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欠番戦闘員の戦記  作者: yamaki
第3章 三代ラボ
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10. ステレオン


 ガーディアン東日本基地の一角、そこではリベリオンの統率を取る指揮官の内の一体、怪人ステレオンと欠番戦闘員が相対している。

 その戦闘の開始はステレオンが口から吐き出した有色のガスのような物が、辺り一面に撒かれた所ことから始まった。

 ガス状の物質はステレオンと欠番戦闘員の周囲を覆い尽くし、両者は完全にその中に閉じこまれた形になったのである。

 どう見て健康には良く無さそうな物であるが、防毒の効果を持つマスクが役に立ったのか、今の所は欠番戦闘員の体に異常は現れていない。

 しかしステレオンの真の目的は毒殺などで無く、欠番戦闘員の視界を封じることにあったのだ。


「旦那、そっちは…」

「チィッ…、モウ騙サレルカ!!」


 数メートル先の物さえ見えない悪視界の中、欠番戦闘員は周囲を警戒しながらステレオンを待ち構えた。

 どういう訳か欠番戦闘員の胸部や腕の手甲には、先ほどまで無かった真新しい傷が付いている。

 すると欠番戦闘員の左方から誰かが近づく気配を感じ、そちらから土留がこちらに歩いてくるのが見えた。

 土留はガーディアンの戦士であるが、今の所は欠番戦闘員と共闘している味方だ。

 現時点では協力こそすれ、敵対することは百害あって一利なしの愚かな選択だろう。

 しかし欠番戦闘員はどういう訳か、現れた土留に対して躊躇いも無く殴りかかる。


「おお、怖い怖い…」


 土留は欠番戦闘員の攻撃をするりと避け、その口から先ほどとは異なる土留のものと明らかに異なる声色が出てきた。

 すると土留の姿が一瞬の内にぶれて、次の瞬間にそこにはステレオンの姿が存在したでは無いか。

 周囲の背景と同化して姿を隠すだけで無く、自身の姿を全くの別物に変化させる擬態能力の発展系、これがステレオンの持つ特殊能力なのだ。

 姿だけでなく声色さえも完璧に変えるステレオンの偽装は、初見で見破るのは不可能に近い。

 ステレオンはこの能力を駆使して自身の姿を偽装し、ガーディアン東日本基地への侵入を成功させていた。

 そしてステレオンは欠番戦闘員と戦いでも自慢の擬態能力を駆使して、戦いを有利に進めていた。


「同ジ手ヲ二度トクウカ!!」


 既に一度、白木に化けたステレオンに手痛い騙まし討ちを受けている欠番戦闘員は、二度目は無いと高らかに宣言する。

 ステレオンは欠番戦闘員の言葉に動じた様子は無く、再びガスの中に身を隠してしまう。

 欠番戦闘員は次の接触時に確実に相手を倒しそうと闘士を燃やし、その感情に合わせて両手に激しい炎が噴出していた。

 







「くそっ、このガスは何なんだ! おお、旦那か、無事…」

「シツコイ!!」


 周囲を警戒していた欠番戦闘員の前に再び、土留の姿をしたステレオンが有色ガスを抜けて現れた。

 勿論、欠番戦闘員は今度こそステレオンを仕留めるため、土留の姿をしたステレオンに向かって飛び掛る。


「うわぁぁっ、何しやがる!?」

「ッ、体ガッ!? オ前ハ…、本物ナノカ!!」

「はぁ、どういうことだよ」


 突然、欠番戦闘員が明らかに自分を狙って来たことに驚いた土留は…、そう、土留は咄嗟に自身のバトルスーツの固有能力を発動させる。

 すると土留の重鎧型のスーツのパーツが分離し、迫り来る欠番戦闘員の体に張り付いたで無いか。

 欠番戦闘員を羽交い絞めするかのように、土留のスーツのパーツは両腕ごと欠番戦闘員の体に纏わり付く。

 そして張り付いた土留のスーツのパーツたちは、欠番戦闘員の体の動きを止めに掛かった。

 感触からして自分の力ならばすぐにこの拘束は外せそうだったが、欠番戦闘員はそうせずに体の動きを止めた。

 明らかに怪人とは異なるバトルスーツを使用した土留の行動を見て、欠番戦闘員は自分の間違いに気づいたのだ。


「スマン、サッキ怪人ガオ前ニ化ケテ襲ッテキタンダ…」

「げっ、俺に化けたって…、本当かよ、それは?」


 土留は欠番戦闘員の言葉に疑わしげな視線を向けながら、とりあえず信じたのか固有能力を使用した拘束を外した。

 欠番戦闘員から土留のスーツの装甲が離れ、再び元あった場所に返っていく。


「…留、…こだ」

「!? あれは…!!」

「クィンビーか!? 今がチャンスだ」


 欠番戦闘員たちの耳に誰かの声らしき音が聞こえ、彼らはその出所を探すために周囲を見回す。

 やがて有色ガスのお陰ではっきりとは見えないが、欠番戦闘員たちの近くで有色がスの中をさ迷う女怪人クィンビーの姿を見付ける。

 クィンビーはこちらに気付いている様子は無く、絶好の機会とばかりに土留はクィンビーに奇襲を敢行した。

 再び固有能力を発動させた土留は、スーツの装甲を今度はクィンビーに向かって飛ばす。


「ふんっ、白木には悪いが俺が手柄を…!!」

「土留!? 何を…」

「お、お前は…、白木!?」


 奇襲は見事に成功し、土留は固有能力を発動して見事にクィンビーの体を拘束する。

 後は煮るの焼くのも自由だと、土留は嫌らしい笑みを浮かべながら動きを封じられたクィンビーの姿を改めて視界に入れ、そしてその笑顔が凍りつくことになる。

 何と先ほどまでクィンビーが居た場所にに、何故か同期の白木が立っていたのだ。

 白木は先ほどクィンビーに放った筈の土留のスーツのパーツが張り付いており、体を拘束されて身動きを取ることが出来ない。

 一体これはどういうことかと、土留は呆然とした面持ちで拘束された白木を見ているしか出来なかった。






「しゃぁぁぁあっ!!」

「ヤラセン!!」


 呆然すると土留と拘束された白木に向かって突然、有色ガスの中からステレオンが飛び出してくる。

 自身のスーツのパーツを外したことで防御能力が下がっている土留や、身動きの取れない白木にはステレオンの攻撃に対応する余裕は無かった。

 もしもこの場に二人しか居なかったら、彼らガーディアンの戦士たちはこの一撃で敗北を迎えることになっただろう。

 しかしこの場にはもう一人、彼らの共闘している者が居た。

 先ほどのクィンビーの姿に違和感を感じていた欠番戦闘員だけは、ステレオンの奇襲に対応できたのだ。

 欠番戦闘員が咄嗟に間に入ったことで、ほぼ無防備を晒していた二人のガーディアンの戦士はどうにか生きながらえることになる


「自分以外ノ姿モ変エラレルトハナ…」

「言った筈だ、リザドとは違うとなぁぁぁっ!!」


 どうやらステレオンが吐いたこの有色ガスのような物が、先ほど白木の姿をクィンビーの物と間違わせたのだろう。

 恐らくこれはファントムがステルス機能を使用する霧と似たような性質が有り、ガスの中に居る者を惑わせる能力を持っている。

 この有色ガスの中に居る限り、欠番戦闘員たちはステレオンに騙され続けられることは間違いないだろう。

 しかし欠番戦闘員たちの目的は指揮官の撃破なのだ、此処で一時撤退と言う選択を彼らは取ることが出来ない。

 欠番戦闘員たちは不利を承知で、このステレオンのフィールド内での戦いを強いられることになった。











「"ふっふっふ、お困りですか、マスター"」

「"ファントム、戻ってきたのか!?"」

「"こういう時こそ、ファントムちゃんの出番ですよ!! 聞いてください…"」


 再びステレオンがガスの中に姿を消したため、欠番戦闘員は分断を防ぐために白木たちと一塊になっていた。

 ろくに視界が利かない有色ガス中で周囲を警戒していた欠番戦闘員の内臓通信機、聞きなれた相棒の声が飛び込んでくる。

 黒羽を無事に三代ラボまで送り届けたファントムが、主の下に舞い戻ってきたのだ。

 どうやらファントムは起死回生の手段を持っているらしく、通信機を通して己が主に秘策を披露し始めた。


「…聞ケ、今カラ一瞬ダケコノガスが消エル。 ソウシタラ、アノ怪人ノ足ヲ止メテクレ」

「!? 一体どうやって…」

「チャンスハ一度ダケダ、サン…、ニイ…」


 欠番戦闘員はステレオンに気付かれないように小声で、白木にこの状況を妥当するための作戦を伝える。

 そして時間が無いとばかりに白木の問いかけを無視した欠番戦闘員は、合図としてカウントを呟き始めた。


「くそっ、信じるからな、旦那!!」

「一瞬が勝負だ、外すなよ!!」

「イチ…、ゼロ!!」

「"ファントムちゃんタイフーン、起動ぉぉぉっ!!"」


 最早、欠番戦闘員の言葉に駆けるしかない白木と土留は、それぞれバトルスーツの固有能力を発動させるために身構える。

 やがて欠番戦闘員のカウントがゼロを告げ、次の瞬間に彼の相棒から凄まじい風が吹き出し始めた。

 先ほども触れたが、ファントムの持つはステルス機能を実現する霧状の物質は、ステレオンの出す有色ガスとよく似た性質をしていた。

 そしてファントムにはこの霧状の物質を操作するための機能を持っており、それを利用してステレオンの有色ガスを操ることを可能にしたのだ。

 ファントムが自身のステルスに使用する霧状の物質と、ステレオンの有色ガスを全て吹き飛ばし、自身とガスの影に隠れていたステレオンの姿を丸裸にする。






「なっ、俺のガスが!!」

「今だ、土留!!」

「解っている!!」


 ファントムの活躍によって周囲から有色ガスが消え去り、欠番戦闘員の左後方に居たステレオンが丸見えになる。

 既に固有能力の発動を準備していた土留と白木は即座に、狼狽するステレオンに向けて能力を発動した。

 白木の剣先が放たれた氷の力場がステレオンに達し、氷でステレオンの足元を地面に縫い付ける。

 そして土留のバトルスーツの装甲が放たれ、ステレオンの上半身に纏わりついてその動きを阻害してしまう。

 二人のガーディアンの戦士によってステレオンは、完全にその動きを封じされてしまう。


「くそっ、動けん!?」

「終ワリダッ!!」


 体の自由を取り戻そうとステレオンが力を振り絞るが、怪人が自由を取り戻す前に欠番戦闘員が近づくほうが早かった。

 欠番戦闘員はいままでの鬱憤を晴らすかのように、激しい炎を纏わせながらステレオンに拳を突き出す。

 特殊能力を重視した怪人は、それに反比例するかのように肉体的な強度が弱まる。

 ステレオンもその例に漏れず、自分だけでなく周囲も騙す擬態能力を持った代償に自身の肉体能力は並みの怪人以下のものだった。

 そんな脆弱なステレオンが偏重なまでに肉体能力に特化した欠番戦闘員の一撃を受けきることが出来る筈も無い。

 ステレオンは欠番戦闘員の一撃によって完全に沈黙し、無様に倒れ臥すのだった。


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