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欠番戦闘員の戦記  作者: yamaki
第1章 リベリオン
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4. ガーディアン(2)


 ガーディアンの女戦士とリベリオンの女怪人、二者の戦う風景を死んだ振りをしながら見ていた9711号の中にある疑問が浮かび上がっていた。

 女怪人と戦う女戦士の能力は氷のようだ、全力で戦う様子を見る限り他に能力を隠している可能性は低いだろう。

 戦闘員と戦う他のガーディアンの人間の持つ簡易版の装備に、特殊な機能があるとは考えにくい。

 ならばこの戦いの切欠を作ったあの炎の砲弾は誰が行ったか、という疑問に…。

 嫌な予感を覚えた9711号は死んだ振りをしていることを忘れて、無意識に右手指を忙しなく動かしながら思考を回す。

 やがて9711号は意を決して、先ほどの火球が飛んで来た方向へ匍匐前進をしながらの移動を始めた。






「まだだ、まだ待つんだ」


 ガーディアンとリベリオンの戦場から少し離れた林の中、そこに長銃を構えた少年の姿があった。

 リベリオンの輸送車に対して砲撃を放ったガーディアンの戦士、白木浩司は戦闘に参加せずに今まで身を隠していたのだ。

 勿論、臆病風に吹かれての行動ではない、これは事前に建てた作戦に則った行動なのだ。

 今回、彼らガーディアンはとある筋からリベリオンの作戦情報を入手し、それを逆手に取ってリベリオンを罠にはめる作戦を立てた。

 その作戦はいたってシンプルだ、奇襲によってリベリオンの混乱を誘い、その隙に敵の怪人を討伐すると言うものである。

 ターゲットは最近名を上げているリベリオンの怪人クインビー、様々な能力を持つ巨大蜂を操る難敵だ。

 戦闘員ならともかく頑丈な怪人を完全に滅ぼすには、バトルスーツの能力をフルに使用した最大級の攻撃を叩き込む必要がある。

 しかし全力攻撃は隙も大きく、怪人相手に戦闘中に決めるのは難しい。

 そこで今回の作戦では、白木の相棒である黒羽愛香が何とかして怪人の動きを一瞬止め、その瞬間を逃さずに彼が怪人に止めを刺そうと言うのだ。


「一撃だ、一撃で決めて見せる」


 白木のバトルスーツは遠距離攻撃を得意としており、すぐにでも全力攻撃が叩き込めるよう彼の構える長銃はフルチャージの状態を維持していた。

 長銃のスコープを通して見える怪人と彼の相棒の戦闘は苛烈を極めている、彼女たちの周囲にはその激戦を語るかのように氷柱や巨大蜂の死骸が転がっていた。

 もしこの戦場がガーディアンが事前に選定した無人地帯で無ければ、周囲への被害が酷いものだったに違いない。

 白木とは対照的に近接戦闘を得意とするバトルスーツを扱う黒羽は、あの怪人クインビーと互角に渡り合っていた。

 他のガーディアンのメンバーも予定通り戦闘員の足止めに成功しているらしく、今あの二人の戦いを邪魔する者は居ないようだ。

 彼は一瞬のチャンスを逃さないように目を皿にして二者の戦いを見守っていた、匍匐前進で密かに彼に接近する戦闘員の存在に気付かずに…。






「はぁぁっ!!」

「くぅぅ!? 調子に乗るなぁぁ!!」


 手持ちの巨大蜂のストックが減ったのか一瞬クインビーの弾幕が薄くなり、その瞬間を逃さずガーディアンの黒羽は怪人の懐まで入ることに成功する。

 黒羽の下段の剣戟が怪人クインビーに命中し、一瞬の内にクインビーの足は氷で覆われてしまい動きを封じられる。

 追撃を恐れたクインビーは即座に大蜂を放ち、間一髪それを逃れた黒羽は怪人から距離を取って剣を構えた。


「これで貴様も終わりだな、怪人!!」

「寝言を言わないでよね!

 こんなもの、すぐに抜けてやるわよ!!」


クインビーは氷の拘束から逃れるため、全身に力を込めて氷を砕こうと試みる。

確かに怪人の力を持ってすれば、氷による拘束などはすぐに抜け出せるものだろう。

しかし黒羽は一瞬だけ怪人の動くを止めれたばよかったのだ、彼女の信頼する相棒が狙撃するチャンスになれば…。






「今がチャンスだ!!」


 密かに機会を窺っていたガーディアンの白木は、彼の相棒が役割を果たしてくれたことを理解する。

 彼女の献身に答えるため、白木は長銃のトリガーを引こうとした瞬間…


「イィィィィッ!!」

「なっ、戦闘員だとっ!?」


 何時の間にか接近していた戦闘員9711号が、奇声とともに白木に襲い掛かってきたのだ。

 スコープの先に一点集中していた狙撃の直前に強襲を受けたことで、白木は何も出来ずに9711号に組み敷かれてしまう。

 9771号は白木の体に馬乗りになり、必死に彼が持つ長銃を奪おうとする。


「離せっ、このっ!!」

「イィィィィ、イィィィィッ!」


 本来ならバトルスーツを装備した白木と戦闘員との力の差は隔絶している、戦闘員など一瞬で倒される筈だ。

 しかし今の状況は戦闘員に味方をしていた、遠距離型である白木のスーツは接近戦には不得手である。

 このような超至近距離での格闘には向かず、残念ながら白木のスーツは戦闘員と同レベルの力しか発揮できないでいた。

 戒めを振りほどこうと抵抗する白木を、拘束を解いたら勝ち目が無い9711号は必死に圧しとどめる。


「イィィィィィィィッ!!」


 何故、先ほどまで死んだ振りをしてまで戦闘を忌避していた9711号がガーディアンと戦っているのか。

 その理由は簡単である、このまま彼をここまで連れて来た怪人が倒されてしまったら、9971号は帰る場所を失ってしまうからだ。

 記憶を失っている9711号には、彼を改造したリベリオンにしか帰る場所が無い。

 しかし輸送車によって見知らぬ土地に運ばれた現在、リベリオン施設の場所も連絡手段も解らない状況で唯一、彼を帰してくれる存在は皮肉にもこの状況を生み出した女怪人しか居ないのだ。

 9711号は今後の生活のために白木を押さえ込もうとするが、やはりバトルスーツの性能に戦闘員が単独で抗うのは難しいのか、徐々に白木が自由を取り戻していた。

 このままでは拘束を振りほどいた白木に殺されてしまう、自分の悲惨な未来図が頭に過ぎった9711号はそこであることを思い出した。

 それは前にセブンからガーディアンについての話を聞いた時に彼女は言っていた、ガーディアンの着るバトルスーツには一つ弱点があると…。


「イィィッ!」

「!? こいつ、まさか…」


 9711号は白木が装備しているスーツを観察し、彼の右手首に装着されているブレスレッドが他と意匠が異なることに気付いて迷わずそれに手を伸ばした。

 白木は9711号の行動に動揺を見せ、9711号にブレスレッドを触らせないよう一層の抵抗を見せる。

 この動作から9711号は白木の右手に嵌められているそれが、セブンが言っていたインストーラと呼ばれる物であると確信する。

 ガーディアンの持つバトルスーツは普段はインストーラと呼ばれるアイテムに格納されており、必要な場面で装着脱が可能となっている。

 インストーラはバトルスーツの核となる部分であり弱点でも有るらしい、何故ならば…。


「ィィィィッ!!」


 最後の力を振り絞って9711号は白木の抵抗を振り切って、インストーラを奪うことに成功する。

 インストーラを高々と掲げる9711号がもし声を出すことが出来たのなら、取ったどぉぉぉと腹の底から叫んでいただろう。

 そしてインストーラは奪われた白木の体は一瞬光に包まれ、次の瞬間には彼の体からスーツは消え去っていた。

 これがガーディアンの戦士の数少ない弱点の一つ、バトルスーツはインストーラを奪う、もしくは破壊することで除去できるのだ。





「そんな、戦闘員に僕のインストーラが…」


 格下である戦闘員にインストーラを奪われたことが余ほどショックなのか、白木は呆然とした表情で抵抗を止めた。

 9711号は一安心とばかりに一息をつき、次の瞬間には迫りくる刃の姿が見えて慌てて頭を下げて回避を試みる。

 先ほどまで9711号の頭があった場所に風切音が聞こえた、一瞬でも反応が遅れていたら首と胴体は切り離されていただろう。

 恐る恐る頭を上げた9711号の目の前には、何時の間にか近くまで来ていた黒羽が怒りの表情を見せているでは無いか。


「イィィッ」


 返す刀で再び9711号へと剣を振り下ろそうとしている黒羽を見て、9711号は慌てて白木から離れて逃走を図る。

 黒羽は逃げる9711号のことをひとまず無視して、まずはその場に倒れている白木の様子を確認する。


「白木、大丈夫か!!」

「すまない、失敗したよ…」

「気にするな、お前が無事なら…」


 白木が無事を確認した黒羽は安心したのか表情を緩め、剣を手放すことで空けた手で彼を引き起こそうと試みる。

 相棒の危機に彼女は一瞬、今彼女たちが居るこの場所が戦場であることを忘却してしまったらしい。

 危険な怪人が居るこの場で、武器から手を離すという致命的な隙を作ってしまったのだ。


「私を無視するとはいい度胸じゃ無い!!」

「しまっ…」


 黒羽を追ってきた怪人クインビーはその隙を逃さず、彼らに今までに最大数の大蜂をけしかけたのだ。

 無防備になっているガーディアンたちに、巨大蜂が容赦なく迫ってきた。


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