たる所だったぞ!!」
「ふんっ、そのまま当たって死ねばよかったのよ!
あんただって、さっき私ごと氷付けにしようとしたじゃ無いの!!」
白木とクィンビーは残念ながら、連携と言う名の馴れ合いをする気が毛頭無いらしい。
どうやら彼らの共闘とは、単に白仮面と言う共通の的に向けて好き勝手に攻撃を繰り出すと言う物でしか無いようだ。
そんな周りを意識しない攻撃は同士討ちの危険性を孕んでしまい、実際に今も白木はクィンビ-の放った毒針の流れ弾に当たりそうになってしまう。
白仮面と言う優先度の高い敵が現れたことで共闘と言う形を取った白木とクィンビーだが、所詮は彼らは本質的に敵同士でしかないのだろう。
本来は優等生タイプの白木が自分から折れることで、彼らはもう少しまともな共闘の形を取ることが出来た筈だった。
しかしその共闘相手はよりにもよって、白木に取って怨敵であるクィンビーならば事情が違ってくる。
ただでさえ目の前の敵を見逃さざるを得ない状況に苛立っている白木に、大人の行動と求めるのは酷という事だろう。
「あー、ムカつく! やっぱりあんたから先に片付けた方がいいかしらねー!!」
「面白い、今度こそ僕の剣の錆びにしてやろう!!」
案の定、仲違いを始めた正義の悪の戦士は、目の前の脅威を忘れて口論を始めてしまう。
そして彼らが相手をしている白仮面は、この都合のいい隙を見逃すほどお人好しでは無かった。
「余所見をしている暇があるのか…、砕け散れっ!!」
「あ、やばっ…」
白仮面は先ほど大蜂と毒針を弾き飛ばしたエネルギー波を、今度は白木たちに向かって放った。
周囲から襲い掛かる大蜂を撃退するために全体に分散して放出した先ほどのそれとは違い、白木たちを直接狙ったエネルギーは明らかに威力が増しているようだった。
一直線に自分たちの下に向かうエネルギー波の存在に気付くのが遅れた白木たちには、防御や回避をする余裕すら無い。
このまま行けば、彼らはエネルギー波と正面衝突をすることで無残な最期を遂げることになるだろう。
しかしこの戦場には白木たちの他にもう一人、彼らに共闘する者が存在した。
白木たちを庇うように前に出た大和は、右腕にスーツの固有能力である炎を激しく燃やしながらエネルギー波に迎え撃つ。
「ウォォォォッ!!」
大和の拳から放出される炎がエネルギー波とぶつかり合い、その衝撃の余波が当たり一面に広がる。
周囲の地面がひび割れる音を聞きながら、大和は右腕に全力を込めてエネルギー波と押し返そうとした。
気合の叫びとともに大和に埋め込まれたインストーラのコアが激しく光を放ち、大和の炎がますます勢いを増した。
一センチ、二センチ…、少しずつでは有るが白仮面のエネルギー波に大和に拳が喰いこんで行く。
やがて大和の拳はエネルギー波を完全に貫き、エネルギーの余波は空中に消えていった。
「ハァ、ハァ…」
「ほう、この程度は防ぐか…」
自分の攻撃を防がれたにも関わらず特に動じた様子の無い白仮面は、肩で息をし始めた大和を興味深そうに見ていた。
白仮面に取って今のエネルギー波は、単なる小手調べ程度の物でしか無い。
しかし白仮面の小手調べの攻撃でさえも、今の大和では全力を振り絞らなければ押し切られてしまう。
それだけコアの出力差に如何ともし難く、大和と白仮面の能力の差は隔絶しているのだ。
はっきり言って白仮面と相対する大和たちの戦況は、完全に劣勢と言い切れる状況だった。
大和はこれまでの戦闘の疲労と、先ほど80%出力の開放をした反動によって体が思うように動かなくなってきている。
白木もこれまでの戦闘によって体力を消耗しており、もう何度もスーツの固有能力を発動することは出来ないだろう。
怪人であるクィンビーは他の二人と違って体力的にはピンピンとしているが、彼女の主戦力である大蜂たちの残数が僅かになってきていた。
「イイ加減ニシロ、コノママダトヤラレルゾ…」
「…悪かったわよ」
「…すまない」
「頼ムカラ少シハ協力シテクレナイカ? コノママダト、全員アイツニヤラレルゾ」
今のまま白木とクィンビーが仲違いを続けていたら、確実にあの白仮面に敗北してしまう。
白仮面を倒す一縷の機会を掴むためには、白木とクィンビーとの本当の意味での共闘が必要なのだ。
そのためガーディアンとリベリオンの仲の悪さに呆れながら、両組織に属さない第三者である大和が二人をなだめようとする。
「何よ、偉そうに! そう言うあんたはさっきから何もしていないじゃ無い!!」
「オ前タチが飛ビ道具ヲ使ウカラ、相手ニ近付ケ無インダヨ…」
しかし頭ごなしの大和の言葉にカチンと来たのか、クィンビーは逆につい先ほどまで棒立ちになっていた大和を槍玉に挙げ始めた。
近接戦闘しか出来ない大和は、氷の力場や大蜂が飛び回る戦場に近寄ることが出来ずにやれる事が何も無いのだ。
内部にファントムの戦闘予測を映し出すフルフェイスのマスクが残っていれば、彼らの攻撃を掻い潜って白仮面に接近することが出来たかもしれない。
しかしフルフェイスのマスクは今は亡き怪人ステレオンによって破壊されており、現在の大和の顔の上には戦闘員マスクしか存在しない。
必然的に大和は白木やクィンビーの戦いを見守ることしか出来ず、ただ見守っているしか出来ないのである。
「ダカラファントムヲ開放シテクレレバ、ドウニカ出来ル…」
「駄目よ、上手いこと言ってあのバイクで逃げようと考えているのでしょう? 解っているんだから…」
そして白木やクィンビーに取っては、欠番戦闘員と呼ばれるこの奇妙な存在は決して信用できる者では無かった。
欠番戦闘員の中身である大和は、大和の戦闘を補助するためのバトルビークルであるファントムを解放するように要請していた。
しかし大和の逃走を懸念したクィンビーが未だに大蜂の包囲網を解こうとせず、ファントムは依然として身動きの取れない状態なのだ。
互いに足を引っ張り合う共闘は、最早崩壊寸前と言っても良かった。
「"マスター、聞いて下さい!"」
「"ファントム! どうしたんだ、突然?"」
「"あの趣味の悪い白仮面の能力が解りました!
"前にあの年増のデータベースを漁って置いて正解でしたよ"」
そんな絶望的な状況の中を救ったのは、大和の頼れる相棒であった。
大和たちが戦闘中の間に白仮面の分析をしていたファントムが、その能力の秘密を突き止めたのだ。
「"あいつの能力はガーディアンの最初期型のスーツで使用していた古臭い物です"
"あの能力には決定的な弱点があるんですよ…"」
以前に三代の研究データを密かに盗み見ていたファントムは、ガーディアンが開発してきたバトルスーツの歴史と言う名のデータを蓄積していた。
勿論、本当に重要なデータを覗かれるような場所に三代が置くわけが無く、ファントムが集められたのは希少度の低い古い情報でしかなかった。
しかし今回の白仮面の能力に関しては、その古いデータ群の中に該当する情報があったのだ。
あれがまだガーディアンがバトルスーツの製造に着手し始めた頃の、黎明期に使用されていた能力であった事が功を奏したらしい。
そして能力の詳細と共に、あの能力の弱点と呼べる存在についてもファントムは見つけ出すことが出来たのである。
大和は即座にファントムから伝えられた白仮面の弱点を白木たちに伝え、それを利用した打開策を披露するのだった。




